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1.求償権とは
不倫は一人でするものではなく男女が共同して行うものですので、不倫の責任も不倫の当事者である男女が共に負うこととなります。
しかし、不倫慰謝料の請求は、法律上、不倫の当事者双方に請求するのではなく、不倫の当事者の片方のみに請求することが認められています。
例えば、不倫をされた夫は、不倫をした妻に対しては不倫慰謝料請求をせずに、妻の不倫相手の男性に対してのみ不倫慰謝料請求をすることができるのです。
しかしながら、不倫の当事者の片方のみが不倫慰謝料を支払った場合には、本来であれば不倫の他方当事者が負うべき慰謝料の分も一人で支払っていることとなります。
そのため、不倫慰謝料を支払った場合には、不倫の他方当事者に対して、その者の負うべき責任の分の金員を請求することができます(その金額は具体的状況次第ですが支払った不倫慰謝料の金額の4割〜6割程度となる場合が多いです。)。
この不倫相手に対する請求権のことを求償権といいます。
不倫慰謝料を1円でも支払った場合には、不倫相手に対して求償権を行使する権利が発生します。
求償権は不倫慰謝料を支払った場合における法律上の正当な権利ですので、行使することに何ら問題はありません。
2.求償権を放棄するという選択もあり得る
⑴求償権は不倫慰謝料請求をしてきた相手にとって極めて厄介な問題である
求償権を行使すれば、具体的事情に応じて不倫相手から支払った不倫慰謝料の金額の4割〜6割程度の金員の支払いを受けることができます。
あなたに不倫慰謝料を請求してきた不倫相手の配偶者からすれば、既に自身の配偶者(あなたの不倫相手)と別居や離婚をしていて家計が完全に別になっているのなら問題ないかも知れませんが、同居生活を続けていたり、離婚をする気がない(夫婦円満に戻りたいと希望している)場合には、あなたが求償権を取得するということは極めて厄介な問題です。
なぜならば、まず、あなたが求償権を行使した場合、今後も夫婦として同居生活を続けていく予定の自身の配偶者が紛争・交渉ごとに巻き込まれてしまうことになります。
しかも、求償権は不倫慰謝料を支払った場合の法律上の正当な権利ですので、仮にあなたとの間で自身の配偶者(あなたの不倫相手)と連絡・接触はしないとの合意が存在していたとしても、あなたが求償権を行使するために自身の配偶者(あなたの不倫相手)に連絡・接触をすることを防止することは困難です(法律上の請求権を行使するための連絡・接触は正当な理由があるとされます。)。
そして、その結果、自身の配偶者(あなたの不倫相手)があなたに対して取得した不倫慰謝料の金額の4割〜6割程度の金員を支払わなければならないこととなります。
これを不倫相手の配偶者の家庭単位で見ると、あなたからせっかく取得した不倫慰謝料の4割〜6割程度の金員を、結局は事実上あなたに返金したに等しい経済的状況になるわけです。
⑵求償権を放棄する代わりに不倫慰謝料の金額を大幅に減額することが可能
このような状況にあるわけですから、あなたに不倫慰謝料を請求してきた不倫相手の配偶者が、あなたが自身の配偶者(あなたの不倫相手)に対して求償権を行使することを防止したいと考えている場合も多いです。
そのため、不貞相手の配偶者はあなたに対して求償権を放棄するよう求めてくる場合も見られます。
このことはあなたにとっても悪いものではありません。
なぜなら、不倫相手の配偶者に対して、求償権を放棄する代わりに求償権の価値相当額の不倫慰謝料の減額を求める交渉をしていくことができるからです。
つまり、求償権は不倫相手に対して不倫相手の負うべき責任の分の金員(通常は4割〜6割程度)を請求する権利ですから、それを放棄するのであれば、その代わりに例えば不倫慰謝料の請求金額を半額(5割減)としてもらいたいなどと交渉していくことが可能です。
あなたとしては、求償権を放棄する以上はそのぐらいの要求が通らなければ経済的に割に合いませんし、このようなあなたの主張は全くもって正当なものです。
その結果、あなたは、わざわざ不倫相手に対して求償権を行使するという一手間をかけることなく、不倫相手の配偶者に対する不倫慰謝料請求を大幅に減額することで、事実上求償権を行使した場合と同様の経済的利益を獲得することが可能となるのです。