財産分与のやり直しは可能?相手の財産隠しが発覚した場合の対処法

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相手の隠し財産発見!財産分与のやり直しだ!

 離婚時の財産分与の取り決めの際に相手が預貯金などの財産を隠す場合があります。
 相手の財産隠しに気が付かつかないまま合意をしてしまうと、その分財産分与でもらえる金額が減少してしまいます。
 ただ、財産の隠し得など許されるはずがありません。
 離婚後に相手の隠し財産が発覚した場合、その相手の隠し財産を分与してもらうためには、具体的にどのような方法があり得るでしょうか。
 また、そもそも相手が財産隠しをしている可能性がある場合は、どのように話し合いを進めれば良いでしょうか。

1.財産分与の話し合いは財産隠しが行われやすい構造で進む

財産分与の取り決めをするためには、財産分与の対象となる夫婦共有財産(夫婦それぞれがどのような財産を所有しており、その財産の総額がいくらなのか)を確定しなければなりません。

ただし、相手の財産の全体像やその具体的な金額が分かる資料を全て事前に持っているということはなかなかありません。

そのため、財産分与の話し合いは、当事者の双方が、それぞれ自分名義の財産の資料(通帳の写しなど)を提出し合って、それをもとにそれぞれの名義財産の総額を計算するという進み方をすることが通常です。

しかし、財産資料を出せばその分自分の財産が多く計算されることになり、その分相手に分与しなければならない金額が増額されるということになるわけです。

このように、財産分与の話し合いは、「財産資料を誠実に提出すれば損をする方」がその財産資料を提出する、という構造で進むことが多いです。

そうなると、心情としてはどうしても「この通帳の写しは相手に見せたくないな・・・」「この株式は相手は知らないかもしれないから黙っておこうかな・・・」となるわけです。

その結果、相手に財産隠しをされたまま財産分与の話し合いが進み、相手が財産隠しをしていることなど知らずに財産分与の合意をしてしまうこともあり得ることです。

そのような相手が隠していた財産の存在を後から知った場合、当然、その隠し財産も分与してもらいたいものでしょう

このような場合に、どのようなことが主張できるでしょうか。

2.財産隠しが発覚した場合に罪に問えるか?

財産隠しが成功すれば、隠し切った財産の分だけ財産分与として支払わなければならなくなる経済的な負担が減少します。

財産隠しはこのような経済的利益を獲得するために行われる行為ですから、犯罪(詐欺罪や窃盗罪など)に問えるかのようにも思われるかもしれません。

しかし、刑法は、親族間の詐欺罪(刑法246条)や窃盗罪(刑法235条)の刑を免除しています(刑法244条1項、刑法251条)。

刑法244条1項

配偶者、直系血族又は同居の親族との間で第二百三十五条の罪、第二百三十五条の二の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯した者は、その刑を免除する。

刑法251条

第242条、第244条及び第245条の規定は、この章の罪について準用する。

そのため、財産分与に際して行われる財産隠しに刑罰を科すことはできません

3.隠されていた財産の財産分与を求めることができるか

⑴隠し財産について別途話し合う旨の取り決めがあった場合

精算条項とは、当事者間の争いの蒸し返しを防ぐために当事者間の合意の中に入れられる条項です。

例えば、以下のような条項です。

精算条項

当事者双方は、本件離婚に関し、本合意書に定めるほか、何らの債権債務がないことを相互に確認する。

このような精算条項の取り決めがされていなければ、いつまで経っても別の理由の別の請求がされてしまう可能性があり、紛争が解決しません。

そのため、合意書の中にはこのような精算条項が入れられることが一般的です。

そして、このような精算条項が入っている場合には、いうならば「お互いに他にも言いたいことや請求したいことが色々とあったかもしれないけれど、もうそういうことはお互いにいいっこなしにしてトラブルを終わらせました」ということになります。

そのため、原則として、隠し財産に関して財産分与の請求をすることはできなくなります

ただし、例えば、精算条項に以下のような限定がついていた場合は、隠し財産について新たに財産分与を求めることが可能です。

隠し財産の財産分与の請求を可能とする精算条項

当事者双方は、本合意の基礎となった財産の他に別途新たな財産の存在が明らかとなった場合を除き、本件離婚に関し、本合意書に定めるほか、何らの債権債務がないことを相互に確認する。

そのため、相手が財産隠しをしている可能性が否定できない場合には、そのような取り決めをしておくことを検討するべきでしょう。

相手としても、当然「他には財産はない!財産隠しなんてしていない!」という体裁を貫いていることでしょう。

そうだとすれば、相手もこのような取り決めを強く拒否することはできないはずです。

アドバンスな交渉戦略

財産隠しをしている相手が「自分は財産隠しなどしていない!」と主張しているのであれば、むしろそれに乗じて、例えば「仮に相手が隠していた財産が後に発見された場合は、その財産は全てこちらが取得する」などといった内容で合意するよう伝えることもあり得る交渉です。

相手が二つ返事で合意する場合は、相手は本当に財産隠しなどしていないかもしれません。

他方、相手が合意に渋る場合や合意を強く拒否する場合は、その拒否の理由によっては、やはり相手は隠し財産をしているのではないかとの疑いが強まります。

相手が財産隠しをしている場合は、離婚の合意が成立しない状況が続く(話し合いが長引いてしまう)ことの負担の増加や、他方において上記のような合意をすることのリスクを踏まえて、財産隠しを諦める可能性もあります。

そのため、相手の反応を窺って今後の交渉をどのように進めるかを検討するという趣旨でも、相手に対して上記のような問いかけ(主張)をしてみることも、時に有用でしょう。

⑵通常の精算条項だけが取り決められていた場合

相手に話し合いを仕掛けてみる

この場合は、上述したように、隠し財産について財産分与の請求ができないことが原則です。

ただ、その場合でも、相手は財産を隠していたわけであり、そのような行為が極めて不当であることは明らかです。

そのため、まずは相手に対して、隠し財産についての財産分与を求めて話し合いをしたいと伝えてみましょう。

相手が話し合いに応じるのであれば、そのまま話し合って取り決めていくことが可能です。

従前の合意条項の錯誤無効を主張する

相手が話し合いに応じない場合は、従前の合意条項の錯誤無効(民法95条)を主張することを検討するべきです。

民法95条1項

意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。
一 意思表示に対応する意思を欠く錯誤
二 表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤

相手の財産が他にあることを知っていたのであれば、何らかの特殊な理由・事情がない限り、その相手の財産を計算に入れない内容で財産分与の合意をするはずはありません。

つまり、従前の合意条項は隠し財産など存在していない(相手の財産は現在発覚しているもので全てである)との「錯誤に基づく」ものであって、無効であると主張することが可能な場合があります。

不法行為に基づく損害賠償請求をする

相手が財産隠しをしたために、本来もらえるべきであった分与金をもらえないと損害が発生したわけです。

そのため、財産隠しをした相手に対して、財産隠しは不法行為(民法709条)であると主張して、相手に対して財産隠しをされたがために請求できなかった金員の損害賠償請求をしていくことが検討できます。

民法709条

故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

なお、財産分与は離婚した時から2年以内に家庭裁判所に財産分与を請求する調停や審判の申し立てをしなければ請求できなくなってしまいます(民法768条2項ただし書)。

ただし、不法行為に基づく損害賠償請求は「損害及び加害者を知った時から3年間」は行使することができます(民法724条)。

     

この記事の執筆者

弁護士山﨑慶寛

弁護士法人レイスター法律事務所
代表弁護士 山﨑慶寛

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