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児童虐待は、子どもを持つ親が絶対にやってはならない行為です。
幼い子どもは親を信頼し、親に全てを委ねており、自分が児童虐待の被害に遭っているなど考えもしませんし、親の言いつけを守り、誰にも親の虐待について言いません。
そんな子どもを虐待行為から守ることができるのは、もう一方の配偶者の決意と行動です。
この記事では、児童虐待の種類や児童虐待を理由とする離婚・慰謝料や子どもを虐待していた親との面会交流などについて解説します。
このページの目次
1.子どもを児童虐待の被害から守るために
子どもの保護者が子どもに対して絶対にやってはならないのが児童虐待です。
しかしながら、児童相談所での児童虐待相談対応件数は、近年急速に増加しており、令和3年度においては20万件を超えています。
参照:厚生労働省・令和3年度 児童相談所での児童虐待相談対応件数
最近では、コロナの影響で在宅の時間が増えたことが児童虐待の件数の増加の原因の一つとなっているとの指摘もあります。
児童虐待は家庭の外部からは発見しにくいものですので、実際にはさらに多くの子どもが虐待の被害に遭っていると考えられます。
児童虐待を行っている配偶者はその事実を隠そうとする傾向にありますし、幼い子どもは多くの場合、健気にもその配偶者からの言いつけを必死に守ろうとします。
そのため、夫(妻)が子どもを虐待していたことが、相当期間が経過した後になって初めて発覚することもよくある話です。
また、自分の行動が児童虐待に該当していることに気がつかないで虐待行為を繰り返している保護者も相当数存在しています。
幼い子どもは自分が児童虐待の被害に遭っていることを認識していませんし、親を心から信頼しており、外部の人間に自分の親を売りません。
親が「絶対に言うな」と言えば、その言いつけを守って誰にも言いません。
その子どもを配偶者による虐待行為から守ることできるのは、もう一方の配偶者の決意と行動です。
子どもを児童虐待の被害から守るためには、配偶者に絶対に児童虐待をさせないことや、それが困難な時は児童虐待をする配偶者から子どもを遠ざけることが必要です。
この記事では、児童虐待の種類や児童虐待を理由とする離婚・慰謝料や子どもを虐待していた親との面会交流などについて解説します。
2.児童虐待の種類
配偶者が子どもに対して虐待行為を行なっているかどうかを発見するためには、児童虐待の種類や具体例を知っておくことが有用です。
児童虐待と言われる具体的な行動は様々ありますが、大きく分けると、
- 身体的虐待
- 性的虐待
- 育児放棄(ネグレクト)
- 心理的虐待
の4つに分類することができます。
①身体的虐待
身体的虐待とは、子どもに暴行を加えることです。
身体的虐待の具体例
- 子どもを殴る
- 子どもを蹴る
- 子どもを叩く
- 子どもを投げ落とす
- 子どもを激しく揺さぶる
- 子どもにやけどを負わせる
- 子どもを布団蒸しにする
- 子どもを溺れさせる
- 子どもの首を絞める
- 子どもを逆さ吊りにする
- 子どもの口に異物を入れる
- 子どもを冬場に長時間屋外に放り出す
- 子どもを縄などで縛って拘束する
身体的虐待は、子どもの身体に切り傷、擦り傷、火傷、内出血などの外傷が生じる可能性のある行為であり、命の危険が生じる場合もあります。
身体的虐待は外傷が生じ得る分他の虐待行為よりも外部から認識・発見しやすいものですが、あえて外部から発見しにくい腋の下・内腿・腰などに外傷が生じていることもよくあります。
また、子どもが普通に生活をしている限り通常怪我をすることはないような場所に怪我が生じている場合もあります。
身体的虐待は、しつけ・教育の趣旨で行われやすい虐待行為です。
かつての日本では広くしつけ・教育の趣旨で子どもに対する暴行行為が行われていた時代もありました。
しかし、現在では、子どもに対して外傷が生じ得る可能性があるような暴行行為は広く児童虐待に該当すると考えられています。
②性的虐待
性的虐待とは、子どもに性的な行為をしたり、性的な行為を見せたりする行為です。
性的虐待の具体例
- 子どもに性的な行為をする
- 子どもに性的な行為をさせる
- 子どもに性的な行為を見せる
- 子どもの性器を触る
- 子どもに性器を触らせる
- 子どもの裸体を撮影して販売する
性的虐待は、子どもの心に回復困難な深い傷を負わせ、人生を破壊してしまう恐れが高いものです。
他方、最も外部から発見しにくい虐待行為であり、子どもを性的虐待の被害から守ることができるかどうかは、もう一方の配偶者にかかっています。
子どもが性的虐待の被害を受けていることを認識しながら放置することもまた、虐待行為であると考えられています。
③育児放棄(ネグレクト)
育児放棄(ネグレクト)とは、子どもの保護者としての監護を著しく怠ることをいいます。
育児放棄(ネグレクト)の具体例
- 子どもを家に閉じ込める
- 子どもに食事を与えない
- 子どもを自動車の車内に放置する
- 子どもが病気になっても病院に連れて行かない
- 子どもが虐待の被害に遭っていることを放置する
育児放棄(ネグレクト)は、子どもに対する直接的な行動があるものではありませんが、その分程度の差はあれ容易に行われやすい虐待行為です。
また、また幼い子どもは外部に助けを求めることができませんので、酷い育児放棄(ネグレクト)は子どもの命を奪うこともあります。
どの程度の行為が行われていれば児童虐待に該当するのかどうかについては、子どもの年齢・能力、家庭環境や生活形態などの具体的な状況を総合的に検討して判断することとなります。
④心理的虐待
心理的虐待とは、子どもに精神的虐待を加えて子どもに心理的な傷を負わせることです。
心理的虐待の具体例
- 子どもを言葉で脅す
- 子どもに対して存在を否定する言葉を投げかける
- 子どもを無視する
- 兄弟間で差別的な扱いをする
- 子どもの面前で兄弟を虐待する
- 子どもの面前でDVを行う
子どもの面前でのDV(家庭内暴力)が児童虐待に該当することは、虐待防止法にも明記されています(虐待防止法2条4号)。
3.児童虐待としつけとの違い
児童虐待を行う親は、それが児童虐待ではなく、しつけ・教育の趣旨での行動であると考えていることがあります。
だだ、第一に、子どもの健康や安全を害するような行為は児童虐待です。
冬場に子どもを薄着で長時間外に放り出したり、無理やり風呂に沈めたり、苦しい飢えを感じるほどに食事を与えなかったりする行為は、どのような崇高な教育的な思いや確信があったとしても、児童虐待です。
また、しつけや教育は、子どもがしたらダメなことをせず、するべきことができるように導いてあげるための行為です。
それに対して、子どもに親の感情や憤りをぶつけるだけの行為は児童虐待に該当する可能性が高い行為です。
加えて、子どもを力や恐怖心により親に口答えできない状況に陥らせて親の望む振る舞いを強要することも児童虐待に該当する可能性が高い行為です。
4.夫(妻)による子どもの虐待の相談先
夫(妻)が子どもを虐待していたり、虐待している疑いがある場合は、「いちはやく(189)」、児童相談所虐待対応ダイヤル(電話番号「189」)に電話を掛けて、児童相談所に相談できます。
児童相談所は、18歳未満の子どもの権利を守るために児童福祉法に基づいて設置された機関であり、様々なアドバイスや指導・保護を受けることができます。
児童相談所では匿名での相談も受け付けていますので、夫(妻)による子どもへの虐待があったり、その疑いがあったりする場合には、まず相談することが良いでしょう。
5.子どもを虐待していた相手と離婚したい場合に考えるべきこと
手を尽くしたものの夫(妻)が子どもを虐待することをやめない場合や、やめさせることができない場合には、子どもを虐待する夫(妻)から子どもを守る方法としては、子どもを夫(妻)から遠ざけ、夫(妻)と離婚するという方法もあり得ます。
以下で子どもを虐待していた相手と離婚したい場合に考えるべきことを解説します。
⑴離婚も慰謝料請求も認められる可能性が高い
子どもを虐待する行為は絶対にしてはならない行為であり、そのような行為をした相手と夫婦として共同生活を続けていくことはできないと考えることは当然です。
相手の行なっていた子どもの虐待が、児童虐待というべきものかどうかが疑わしいような悪質性の低いものであったり、相手に児童虐待以外の落ち度が全く見当たらなかったり、相手が一貫して真摯に反省の態度を示していたりする場合であれば別の結論もあり得ますが、大抵の場合は、子どもを虐待していたことは夫婦の婚姻関係を破綻させるものというべき状況であることが多いです。
そのため、あなたが子どもを虐待していた相手との離婚を希望する場合は、たとえ相手が絶対に離婚に合意しないとの主張し続けていたとしても、最終的には離婚裁判において家庭裁判所が離婚請求を認め、離婚判決を出す可能性が高いでしょう。
また、その際には、離婚にあわせて子どもを虐待していた相手に対して慰謝料請求が認められる可能性も高いでしょう。
⑵児童虐待の証拠を確保しておこう
児童虐待が理由で夫婦が別居に至っているなど、夫婦の婚姻関係が破綻した状況に至っている場合であれば、児童虐待を行なっていた夫(妻)が離婚に合意しなかったとしても、家庭裁判所が離婚も慰謝料請求も認めてくれる可能性が高いです。
ただし、裁判所に離婚や慰謝料請求を認めてもらうためには、裁判所に夫(妻)が行っていた児童虐待の具体的な内容やそれが原因で夫婦の婚姻関係が破綻に至ったということを証拠に基づいて分かってもらうことが必要です。
そのための証拠の一例としては、例えば以下のものが考えられます。
児童虐待に関する証拠の一例
- 児童虐待の事実や子どもの状況などを記載した日記・メモ書き
- 身体的虐待によって生じた怪我の写真
- 子どもに治療を受けさせた際の診断書
- 録音・録画
- 児童虐待が行われていることを前提とした相手との間のメール・SNSでのやり取り
- 児童相談所などの機関との相談履歴
⑶子どもを虐待していた親と別居する
子どもを虐待していた夫(妻)があなたから離婚を切り出されたことで反省して大人しくなるのであれば良いですが、逆上して感情的になって暴走したりする可能性があります。
その矛先が子どもに向かうことも十分にあることです。
また、離婚問題が解決するまでには一定の期間が必要です。
その間、相手による攻撃から自身と子どもを守らなければなりません。
そのために最も有効な手段が、相手と別居することです。
経済的な問題で別居が難しい場合には、別居と同時に婚姻費用を請求することで別居の目処が立てられる場合もありますので、その方向性を検討することも有用です。
⑷保護命令の制度の利用を検討しよう
相手が別居先に押しかけてきたり、その可能性があったりする場合には、保護命令の制度の利用を検討するべきです。
保護命令が出されると、相手は、以下の行動ができなくなります。
- 配偶者に接近する(接近禁止)
- 子どもに接近する(子への接近禁止)
- 親族・近しい友人等に接近する(親族等への接近禁止)
- 電話やメールなどの一定の行動(電話等禁止)
保護命令の制度の詳細や有用性などについて詳しくは【保護命令とは?DV夫から自分と子どもを守る制度を解説します】及び【保護命令の申立ての要件と保護命令の離婚問題への影響】をご確認ください。
⑸子どもを虐待していた親との面会交流は実施するべき?
裁判所は、子どもと別居の状況にある親と子どもとの面会交流は例外的な場合でない限り実施されるべきものであるとの考えに基づいて運営されています。
そのため、相手が面会交流調停を申し立てて面会交流の実施を求めている場合には、当事者間の話し合いを仲介する調停委員は、どうにか面会交流を実施する方向で話を進めようとしてくることが多いです。
しかしながら、裁判所は、子どもと別居親との面会交流を実施することが、むしろ子どものためにならない(子の福祉に反する)場合には、面会交流の実施を否定する判断をする場合があります。
例えば、以下のような場合です。
裁判所が面会交流の実施を否定する可能性がある場合
- 別居親が面会交流中に子どもを虐待するおそれがあること
- 別居親が面会交流の機会に乗じて子どもを連れ去るおそれがあること
- 子ども自身が面会交流の実施を強く拒絶していること
- 同居親(監護親)の再婚・養子縁組による子どもの生活環境の変化
- 同居親(監護親)が面会交流の実施に協力しないことに合理的な理由があること
(同居中に別居親からDV・モラハラの被害を受けていたなど)
あなたが子どもを虐待をしていた相手と会わせるべきではないと考えていた場合は、その思いや同居中に子どもが相手から受けていた虐待行為の内容を具体的に調停委員に伝えましょう。
さらに、面会交流(少なくとも直接相手と対面する形での直接交流)の実施には協力できないことを伝えたり、家庭裁判所の調査官からのアドバイスを求めたりしつつ、子どものためにもっとも良い結論に至るよう、相手との話し合いを進めていきましょう。
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6.児童虐待を理由とする離婚の進め方
一般的な離婚問題の進め方は、まずは協議離婚を試みて、離婚の合意が出来なさそうであれば離婚調停を申し立てて調停離婚を試みて、離婚調停でも離婚の合意ができなかった場合には離婚裁判を提起して判決で裁判離婚の成立を目指すこととなります。
協議離婚では、相手が離婚することに合意するならば、離婚の理由を問わず離婚が成立します。
相手が離婚することに合意しなかったり、そもそも相手との間で離婚の話し合いを進めることが辛い場合など早期に離婚調停を申し立てた方が良い場合には、離婚調停の申し立てをして、調停委員を間に入れて離婚問題について話し合いを進めることとなります。
離婚調停では、調停委員が離婚に合意しない方を離婚に合意させようと必死に検討してくれることもあり、全体の半数近く(離婚調停中に協議離婚が成立した場合も含む)で離婚の合意が成立しており、離婚調停に弁護士が関与している場合にはさらに離婚合意の成立率は高まります。
離婚調停で話し合ってもなお離婚の合意ができなかった場合は、離婚裁判を提起することとなります。
離婚裁判において、裁判所に離婚判決を出してもらうためには、裁判所に「婚姻を継続し難い重大な事由」(民法770条1項5号)が存在していることを分かってもらう必要があります。
ただ、この点に関しては、上述した通り、相手が子どもを虐待していたことが証拠により明らかである場合には、そのような相手との婚姻関係を続けるわけにはいかないので、「婚姻を継続し難い重大な事由」が認められる可能性が高いでしょう。
また、その際には、離婚にあわせて離婚慰謝料の請求も認められる可能性が高いでしょう。
なお、「婚姻を継続し難い重大な事由」の存否を巡る離婚裁判の特徴や具体的にどのようなことを行なっていくこととなるのかについては、【離婚裁判で激しい争いとなりやすい典型的な5つのケースを解説します・③「婚姻を継続し難い重大な事由」の存否を巡る争いがあるケース】をご確認ください。
7.児童虐待は子どもの将来を奪ってしまう
児童虐待は子どもの心の発達を歪ませてしまいます。
その爪痕は虐待がなくなった後も容易に回復できるものではなく、その子どもが生涯に渡り抱え続け、戦い続けなければならない問題となる可能性もあります。
それを避けるためにも、夫(妻)が子どもを虐待している場合や、その疑いがある場合は、早めに離婚問題に精通した弁護士からの専門的なアドバイスを得ておくことは極めて有用です。
レイスター法律事務所では、無料法律相談において、子どもを相手の虐待から守るために今から何をするべきか、子どもを虐待していた相手との離婚問題をどのように進めることが良いか、離婚条件はどのようなものとなる見込みか、慰謝料の請求は認められるか、面会交流の対応はどうすることが良いかなどについて具体的なアドバイスを行なっています。
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