内縁(事実婚)は法律婚と同様に保護されている
内縁(事実婚)とは、婚姻届を提出していないだけで生活実態は婚姻届を提出した夫婦と全く違いがない場合をいいます。
そのため、内縁(事実婚)の妻・夫には、法律婚とほぼ同様の法律上の保護が与えられています。
例えば、内縁関係の夫婦は相互に貞操義務や同居・協力扶助義務を負いますし、夫婦共同生活を維持するための婚姻費用を分担する義務も負っています。
その他にも、内縁関係を解消する際には、離婚に準じて、慰謝料請求や財産分与請求が認められます。
このページの目次
1.内縁(事実婚)の関係は保護されるべきである
婚姻の成立方式には法律婚主義・事実婚主義・儀式婚主義・宗教婚主義などがありますが、日本は法律婚主義かつ届出婚主義を採用しています。
民法739条1項
婚姻は、戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、その効力を生ずる。
そして、婚姻が成立すると、夫婦は互いに①貞操義務(他の異性と性的な結合関係を結ばないという義務。民法770条1項1号)や②同居・協力・扶助義務(民法752条)を負い、③婚姻期間中は共同生活を維持するための生活費などの婚姻費用を分担する義務を負うことになります(民法760条)。
民法752条
夫婦は同居し、互に協力し扶助しなければならない。
民法760条
夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する。
また、法律婚を解消(離婚)する際には④慰謝料や⑤財産分与(民法768条)を請求することができます。
民法768条
1項
協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる。
2項
前項の規定による財産の分与について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、当事者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。ただし、離婚の時から二年を経過したときは、この限りでない。
3項
前項の場合には、家庭裁判所は、当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定める。
法は、法律婚をした夫婦にこのような権利・義務を認めることで、夫婦の生活や人生を守ろうとしています。
そして、内縁(事実婚)の場合も、ただ婚姻届の届出をしていないだけで、生活実態は完全に法律婚をしている夫婦と同様です。
つまり、内縁(事実婚)の場合と法律婚の場合とで、夫婦の生活や人生を守らなければならない状況には何ら変わりません。
判例も内縁(事実婚)は「婚姻に準ずる関係」であって「保護せられるべき生活関係に外ならない」と判断しています(最高裁第二小法廷昭和33年4月11日判決)。
そのため、内縁(事実婚)の場合も、法律上の規定は存在していないものの、判例・裁判例により、上記の①〜⑤は全て認められています。
内縁(事実婚)の場合も①〜⑤が全て認められる
- 貞操義務(他の異性と性的な結合関係を結ばないという義務)
- 同居・協力・扶助義務
- 婚姻費用の分担
- 慰謝料請求
- 財産分与請求
2.①内縁(事実婚)と貞操義務

内縁(事実婚)の場合も、夫婦は相互に貞操義務(他の異性と性的な結合関係を結ばないという義務)を負っています。
そのため、内縁(事実婚)の場合も、パートナー以外の異性と性行為及びその類似行為を行なった場合には、法律婚の場合と同様に、不倫・不貞の責任が発生します。
内縁(事実婚)の関係にあるパートナーが浮気・不倫した場合には、そのパートナーに対して慰謝料請求をすることも、パートナーの浮気・不倫の相手に慰謝料請求をすることも可能です。
内縁(事実婚)の場合の特有の問題としては、パートナーの浮気・不倫相手は既婚者と浮気・不倫をしたという認識がなく、違法なことはしていない(不貞・不倫ではない)と考えている可能性があります。
しかしながら、パートナーの浮気・不倫相手が、内縁関係にある妻や夫が存在していることを認識しながらあなたのパートナーと性行為及びその類似行為を行なっていた場合には、慰謝料請求をすることができます。
3.②内縁(事実婚)と同居・協力・扶助義務

内縁(事実婚)の関係の夫婦も「同居し、互に協力し扶助しなければならない」義務を負います。
ただし、内縁(事実婚)は、夫婦としての共同生活の実態がある場合に認められる関係ですので、その実態が失われた場合には、内縁(事実婚)の夫婦関係は解消することとなります。
そのため、夫婦の一方が夫婦としての共同生活を解消する意思で別居を開始した場合には、もはや内縁(事実婚)の関係は解消されてしまうため、同居・協力・扶助義務を負っていることを理由に同居などを求めることはできません。

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4.③内縁(事実婚)と婚姻費用の分担

内縁(事実婚)の関係の夫婦も婚姻費用を分担する義務を負います。
そのため、内縁(事実婚)の場合も、生活費を負担してくれない相手に対して婚姻費用分担請求をすることが可能です。
婚姻費用の金額に関する話し合いが難航したり、相手が話し合いに応じてくれない場合には、婚姻費用分担請求調停を申し立てることも認められています。
ただし、上述したように、夫婦の一方が夫婦としての共同生活を解消する意思で別居を開始した場合には夫婦としての共同生活の実態が失われてしまい内縁(事実婚)の夫婦関係は解消してしまいます。
そのため、一時的な別居や同居中における請求はあり得ますが、「別居している内縁の夫に対して生活費を請求する」といったことは困難です。
5.④内縁(事実婚)と慰謝料請求
内縁(事実婚)の関係が破綻した場合には、法律婚の場合と同様、破綻の原因を作った相手に対して慰謝料請求をすることができます。
例えば、以下のような事情がある場合には慰謝料請求が認められる可能性があります。
- パートナーが別の異性と浮気・不倫した
- パートナーが生活費を負担しないで生活が困窮していた
- パートナーから暴言・モラハラ・暴力(DV)を受けた
- パートナーが性的に不能であることが発覚した(相手が隠していた)
- パートナーが実は既婚者だった(重婚的内縁)
また、正当な理由がないにも関わらずパートナーから一方的に内縁(事実婚)の関係を破棄・解消された場合には、パートナーに対して慰謝料を請求できる可能性があります。
6.⑤内縁(事実婚)と財産分与請求

内縁(事実婚)の関係を解消する場合には、財産分与を請求することができます。
そのため、内縁(事実婚)を解消する際には、パートナーに対して内縁(事実婚)の関係が成立してから解消されるまでの間に築いた財産の2分の1の分与を求めることが可能です。
なお、内縁(事実婚)の場合、法律婚の場合と同様、他方の特有財産であることが明確でない財産は夫婦の共有財産として財産分与の対象となります(内縁(事実婚)の場合にも民法762条が適用される)。
民法762条
1項
夫婦の一方が婚姻前から有する財産及び婚姻中自己の名で得た財産は、その特有財産(夫婦の一方が単独で有する財産をいう。)とする。
2項
夫婦のいずれに属するか明らかでない財産は、その共有に属するものと推定する。
7.内縁(事実婚)の夫婦間のトラブルを解決するために
内縁(事実婚)の夫婦の間でトラブルが発生した場合に、それをどのように解決するか、パートナーやパートナーの浮気・不倫相手に対してどのような請求をすることができるのかは、法律婚の場合以上に結論が明確に定まっていないことも多く、極めて難しい問題が含まれていることも多いです。
レイスター法律事務所では、無料相談にて、個別具体的な状況に応じて、問題の解決のための最善の方法は何か、誰に対してどのような請求をすることができる状況か、必要な証拠は何か・手持ちの証拠で十分かどうか、問題解決のために今この瞬間から具体的にどのような行動をしていくべきかなどといった事項について、具体的なアドバイスを行なっています。
内縁(事実婚)の夫婦間におけるトラブルでお悩みの際は、是非、お気軽にこちらからご連絡ください。

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