夫(妻)の浪費・借金問題で離婚を決意した際に知っておくべき事項

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過度の浪費・借金は夫婦の将来像を描けなくする

 夫(妻)の浪費癖や借金問題に直面し、金銭感覚の違いに悩んでいる人は多いです。
 夫婦と言えども夫と妻は別の人格を有する存在ですから、多かれ少なかれ重きを置く物事に差があるのは、当然そうでしょう。
 ただ、夫(妻)の浪費・借金の程度・態様があまりにも酷いものである場合には、そのような夫(妻)との今後の生活や老後の生活などに大きな不安を感じるものです。
 この記事では、浪費・借金問題で夫(妻)に愛想が尽き、離婚を決意した場合の離婚問題について解説します。

1.過度の浪費癖や借金は夫婦の婚姻関係を破綻させる

共同生活をしていると、夫(妻)のお金の使い方はどうしても気になってしまうものです。

夫婦と言えども、夫と妻は別の人格を有する存在ですから、多かれ少なかれ重きを置く物事に差があったり、金銭感覚の違いがあるのは、当然そうでしょう。

ただ、夫(妻)があなたに内緒で高い買い物をしていたり、パチンコ・スロットなどで散財していたり、スマホゲームに課金していたりすると、納得がいかない心持ちになることもあることでしょう。

お金の問題は常に夫婦喧嘩の原因の上位に位置し続けています。

夫(妻)が浪費をしてしまった分、家族の貯蓄となるはずであったお金は減り、子どものために使えるはずであった費用も減るわけですから、夫(妻)の浪費癖はどうにか改善していかなければならない問題です。

夫婦で何度も話し合って、時には喧嘩をしてもどうしても治らない夫(妻)の浪費癖は、夫婦間の信頼関係を失わせる原因になります。

特に夫(妻)が隠れて借金・リボ払いなどを繰り返していた場合には、今後の共同生活に大きな不安を抱かせる原因となり、夫婦の婚姻関係の破綻の一因となるところです。

浪費・借金問題で夫(妻)に愛想が尽き、離婚を決意した場合には、どのように離婚問題を進めれば良いでしょうか。

この記事では、夫(妻)の浪費癖や借金を原因とする離婚問題について解説します。

2.配偶者の浪費癖・借金を理由とする離婚の進め方

相手が離婚に合意すれば理由を問わず離婚は成立します。

そのため、まずは協議離婚(離婚すること及び離婚条件について夫婦が話し合って合意して離婚を成立させる離婚の方法)での離婚の成立を試みることとなります。

相手がどうしても離婚に合意しない場合には、次のステップとして離婚調停を申し立てて離婚の話し合いを進めることとなります。

なお、協議離婚の成立を早急に諦めて離婚調停を申し立てた方が結果として早期に有利な条件で離婚が達成できると思われる場合もあります。

相手が離婚調停を実施してもどうしても離婚に合意せず、離婚調停が不成立となった場合には、離婚を巡る争いの最終手段として、離婚裁判の提起を検討することとなります。

離婚成立に向けた手続きの流れ

    ↓ 話し合いがまとまらなければ

  • 調停離婚」(特殊なものとして「審判離婚」)

    ↓ 成立しなければ

3.離婚裁判で離婚判決を得ることができるか

⑴「浪費」「借金」「金銭感覚の違い」自体は法定離婚原因ではない

離婚裁判では、裁判所は、法定された離婚原因(法定離婚原因)が存在していると認められる場合に限り、離婚判決を出します。

法定離婚原因は以下の5つです。

法定離婚原因(民法770条1項)

  1. 「配偶者に不貞な行為があったとき」(1号)
  2. 「配偶者から悪意で遺棄されたとき」(2号)
  3. 「配偶者の生死が三年以上明らかでないとき」(3号)
  4. 「配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき」(4号)
  5. 「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」(5号)

このように、「浪費」も「借金」も「金銭感覚の違い」も法定離婚原因それ自体として定められてはいません。

そのため、例えば「不貞」であれば「不貞」の存在が認められればそれだけで離婚判決が出されますが、「浪費」「借金」「金銭感覚の違い」はその存在が認められただけでは離婚判決は出されません

⑵「婚姻を継続し難い重大な事由」という法定離婚原因が認められる可能性がある

「婚姻を継続し難い重大な事由」が認められるための事情

夫(妻)の浪費・借金を理由とする離婚裁判は、夫婦の間に「婚姻を継続し難い重大な事由」(民法770条1項5号)が存在するか否かの争いとなります。

裁判所は、夫(妻)が浪費・借金をしていたという事情があるだけでは「婚姻を継続し難い重大な事由」が存在するとはなかなか認めてはくれません。

ただ、夫(妻)が浪費・借金をしていたという事情に加えて、以下のような事情が存在している場合には、裁判所に「婚姻を継続し難い重大な事由」が存在すると認めてもらえる可能性が十分にあります。

「婚姻を継続し難い重大な事由」が認められるための事情

  1. 夫婦間で浪費・借金問題について何度も話し合ったが一向に改善されなかった
  2. 配偶者の浪費・借金のために生活費が不足して経済的に困窮している
  3. 配偶者が改善の約束を繰り返し裏切っている
  4. 配偶者が生活費を負担しない
  5. 配偶者の浪費・借金問題が原因で夫婦喧嘩が繰り返されて夫婦間の信頼関係が完全に喪失している
  6. 配偶者が勝手に他方配偶者の財布や口座から金員を持ち出して消費していた
  7. 配偶者が勝手に他方配偶者名義で借金をしていた
  8. 配偶者から暴言・暴力・モラハラを受けている
  9. 配偶者が開き直り改善の意向を示さない

また、配偶者の浪費・借金の金額や態様があまりにも酷いものである場合には、離婚に加えて慰謝料の請求が認められる場合もあります。

なお、「婚姻を継続し難い重大な事由」の存否を巡る離婚裁判の特徴や具体的にどのようなことを行なっていくこととなるのかについては、【離婚裁判で激しい争いとなりやすい典型的な5つのケースを解説します・③「婚姻を継続し難い重大な事由」の存否を巡る争いがあるケース】をご確認ください。

裁判例

配偶者の浪費・借金が理由で離婚が認められた裁判例

東京地方裁判所判決昭和39年10月7日

事案
家計を預かっていた妻が、派手な生活を続けるために、夫に隠れて入質・借金を繰り返し、夫名義の約束手形を振り出し、さらに月賦払いで電気器具を購入して頭金の支払のみを支払っては転売して得た金員で各種の支払いを行い、加えて月賦払いについて夫の父親の名義を無断で使用するなどしていた。

結論
裁判所は、夫の離婚請求を認めた。

浦和地方裁判所判決昭和59年11月27日

事案
夫が競馬・競輪・競艇・賭け麻雀・パチンコなどの賭け事を繰り返して給与の大半が天引きされる状況となり、さらにサラ金等を利用して多額の借金を作っていた。

結論
裁判所は、妻の離婚請求を認めた。

配偶者の浪費・借金が理由で離婚が認められなかった裁判例

仙台地方裁判所判決昭和60年12月19日

事案
夫が高額の借金をして妻に対して十分な生活費を渡していなかった。
ただし、夫の借金は弟の大学進学と妻との結婚等の資金を原因とするものであった。

結論
裁判所は、夫の借金問題以外には夫婦の間に特段の問題点は存在しなかったこと、妻も共働きをして収入を家計に入れるようにすれば借金の返済も生計の維持も楽になったこと、夫の借金は夫にとってはやむを得なかったものであって責めることができないことなどの事情を総合考慮して、妻の離婚請求を認めなかった。

4.夫や妻の借金を返済する義務を負うか

夫婦の一方が作った借金も、その理由が「日常の家事」に関するものである場合には、他の一方も連帯して返済する義務を負うことになります(民法761条本文)。

民法761条本文

夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と法律行為をしたときは、他の一方は、これによって生じた債務について、連帯してその責任を負う。

ただ、「日常の家事」とは夫婦が共同生活を営む上で通常必要な行為(日用品の購入、医療・教育・娯楽などに関する契約など)のこといいます。

そのため、夫(妻)が無断で個人的な用途のために作った借金は「日常の家事・・・によって生じた債務」ではありませんので、他の一方は返済する義務を負いません。

5.夫(妻)に借金がある場合の財産分与の注意点

財産分与とは、夫婦が婚姻期間中に築いた財産(夫婦共有財産)を離婚の際に公平に分け合う制度をいいます。

財産分与においては、夫婦の婚姻関係が破綻した経緯や、破綻させた責任が夫婦のいずれにあるのかなどとは関係なく、基準時(離婚時又は別居時のいずれか早い方)における夫婦共有財産を2分の1ずつ分け合うのが原則です(「2分の1ルール」)。

また、財産分与の金額の計算においては、通常、プラスの資産からマイナスの負債を差し引いて基準時におけるその者の資産の金額を計算することとなります。

そうすると、相手がプラスの資産よりもマイナスの負債(借金)の方が多い場合には、相手からは分与を受けられず、こちらからは相手に対してプラスの資産の2分の1を分与しなければならないこととなりそうです。

ただ、相手が作った借金が夫婦の婚姻生活とは無関係な個人的な借金である場合には、そのような個人的な借金を相手のプラスの資産から差し引くことは認められません

具体例で説明

事例

夫が妻に隠れてパチンコやスマホゲームへの課金で100万円の借金を作っていた。

妻は夫との離婚を決意し、夫も離婚に合意し、夫婦は離婚することとなった。

妻の資産は預貯金30万円、夫の資産は預貯金80万円であった。

財産分与の計算

夫のプラスの資産は預貯金80万円であり、夫のマイナスの負債は100万円であるが、夫のマイナスの負債は夫婦の婚姻生活とは無関係な個人的な借金であるため、財産分与の計算において夫名義のプラスの資産から差し引くことは認められない。

その結果、財産分与の対象となる夫の資産は預貯金80万円となり、財産分与の対象となる妻の資産は預貯金30万円となる。

⇨夫の方が資産が50万円多くの資産を有していることとなるので、夫は妻に対して50万円の2分の1である25万円を財産分与として支払うべきこととなる。

アドバンスな交渉戦略

夫(妻)が浪費を繰り返していたために本来であれば存在していたはずの家族の財産が減少してしまっている場合には、その減少分を財産分与の計算上考慮しなければ不公平です。

裁判所も、合理的な理由のない不誠実かつ著しい浪費が行われていた場合には、浪費をしていた配偶者に不利なように「2分の1ルール」を修正する場合があります。

詳しくは、【財産分与の割合の「2分の1ルール」の例外を解説!有利な財産分与のために検討しよう・④夫婦の一方が著しい浪費によって夫婦共有財産を減少させていた場合】をご確認ください。

6.浪費・借金を繰り返す夫(妻)との離婚問題でお悩みの場合

夫(妻)の浪費・借金という理由で離婚判決を勝ち取れるかどうかは、夫婦間の様々な事情を総合的に検討しなければ分からない問題です。

また、離婚判決が出される見込みがあるかどうか次第で離婚の協議や離婚調停の進め方や譲歩が必要な範囲も大きく変わってきます。

レイスター法律事務所では、無料法律相談にて、個別的・具体的な事情を踏まえて早期離婚達成のために考え得るあらゆる方法を検討し、それを実施するために必要な事項や行うべき具体的な行動をお伝えしていますので、是非ご利用ください。

     

この記事の執筆者

弁護士山﨑慶寛

弁護士法人レイスター法律事務所
代表弁護士 山﨑慶寛

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