死後離婚で配偶者の親族との縁を一方的に切る!
死後離婚とは、死別した配偶者の血族との間の姻族関係を終了させることをいいます。
配偶者との婚姻関係は死別により解消しますが、配偶者の血族との間の姻族関係は配偶者と死別した後も続いていきます。
つまり、妻の視点からすれば、夫と死別した後も、夫の母親は姑であり続け、夫の父親は舅であり続けるわけです。
この配偶者の血族との間の姻族関係を終了させるのが「死後離婚」です。
この記事では、死後離婚の手続き、死後離婚のメリット、相続や遺族年金への影響、子どもへの影響、戸籍や苗字(氏)への影響などについて解説します。
このページの目次
1.死後離婚とは

「死後離婚」とは、役所に姻族関係終了届を提出することにより、死別した配偶者の血族(義理の父母や兄弟姉妹など)との間の姻族関係を終了させることをいいます。
「死後離婚」とは言いますが、いわゆる「離婚」とは関係がありません。
配偶者と死別することで、配偶者との婚姻関係は特別な手続きをすることなく解消します。
そのため、死亡した配偶者と「離婚」することはできませんし、その必要もありません。
それに対して、配偶者と結婚したことによって発生した配偶者の血族(義務の父母や兄弟姉妹など)との間の姻族関係は、配偶者が死亡しても終了しません。
配偶者との婚姻関係が終了した場合の姻族関係
離婚により配偶者との婚姻関係が終了した場合
⇨姻族関係は終了する
死別により配偶者との婚姻関係が終了した場合
⇨姻族関係は終了しない
つまり、妻の視点からすれば、夫と死別した後も、夫の母親は姑であり続け、夫の父親は舅であり続けるわけです。
この配偶者の血族との間の姻族関係を終了させるのが「死後離婚」です。
この記事では、死後離婚の手続き、死後離婚のメリット、相続や遺族年金への影響、子どもへの影響、戸籍や苗字(氏)への影響などについて解説します。
2.死後離婚の手続き

死後離婚の手続きは極めてシンプルであり、役所に姻族関係終了届を提出するだけです。
役所に姻族関係終了届を提出することについて配偶者の姻族の同意や承諾を得ることは一切不要です。
誰の同意も承諾も得ずに役所に一人で行って姻族関係終了届を提出するだけで、死別した配偶者の血族との姻族関係を一方的に終了させることができます。
姻族関係終了届には提出期限もないため、いつでも姻族関係終了届を提出することができます。
姻族関係終了届を提出したことは配偶者の姻族にバレる?
姻族関係終了届を提出すること自体は、誰に言う必要もありません。
また、姻族関係終了届を提出したとしても、そのことは誰にも通知されません。
ただし、姻族関係終了届を提出すると戸籍に「姻族関係終了」と記載されます。
そのため、姻族関係終了届を提出したことを姑や舅に秘密にしていたとしても、戸籍を見れば姻族関係終了届が提出されたことが分かってしまいます。

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3.死後離婚を行う理由・メリット
⑴義理の父母などに対して扶養義務が発生することを確実に阻止できる
配偶者と結婚することによって、配偶者の血族は姻族となります。
そして、民法は3親等内の姻族は「親族」となると定めています (民法725条3号)。
民法725条
次に掲げる者は、親族とする。
1号 六親等内の血族
2号 配偶者
3号 三親等内の姻族
そのため、配偶者と結婚することによって、以下の者は自分の「親族」となります。
結婚することによって親族となる配偶者の血族
- 配偶者の両親(義理の父母)
- 配偶者の祖父母(義理の祖父母)
- 配偶者の兄弟姉妹(義理の兄弟姉妹)
- 配偶者の両親の兄弟姉妹(義理の叔父・叔母)
- 配偶者の兄弟姉妹の子ども(義理の甥・姪)
この配偶者の血族との間の姻族関係は、配偶者の死亡により配偶者との婚姻関係が解消しても終了しません。
そのため、配偶者との死別後であっても、状況によっては、扶養義務(生活の面倒を見たり介護したりする義務)が発生する可能性があります。
民法877条1項・2項
1項
直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある。
2項
家庭裁判所は、特別の事情があるときは、前項に規定する場合のほか、三親等内の親族間においても扶養の義務を負わせることができる。
このように、扶養義務を負うのは原則として「直系血族及び兄弟姉妹」ですが(民法877条1項)、「特別の事情があるとき」は3親等内の親族にも扶養義務が発生する可能性があるのです (民法877条1項)。
家庭裁判所が配偶者の死亡後に姻族に対する扶養義務の発生を認めることは稀ですが、絶対に無いわけではありません。
また、扶養義務が発生する可能性が存在しているということは、扶養義務の発生の有無を巡る紛争に巻き込まれてしまう可能性があるということです。
死後離婚(姻族関係終了届の提出)を行なっておけば、姻族に対する扶養義務の発生を確実に阻止し、紛争に巻き込まれることを確実に防止することができます。
⑵夫の実家との関係を明確に断ちたい

離婚調停の申立書の「申立ての動機」の欄に「10 家族と折合いが悪い」との記載が存在していたり、嫁姑問題という言葉があったりするほど、妻と夫の親族との間には大きな問題が発生することは珍しくありません。
夫との死別により婚姻関係が解消した以上は、夫の両親(姑や舅)を筆頭とした夫の実家との関係性を完全に断ちたいと考えることもよくあることです。
他方、夫の両親からすれば、妻は死んだ息子の嫁であり、法律上も「親族」ですので、今後も何かと連絡をしてきたり、法事法要の手伝いなどを求められたり、祭祀承継者となってお墓などの管理を求められたりすることもよくある話です。
それに対応しなければない法律上の義務があるわけではありませんが、夫の両親は自分の「親族」であることもあって、どうしても断りにくいこともあるものです。
そのような時に、夫の血族との関係を切断して、完全に赤の他人に戻るべく、死後離婚(姻族関係終了届の提出)が行われます。
死別した夫のお墓参りや法要への参加ができなくなる可能性
死後離婚(姻族関係終了届の提出)を行なったことは、夫の両親を含む夫の血族(夫の兄弟姉妹など)に少なからずの衝撃を与えます。
そのため、死後離婚(姻族関係終了届の提出)を行う際には、夫の両親などの怒りを買って夫の実家との関係が決定的に悪化することとなる覚悟が必要です。
例えば、夫の両親に死別した夫のお墓参りや法要への参加を強く禁止されることもあります。
今まで築いてきた夫の実家との関係を維持したいと考えている場合には、死後離婚(姻族関係終了届の提出)をするかどうかを慎重に検討するべきでしょう。
4.死後離婚は相続や遺族年金に影響する?

配偶者と生前に離婚した場合には配偶者とは完全に他人に戻ります。
そのため、配偶者が離婚した後に配偶者が死亡した場合には、配偶者の財産を相続することはできませんし、遺族年金を受け取ることもできません。
それに対して、配偶者と死別した後に死後離婚(姻族関係終了届の提出)をした場合の効果は、死別した配偶者の血族との姻族関係が終了するだけです。
つまり、死後離婚(姻族関係終了届の提出)をしても、死別した配偶者との関係は一切変わりません。
そのため、死後離婚(姻族関係終了届の提出)をしても、配偶者の財産を相続する権利や遺族年金を受け取る権利は全く変わらずに続きます。
既に受領した遺産や遺族年金を返還する必要はありません。
死後離婚の相続や遺族年金への影響
結論:全く影響しない!
5.死後離婚の子どもへの影響
死別した配偶者との間の子どもと死別した配偶者の両親は直系血族に当たります。
そのため、子どもと死別した配偶者の両親とは「親族」であり(民法725条1号)、互いに法律上の扶養義務を負っています(民法877条1項)。
また、子どもは、死別した配偶者の両親の代襲相続人です。
このことは、死後離婚(姻族関係終了届の提出)をしたとしても変わりません。
6.死後離婚の戸籍や苗字(氏)への影響
⑴死後離婚の自分の戸籍や苗字(氏)への影響

死後離婚(姻族関係終了届の提出)を行なったとしても、戸籍に「姻族関係終了」と記載されるだけであって、戸籍から抜けたりするわけではありません。
配偶者と死別した後に苗字を結婚前の苗字(旧姓)に戻すためには、配偶者の戸籍から抜けて、結婚前の苗字(旧姓)を名乗る戸籍に入る必要があります。
そのために必要な手続きは、役所に「復氏届」を提出するだけです。
なお、その際に死別した配偶者の戸籍から抜けて新たに入ることとなる戸籍(結婚前の苗字(旧姓)を名乗る戸籍)は、以下の2つのいずれかです。
結婚前の苗字(旧姓)を名乗る戸籍の種類
1️⃣ 結婚前に入っていた戸籍
※既に存在していない場合は不可
2️⃣ 新たに作った戸籍
この①と②のいずれの戸籍に入ることとするかは、役所の復氏届を提出する際に選択することができます。
なお、復氏届は誰の同意も承諾も得ずに提出できますし、提出期限もありません。
⑵死後離婚の子どもの戸籍や苗字(氏)への影響
死後離婚(姻族関係終了届の提出)を行なったとしても、子どもの戸籍や苗字には影響はありません。
そのため、自分が結婚前の苗字(旧姓)に戻した場合には、自分と子どもの苗字が異なることとなります。
その際に子どもの苗字を自分と同じ苗字に変えるためには、まずは子どもの住所地の管轄の家庭裁判所に「子の氏の変更許可」の申し立てを行って家庭裁判所に変更許可の審判を出してもらう必要があります。
参考:裁判所・裁判手続案内・裁判所が扱う事件・家事事件・子の氏の変更許可
そして、家庭裁判所から許可審判書をもらった上で、それを添付して役所にて子どもの戸籍を自分の戸籍に移動させる手続き(入籍届の提出)を行うこととなります。
なお、子どもの親権者からの「子どもの氏の変更許可」の申し立てであれば、家庭裁判所に許可されないということは通常ありません。
ただ、「子どもの氏の変更許可」の申し立てを行うことができる者(申立人)は子ども自身です。
そのため、子どもが15歳未満の場合は親権者が子どもの代理人として「子の氏の変更許可」を申し立てることができますが、子どもが15歳以上の場合は子ども自身が「子の氏の変更許可」を申し立てることが必要です。
7.姻族関係の終了は慎重に

死別した配偶者の血族の側から姻族関係を終了させる手続きは存在しません。
そのため、自分が死後離婚(姻族関係終了届の提出)をしなければ、死亡した配偶者の血族との間の姻族関係は延々とそのまま続いていくこととなります。
そして、その状況は、いわば日本においてはどちらかというと普通のことであるという風潮があります。
他方において、こちらから一方的にいつでも姻族関係は完全に終了させることが可能です。
ただ、死後離婚(姻族関係終了届の提出)を行うことによって、死別した配偶者の血族との人間関係が決定的に悪化する可能性は十分にあるものです。
一度終了させた姻族関係をその後に復活させることは通常できませんし、一度決定的に悪化した人間関係を回復させることも相当な困難を伴います。
それに、死後離婚(姻族関係終了届の提出)を行なったとしても、死別した配偶者の血族と子どもとの間の親族関係には影響がないため、子どもだけが取り残されるかのような状況になってしまいます。
以上を踏まえて、死後離婚(姻族関係終了届の提出)を行うかどうかを慎重に判断することが良いでしょう。
配偶者と死別した後に生じる姻族との関係や苗字(氏)の問題などについてお悩みの際は、是非お気軽にレイスター法律事務所の無料法律相談をご利用ください。
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