合意すると大損害!?相手が子どもと同居している場合の婚姻費用請求

COLUMN 弁護士コラム

2022.04.13

婚姻費用

合意すると大損害!?相手が子どもと同居している場合の婚姻費用請求

子供と同居生活をしている相手から、「子供の生活費を負担してほしい」と請求された時、どのように対応すれば良いでしょうか。

子供の生活費なのだから、支払わなければならないような気がするかもしれません。 

しかしながら、本当に支払わなければならないかどうかはそう単純には決まりません。

むしろ、子供と同居生活をしている相手に対して、あなたの生活費を請求できる場合もあります。

その計算は複雑になりますので、できるだけ多くのパターンの計算結果をまとめました。

1.子供と同居している相手に生活費を請求できる場合がある

子どもと同居している相手に生活費を請求できる場合がある

あなたが子供と離れて生活をしている場合、子供と同居生活をしている配偶者から「子供の生活費を支払ってくれ」と請求されたら、どうしますか?

子供の生活費を負担することは当然必要なことだろうと考え、相手の求めに応じることは、それはそれで自然な発想だと言えるかもしれません。

法律上も、親は子供に対する扶養義務を負っています(民法877条)。

しかし、常に子供の生活費を子供と同居生活をしている相手に対して支払わなければならないということにはなりません。

むしろ、あなたの生活費を、子供と同居生活をしている相手に対して請求できる場合さえあります。

 

2.別居中の夫婦の生活費の負担=婚姻費用の問題である

夫婦は、婚姻中、婚姻費用を分担して負担する義務を負っています(民法760条)。

 

  • 民法760条
    夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する

婚姻費用とは、夫婦が通常の社会生活を維持するために必要な費用(生活費、居住費、食費、医療費、学費など)のことを言い、子供の生活費もここに含まれます。

つまり、離れて暮らす子供の生活費を支払わなければならないかどうかは、子供と同居生活をしている相手に対して(養育費を含む)婚姻費用を支払う義務を負うこととなるかどうかにより決まります。

あなたが子供と離れて暮らしているとしても、子供と同居生活をしている相手に対して婚姻費用を支払う義務を負わない状況であれば、あなたは離れて暮らす子供の生活費を実際に支出する必要はないということです。

 

3.子供と離れて暮らしている場合の婚姻費用の金額の計算

子どもと離れて暮らしている場合の婚姻費用の金額の計算

婚姻費用の具体的な金額は、家庭裁判実務上、婚姻費用算定表に基づいて計算されています。

しかしながら、婚姻費用算定表に記載されているのは、「子供と同居生活をしている方の親が相手に対して請求できる婚姻費用の金額」のみです。

婚姻費用算定表で「子供と同居生活をしている方の親が相手に対して請求できる婚姻費用の金額」が「0円」の場合は、むしろ子供と離れて暮らしている親の方が婚姻費用を請求できる可能性があります。

ただその場合の請求できる金額は婚姻費用算定表からでは分かりませんので、婚姻費用算定表の考え方(標準算定方式)にまで遡って計算をする必要があります。

どのような場合であれば子供と離れて暮らしている親が相手から生活費をもらえる状況となるのかを計算していきます。

なお、詳しい計算式や考え方を記載すると煩雑となるので、結論のみを記載しています。

 

4.別居親が貰える婚姻費用の相場金額:子供が1人の場合


①子供と同居生活をしている親の年収
②子供と離れて暮らす親の年収が、概ねこの金額を下回る場合は、原則として婚姻費用を支払う必要はない
③子供と離れて暮らす親の年収が0円の場合に、むしろ逆に子供と同居生活をしている親から支払ってもらえる婚姻費用のおおよその金額

 

⑴子供の年齢が14歳以下の場合

①同居親の年収

②別居親の年収がこの金額
以下の場合は支払義務なし

③別居親の年収が0円の場合
にもらえる金額の目安

100万円

57万円

15000円〜2万円

200万円

115万円

3万円

300万円

180万円

4万円

400万円

240万円

55000円〜6万円

500万円

300万円

7万円

600万円

360万円

8万円

700万円

420万円

9万円

800万円

470万円

10万円

900万円

540万円

115000円〜12万円

1000万円

600万円

13万円

 

⑵子供の年齢が15歳以上の場合

①同居親の年収

②別居親の年収がこの金額
以下の場合は支払義務なし

③別居親の年収が0円の場合
にもらえる金額の目安

100万円

50万円

15000円〜2万円

200万円

90万円

25000円〜3万円

300万円

150万円

4万円

400万円

210万円

5万円

500万円

260万円

6万円〜65000

600万円

310万円

7万円〜75000

700万円

370万円

85000円〜9万円

800万円

410万円

95000円〜10万円

900万円

470万円

105000円〜11万円

1000万円

510万円

12万円

 


5.別居親が貰える婚姻費用の相場金額:子供が2人の場合


①子供と同居生活をしている親の年収
②子供と離れて暮らす親の年収が、概ねこの金額を下回る場合は、原則として婚姻費用を支払う必要はない
③子供と離れて暮らす親の年収が0円の場合に、むしろ逆に子供と同居生活をしている親から支払ってもらえる婚姻費用のおおよその金額

 

⑴子供の年齢が2人とも14歳以下の場合

①同居親の年収

②別居親の年収がこの金額
以下の場合は支払義務なし

③別居親の年収が0円の場合
にもらえる金額の目安

100万円

40万円

1万円〜15000

200万円

70万円

2万円〜25000

300万円

120万円

3万円〜35000

400万円

170万円

4万円〜45000

500万円

210万円

5万円〜55000

600万円

250万円

6万円〜65000

700万円

300万円

7万円〜75000

800万円

340万円

8万円〜85000

900万円

380万円

9万円〜95000

1000万円

420万円

10万円〜105000

 

⑵子供の年齢が14歳以下+15歳以上の場合

①同居親の年収

②別居親の年収がこの金額
以下の場合は支払義務なし

③別居親の年収が0円の場合
にもらえる金額の目安

100万円

30万円

1万円〜15000

200万円

60万円

2万円

300万円

110万円

3万円

400万円

150万円

4万円

500万円

190万円

5万円

600万円

230万円

6万円

700万円

270万円

7万円

800万円

300万円

8万円

900万円

340万円

9万円

1000万円

380万円

10万円

 

⑶子供の年齢が2人とも15歳以上の場合

①同居親の年収

②別居親の年収がこの金額
以下の場合は支払義務なし

③別居親の年収が0円の場合
にもらえる金額の目安

100万円

30万円

1万円〜15000

200万円

50万円

2万円

300万円

90万円

3万円

400万円

140万円

4万円

500万円

180万円

5万円

600万円

210万円

55000円〜6万円

700万円

240万円

65000円〜7万円

800万円

280万円

75000円〜8万円

900万円

310万円

85000円〜9万円

1000万円

350万円

9万円


6.別居親が貰える婚姻費用の相場金額:子供が3人の場合


①子供と同居生活をしている親の年収
②子供と離れて暮らす親の年収が、概ねこの金額を下回る場合は、原則として婚姻費用を支払う必要はない
③子供と離れて暮らす親の年収が0円の場合に、むしろ逆に子供と同居生活をしている親から支払ってもらえる婚姻費用のおおよその金額

 

⑴子供の年齢が3人とも14歳以下の場合

①同居親の年収

②別居親の年収がこの金額
以下の場合は支払義務なし

③別居親の年収が0円の場合
にもらえる金額の目安

100万円

30万円

1万円

200万円

50万円

2万円

300万円

80万円

3万円

400万円

130万円

4万円

500万円

160万円

45000円〜5万円

600万円

200万円

55000円〜6万円

700万円

230万円

65000

800万円

260万円

7万円

900万円

290万円

8万円

1000万円

330万円

9万円

 

⑵子供の年齢が14歳以下+14歳以下+15歳以上の場合

①同居親の年収

②別居親の年収がこの金額
以下の場合は支払義務なし

③別居親の年収が0円の場合
にもらえる金額の目安

100万円

30万円

1万円

200万円

50万円

2万円

300万円

80万円

25000円〜3万円

400万円

110万円

35000円〜4万円

500万円

150万円

45000

600万円

180万円

5万円

700万円

210万円

6万円

800万円

240万円

65000円〜7万円

900万円

270万円

75000円〜8万円

1000万円

300万円

85000

 

⑶子供の年齢が14歳以下+15歳以上+15歳以上の場合

①同居親の年収

②別居親の年収がこの金額
以下の場合は支払義務なし

③別居親の年収が0円の場合
にもらえる金額の目安

100万円

20万円

1万円

200万円

40万円

2万円

300万円

70万円

25000円〜3万円

400万円

110万円

35000

500万円

140万円

4万円

600万円

160万円

5万円

700万円

200万円

55000円〜6万円

800万円

220万円

65000

900万円

250万円

7万円

1000万円

280万円

8万円

 

⑷子供の年齢が3人とも15歳以上の場合

①同居親の年収

②別居親の年収がこの金額
以下の場合は支払義務なし

③別居親の年収が0円の場合
にもらえる金額の目安

100万円

20万円

1万円

200万円

40万円

15000円〜2万円

300万円

60万円

25000円〜3万円

400万円

90万円

3万円

500万円

130万円

45000円〜5万円

600万円

150万円

5万円

700万円

180万円

55000

800万円

200万円

6万円

900万円

230万円

65000円〜7万円

1000万円

260万円

75000円〜8万円

 

7.婚姻費用の合意は後から取り返しがつかない!

標準算定方式も、婚姻費用算定表も、あくまで家庭裁判実務でそのように取り扱われているというだけの話です。

つまり、夫婦が婚姻費用算定表に基づかないで婚姻費用の金額を話し合って合意をすることも当然可能です。

当然可能であるばかりか、そのような夫婦間における婚姻費用の合意が存在している場合は、家庭裁判所は、婚姻費用算定表ではなくて、当該夫婦間の合意を優先します。

裁判所は、当事者間で婚姻費用の合意がある場合は、その合意が形成された時点以降に想定外の「事情の変更」が発生しなければ、婚姻費用の合意の変更を認めてくれません。

つまり、本来であれば婚姻費用の支払いをしなくてもよかったにも関わらず、「子供の生活費を負担することは当然必要だろう」と考えて、婚姻費用の支払いに合意してしまった場合、後から「やっぱりなし!」とはできなくなってしまう可能性が高いです。

婚姻費用の支払いの合意は、後から取り返しがつかない場合もありますので、慎重に行ってください。

レイスター法律事務所では、無料法律相談において個別具体的な事情に基づいて可能な限り具体的に婚姻費用の適正な金額及び話し合いを進める際のポイント・注意点をお伝えしていますので、是非ご利用ください。

 

担当弁護士

  • 合意すると大損害!?相手が子どもと同居している場合の婚姻費用請求

    やまざき よしひろ

    山﨑 慶寛

    執筆

    弁護士法人レイスター法律事務所 代表弁護士

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