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WEBマンガやアニメで「婚約破棄」を題材にした作品が増えたことで、婚約破棄というワードは一昔前よりも非常に身近なものになってきました。
漫画やアニメはもちろんフィクションですが、実際、現実世界にも「婚約破棄」の事例は数多く存在しています。
婚約してから実際に結婚するまでの期間は極めて特殊なもので、プロポーズ後に破局することも珍しいことではありません。
そして、結婚に「やっぱやめた」はありませんが、婚約には「やっぱやめた」があります。
よくある漫画等では、婚約破棄してきた相手に後々天罰が下るという結果がお決まりのパターンですが、現実世界でも、婚約破棄の理由によっては婚約相手に慰謝料を支払うこととなる場合があります。
ただし、婚約相手との結婚に迷いが生じた理由次第では、婚約を破棄しても慰謝料を支払う必要はなく、むしろ婚約相手に対して慰謝料を請求できる場合もあります。
この記事では、婚約破棄に伴う婚約相手に対する慰謝料が発生する要件と、慰謝料が発生する場合の相場金額、及び、その他婚約の破棄に伴って発生し得る経済的な負担などについて解説します。
このページの目次
1.婚約破棄をするに至る理由
⑴「婚約」した後に結婚への不安を感じるケース
- 男女交際から「婚約」「結婚」に至るまで
「婚約」とは、将来結婚する約束のことを指します。
男女の関係は、多くの場合、まずは結婚後の生活を前提としていない形での交際関係の構築から始まります。
その後、将来の結婚を意識した男女は、結婚後の生活を前提とした様々な考察や検討を行いつつも関係を深めていき、やがて「婚約」をして結婚するに至ります。
そして、「婚約」してから実際に結婚するまでの期間は極めて特殊な期間となります。
その期間には、結婚及び結婚した後の生活を直近に到来する現実のものとして意識した様々な準備や、結婚後の共同生活におけるライフスタイルなどに関する最終的な認識の擦り合わせなどが必要となります。
その中で、男女の関係性や各々の意識にも様々な変化が現れるものであり、この期間に婚約相手との間における価値観や人生観の違いが明確になってくることもよくあることです。
男女は、「婚約」するまでの間は、「結婚」という一つの目標地点に向かって歩を進める状況であったかもしれません。
しかし、「結婚」というものは、男女の目標の一つとなり得るものではありますが、決して人生の最終到達点ではありません。
「結婚」した後には極めて長い「結婚」後の生活が続いていくことになります。
- 「婚約」時点では、結婚後の幸せな人生は確約されない
「結婚」すると、途端に人生は配偶者に対して発生する様々な権利と義務に拘束されたものに変わり、人生の選択肢や自由度は激減することになります。
例えば、結婚した後は配偶者と同じ戸籍に入り、同じ苗字を名乗り(民法750条)、相互に同居・協力・扶助義務(民法752条)を相互に負うことになります。
また、夫婦は互いに貞操義務(他の異性と性的な結合関係を結ばないという義務。民法770条1項1号)を負いますので、今後現実的に手の届く範囲内にどれほど魅力的な異性が現れたとしても、その異性と男女の関係を深めていくことは結婚のルール違反となります。
その上、結婚後の生活が思っていたものと違ったとしても、そこから逃げ出すことは容易ではありませんし、離婚するには大変な苦労を伴います。
このように「結婚」は人生に極めて多大な影響を与えるものです。
しかしながら、「結婚」の前段階である「婚約」の時点では、婚約相手の独身時代の顔しか知ることができませんので、結婚後に実際にどのような生活状況になるのか、結婚前に約束したことはちゃんと守られるのか、子育ての協力は得られるのか、幸せになれるのかなどの事情は、本当のところ分かりません。
全ては予想の中で「婚約」、そして「結婚」という人生にとって極めて重大な決断をしなければならないことになります。
マリッジブルーという言葉が存在するぐらい、「婚約」をした後に、本当にその相手と「結婚」することで良いのだろうかと不安を感じることも、ある種当然のこととも言えるでしょう。
⑵婚約してから相手の本性に気づいたケース
- 「婚約」しても「結婚」は強制されない
「婚約」をしたとしても、婚約相手との結婚が強制されることはありません。
「婚約」したにとどまる時点では、結婚を考え直すことが認められます。
「婚約」してから「結婚」するまでの期間は、言うなれば、今後の人生の形そのものを決断する最後の考慮期間と言えるでしょう。
その結果、やはり婚約相手との結婚はできないとの結論に達した場合には、婚約をやめることとなります。
- 婚約した後になってから相手の本性が分かる場合がある
「婚約」してから実際に結婚するまでの期間には、結婚した後の生活を意識した様々な準備や、結婚後のライフスタイルなどに関する最終的な認識の擦り合わせなどが必要となります。
その最終的な調整期間の中で、婚約前の交際相手からは感じ取れなかったいわゆる「本性」の部分が見えてくることがあります。
例えば、交際相手の親や実家に結婚の挨拶に行った際に、普段は恋人であるあなたには見せないような交際相手の残念な一面が見えてしまうかもしれません。
また、結婚に伴って結婚指輪の購入や結婚式の予約などの高額な費用が動くわけですから、その話し合いの中で相手との価値観の違いに気づくかもしれません。
そんな「あれっ…?」という小さな違和感を抱えたまま結婚してしまった場合、その小さな違和感が結婚生活の中で「性格の不一致」として積み上がり、遅かれ早かれ離婚の決断に至ることとなる可能性が無いとは言えません。
未だ「婚約」の状態にとどまる状況であれば、たとえ、婚約指輪を渡してしまっていたり、相手の両親に挨拶に行った後だったり、すでに新婚旅行を予約してしまったり、挙式や披露宴の会場をおさえて前金を支払っていたりしたとしても、役所に婚姻届を提出してさえいなければ、「婚約」をやめることができます。
他方、婚姻届を出した後になってから結婚を「やっぱやめた!」とすることはできません。
結婚をやめることができるのは入籍前の「婚約」の状態である期間中が最後です。
⑶婚約相手に非があるために婚約を取り消すケース
婚約に至った後に、交際相手の見過ごせない言動などが発覚し、婚約を取り消さざるを得ない場合もあります。
婚約が成立した後にそれが実らずに婚約破棄で終わることとなる理由で極めて多いのが、婚約者の浮気です。
結婚することで相手が配偶者に固定化される前に別の人と経験してみたくなった、などの理由で、いわゆる結婚する前の「駆け込み浮気」をしてしまうわけです。
これから人生を協力して歩もうというときに、結婚直前になって浮気・不倫(不貞行為)という許されざる行為をされたということは、当然ながら、そんな相手との結婚を考え直す理由になるでしょう。
また、婚約が成立した途端に相手がDV・モラハラ人間へ変貌したや、DV・モラハラ人間である片鱗を見せ始めた場合なども、結婚を踏みとどまる一つの理由となります。
その他にも、下記のような理由で婚約解消・婚約破棄に至る場合があります。
- 婚約後に相手が犯罪行為を犯して逮捕・服役した
- 婚約者が失業したが、その後無職のまま仕事探しをしない
- 婚約者から望まぬ入信や改宗を強く迫られた
- 婚約者が依存症(アルコール依存症・ゲーム依存症・ギャンブル依存症など)になった
- 婚約者から望まぬ形で性的嗜好の強要をされた
- 婚約者に多額の借金があることが発覚した
婚約後に相手に上記のような行為が発覚した場合、それを飲み込んで生涯許すこととして結婚する道へ進むか、それとも結婚を考え直して踏みとどまるか、その判断はあなた次第です。
そして、やはりそんな相手とは結婚できないとの判断に至った場合には、次項から説明する方法で婚約を取りやめることになります。
2.「婚約」を取りやめる方法
⑴婚約取消しと婚約破棄の違い
婚約を取りやめる方法としては、婚約相手と話し合って合意の上で婚約を取り消す婚約解消が最も穏当な方法です。
ただ、婚約相手が婚約の取り消しに応じない場合には、一方的に婚約を取り消すこと(=婚約破棄)も認められています。
婚約をやめる方法
- 婚約の取消
⇨婚約相手と話し合って両者が合意の上で婚約を取り消すこと
- 婚約破棄
⇨一方的に婚約を取り消すこと
⑵婚約破棄の場合は慰謝料が発生する可能性がある
「婚約破棄」の場合には、婚約相手に対して、婚約破棄に伴う慰謝料を支払わなければならない場合があります。
他方、婚約を破棄する正当な理由がある場合は、婚約相手に対して慰謝料を支払う必要はなく、むしろ婚約相手に対して慰謝料を請求することができる場合もあります。
では、どういったケースで慰謝料責任が発生し、どういった理由があれば慰謝料を請求することができるのでしょうか。
婚約破棄を理由とする慰謝料が発生する要件は、以下の2つです。
- 婚約が成立していること
- 婚約破棄に正当な理由がないこと
この慰謝料が発生する要件①②について次項から詳しく解説していきます。
3.婚約破棄の慰謝料発生要件①婚約が成立していること
そもそも「婚約」が成立していなければ、交際相手との関係を精算することは自由恋愛の範疇の出来事として完全に自由であり、慰謝料の問題にはなりません。
では、交際相手はどこから婚約者となるのでしょうか。
以下では、どのような事情が存在していれば「婚約」が成立するのかを見ていきます。
⑴婚約は口約束のみで成立する
婚約のやり方は決まっておらず、ただ単に男女が将来結婚することを口約束するだけでも婚約は成立します。
最高裁判所判決昭和38年9月5日
「当事者がその関係を両親兄弟に打ち明けず、世上の習慣に従って結納を取かわし或は同棲しなかったとしても、婚姻予約の成立を認めた原判決の判断は肯認しうる」
また、明確なプロポーズが存在していなかったとしても、将来結婚することを前提とした行動(結婚することを前提とした両親への紹介、結婚式場の下見や予約、新居購入など)を行なっていた場合には、当該男女の間には将来結婚する約束が存在していたと考えられ、婚約の成立が認められる場合があります。
ただし、あくまでも「結婚する」という約束が取り交わされていることが必要ですので、男女が単に長い期間交際を続けていたり、同棲を続けていたりしただけでは婚約は成立しません。
たとえ、そのような交際関係の中で一方的に「きっとこの人と結婚することとなるんだろうな」「相手もきっとそう考えているんだろうな」と感じていたとしても、それだけでは婚約は成立していません。
⑵婚約が否定される可能性がある場合
婚約が成立するためには、男女の間で取り交わされた将来結婚する意思が真摯なものであることが必要です。
婚約破棄の慰謝料が問題となっている事案では、婚約の成立を否定したい相手から、将来結婚する意思が真摯なものではなかったと反論されることもよくあります。
例えば、以下のような事情がある場合には、将来結婚する意思が真摯なものとは言えないとされ、婚約の成立が否定される可能性があります。
- 交際開始前(特に性的な関係を持つようになる前)に「結婚しよう」と言われたことがあるに過ぎない場合
- 性行為の最中・前後などのいわゆるピロートークの中で「結婚しよう」と言われたことがあるに過ぎない場合
- お酒の席で「結婚しよう」と言われたことがあるに過ぎない場合
⑶婚約の成立が肯定される可能性が高い場合
他方、男女の間で将来結婚する約束が存在していたことに加えて、例えば以下のような事情がある場合には、将来結婚する意思が真摯なものであるとされ、婚約の成立が肯定される可能性が高まります。
- お互いに両親に紹介していた場合
- 結婚した後の同居共同生活のための新居探しをしていた場合
- 実際に同居を開始していた場合(この場合は内縁が成立している可能性もあります)
- 結婚式の開催のための準備(結婚式場の下見や予約など)を進めていた場合
⑷婚約の成立を立証するための証拠
相手が婚約の成立を認めれば問題ありませんが、相手が婚約の成立を否定してきた場合には、そのような相手に慰謝料を請求するためには、損害賠償請求訴訟(裁判)を提起した上で、裁判所に婚約が成立していたことを認めてもらう必要があります。
そのためには、婚約が成立していたことを証拠に基づいてしっかりと説明していくことが必要です。
婚約が成立していたことの証拠としては、例えば、以下のものが考えられます。
相手から送られてきたLINE・手紙・メール・SNSのメッセージなど
→結婚することや、同居して共同生活を行うことを前提としたメッセージは、将来結婚する約束が存在していたことの証拠となります。
結婚することを前提とした行動の証拠
- 婚約指輪の現物や婚約指輪を購入した際の領収書
- 結婚式場とのやり取りのメール履歴や結婚式場への振り込み明細
- 両親と一緒に撮影された写真
- 結納金の受書(領収書の一種)
- 結納金の授受があったことを示す資料
- 結婚後の共同生活のスタートに向けた行動の証拠
- 不動産業者とのやり取りのメール履歴、内覧の際に受け取った資料など
特に、LINEの履歴などは交際解消とともに相手に削除・送信取り消しなどをされてしまう可能性もありますので、裁判を見据える場合には早めに証拠を確保しておくことがおすすめです。
4.婚約破棄の慰謝料発生要件②婚約破棄に正当な理由がないこと
⑴婚約破棄の正当な理由に当たり得る事情
婚約を破棄することに正当な理由があれば、その婚約破棄は不法行為とも債務不履行ともなりませんので、慰謝料は発生しません。
むしろ婚約破棄に正当な理由がある場合には、婚約を破棄された婚約相手に慰謝料を請求できる場合もあります。
例えば、以下のような事情は婚約破棄の正当な理由に当たり得ます。
- 婚約者が別の異性と肉体関係を持った
- 婚約者から暴力(DV)を受けた
- 婚約者から精神的虐待・モラハラを受けた
- 婚約者が婚約成立時に婚約を決意する上で重要な事実(性的不能者である、同性愛者である、犯罪歴がある、多額の借金があるなど)を隠していたことが発覚した
- 婚約者が隠れて風俗に通っていることが判明した
- 婚約者から婚約成立時に取り決めていた結婚・共同生活に関する重要な事項(両親との同居の取り決め、新居の所在する都道府県等、結婚後の仕事、子どもに関する計画など)を守らないと言われた
- 婚約者が犯罪行為を犯して逮捕・服役した
- 婚約者が失業した後無職のまま仕事探しをしていない
- 婚約者から望まぬ入信や改宗を強く迫られた
- 婚約者が依存症(アルコール依存症・ゲーム依存症・ギャンブル依存症など)になった
- 婚約者から望まぬ形で性的嗜好の強要をされた
- その他、婚約者との間での信頼関係が喪失して結婚することを取りやめることに合理的な理由があると思われる事情
このような婚約を破棄することに正当な理由がある場合には、婚約破棄に伴う慰謝料を支払う責任を負わず、反対に相手に対して慰謝料の支払いを求めることも可能な場合もあります。
なお、注意点としては、婚約が成立する前から分かっていた事情は婚約破棄の正当な理由にはなりません。
具体例で説明
⚫︎事例
A女は交際相手であるB男から、自分は性的に不能であることを告白された上で、プロポーズを受けた。
A女は将来子どもを設けたいと考えていたものの、思い悩んだ末に、子なしの人生を選択し、B男からのプロポーズを受け入れた。
その後、A女とB男は互いに両親に紹介したり、結婚式場の下見をしたり、結婚後の同居生活の開始に向けた様々な準備活動をしていた。
⬇️しかし
その後、A女は、結婚後の生活を考えているうちに、どうしても子どものいる人生を諦めきれなくなり、B男との婚約を破棄する決断をした。
⚫︎説明
A女は、B男が性的に不能であることを分かった上でB男と婚約しています。
そのため、B男が性的に不能であることは、婚約破棄の正当な理由とはなりません。
⑵婚約破棄の正当な理由に当たらない事情
他方、以下のような事情は婚約破棄の正当な理由にはなりません。
- 特に具体的な理由なく結婚することが嫌になった
- 婚約相手の他に気になる異性が現れた、好きな人ができた
- 相手の性格が嫌になった
- 友人や両親と話をするうちに婚約相手との結婚に消極的になった
そのため、婚約破棄をした理由が上記のようなものであった場合には、婚約相手から相当額の慰謝料を請求されてしまう可能性があります。
アドバンスな交渉戦略
裁判例の中には、婚約後に婚約相手との間で価値観や人生観の違いが顕著に現れることも多いことや、実際に結婚するかどうかの選択の自由を維持する必要があることなどを理由として、婚約破棄の慰謝料は婚約解消の動機や方法等が公序良俗に反して著しく不当性を帯びている場合に限られるとしているものもあります(東京地方裁判所判決平成5年3月31日など)。
このような考え方の裁判官が担当することとなった場合には、婚約破棄の慰謝料が認められるのは、婚約破棄の理由が民族差別や部落差別などの公序良俗に反するような理由にある場合などに限られることとなります。
慰謝料の話し合い(裁判に至る前の交渉の段階)においても、婚約破棄の理由の強弱や不当性の程度が、話し合いの結果合意が成立し得る具体的な慰謝料の金額に連動することは多いです。
5.婚約破棄に伴う慰謝料の相場金額
これまで解説したように、正当な理由のない婚約破棄をする場合には婚約相手から慰謝料を請求されてしまう場合があります。
他方、婚約破棄の理由が婚約相手の浮気・暴力(DV)・モラハラなどの正当な理由に基づく場合には、むしろ婚約破棄に伴って婚約相手に対して慰謝料を請求できる場合もあります。
⑴慰謝料の相場金額は具体的事情によって差がある
婚約破棄に伴って婚約相手に対して請求できる慰謝料の金額は、具体的な事情によって大きく差があり、30万円〜200万円程度の幅で決まってくる場合が多いです。
金額の幅がこれほどまでに大きい理由は、婚約破棄に至った2人の間の様々な個別の事情によって、婚約破棄された側(慰謝料を請求している側)に与えられた精神的苦痛の程度が異なるためです。
特に、婚約破棄が人生に多大なダメージを与えている場合や、婚約破棄の理由が婚約相手の浮気・暴力(DV)・モラハラなどにある場合などの場合は、慰謝料の額は200万円を超え、具体的状況次第では400万円を超える慰謝料請求が認められる場合もあります。
高額の慰謝料が認められる可能性があるケース
- 婚約が成立するまでの交際期間が長いケース
- 婚約成立から婚約破棄までの期間が長いケース
- 結婚目前のタイミングで婚約が破棄されたケース
- 婚約相手の子どもを妊娠・出産しているケース
- 結婚・新生活に向けて退職・転職しているケース
- 婚約破棄の理由が婚約相手の浮気・暴力(DV)・モラハラなどにあるケース
他方、以下のようなケースでは、慰謝料が少額にとどまる場合があります。
慰謝料が少額にとどまる可能性があるケース
- 婚約が成立するまでの交際期間が短いケース
- 婚約成立から婚約破棄までの期間が短いケース
- 婚約破棄の理由がお互い様といい得るケース
⑵婚約破棄に伴う財産的損害の賠償請求
婚約破棄に伴って、精神的な損害以外にも財産的な損害が発生していた場合には、婚約相手に対して財産的損害の賠償請求ができる場合があります。
婚約破棄の事案では、むしろ財産的損害賠償の金額が高額となる場合も多いです。
婚約相手に対して請求し得る財産的損害
- 婚約指輪や結婚指輪の購入費用
- 結婚式場のキャンセル料金
- 新婚旅行のキャンセル料金
- 結婚後の住居や家具・家電類の購入費用
- 退職・転職による減収分(結婚に備えて退職や転職をしなければもらえていたであろう収入等の逸失利益)
⑶浮気が原因で婚約破棄した場合の異性への慰謝料請求
婚約破棄の理由が、婚約相手が自分以外の異性と肉体関係を持ったことにある場合は、その異性(婚約者の浮気相手)に対しても慰謝料を請求することができる場合があります。
ただし、その異性(婚約者の浮気相手)に対して慰謝料を請求するためには、その異性(婚約者の浮気相手)が婚約の事実を知っていた(故意がある)か、婚約していないと認識していたことに過失がある場合でなければなりません。
そして、そのような婚約者の浮気相手の故意・過失を証明する証拠を得ることは、実際上極めて困難なことが多いです。
証拠がなければ裁判で慰謝料請求は認められませんから、結局、婚約者の浮気相手に対して慰謝料請求をすることは、事実上困難な場合も多いです。
6.婚約破棄に伴うその他費用の精算
⑴結納金
結納金は将来結婚することを前提として贈与された金員ですから、婚約が破棄された場合には返還する必要があります。
仮に婚約相手が結納金を返還しない場合には、婚約相手に対して請求(不当利得返還請求)をすることができます。
ただし、婚約破棄の理由を作った方からの結納金の返還請求は信義則上認められないとされる場合があります(東京高等裁判所判決昭和57年4月27日判決など)。
⑵婚約指輪
婚約指輪も将来結婚することを前提として贈与した物ですから、婚約が破棄された場合には返還する必要があります。
ただし、婚約指輪に関しても、婚約破棄の理由を作った方からの返還請求は信義則上認められないとされる場合があります。
⑶婚約相手の子供を妊娠・出産した場合の養育費
結婚前に婚約相手の子供を妊娠または出産し、そのまま結婚はせずにシングルマザーとなった場合、現在の日本の法律では、親権は母親である女性にのみ与えられ、生まれた子供は母親の戸籍に入ることになります。
ただし、たとえ婚約破棄をして結婚に至らなかったとしても、元婚約相手がその子供の実の父親であることに変わりはありません。
そのため、元婚約相手に対して子供の養育費を請求することができます。
ただ、元婚約者の男性に子供の養育費を請求するためには、元婚約者の男性に子供に対する扶養義務などの法律上の義務を負ってもらう必要があります。
そして、そのためには、子供とその男性(生物学上の父親)との間に法律上の親子関係を発生させることが必要です。
そのための方法が「認知」です。
元婚約者の男性が子供を認知することによって、元婚約者と子供との間に法律上の親子関係を発生し、元婚約者の男性にその子供の養育費を支払う義務が発生します。
子供の養育費については、基本的には過去に遡って請求することが認められない場合もあるため、請求する場合には早めに請求の手続きをとることが必要です。
認知とは?結婚していない父親から養育費をもらうための手続きを解説
7.婚約破棄による慰謝料請求の流れ
ここからは、あなたが実際に婚約破棄をされた側である場合に、その婚約破棄をしてきた相手に対して慰謝料請求をする場合の流れについて解説します。
婚約破棄を理由とする慰謝料請求の方法は、大きく分けて以下の2通りがあります。
- 交渉で慰謝料請求をする方法
婚約破棄をしてきた相手に対して慰謝料請求をすることを告知し、交際相手と交渉(話し合い)をして慰謝料の金額や支払方法・支払時期などの合意を取り付けて、相手から慰謝料を支払ってもらう。 - 裁判で慰謝料請求をする方法請求をする方法
裁判所に対して、婚約の不当破棄を理由とする損害賠償請求訴訟を提起して、判決で元婚約相手(被告)への慰謝料請求を認めてもらう。
いきなり②裁判で慰謝料請求をする方法を取ることもできますが、流れとしては、まずは①交渉で慰謝料請求をすることから始まり、相手が慰謝料の支払いに合意しない場合や、慰謝料の金額や条件に納得ができない場合には、②の裁判で慰謝料請求をする方法に進むとの流れになることが通常です。
⑴話し合い・交渉での慰謝料請求
- 記録に残るように書面で請求しよう
まず、元婚約相手がすんなりと慰謝料の支払いに合意するのであれば良いですが、相手から何らかの反論を受けたり、慰謝料の金額が納得できないと主張されたりするケースもあります。
婚約破棄をした本人は、自分がした婚約破棄という行為が、元婚約相手の人生を狂わせてしまったという重大さや悪質性に気づいていないことも多いものです。
そのため、相手との対面での話し合いや電話で口頭にて慰謝料請求をする場合、その場で交際相手からの反論を受け、交際相手と言い争いなどのトラブルに発展してしまうこともあります。
そのような可能性がある場合には、慰謝料請求をする際には、相手に対して請求する内容を記載した書面を特定記録郵便や内容証明郵便で郵送するとの方法を取ることがよいでしょう。
加えて、交際相手に対して書面を特定記録郵便や内容証明郵便で郵送することにより、交際相手に郵便が届いた時期が明確となりますので、相手に対する慰謝料請求権の時効の完成が猶予されるとの効果もあります。
- 弁護士への依頼を検討しよう
婚約破棄を理由とする慰謝料請求の交渉を弁護士に依頼した場合には、相手との連絡や書面の送付・合意書の取り交わしなどの全てを弁護士が行うことが通常です。
弁護士へ依頼することで、自宅へ相手からの郵便が届いたり、相手から直接電話がかかってきたりすることが無くなりますので、日常生活への影響を最小限に抑えることができます。
また、弁護士からの慰謝料請求の書面を送付されることは、それだけで請求を受ける者に相当のプレッシャーを与える効果があり、無視されることはほとんどありません。
婚約破棄の慰謝料請求では、慰謝料を請求したかったとしても、電話が着信拒否されていたり、LINEをブロックされていたりなど、あなたからの連絡が「別れた交際相手からの連絡」として無視されてしまう可能性がありますので、特にそういった場合には弁護士へ依頼することが有効です。
- 交渉で相手と合意できなかった場合
書面での交渉・協議を続けた結果、どうしても相手が慰謝料の支払いに合意しなかったり、慰謝料の金額面での合意が形成できなかったりする場合には、裁判所に裁判(損害賠償請求訴訟)を提起して、裁判で慰謝料を請求していくこととなります。
⑵裁判での慰謝料請求
裁判で慰謝料請求をする方法としては、
- 請求する金額が140万円以下の場合には簡易裁判所
- 請求する金額が140万円を超える場合には地方裁判所
に訴状を提出して、裁判(損害賠償請求訴訟)を提起することとなります。
ただし、裁判を行うことは相当な時間と労力がかかりますし、裁判での失敗は後から取り返すことが極めて困難な場合もありますので、裁判に踏み切る前に弁護士に相談することを強くお勧めします。
8.「婚約後・結婚前」の期間の重要性
婚約には強制的に結婚しなければならないという効力はありませんので、婚約をしたとしても望まぬ結婚を強いられることはありません。
婚約がどれほど真摯な気持ちから行われたものであったとしても、男女の関係は様々な要因で事後的に変化することがあるものです。
人生は結婚した後の期間の方が圧倒的に長いことや結婚は後から取り消すことができないものであることを考えると、婚約相手との結婚に迷いが生じた場合には、このままその相手との結婚に踏み切って良いかどうか今一度慎重に検討してみるのも良いかもしれません。
これまで解説してきたように、婚約相手との結婚に迷いが生じた理由次第では、婚約を破棄しても慰謝料を支払う必要はなく、むしろ婚約相手に対して慰謝料を請求できる場合さえあります。
どのような選択肢があるのか、その選択肢のリスクはどのようなものなのかについては、具体的な事情によって結論は変わってくることも多いです。
レイスター法律事務所では、無料法律相談にて、
- 相手との話し合いをどのように進めていくことが良いか
- どのような請求ができるか
- どのような請求を受けてしまう可能性があるか
- どのような証拠が必要となるか
- 手持ちの証拠で十分か
などといった具体的かつ実践的なアドバイスを行なっています。
婚約者との関係や婚約破棄の慰謝料問題でお悩みの際は、是非、こちらからお気軽にご連絡ください。
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