退職金の財産分与の具体的な計算方法を詳細に説明します

退職金の財産分与の計算方法はいくつもある

 財産分与における受給済みの退職金の分与金額の具体的な計算方法にはいくつかの考え方があります。
 また、未だ受給していない退職金は財産分与の対象となる場合とならない場合がありますし、財産分与の対象となる場合であっても財産分与における具体的な計算方法にはいくつかの考え方があります。
 さらに、分与する時期(相手に支払う時期)を退職金が将来支給された後とする例もあります。
 ご自身にとって有利な方法を把握しておくことは、離婚の話し合いで有益です。

1.退職金は財産分与の対象となることが原則

まず、別居時又は離婚時に既に勤務先から支給されていた退職金は、別居時又は離婚時に預貯金という形で存在しているのであれば、財産分与の対象となります

また、別居時又は離婚時に未だ支給されていない将来支給される見込みの退職金も、余程将来支給される可能性が低い場合でない限り、財産分与の対象となります

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ここでは、退職金が財産分与の対象となる場合における、具体的な計算方法を解説します。

2.退職金の財産分与の計算方法

⑴相手方配偶者とは関係がない金額は排除しなければならない!

そもそも退職金が財産分与の対象となる理由は、退職金が夫婦の協力の下で成り立っていた労働の対価である給与の後払いの性質を有しているからです。

簡単にいうと、退職金が取得できたのも相手方配偶者の協力(寄与)のおかげであるという側面がある以上は、退職金も離婚の際に夫婦で分けましょうということです。

そうだとすれば、退職金のうち相手方配偶者の協力(寄与)が認められない部分は、財産分与の対象とはならないはずです。

そのため、退職金の財産分与を計算する際には、退職金のうち相手方配偶者の協力(寄与)が認められない部分を差し引くという計算をする必要があります

具体的には、以下のように計算されることが一般的です。

退職金の財産分与の計算方法

「勤務開始から別居時又は離婚時までの期間」に基づく金額を「婚姻時から別居時又は離婚時までの期間」に引き直して算定する

具体例で説明

前提事情

①別居開始の時点における夫の退職金の金額は500万円だった
②夫は現在の会社に1990年4月から勤務を開始した
③2020年9月から別居している
④婚姻時は2005年5月である

実際に計算してみよう

まず別居開始時である2020年9月の時点における夫の退職金の金額は500万円であるところ、この500万円との金額は、勤務開始日である1990年4月から別居開始時である2020年9月までの期間(366か月間)に対応する金額と考えます。

それに対して、婚姻時である2005年5月から別居開始日である2020年9月までの期間は185か月間です。 つまり、妻の協力(寄与)はこの185か月間の分しか認められません

そのため、財産分与の対象となる退職金の金額は、総額500万円を185か月間に引き直した金額である252万7322円(500万円÷366か月×185か月)となります。

アドバンスな交渉戦略①

上記の計算方式は、厳密に言うといささかおかしな点があります。

退職金が勤務期間に比例して定額的に増額していくのであれば、上記の計算方式で良いかもしれませんが、現実はそうではない場合も多いでしょう。

多くの場合は、勤務期間が長ければ長いほど、退職金の計算の基礎となる支給率が高くなります

上記の計算方式は、そのことを計算に入れていません。

しかしながら、家庭裁判実務では、その点には目を瞑り、上記の計算方式で算定されている例が圧倒的に多数です。

ただ、退職金の財産分与の金額の計算の方法として、上記の他にも、①婚姻時に退職した場合の金額と②別居又は離婚時に退職した場合の金額との差額で計算するとの方法が採用される例もあります。

具体例で説明すると、例えば、①仮に婚姻時に退職した場合には退職金の金額は150万円であり、②別居又は離婚時に退職した場合の退職金の金額は500万円だとすれば、財産分与の対象となる退職金の金額は①と②の差額である350万円となります。

その他にも、細かなことを言えば、様々な計算方法で離婚の話し合いが行われて、合意が形成されています。

このように複数の計算方法が採用される可能性があるということは、どの計算方法が自身により有利かを検討して、自身に最も有利な計算方法を採用するべきだと主張することが、交渉上有利に進めるためには必要でしょう。

⑵将来支給される見込みの退職金の金額をどのように計算するか

別居時又は離婚時に未だ支給されていない将来支給される見込みの退職金についても、財産分与は当該退職金の別居時又は離婚時における価値が基準となります。

しかしながら、なにせまだ退職金は支給されていないわけですから、別居時又は離婚時における価値をどのように計算するかが問題となります。

この点については、以下のように計算されることが一般的です。

未支給の退職金の別居時又は離婚時における金額の計算方法

計算方法1
実際に将来定年退職をした際に支給されるであろう退職金の見込み金額を基礎として計算する方法

計算方法2(退職擬制期間基準方式)
別居時又は離婚時に退職した場合に支給されるであろう退職金の見込み金額を基礎として計算する方法

ここで重要なのは、一般的に、①の計算方法よりも②の計算方法の方が金額が低額となることが多いと言うことです。

その最たる理由は、①だと退職金の金額を退職時まで勤め上げた場合の支給率で計算することとなる点と、②の場合は自己都合退社をした場合の計算となる場合がある点にあります。

実際に退職金の金額が具体的にいくらになるのか、上記の①の計算方法と②の計算方法でどの程度の金額のズレが生じるかは、具体的な退職金規定を検討して計算してみなければ分かりませんが、場合によってはかなりの金額の差が生じてくることもあります。

なお、この点は、家庭裁判実務では、基本的に②の計算方法が採用される例が圧倒的に多数であり、①の計算方法が採用される例は実際の退職時期が間近に迫っているなどの場合に限定されています。

アドバンスな交渉戦略②

特殊な計算方式を採用した例として、東京地裁平成11年9月3日があります。

この裁判例では、基本的に①の計算方法を採用しつつ、さらに中間利息を控除するという計算をしています。

具体的には、実際に将来退職をした際に支給されるであろう退職金の見込み金額を基礎として財産分与の金額を計算しつつ、その金額から年5%で計算した現在時(支払時)から退職金の実際の支給時までの期間の中間利息を差し引いて、財産分与の対象となる退職金の金額を算定しています。

これは、そもそもまだ発生していない退職金を離婚先に先に受領することとなるわけですから、その先に受領するという利益分を計算式に入れ込んだものです。

極めて厳密に考察した上で計算された計算式ではありますが、このような計算までする例は離婚調停では少ないです。

ただ、主張してはならないということはありませんので、交渉戦略としてこのような主張を積極的にしていくことも検討できるところです。

3.退職金の財産分与の支払時期

退職金の財産分与の支払時期としては、財産分与の一環としての支払いであるため、離婚時に支払うことが原則です。

ただし、金も財産分与の対象となると言っても、実際に支給されていないのですから、手元にお金はありません。

そのため、離婚の話し合いの中で、退職金の財産分与に関しては、離婚時に支払うのではなく、将来退職金が実際に支払われた際に財産分与としての退職金も支払うという合意が成立する場合があります。

アドバンスな交渉戦略③

「退職金の財産分与の支払時期を離婚時ではなくて将来退職金が実際に支払われた時期にしてもらいたい」という話を出すと、ただ支払期限が実際に将来退職金の支給があった時とするかどうかの点のみならず、それと同時に、「対象となる退職金の金額についても実際の支給金額を基準に計算するべきではないか」との方向で話し合いが展開されていくこともあります。

退職金の財産分与の支払いを受けられる方からすれば、退職金の財産分与の支払いが受けられる時期が遅くなることはマイナスですが、その分実際の支給金額を基準に計算することとなれば、金額が増額することが見込まれますので、金額の点ではプラスになります。

退職金の財産分与を支払わなければならない方からしても、支払いの時期を実際に退職金の支給を受ける時期まで待ってもらえることはプラスですが、その分支払わなければならない金額が増額する可能性があるわけです。

このように、一長一短であり、当事者のいずれにもメリットもデメリットもあるため、話し合って譲歩して合意が成立する可能性は十分にあるところです。

ただし、将来退職金が支給されるまでの期間があまりにも長かったりする場合には、このような合意は現実的ではないでしょう。

     

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