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離婚裁判では、原告と被告とが互いに互いの主張する事実を否定し合う状況になる場合が多いです。
原告と被告とが完全に正反対の主張をしている状況は、裁判所の視点からすれば、明らかにどちらかが嘘をついているとしか思えないような状況とも言えそうです。
このような離婚裁判において、特に原告と被告の間で激しい攻防が繰り広げられることの多い典型的なケースとしては、①不倫の事実の存否を巡る争いがあるケース、②不倫した配偶者からの離婚請求のケース、③「婚姻を継続し難い重大な事由」の存否を巡る争いがあるケース、④DV・モラハラを理由とする慰謝料請求を巡る争いがあるケース、⑤親権争いがあるケースがあります。
このページの目次
1.離婚裁判の判決までの期間
裁判離婚とは、家庭裁判所に離婚裁判(離婚訴訟)を提起して離婚判決を得ることにより離婚する場合をいいます。
離婚裁判を提起した場合の離婚成立率は8割以上であり、離婚裁判では1歩1歩確実に結論(判決)に向かって歩みを進めていくことが可能ですので、離婚裁判ば離婚達成のために極めて有用な手続きです。
また、離婚裁判では裁判所が離婚条件を法律に基づいて決定するため、相手に離婚に合意してもらうために譲歩する必要がありません。
その分、協議離婚や調停離婚などの相手の合意が必要な手続きよりも、裁判のほうが有利な離婚条件で離婚となる可能性があります。
ただし、離婚裁判の最大のネックの1つは、離婚裁判の期間は平均して1年〜1年半と相当長く、控訴をする場合にはさらに結論が出るまで平均して半年以上の期間を要するということです。
この期間はあくまでも平均的な期間ですので、それよりも短い期間で終了する場合も、長くかかる場合もあります。
特に、激しい争いとなると、場合によっては2年以上の期間がかかることもあります。
この記事では、離婚裁判で原告と被告の間で特に激しい攻防が繰り広げられることの多い典型的なケースについて解説します。
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2.離婚裁判で原告と被告の間で特に激しい攻防が繰り広げられることの多い典型的なケース
離婚裁判では、原告と被告とが「互いに互いの主張する事実を否定し合う」状況になる場合が多いです。
原告が「事実Aが存在していた」と主張すれば被告は「事実Aなど存在していない」と反論し、被告が「それは事実Bのことである」と主張すれば原告は「事実Bなど決してあり得ない」と反論するわけです。
その中でも以下の5つのケースは、離婚裁判で原告と被告の間で特に激しい攻防が繰り広げられることの多い典型的なケースです。
離婚裁判で原告と被告の間で激しい攻防が繰り広げられることの多い典型的なケース
- 不倫の事実の存否を巡る争いがあるケース
- 不倫した配偶者からの離婚請求のケース
- 「婚姻を継続し難い重大な事由」の存否を巡る争いがあるケース
- DV・モラハラを理由とする慰謝料請求を巡る争いがあるケース
- 親権争いがあるケース
以下で、原告と被告の間で具体的にどのような攻防が繰り広げられることとなるのかについて、順に解説します。
3.①不倫の事実の存否を巡る争いがあるケース
不倫の事実の存否を巡る争いがあるケースは、離婚裁判での争いが激しくなりやすいです。
不倫の事実が存在することとなれば「配偶者に不貞な行為があったとき」(民法770条1項1号)という「法定離婚原因」が存在するということになります。
そのため、原告が不倫していた場合は原告は有責配偶者ということとなり、原告の離婚請求は原則として認められない(離婚が認められない)ことになりますし、被告が不倫していた場合には原告の離婚請求は原則として認められる(離婚が認められる)こととなります。
また、不倫の事実が認められれば、不倫をした方には慰謝料を支払う責任が発生することとなります。
このように、不倫の事実は、離婚裁判の結論に直結する極めて重要な事実です。
不倫の事実の存否と離婚裁判の結論
原告の不倫の事実が認められた場合
・原告の離婚請求は原則として認められない
・被告の原告に対する慰謝料請求が認められる
被告の不倫の事実が認められた場合
・原告の離婚請求は原則として認められる
・原告の被告に対する慰謝料請求が認められる
ただし、裁判所に当事者間で存否の争いがある事実を「存在する!」と認定してもらうためには、その事実が存在していることが分かる証拠が必要となります。
つまり、不倫をしたことが事実であったとしても、当事者が不倫の事実を争い、かつ、不倫の事実を証明する証拠が存在していなければ、裁判所は、基本的に、不倫をしていないことを前提として判決を出します。
そのため、例えばラブホテルに手を繋いで一緒に入っていった写真のような確実な不倫の証拠が存在しているケースでは、原告も被告も判決になった場合には「裁判所は不倫が存在していたことを前提とした判決を出す(その可能性が極めて高い)」という認識のもとで裁判手続きを進めることとなります。
他方、確実な不倫の証拠が存在しておらず、見方によっては不倫があったとも思えるが見方によっては不倫があったとまでは言えないとも思えるような微妙な証拠しか存在していないケースでは、原告も被告も「裁判所が判決で不倫が存在していたことを前提とした判決を出すかどうか分からない、どっちの結論もあり得る」という認識のもとで裁判手続きを進めることとなります。
その場合は、原告と被告の間で、裁判手続きの終盤まで不倫の存否を巡る攻防が繰り広げられ、尋問手続き・判決まで激しい争いが続くケースがよくあります。
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4.②不倫した配偶者からの離婚請求のケース
不倫していた配偶者は有責配偶者の典型です。
そして、有責配偶者に当たる場合は、以下の3要件を充足しない限り離婚請求が認められません。
有責配偶者からの離婚請求が認められるための要件
- 婚姻期間と比較して相当長期の別居の継続
- 未成熟の子がいないこと
- 離婚によって他方配偶者が精神的・経済的に苛酷な状況におかれないこと
そのため、有責配偶者であると認定されてしまった場合には、それだけで離婚判決を得ることができなくなってしまう場合もあります。
ただ、そもそも有責配偶者とは夫婦の婚姻関係の破綻に主な責任を負う配偶者のことを指しますので、不倫をしていたとしてもなお夫婦の婚姻関係の破綻に責任を負っていない場合には、有責配偶者には当たりません。
例えば、不倫の開始前に既に夫婦の婚姻関係が完全に破綻していた場合には、不倫が原因で夫婦の婚姻関係が破綻したものではありませんので、不倫をしていた配偶者は有責配偶者ではありません。
そのため、たとえ不倫の事実が認められたとしても、①不倫の開始前に既に夫婦の婚姻関係が破綻していたこと、及び、②その夫婦の婚姻関係の破綻が相手の配偶者の責任である(少なくともこちらが主な責任を負っているものではない)ことを主張・立証することで、不倫をしていたとしてもなお有責配偶者には当たらないこととなります。
それに対して、そのような主張を受けた相手方当事者としては、その主張を否定し、不倫の開始前には夫婦は円満だった(少なくとも夫婦の婚姻関係は破綻してはいなかった)と強く主張することでしょう。
つまり、夫婦の間で、不倫した当事者は「不倫開始前に相手からあんなことやこんなことをされたことで既に婚姻関係は破綻していた」などと主張し、それに対して相手方当事者は「そんな事実は存在していないしむしろあんなことやこんなこともあったので婚姻関係は破綻していなかった」などといった主張し、互いに夫婦間の様々な事情を上げ連ねて争っていくこととなります。
この場合も、原告と被告の間で激しい争いが行われることが多いです。
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5.③「婚姻を継続し難い重大な事由」の存否を巡る争いがあるケース
「婚姻を継続し難い重大な事由」とは、婚姻関係が既に破綻しており、修復することが不可能と思わざるを得ない事由をいいます。
「婚姻を継続し難い重大な事由」は法定離婚原因の1つです(民法770条1項5号)。
そのため、裁判所が夫婦の間に「婚姻を継続し難い重大な事由」が存在すると判断すれば離婚判決が出されることになりますし、裁判所が夫婦の間に「婚姻を継続し難い重大な事由」は存在しないと判断すれば棄却判決(離婚請求を認めない判決)が出されることになります。
そして、裁判所は、夫婦の間に「婚姻を継続し難い重大な事由」が存在しているかどうかを、その夫婦の間に存在した多種多様な事情を総合的に考察・検討して判断します。
そのため、「婚姻を継続し難い重大な事由」が問題となるケースでは、原告と被告で以下のような攻防が激しく繰り広げられることとなります。
「婚姻を継続し難い重大な事由」を巡る攻防
原告
・裁判所に「婚姻を継続し難い重大な事由」が存在していると判断してもらうために、婚姻関係が既に破綻していて修復不可能と思わざるを得ないような多種多様な事情を主張する
被告
・裁判所に「婚姻を継続し難い重大な事由」が存在していると判断されないために、原告の主張を徹底的に否定し反論する
・裁判所に「婚姻を継続し難い重大な事由」が存在していると判断されないために、婚姻関係が未だ破綻しておらず十分に修復が可能であると考え得る多種多様な事情を主張する
この場合に原告から主張されることがある「婚姻を継続し難い重大な事由」を基礎付ける事情としては、例えば以下のような事情があります。
「婚姻を継続し難い重大な事由」を基礎付ける事情の具体例
- 暴力(DV)
- モラルハラスメント
- 子どもに対する虐待行為
- 婚姻時における重大な事実の隠蔽(性的不能者であることや同性愛者であることを隠して婚姻した場合など)
- 性的不能・性的不一致・セックスレス・性的嗜好の強要
- 風俗通い
- 同性との不倫・同性愛者との肉体関係
- 異性とのプラトニックな恋愛
- 婚姻期間が極めて短い・一回も同居していない
- 過度の宗教活動・信仰上のすれ違い
- 浪費癖・多額の借金・金銭感覚の隔たり
- 依存症(アルコール依存症、ゲーム依存症、ギャンブル依存症など)
- 過度の束縛・監視
- 過度の経済的締め付け
- 犯罪行為・服役
- 経済的非協力(働かない・生活費を渡さないなど)
- 別居に関する事項(別居の有無・家庭内別居・別居の期間)
- 帰宅しない・同居に応じない
- 家事や育児の放棄・怠慢・非協力
- 親族との不和・軋轢
- 性格の不一致・価値観の大きな隔たり
- その他夫婦共同生活において表れた諸般の事情
(日常的な嘘や不誠実な対応、追い出し、強い嫌悪感情、夫婦喧嘩の頻度や苛烈さ、生活音に関する対立状況など)
当事者間でこのような事情の存否やその裏にある事情などについて激しく争うわけですから、当事者双方の感情的な対立がどんどん激化していってしまう場合もあります。
また、上述した通り、裁判所は当事者間が事実の存否を争っている場合には、基本的に証拠が存在している場合でなければその事実が存在するとは認定してくれません。
そして、それが本当は存在している事実であったとしても、夫婦間で日々行われていた言動が全て証拠として残っているものではありませんので、その事実を証明することができる確実な証拠が存在していない場合も多いです。
さらに、そもそも「婚姻を継続し難い重大な事由」が認められるかどうかは裁判所が総合考慮した上で判断する事項ですので、仮に上記のような事情が存在していたとしても、それだけで直ちに「婚姻を継続し難い重大な事由」が存在していると裁判所が判断すると決まったわけではありません。
そのため、原告も被告も「裁判所が『婚姻を継続し難い重大な事由』があるとして離婚判決を出すか棄却するかは、結局判決を出してもらうまでは分からない、どっちの結論もあり得る」という認識のもとで裁判手続きを進めることとなります。
その場合は、原告と被告の間で、裁判手続きの終盤まで様々な事情を巡る争いが続き、尋問手続き・判決まで至るケースがあります。
6.④DV・モラハラを理由とする慰謝料請求を巡る争いがあるケース
DV・モラハラを理由とする慰謝料請求を巡る争いがあるケースも激しい争いとなる可能性があります。
DVやモラハラを理由とする慰謝料請求が認められるためには、まず前提として、DVやモラハラの被害を受けていたことを証拠に基づいて明らかにすることが必要です。
このような証拠が存在していない場合には、相手が事実を認めなければ、裁判所に慰謝料の請求を認めてもらうことは実際上困難です。
当事者間で言った・言わない、やった・やってないという論争となった場合には、証拠がない以上は、言ってない・やっていないということとされてしまう可能性が高いです。
さらに、DVやモラハラの被害を受けていたことを証拠に基づいて明らかにすることができた場合であっても、なお激しい争いが続くことも多いです。
なぜなら、DVやモラハラを理由とする慰謝料請求が認められるためには、裁判所にDVやモラハラが原因となって夫婦の婚姻関係が破綻したものであることを分かってもらう必要があるからです。
例えば不倫が原因となって夫婦の婚姻関係が破綻した場合(不倫の開始前に既に夫婦の婚姻関係は破綻していたなどといった事情が存在していない場合)には、不倫をした方が慰謝料を支払う義務を負うことなることは、世間一般でも常識のように考えられています。
そのため、不倫の場合であれば、不倫が慰謝料を請求されてしまうような行動であることを自体を否定することは通常ないでしょうし、そのような主張は認められません。
それに対して、DVやモラハラ(特にモラハラ)に関しては、DVやモラハラの被害を受けていたことが明らかとなったとしても、それが夫婦の婚姻関係を破綻させた原因となっているものかどうかの点で、原告と被告との間で激しい攻防が繰り広げられることもよくあります。
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7.⑤親権争いがあるケース
親の子どもに対する愛情は極めて深く強いものですので、親権争いがあるケースは、離婚裁判が最も激しい争いとなるケースの1つです。
原告と被告の主張が単純な事実レベルでも完全に正反対となっており、裁判所の視点からすれば明らかにどちらかが嘘をついているとしか思えないような状況になることもよくあります。
親権争いは、母親であるか父親であるかという性別で決まる問題ではありません。
確かに特に子どもが幼い場合には母親有利な傾向があることは否めませんが、それだけはなく、同居中の監護の状況や別居開始後の監護の継続性、面会交流の意義の理解や積極性・寛容性なども問題となります。
また、子どもの年齢によっては、子どもの意思も極めて重要なファクター(特に子どもが15歳以上の場合は最も重要なファクター)となりますが、子どもの意思が監護親の意向・願望・不当な働きかけにより汚染されていないかどうかの点が争われることもあります。
その他にも、子どもに対する虐待やネグレクト(育児放棄)の事実が存在したとか存在していないなどといった他方の配偶者に対する攻撃的な主張が展開されることや、別居の際に子どもを連れて別居を開始していた場合にはそれが違法な子どもの連れ去りであるなどと主張されることもあります。
原告も被告も一歩も引かない極めて激しい争いとなる場合も多く、離婚裁判の途中で和解が成立する余地が全くない場合も多いです。
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8.離婚裁判で激しい争いとなり得る場合には早めに弁護士に相談を
離婚裁判を弁護士に依頼せずに進めることは実際問題として極めて困難です。
また、離婚裁判に至った場合に激しい争いとなり得る場合には、離婚裁判は長期化する可能性もありますし、その結果敗訴する可能性も付き纏います。
離婚裁判で激しい争いとなり得る可能性がある場合には、まずは離婚裁判に至る前に離婚調停にて離婚の合意に至ることができないかを徹底的に検討して目指す方向が良いことが多いです。
レイスター法律事務所では、無料相談において、個別的・具体的な事情を踏まえて早期離婚達成のために考え得るあらゆる方法を検討し、それを実施するために必要な事項や行うべき具体的な行動をお伝えしていますので、離婚問題でお悩みの際は、是非ご利用ください。