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アルコール依存症とは、自らの意思ではお酒から離れられなくなってしまう精神疾患です。
アルコール依存症が悪化して重い症状が出るようになると普通に生活をすることが難しくなってしまいます。
アルコール依存症は適切な治療を受ければ回復する病気ですが、家族に対して攻撃的な言動をしてくることもあり、家族の生活・人生にも多大な影響を及ぼすことの多い病気です。
アルコール依存症の夫(妻)との離婚を決意した場合、どのように離婚問題を進めていけば良いでしょうか。
このページの目次
1.アルコール依存症とその恐ろしさ
⑴アルコール依存症とは
アルコール依存症とは、お酒を飲むことを自分で止められなくなってしまう精神疾患です。
お酒を長期間に渡って大量に飲み続ければ、どんな人でもアルコール依存症になってしまう可能性があり、特にお酒に強い人ほど注意が必要です。
お酒を毎日飲んでいると、徐々により多くのお酒が欲しくなり、少しずつ飲酒量が増えます。
最終的には毎日大量のお酒を飲むようになり、その影響はお酒が切れている時に現れます。
具体的には、
- お酒が切れると体調が悪くなる
- お酒に酔っていない状況に物足りなさや苛立ちを感じる
という状況となり、早くお酒を飲みたいとの欲求が強くなってきます。
そして、さらに大量の飲酒を習慣として続けてしまうことで、アルコール依存症は進行していきます。
アルコール依存症が進行すると、お酒が切れている時に手の震え、発熱、悪寒、下痢、不眠などの身体的症状が強くなってくるとともに、無気力、注意力低下、恐怖感、不安感、うつ状態などの精神的症状も強まっていき、普通に生活をすることが難しくなってしまいます。
厚生労働省の調査によると、生活習慣病のリスクを高める飲酒をしている者(=1日当たり純アルコール摂取量が男性40g以上、女性20g以上のアルコールを接種している者)は、男性の14.9%、女性の9.1%いるとされています。
20gのアルコールとは、思いの外少量であり、例えば、以下の飲酒量には20g以上のアルコールが含まれています。
- ビール中瓶1本
- 缶チューハイ1缶
- 日本酒1合
- ウィスキーダブル1杯
- ワイングラス2杯
- ストロング系チューハイ350ml缶1本
⑵アルコール依存症の恐ろしさ
アルコール依存症の恐ろしいところは、病的に強烈な飲酒欲求のために自分の意思でアルコールから離れられなくなってしまうということです。
「酒を飲みたい」という欲求が強く、お酒を飲んでいないと耐えられない状態になるために、自宅での飲酒はもちろん、職場や、通勤電車などでも隠れて飲酒していることさえあります。
そして、前述したように、お酒が切れている時に禁断症状が出るため、飲酒をせずには普通に生活をすることが難しくなり、アルコールから離れられなくなってしまうのです。
そして、そのような「どんなに強く決意してもどうしてもお酒を止められない自分」を受け止められず、そのような自分と折り合いを付けるために、病気を否定(「否認」と言います。)したり、そのような自分を擁護したりする言動をする傾向にあります。
その結果、
- 家族に対して嘘や言い訳を頻繁に言うようになったり、
- 言っていることがすぐに変わってしまい約束を守らなくなったり、
- 尊大な行動・攻撃的な行動・自己中心的な行動を繰り返したり、
- 妄言・妄想に基づいた行動をしてしまったり
します。
アルコール依存症の配偶者を心配して治療を受けさせようとしても、なかなか自身の病気を認めず、それでいて毎日の飲酒を決してやめず、飲酒を止めると約束しても結局飲酒を止めることはなく、お酒を飲んで帰宅することに嘘の言い訳をいい、そのことを責めると暴言・暴力などの攻撃的な言動をしたりします。
このように、アルコール依存症は家族の生活・人生にも多大な影響を及ぼすことの多い病気です。
2.アルコール依存症の夫(妻)との付き合い方
⑴アルコール依存症から回復するまで待つ
アルコール依存症は適切な治療を受ければ回復する病気です。
しかし、アルコール依存症には、自分の意思で治療を開始・継続することが極めて困難な病気であるという特徴があります。
そのため、アルコール依存症の治療の開始・継続は、アルコール依存症の本人のみで行うことは難しいので、家族の理解と協力が必要となります。
アルコール依存症の相手に治療を受けてもらうことは容易ではありませんが、相手を説得し、嘘をつかれたり攻撃的な言動を受けたりしてもそれを許容し、辛抱強く改善に向けて努力をしていく必要があります。
配偶者のアルコール依存症で悩んでいたり、治療を開始したい・開始してもらいたいという場合には、独力では限界がありますので、まずは保健所や精神保健福祉センターなどの相談機関へ一度相談してみることをおすすめします。
⑵アルコール依存症の夫(妻)を看過する危険性
夫・妻がアルコール依存症の可能性があると認識していたとしても、通院したり回復に向かうような行動をせず、そのような状況を放置してしまうと、アルコール依存症の症状が悪化していってしまう可能性が高いです。
例えば、あなたが以下のような行動を習慣化している場合には危険信号です。
- 配偶者が飲酒習慣のために働けないので、代わりに稼いでお金を渡している
- 配偶者からお酒を要求されるので、お酒を買いに行ってあげる
- 配偶者が飲酒しており掃除や片付けができないので、代わりにやってあげる
- 配偶者が飲酒したために朝仕事に行けず、代わりに職場に欠勤の旨を連絡してあげる
- 配偶者が飲酒していたために発生したトラブルを肩代わりして対応・謝罪してあげる
- 配偶者が隠れて飲酒していることに気づいていないふりをする
- 配偶者が酒を飲んでいないと嘘をついていることに気づいているが、知らないふりをする
- 配偶者が過度に飲酒する理由は仕事などのストレスのせいであると正当化して見過ごす
- 配偶者がアルコール依存症だと診断されているのに必要な治療を受けさせない
このような、アルコール依存症の人を無意識的に助けている人のことをイネイブラーと呼び、そのような行動はイネイブリングと呼ばれます。
アルコール依存症の配偶者と離婚せずに生活していくことを決めた場合には、イネイブリングをせず、配偶者にアルコール依存症の適切な治療を受けさせる必要があります。
そうでなければ、いつか共倒れとなってしまう危険性があります。
⑶アルコール依存症の配偶者との離婚を考える
相手の酒癖の悪さに気づかないまま結婚してしまい、結婚した後になってから、飲酒して豹変した夫や妻の本性が分かったという人もいるかもしれません。
アルコール依存症で常に飲酒している状態の人間が同じ家で生活しているということは、自分自身の大きなストレスになるだけでなく、子供や子育てへの悪影響は計り知れません。
あなたが配偶者がアルコール依存症であることに気付いて助言したとしても、相手がどうしてもアルコール依存症の治療を受けてくれなかったり、「俺は悪くない」と反省してくれず、邪険に扱われたり、そもそも話を聞いてくれなかったりする場合もあります。
いくらあなたがアルコール依存症について調べたり、その治療やカウンセリングを配偶者に何度も勧めたりしても、依存症の症状のために衝動的・攻撃的な行動をする相手を説得して無理やり通院させることには限界があるでしょう。
相手がアルコール依存から回復しない限りは、アルコールに依存する夫・妻の世話をする日々が続くわけですから、明日も相手の機嫌が悪いのではないか、またひどいことを言われるのではないかなどと不安になってしまうこともあるかもしれません。
そのような場合には、あなた自身や家族が潰れてしまう前に、あなた自身や家族の人生を守るために、そのような配偶者との離婚を検討することもあり得る考え方です。
また、配偶者がアルコール依存症であるこということは、常日頃から飲酒している状態であるということであり、飲酒によって社会的に重大な事件・事故を引き起こす可能性も少なくありません。
飲酒運転による事故や、飲酒による暴行事件・痴漢などの強制わいせつ事件などの加害者が、「酒に酔っていて覚えていない」という言い分を述べる様は、ニュースでもよく聞く話です。
事件や事故とまではいかなくとも、普段から大声を出して怒鳴ったりする場合には、地域の近隣住民や周囲の目が気になるところです。
アルコール依存症の配偶者がどうしても治療を受けてくれない場合には、上記のような様々なリスクも踏まえて、離婚を検討することも考えられます。
3.アルコール依存症の夫(妻)と離婚する方法
⑴夫(妻)と話し合って離婚する
- 協議離婚(話し合い)で離婚する
まずは、配偶者に離婚を切り出して、離婚に向けて離婚条件などの話し合いを進めていきます。
アルコール依存症である本人が家族に迷惑をかけてしまっていることの自覚がある場合では、あなたの離婚の求めに真摯に向き合ってくれる可能性もあり、協議離婚の形で早期に離婚が成立する可能性があります。
ただ、アルコール依存症の夫に離婚を切り出す場合、酒に酔った相手が逆上して強烈な暴言・暴力の被害を受けてしまうことがあります。
そのため、離婚の進め方としては、可能であるならば相手に離婚を切り出す前に、別居を先行させることが良いでしょう。
また、相手が感情的になったり攻撃的になったりする場合には、あなた自身の日常生活を守るためにも、弁護士に夫との交渉の間に入ってもらうなどの方法も検討するべきです。
- 離婚調停を申し立てる
相手が離婚に応じなかったり、飲酒しているために当事者間では話し合いにならないなどの場合には、家庭裁判所に離婚調停(夫婦関係調整調停)を申し立てて、裁判所において離婚の話し合いを進めることが良いでしょう。
離婚調停では、家庭裁判所という公的な場所で、調停委員という第三者を間に入れて話し合いを行うこととなるため、相手が調停期日に飲酒してきたり、怒りに任せて突発的な行動をしたりすることを抑制する効果も期待できます。
そして、離婚調停では、全体の半数近く(離婚調停中に協議離婚が成立した場合も含む)で離婚の合意が成立しており、離婚調停に弁護士が関与している場合にはさらに離婚合意の成立率は高まります。
離婚調停では、財産分与や慰謝料などのお金のことに加えて、子供がいる場合には子供の親権・養育費の金額・面会交流の条件などの離婚条件について話し合うこととなります。
相手との間でこれらの離婚条件について合意ができた場合には、離婚調停は成立となり、相手と離婚することができます。
しかし、相手が離婚すること自体に合意しなかったり、離婚条件について調停上の話し合いではまとまらなかったりする場合には、離婚調停は不成立となって終了することとなります。
その場合は、離婚するためには離婚裁判を提起する必要があります。
離婚が成立するまでの間の生活費(婚姻費用)について
離婚協議が長引きそうな場合には、離婚問題を有利に進めるためにも、相手と別居したり、相手に婚姻費用の請求を検討することも有用です。
婚姻費用とは、離婚が成立するまでの間の生活費であり、あなたが相手方配偶者よりも収入が低い場合や、子供を監護養育している場合には、請求すれば相手から受け取れる可能性が高いです。
相手との間で離婚調停が続いている場合には、追加で婚姻費用分担請求調停を申し立てることで、調停期日で婚姻費用についての話し合いも同時に進めることが可能です。
相手から婚姻費用を受け取ることができれば、受け取らない場合よりも生活に余裕ができるため、スムーズに別居が開始できるケースもあります。
相手から受け取れる婚姻費用の金額がいくら程度なのか、具体的な金額について事前に把握したい場合は、弁護士の無料相談などを利用することもできます。
⑵夫(妻)と裁判離婚する
相手が離婚に合意しない場合には、離婚訴訟を提起して、裁判所に離婚判決を出してもらうことが必要となります。
そして、裁判所に離婚判決を出してもらうためには、民法に定められた離婚原因(法定離婚原因)が存在していることが必要となります。
法定離婚原因(民法770条1項)
- 「配偶者に不貞な行為があったとき」(1号)
- 「配偶者から悪意で遺棄されたとき」(2号)
- 「配偶者の生死が三年以上明らかでないとき」(3号)
- 「配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき」(4号)
- 「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」(5号)
この中で、相手がアルコール依存症であるために離婚したいという場合に問題となり得る離婚原因は、以下の2つです。
④「配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき」
⑤「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」
- ④「配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき」
④「配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき」については、アルコール依存症はこれに該当しません。
- ⑤「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」
配偶者がアルコール依存症である、というだけでは、⑤「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」に該当しません。
むしろ、夫婦は「同居し、互いに協力し扶助」する義務(同居義務・協力義務・扶助義務。民法752条)を負っているため、アルコール依存症という病気の夫を残して離婚することに裁判所が消極的に考えることもあり得ます。
そのため、相手がアルコール依存症であるというだけで裁判所に離婚判決を出してもらうことは容易ではありません。
ただ、具体的な事情次第では、「婚姻を継続し難い重大な事由」の存在が認められ、離婚判決が出される可能性も十分にありますので、例えば以下の点について具体的かつ詳細に主張することが重要です。
- あなたが離婚を決意するほど追い詰められてしまった経緯
- あなたのこれまでの献身的な努力
- 別居の期間
- 夫(妻)の言動(仕事をしない、暴言・暴力を振るう、モラハラ・DVなど)
特に、相手が飲酒した際にモラハラをしてくるタイプであったり、暴力(DV)を受けていたりするなどの場合には、離婚判決が出される可能性が高くなり、さらには慰謝料請求が認められる可能性もあります。
他方、暴力(DV)などの強い破綻原因といえるような事情が存在していない場合は、裁判所に対して、
- あなたが夫(妻)との関係に悩んで精神的に追い詰められていたこと
- あなたが夫(妻)との離婚を決意する程に追い詰められた経緯
- あなたが夫(妻)との関係を維持・継続するために今まで行ってきた努力
- あなたが夫(妻)から言われた酷い言葉の数々
などについて、具体的なエピソードを交えて具体的かつ詳細に説明することが極めて重要となります。
4.アルコール依存の夫(妻)を支え続けるか解放される道を目指すか
アルコール依存症は、その家族の生活・人生にも多大な影響を及ぼすことの多い病気です。
相手がアルコール依存症の治療を受けてくれなかったり、治療に真剣になってくれなかったりする場合もあります。
そのような場合には、あなた自身や家族が潰れてしまう前に、あなた自身や家族の人生を守るために、そのような相手との離婚を検討することもあり得る考え方です。
あなたが離婚を決意した場合には、相手と別居して弁護士に依頼をすることで、相手と一切顔を合わせることなく、離婚を成立させることも可能です。
レイスター法律事務所では、無料相談において、離婚に向けて進める場合の離婚交渉の方針や早期離婚達成のための交渉戦略、離婚が成立する場合の離婚条件(財産分与・慰謝料・親権・養育費など)の金額の幅などの離婚問題全般の見通しなどについて、具体的なアドバイスを行なっています。
アルコール依存症の夫(妻)との離婚問題でお悩みの際は、是非、こちらからお気軽にご連絡ください。
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