更新日:
婚姻費用や養育費の具体的な金額の計算には、家庭裁判実務上、算定表が用いられています。
そして、算定表は、夫婦(元夫婦)のそれぞれの収入金額に基づいて婚姻費用・養育費の具体的な金額を計算することとしています。
ここで、夫婦の収入の中に、働いて稼いだ収入の他に、
- 公的支援金(児童手当など)
- 両親から受け取っている生活支援金
- 失業保険(失業手当)
- 年金収入
- 両親から相続した不動産の賃料収入
が含まれていることもあるでしょう。
この記事では、このような仕事をして稼いだお金以外の収入金額について、婚姻費用・養育費の金額の計算上、どのように考えられるのかを解説します。
このページの目次
1.婚姻費用・養育費の金額に給料以外の収入は考慮される?
別居中、収入が多い方の配偶者は収入が少ない方の配偶者に対して、婚姻費用(別居中の生活費)を支払う義務を負います。
また、夫婦が離婚した場合、離婚により親権を失った方の親(非親権者)は、離れて暮らす子供の生活のために、養育費を負担する義務があります。
そして、婚姻費用や養育費の具体的な金額は、家庭裁判実務上、裁判所が公表している算定表に基づいて算定することになります。
算定表は、夫婦(元夫婦)それぞれの収入金額に基づいて婚姻費用・養育費の具体的な金額を計算するという考え方で作成されています。
ここで、夫婦の収入が実際に仕事をして稼いだお金のみであれば、当該実際に仕事をして稼いだお金の金額を前提として婚姻費用・養育費の具体的な金額を計算することで、通常問題はありません。
他方、夫婦が仕事をした対価以外にも収入を得ている場合もあります。
仕事の対価以外の収入の例としては、以下のものが考えられます。
- 公的支援金(児童手当など)
- 両親から受け取っている生活支援金
- 失業保険(失業手当)
- 年金収入
- 両親から相続した不動産の賃料収入
このような仕事をして稼いだお金以外の収入金額が存在する場合に、これらの金員は婚姻費用・養育費の金額の算定上考慮されるのでしょうか。
2.婚姻費用・養育費の金額に考慮されない収入
⑴公的支援金(児童手当など)
児童手当の他、離婚後にひとり親(シングルマザー、シングルファザー)となった場合には、児童扶養手当や児童育成手当などの公的支援金の受給を受けることができます。
その他にも、高等学校等就学支援金などの公的支援金を受給できる場合があります。
このような公的支援金は子育ての支援等を目的とする制度ですので、支援金を受け取っているがために婚姻費用・養育費の金額が減額される方向で考えることはされません。
つまり、このような公的支援金を受給していたとしても、その受給金額は婚姻費用・養育費の金額の算定上収入金額には含まれません。
⑵両親から受け取っている生活支援金
両親から受け取っている生活支援金は、よほど特殊な事情のない限り、婚姻費用・養育費の具体的な金額の計算上考慮されません。
ただし、両親や親族のもとで一定の労働をしており、その対価として安定的かつ継続的に金員の受給を受けているなどの場合には、その収入は給与収入とみなされて婚姻費用・養育費の計算に考慮される可能性があります。
3.婚姻費用・養育費の金額に考慮される収入
⑴失業保険(失業手当)
失業保険(失業手当)は、失業中の自身及び家族の生活を維持するために支給される金員です。
そのため、失業保険(失業手当)として受給した金員は、原則として婚姻費用・養育費の具体的な金額の計算上考慮されることとなります。
職業費の割り戻し計算
実際に仕事をしてお金を稼ぐ場合には、仕事をするために必要な経費(職業費)が発生しています。
職業費の具体例
- 被服及び履物
- 交通費
- 通信費
- 書籍費
- 諸雑費(身の回り用品等)
- 交際費
婚姻費用・養育費の算定表も、仕事をするためにはそのために一定の経費(職業費)が発生することとなる(概ね13%〜18%程度の職業費が発生している)ということを前提に作成されています。
それに対して、失業保険は、仕事をして稼いだお金ではありませんので、仕事をするために必要な経費(職業費)は発生していません。
職業費が発生していないということは、その分だけ実際に生活費として使うことができる金額が多いということを意味します。
そのため、失業保険の金額を算定表の「給与」の収入の箇所に当てはめる場合には、失業保険には職業費が発生していないということを反映させる必要があります。
具体的には、家庭裁判実務上は、ある程度ザックリと、実際に受給した失業保険の金額を0.8で割り戻す(「実際に受給した金額」÷0.8)という計算がされる例が多いです。
なお、より正確に計算する場合は、割り戻し計算に用いる数字を、以下の数字とすることもあります。
年収 | 割戻計算に用いる数字 |
200万円未満 | 「実際に受給した金額」÷0.8348 |
250万円未満 | 「実際に受給した金額」÷0.8190 |
300万円未満 | 「実際に受給した金額」÷0.8208 |
350万円未満 | 「実際に受給した金額」÷0.8203 |
400万円未満 | 「実際に受給した金額」÷0.8325 |
450万円未満 | 「実際に受給した金額」÷0.8348 |
500万円未満 | 「実際に受給した金額」÷0.8366 |
550万円未満 | 「実際に受給した金額」÷0.8418 |
600万円未満 | 「実際に受給した金額」÷0.8419 |
650万円未満 | 「実際に受給した金額」÷0.8480 |
700万円未満 | 「実際に受給した金額」÷0.8379 |
750万円未満 | 「実際に受給した金額」÷0.8397 |
800万円未満 | 「実際に受給した金額」÷0.8453 |
900万円未満 | 「実際に受給した金額」÷0.8445 |
1000万円未満 | 「実際に受給した金額」÷0.8518 |
1250万円未満 | 「実際に受給した金額」÷0.8557 |
1500万円未満 | 「実際に受給した金額」÷0.8599 |
1500万円以上 | 「実際に受給した金額」÷0.8665 |
⑵年金収入
年金収入は、自身及び家族の生活を維持するために支給される金員です。
そのため、年金収入は、原則として婚姻費用・養育費の具体的な金額の計算上考慮されることとなります。
なお、年金として受給した金員は、失業保険と同様、仕事をして稼いだお金ではありません。
そのため、年金として受給した金員を算定表の「給与」の収入の箇所に当てはめる場合には、職業費が発生していないということを反映させる必要があります。
具体的には、上記「(1)失業保険(失業手当)」の箇所で説明したように、家庭裁判実務上、ある程度ザックリと、実際に受給した年金の金額を0.8で割り戻す(「実際に受給した金額」÷0.8)という計算がされる例が多いです。
⑶両親から相続した不動産の賃料収入
両親から相続した不動産は、他方の配偶者の協力とは完全に無関係に得た財産(特有財産)ですから、財産分与の対象とはなりません。
ただし、そのような特有財産から得た収入についても、原則として婚姻費用・養育費の具体的な金額の計算上考慮されることとなります。
具体例で説明①婚姻費用
●事例
夫婦は10歳の子供と同居していたが、夫が自宅から出て行って別居することとなった。
夫は給与収入500万円を、妻は両親から相続した不動産からの賃料収入200万円を得ていた。
●婚姻費用の金額
夫婦の間には10歳の子供が1人いるので、婚姻費用の具体的な金額は、算定表のうち「(表11)婚姻費用・子1人表(子0〜14歳)」を用いて計算することとなる。
夫は「義務者」、妻は「権利者」となるので、夫の収入(「給与」の500万円)は算定表の縦軸に当てはめ、妻の収入(「自営」の200万円)は算定表の横軸に当てはめることになる。
そうすると、婚姻費用の具体的な金額は、「6〜8万円」の真ん中となる。
具体例で説明②養育費
●事例
夫婦は離婚して、妻が子供(10歳)の親権者となった。
夫は給与収入500万円を、妻は両親から相続した不動産からの賃料収入200万円を得ていた。
●養育費の金額
夫婦の間には10歳の子供が1人いるので、婚姻費用の具体的な金額は、算定表のうち「(表1)養育費・子1人表(子0〜14歳)」を用いて計算することとなる。
夫は「義務者」、妻は「権利者」となるので、夫の収入(「給与」の500万円)は算定表の縦軸に当てはめ、妻の収入(「自営」の200万円)は算定表の横軸に当てはめることになる。
そうすると、養育費の具体的な金額は、「4〜6万円」の下側となる。
アドバンスな交渉戦略
実のところ、特有財産からの収入を婚姻費用の金額の計算の際に考慮するかどうかについては、家庭裁判実務上、完全に決まった考え方があるわけではなく、特有財産からの収入を婚姻費用の金額の計算上考慮しないこととする考え方も存在しています。
この問題は、絶対にこうなるという結論は存在せず、その夫婦ごとに個別具体的に検討していかなければならない問題です。
この点に関して詳しくは以下の記事で解説していますので、併せてご確認ください。
4.婚姻費用・養育費は算定表だけでは決められない
この記事を読んでいる方は、すでに配偶者と別居中で婚姻費用・養育費の金額の話し合いをしているか、婚姻費用分担調停・養育費調停を申し立てて現在調停中だという方が多いでしょう。
婚姻費用の金額は離婚の話し合いにも多大に影響を与えるものであり、養育費の金額は離婚後の生活状況に直結するものであり、負担すべき金額がどの程度となるのかは離婚の話し合いにおいて極めて重要なものです。
しかし、家庭裁判実務上、婚姻費用・養育費の金額計算のよりどころとなっている算定表は、あくまでオーソドックスなパターンしか記載されていませんし、特別な例外や結論が決まっていない問題点も数多く存在しています。
そのため、個別具体的な自分の場合に認められる可能性がある婚姻費用・養育費の具体的な金額には、より有利な金額からより不利な金額まで一定程度の金額の幅が存在していることが通常です。
婚姻費用・養育費の金額を合意した後に、後から変更することは極めて困難ですので、合意をする前に、その金額で本当に適正妥当であるのかを慎重に検討することが必要です。
レイスター法律事務所では、無料相談において、
- 婚姻費用・養育費の金額を算定表で計算する際に少しでも有利な金額となるために必要な事情
- 算定表での計算よりも有利な金額が認められる可能性
- 実際に認められる余地のある婚姻費用・養育費の金額の幅
- 有利な金額での合意を得るために必要な視点や手続き
- そのために必要となる証拠は何か
などといった事項について、具体的なアドバイスを行なっています。
婚姻費用や養育費に関してお悩みの際は、是非、こちらからお気軽にご連絡ください。
こちらも読まれています