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夫が風俗に通っていることに気づいた場合、夫と肉体関係を持った風俗嬢の女性が許せないという気持ちになるのも当然でしょう。
しかし、夫と肉体関係を持った風俗嬢に対して不倫慰謝料請求をすることは、実際上困難な場合も多いです。
ただし、風俗嬢が店舗から離れて個人として夫から対価を受け取って性行為をしていた場合などは、風俗嬢に対する不倫慰謝料請求が認められる可能性があります。
この記事では、具体的にどのような場合であれば相手の風俗嬢に対する不倫慰謝料請求が認められるのかについて解説します。
このページの目次
1.風俗での男女関係は「不貞」に当たる?
夫が風俗に通っていたことが判明した場合、夫と性行為をした風俗嬢に対して、不倫慰謝料を請求することができるのでしょうか。
まず、不倫慰謝料を請求するためには、夫が風俗嬢とした行為が「不貞」と言えなければなりません。
そして、「不貞」とは、配偶者以外の異性と「性交渉又はその類似行為をすること」を言います。
そうだとすれば、夫がソープランドなどの事実上性交渉(いわゆる本番行為)まで行う性風俗に通っていた場合には、不貞行為があったと言えます。
そのため、夫が事実上性交渉を行う性風俗店に通っていた場合には、夫やその相手の風俗嬢の女性に対して不倫慰謝料を請求できる可能性があります(ただし、慰謝料請求に際しての実際上の問題点は次項から解説します。)。
他方、性交渉(いわゆる本番行為)まではしない性的サービスである場合(ヘルスや俗にいうピンサロ、セクキャバ、オナクラ、イメクラなど)には、「不貞」があったとは言えません。
また、キャバクラやスナックなどの接客を中心としたサービスや、ストリップやのぞき部屋などの主に閲覧をさせるとのサービスを提供するお店を利用していた場合にも、性交渉は行われていないため、同様に「不貞」は該当しません。
このような、性交渉まではしない性風俗店を利用していた場合には、そもそも「不貞」に該当しないため、相手女性に対して不倫慰謝料の請求をすることはできません。
2.風俗嬢に慰謝料請求する際に発生する問題
⑴風俗嬢に「不貞」の故意があるかどうかの問題
上述した通り、夫が風俗嬢と性交渉(いわゆる本番行為)まで行なっていた場合には、不貞行為があったと言えますので、相手の風俗嬢に不倫慰謝料を請求したいところです。
しかしながら、ここで大きく立ちはだかる問題は、「風俗嬢に不貞の故意や過失があるか」という問題です。
法律上、
①相手が既婚者であることを知らず(故意がない)、
しかも
②交際相手が既婚者ではないと信じたことに過失(不注意)もない
場合は、不倫慰謝料請求に応じる義務はないと考えられています。
そして、性交渉まで行う風俗嬢は、その点を意識して、利用客が既婚者であるかどうかをあえて聞かないことが多いです。
仮に風俗嬢が、利用客の男性が既婚者であると知っていたとしても、「知らなかった」とシラを切られた場合には、風俗嬢に故意があったことを証拠に基づいて明らかにする(立証する)ことが必要となりますが、それは相当困難な場合も多いです。
また、夫と風俗嬢はあくまで「性交渉」というサービスの提供のために店舗内で会っていたに過ぎませんので、風俗嬢に過失が認められることも困難な場合が多いでしょう。
そのため、夫が風俗店で本番行為までしていたとことが事実だとしても、その相手の風俗嬢に対して不倫慰謝料を請求することは、実際問題として極めて難しいことが多いです。
⑵風俗嬢を特定することが困難であるという問題
例えば、風俗店の会員カードやレシートを偶然見つけたり、風俗嬢と思われる女性からLINEのメッセージが届いたりして、夫が特定の風俗店を利用していることが判明することもあるでしょう。
ただし、通っている風俗店の名前までは判明したとしても、夫がその風俗店の中で具体的にどの風俗嬢と性交渉を持ったのかを特定することが困難な場合も多いです。
夫と性交渉を持った風俗嬢が特定できなければ、不倫慰謝料を請求していくことはできません。
⑶業務上のサービスの提供であるという問題
風俗嬢は、業務上のサービスの提供として夫と性交渉をしたに過ぎず、あくまでも仕事として客として来店した夫の相手をしたに過ぎません。
風俗嬢と夫は恋愛関係にあるわけではありませんし、恋人同士というわけでもなく、風俗嬢と夫との間には「対価を支払って性交渉というサービスを受ける」という関係があるに過ぎません。
そのため、通常の不倫と比べて夫婦関係の破綻に与える寄与度は低いと考えられており、基本的には風俗嬢に対して不倫慰謝料の請求をすることは認められないとの考え方が主流です。
⑷不倫慰謝料請求は実際上困難
このような問題がありますので、夫と肉体関係を持った風俗嬢に対して不倫慰謝料請求をしていくことは、実際上極めて困難です。
3.風俗嬢が個人的に夫と不倫していた場合の慰謝料請求
⑴出会い方が風俗嬢と客であったが、その後個人的な交際に発展していた場合
風俗嬢が勤務先の店舗から離れて、個人的に夫と連絡を取り合っていたというケースもあります。
風俗嬢が個人的に夫と連絡をとり、夫とホテルなどに行って肉体関係を結んでいたという場合には、不倫慰謝料請求ができる可能性が格段に高まります。
例えば、単に最初の出会い方が風俗嬢と客であったというだけで、その後に恋人関係になって付き合い始めたという場合は、通常の不倫と何ら変わりません。
そのため、そのような場合には風俗嬢に対して不倫慰謝料を請求することが可能です。
⑵風俗嬢が風俗店の店舗外で夫と性交渉を持っていた場合
風俗嬢が店舗から離れて、いわゆる個人事業主のような形で、夫から対価を受け取って性交渉というサービスを提供していた場合はどうでしょうか。
裁判例の中には、不倫慰謝料請求を否定するものも、不倫慰謝料請求を認めるものもあり、その理由を分析しても一般的な基準は不明確で、判断の理屈付けもよく分からないものが多いです。
裁判例が不倫慰謝料請求を否定する場合のお決まりのフレーズは「婚姻(共同)生活の平和を害するものではない」というものですが、それに否定的な考え方も多いです。
また、同じような事情であっても、裁判例によってそれが「婚姻(共同)生活の平和を害するものではない」とさたり「婚姻(共同)生活の平和を害するものである」とされていたりしており、具体的な事実に対する評価もまちまちです。
ここで重要なことは、風俗嬢に対する不倫慰謝料請求が認められる可能性が十分にある(認められないと決まっているわけではない)ということです。
⑶風俗嬢に対して不倫慰謝料請求をすることの意義
このように、風俗嬢に対する不倫慰謝料請求が認められる可能性が十分にあるわけですから、不倫慰謝料請求を受けた風俗嬢はその請求をむげに突っぱねることはできません。
不倫慰謝料請求を受けた風俗嬢からすれば、「妻からの不倫慰謝料請求を突っぱねると損害賠償請求訴訟(裁判)まで紛争が拡大してしまい、しかもその結果として不倫慰謝料請求が認められる可能性がある」という状況です。
そのため、不倫慰謝料請求を受けた風俗嬢が、当該請求を突っぱねることはせずに、誠実に交渉の対応してくることが期待できます。
また、客(夫)の妻から不倫慰謝料請求を受けた風俗嬢は、それ以降、その客(夫)との関係を続けることはまずしないでしょう。
そして、それが弁護士からの不倫慰謝料請求であれば、当該「夫との関係を切断する」との効果はさらに高まります。
このように、不倫慰謝料請求には、夫と風俗嬢との関係を切断させるという強い効果があります。
4.夫には慰謝料請求できる可能性がある
夫が性風俗店に通っていたことが妻にバレて、そこから離婚問題に発展することもよくあります。
そして、性風俗店で提供される性的なサービスの内容が性交渉そのものである場合には、それは「不貞」に該当するため、離婚の際には離婚慰謝料請求も可能になります。
配偶者の不貞行為(不倫)が原因で婚姻関係が破綻した場合には、概ね200万円〜300万円程度の離婚慰謝料の請求が認められる場合が多いです。
また、夫と風俗嬢が「不貞」までは行なっていなかったとしても、自分に隠れて性的なサービスを提供するお店に通っていた夫のことをもはや信用できないと考え、離婚を決意することもあるでしょう。
特に、風俗通いをしていたとの事実を突きつけられた夫が開き直るような態度を取るのであれば、もはやそのような夫とは生涯を共にすることは難しいと考えるに至ることも、当然かもしれません。
夫の性風俗通いが発覚し、夫との離婚を見据えている場合には、夫に離婚を切り出す前に、具体的な離婚慰謝料の金額、養育費・財産分与などの離婚条件や、証拠の収集方法についてもよく把握しておくことが有用です。
夫の性風俗通いに起因した慰謝料請求や離婚問題でお悩みの際は、こちらからお気軽にご連絡ください。
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