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あなたが心から信じていた「運命の人」が、実は既婚者だった――
交際相手が実は既婚者であったという事実を知ったとき、どれほどのショックと裏切り感を感じたことでしょうか。
ただ、あなたにはこの苦しみを乗り越えるための一助となる法的手段があります。
本記事では、貞操権侵害に基づく慰謝料の請求手順から、必要な証拠の収集方法、さらには裁判や示談交渉をどのように進めるべきかについて詳しく解説します。
このページの目次
1.既婚ということを隠された方へ【貞操権侵害】
恋人が実は既婚者だったことが判明した場合、あなたは人生設計を書き換えなければならなくなるかも知れません。
あなたは、平日の夜しか連絡が取れない交際相手・恋人の「仕事が忙しいからごめんね」という言葉を信じて交際相手・恋人を尊重し、交際相手・恋人を思いやって連絡を取らなかったのかもしれない。
あなたは、結婚相談所(当然ながら既婚者は登録できません)や婚活サイトを通じて知り合った交際相手・恋人との結婚を真剣に検討していたのかもしれない。
しかし、交際相手・恋人は、あなたの真剣な思いや献身の裏で、自分の妻や夫、子ども達との家庭を維持しつつ、都合よくあなたを騙してあなたと交際していたのです。
インターネットでの出会いの普及・一般化や結婚相談所・婚活サイトの発展に比例するように、このような交際相手・恋人の不誠実極まりない嘘の被害に遭う方は増加しています。
そして、そのような被害に遭われた多くの方々が泣き寝入りしているのが現状です。
既婚者であるということを隠して付き合うという嘘は、人の心の大切な部分を踏み躙り、時には人の人生そのものに多大なダメージを与えるものであって、決して許されるものではありません。
例えば、あなたが結婚を希望しており、結婚を前提に真剣な交際をしていたとしても、交際相手には最初から結婚する気など全くなかったのであれば、その交際相手と過ごした人生の時間は、最初からあなたの希望する「結婚」という到達点には繋がっていなかったということです。
そして、その交際相手と過ごした人生の時間はもう取り返すことができません。
また、交際相手の妻や夫からすれば、あなたは自分の配偶者の不倫相手となるわけです。
そのため、交際相手の妻から不倫慰謝料を請求されてしまうかも知れません。
それを避けるためには、交際相手が既婚者であったことが判明した時点で、速やかに交際相手の妻からの不倫慰謝料請求を受けるリスクを低減・回避するための適切な行動を行う必要が出てきます。
2.貞操権の基礎知識
⑴貞操権・貞操権侵害とは何か
貞操権とは、個人が誰と性的関係を持つかを自らの意思で決定する権利であり、個人の生き方に直結する重要な権利である人格権の一種です。
交際相手・恋人が既婚であることを隠して、あなたのことを自分は未婚・独身だと騙していた場合、それを信じたあなたはその交際相手・恋人と性的関係を持つか否かを選択するための重要な前提事実(既婚であるか未婚・独身であるか)を騙されたために知らなかったといえます。
そのような場合には、交際相手・恋人に対して、貞操権・人格権が侵害されたことを理由に慰謝料を請求することができる場合があります。
実際に慰謝料の請求ができるかどうかは具体的事情ごとに判断する必要がありますが、
- 交際相手・恋人が既婚者であることを隠していた場合
- 交際相手・恋人に未婚・独身であると騙された場合
- その交際相手・恋人と結婚相談所や婚活サイトなどの結婚を前提とした相手を見つける方法で知り合っていた場合
には、慰謝料の請求が認められる可能性が高いです。
⑵貞操権侵害を理由とする慰謝料請求が認められる可能性のあるケース
以下のケースでは貞操権侵害を理由とする慰謝料請求が認められる可能性があります。
- 相手があなたに対して未婚・独身であると騙す言動をしていた。
- 相手と性交渉や性交類似行為を行う関係になっていた。
- 相手と結婚相談所・婚活サイトなどの結婚を前提とした交際相手を見つける方法で知り合った。
- 相手が関係の維持・継続に積極的であった。
- 相手があなたに対して結婚する意思があることを伝えてきていた。
- 相手との子を妊娠・中絶・流産・出産した。
⑶貞操権侵害を理由とする慰謝料請求は困難な場合が多いケース
逆に、以下のケースでは貞操権侵害を理由とする慰謝料請求は困難な場合が多いです。
- 相手と性交渉や性交類似行為を行う関係ではなかった。
- 相手が未婚・独身ではない(既婚であること)を知っていた、または、十分に知ることができる状況であった。
※ただし、その場合でも、相手から配偶者と離婚した上であなたと再婚するつもりであるなどと言われて騙されていた場合などの場合は、貞操権侵害を理由とする損害賠償請求が認められる可能性があります。 - 相手が結婚を考えていないことを知っていた。
なお、交際開始の時点で相手が既婚であると知っていた場合は、あなたは交際相手・恋人から騙されたとは言えないため、貞操権侵害を理由とする慰謝料の請求は通常認められません。
しかしながら、その場合であっても、例えば、交際相手・恋人から、本心ではそんなつもりはないにも関わらず、「確かに俺には妻がいる。ただし、妻とは離婚する予定になっていて、既にその方向で話し合いをしている最中である。妻と離婚したら俺と結婚しよう。」などと騙されたために、それを信じて性交渉や成功類似行為に応じてしまったような場合には、交際相手・恋人に対する慰謝料の請求が認められる場合があります。
最高裁判所の判例の中にも、相手の男性が、女性のことを、妻と離婚してその女性と結婚するつもりであるなどと偽って、女性がそれを真に受けて相手の男性と結婚できるものと期待して性交渉に応じたなどの事情がある場合には、その女性から相手の男性に対する貞操権侵害を理由とする損害賠償請求を認めた例があります(最判昭和44年9月26民集23巻9号1727頁)。
3.貞操権侵害による慰謝料請求の基本
⑴慰謝料額の決定要素
貞操権侵害による慰謝料額は、複数の要素を総合的に考慮して決定されますが、一般的に、長期間にわたって深刻な精神的苦痛を受けた場合、慰謝料額が高額になる傾向があります。
その他、以下の要素も慰謝料額に影響を与えます。
- 交際期間や相手が未婚だと信じていた期間の長短
- 相手が結婚を示唆する行為や発言を繰り返していたかどうか
- 肉体関係の回数・頻度
- 妊娠や中絶の有無
- 相手の行為(騙しの手口など)の悪質性や積極性
- 被害者の年齢
これらの要素について、裁判所によって総合的に判断され、最終的な慰謝料額が決定されます。
⑵慰謝料金額の相場
貞操権侵害を理由とする慰謝料の相場金額としては、過去の判例・裁判例では50万円〜300万円程度の金額が認められている例が多いです。
なぜこれほど相場金額に差があるのかというと、貞操権侵害の態様や相手の悪質性、それにより被害者が被った被害・損害の大きさなどの事情が事案によって大きく変わってくるためです。
前述したように、裁判所では貞操権侵害を理由とする慰謝料の金額を決める際に、
- 騙された被害者の年齢
- 騙した加害者の積極性
- 肉体関係の回数・頻度
- 騙しの手法の悪質性
- 騙された被害者が被った代償等(交際期間、妊娠・中絶・流産・出産など)
などの事情を総合考慮して、金額を決めています。
そして、これらの事情は個別具体的な事案ごとに様々ですから、裁判で認められている慰謝料の金額にも相当の幅が生じているのです。
⑶交渉では裁判における相場だけでは決まらない
また、これは重要なことですが、上記の貞操権侵害を理由とする慰謝料の相場金額は、あくまで過去の判例・裁判例を分析・検討した結果として最終的に裁判所が認める可能性が高いと思われる金額をいうに過ぎません。
過去の判例・裁判例では然程重視されていないかのように思われる要素であったとしても、様々な要素が複合的に作用して、本件ではより高額の慰謝料が認められる可能性も当然あります。
相手との交渉(話し合い)で解決を目指す場合も、裁判上のいわゆる相場金額が重要な指針とはなりますが、それだけで最終的な慰謝料の合意金額が決定されるものではありません。
騙されていたとはいえ恋人としての日々を過ごした者同士ですので、互いに裁判では捉えきれないような様々な感情や利益状況があり得るところです。
そのため、相手との交渉は、過去の判例・裁判例の中では取り上げられていないような様々な思いが複合的に絡み合って展開する場合もあります。
その結果、裁判における慰謝料の相場金額を遥かに超える金額での合意が成立する場合もあります。
また、被害者が、騙していた相手に対して、相手から騙されたことによって被った代償(辛い心情など)を丁寧に説明をしたところ、相手が本心から真摯に反省して、騙したことを強く後悔するようになり、請求している金額よりも高額の慰謝料の支払いを申し出てくる例もあります。
その他にも、騙していた相手が、自分の家庭(妻や子供達)との生活を守りたいとの思いで、いわば口止め料などの趣旨を含む高額の慰謝料を提示してきたり、相場以上の高額の慰謝料の支払いに合意する場合もあります。
このように、交渉にて合意が成立するであろうと想定される貞操権侵害を理由とする慰謝料の金額は、裁判における慰謝料の相場金額の幅よりもさらに個別具体的な事情により大きく差があります。
4.貞操権侵害の慰謝料請求に必要な証拠
貞操権侵害を理由とする慰謝料請求をすることができるケースであったとしても、交際相手が慰謝料請求に応じない場合もあります。
そのような場合には、裁判所に対して、交際相手を被告とした貞操権・人格権侵害を理由とする損害賠償請求訴訟を提起して判決で慰謝料請求を認めてもらうことが必要となります。
そして、裁判所に慰謝料請求を認めてもらうためには、裁判所に対して、貞操権を侵害されたことを証拠に基づいて分かってもらうことが必要です。
貞操権を侵害されたこと証拠の一例としては、例えば以下のものが考えられます。
⑴未婚・独身と偽られた証拠
- 交際相手とのやり取りの記録(LINE・メール・SNSでのやり取り、手紙、録音など)
交際相手とのメッセージのやり取り(LINE・メール・SNSでのやり取り、手紙、録音など)は、相手が自分を騙していたことの立証するための有力な証拠です。
特に、相手が未婚だと信じこませる内容が含まれていた場合には、そのような手口の悪質性に鑑みて、慰謝料の金額が増額する方向で進む可能性もあります。
- 結婚相談所や婚活サイトに登録してあった交際相手のプロフィールの写し(「結婚歴なし」と書いてある箇所など)
結婚相談所や婚活サイト、結婚を前提とした交際相手を探すマッチングアプリ等で、プロフィール上で未婚であると記載を偽っており、騙されて交際に至ってしまうケースがあります。
プロフィールには、相手の自らの婚姻状況について記載されていますので、(結婚歴なし、離婚歴あり、バツイチ、など)、相手が退会したりプロフィールを消したりする前に、写しやスクリーンショットを保存しておきましょう。
- 偽造した戸籍
中には、既婚者であるにも関わらず、未婚であるように見える戸籍謄本などを偽造して渡してくる相手もいます。
このような偽造された戸籍は、相手が自分を未婚であると偽ったことの証拠であるのみならず、騙しの手口の悪質性が高いことの証拠ともなりますので、慰謝料の金額が増額する方向で進む可能性もあります。
⑵性交渉・性交類似行為があったことを示す証拠
貞操権侵害の慰謝料請求では、相手との間に肉体関係(性交渉・性交類似行為)があったことを示す証拠が極めて重要です。
相手と肉体関係を伴う交際をしていた証拠としては、たとえば以下のものが挙げられます。
- 交際相手とホテルで一緒に撮影した写真
- 交際相手と利用したホテルの予約の記録、領収書、利用明細
- 交際相手と宿泊を伴う旅行に行ったことが分かる写真、チケット、ルームサービスのレシートなど
- 交際相手と性交渉や性交類似行為をする関係であったことが分かるやり取りの記録(LINE、メール、SNSでのやり取り、手紙、録音など)
⑶相手が交際に積極的であったことを示す証拠
- 交際相手が積極的にあなたを口説いたり誘惑したりしていたことが分かるやり取りの記録
相手の方が男女交際に積極的であったことを示す証拠として、交際前のLINE、メール、SNS(インスタ等アプリでのDM)でのやり取りなどが証拠となります。
いずれもスクリーンショットなど、そのやり取りが発生した日付がわかるようにデータを保管しましょう。
- 交際相手があなたとの関係の維持や関係性の発展に向けて積極的であったことが分かるやり取りの記録
積極的な交際を示す証拠には、頻繁なメッセージのやり取りやプレゼントの交換、デートの写真、旅行の計画や実行に関する記録などが含まれます。
また同様に、LINE、メール、SNS(インスタ等アプリでのDM)でのやり取りや、手紙や録音なども証拠となります。
- 交際相手があなたに結婚を示唆していたことを示す証拠
結婚を示唆する証拠には、相手の結婚を前提とした発言や、将来の計画を具体的に話し合った記録が含まれます。
例えば、相手がLINEやメールで結婚の意思を示唆する発言を繰り返していた場合、それは結婚を前提にした交際であったことを示す強力な証拠となります。
その他にも、相手が結婚に向けて具体的に以下のような行動をしていた場合には、その記録が証拠となります。
- 交際相手からプレゼントされた指輪や貴金属類などの高級品
- 交際相手と結婚式場の下見や相談を行っていたことが分かる記録(結婚式場との通話記録や結婚式場から送られてきた資料など)
- 交際相手と結婚後に転居予定の住居を探していたことが分かる記録(内覧申込書など)
⑷不誠実性を示す証拠
相手が既婚者であるとの疑いが生じた際に、その質問に対して誤魔化した返信をされたり、既婚者では無いと重ねて嘘をつかれたり、突然ブロックされたり着信拒否されたりしたなどの場合も、その記録が相手の不誠実性を示す証拠となります。
そのような証拠が存在している場合には、慰謝料の金額が増額する傾向にあります。
5.貞操権侵害を理由とする慰謝料請求の手続き
貞操権侵害を理由とする慰謝料請求の方法は、大きく分けて以下の2通りがあります。
①交渉で慰謝料請求をする方法
あなたを騙していた交際相手に対して貞操権侵害を理由とする慰謝料請求をすることを告知し、交際相手と交渉(話し合い)を行なって慰謝料の金額や支払方法・支払時期などの合意を取り付けて、交際相手から慰謝料を支払ってもらう。
②裁判で慰謝料請求をする方法請求をする方法
裁判所に対して交際相手を被告とした貞操権・人格権侵害を理由とする損害賠償請求訴訟を提起して、判決で慰謝料請求を認めてもらう。
いきなり②裁判で慰謝料請求をする方法を取ることもできますが、流れとしては、まずは①交渉で慰謝料請求をすることから始まり、相手が貞操権侵害を理由とする慰謝料の支払いに合意しない場合や、相手が合意できるとしている慰謝料の金額や条件に納得ができない場合には、②の裁判で慰謝料請求をする方法に進むとの流れになることが通常です。
⑴交渉による慰謝料請求の方法
交渉で慰謝料請求をする方法としては、
- 交際相手と対面・電話で口頭にて慰謝料請求をする方法
- 交際相手に対して請求する内容を記載した書面を特定記録郵便や内容証明郵便で郵送して慰謝料請求をする方法
が考えられます。このいずれの方法が良いかは、場合によります。
- 交際相手と対面・電話で口頭にて慰謝料請求をする方法
まず、交際相手がすんなりと貞操権侵害を理由とする慰謝料請求に合意するのであれば良いですが、相手にも反論したいことがあったり、慰謝料を支払うこと自体には応じるもののその金額が納得できないと考えたりすることも多いです。
その場合は、交際相手と対面・電話で口頭にて慰謝料請求をする方法では、その場で交際相手からの反論を受け、交際相手と言い争いに発展してしまうこともあります。
その際、あなたが交際相手に言質を取られてしまったり、交際相手に対して感情的になってしまって後々交際相手から脅されたなどと言いがかりをつけられたりするなど、交際相手に付け入る隙を与えてしまうことになってしまう可能性があります。
また、交際相手からしたら、慰謝料請求をしてくるあなたは招かれざる客ですので、交際相手がどのような出方をするかが分からない場合には、交際相手と直接対面をすることはあらぬトラブルに発展してしまうリスクがあります。
- 交際相手に対して書面を郵送して慰謝料請求をする方法
書面を郵送するとの方法を取ることで、後から言った言わない論争に発展することや、聞き間違い言い間違いなどの言い逃れを確実に防止することができます。
加えて、交際相手に対して書面を特定記録郵便や内容証明郵便で郵送することにより、交際相手に郵便が届いた時期が明確となりますので、相手に対する慰謝料請求権の時効の完成が猶予されるとの効果もあります。
更に、弁護士に依頼をする場合には、法律事務所から弁護士名義で記載された書面が届くわけですから、相手に相当なプレッシャーを与えることができ、無視される可能性も低くなります。
そのため、一般論としては、交際相手に対して請求する内容を記載した書面を特定記録郵便や内容証明郵便で郵送するとの方法を取るべきです。
しかしながら、交際相手が家族と同居している場合には、交際相手の自宅に書面を郵送することで、交際相手の妻・夫に交際の事実が発覚するきっかけとなってしまう可能性があります。
交際相手の妻・夫が交際の事実を知った場合は、あなたに慰謝料請求をしてくる可能性がありますので、あえてそのようなリスクを犯すことは得策ではありません。
そのため、貞操権侵害を理由とする慰謝料請求の依頼を受けた弁護士としては、まずは交際相手にメールやショートメッセージなどで連絡して、慰謝料請求をする内容の書面を郵送する予定である旨を告知した上で希望の郵送先を聴取したり、交際相手に対して書面をメールで送付したりという方法を取る場合も多いです。
⑵裁判による慰謝料請求の方法
相手との慰謝料の話し合い(交渉)がうまく進まない場合や、相手が誠実に対応しない場合は、裁判による慰謝料請求が選択肢となります。
裁判には、簡易裁判所と地方裁判所の二つの手続きがあります。
- 簡易裁判所での訴訟
簡易裁判所は、比較的少額の請求に対応する場です。
通常、訴額が140万円以下の場合に利用され、手続きが簡便で、比較的短期間で解決が図られます。
- 地方裁判所での訴訟
地方裁判所は、訴額が140万円を超える場合や、より複雑な事案に対応する場です。
地方裁判所での訴訟は、手続きが詳細で、証拠の提出や審理が厳格に行われるため、審理期間が長期化することもあります。
裁判を行うことは相当な時間と労力がかかりますし、裁判での失敗は後から取り返すことが極めて困難な場合もありますので、裁判に踏み切る前に弁護士に相談することを強くお勧めします。
⑶慰謝料請求にかかる期間
慰謝料請求にかかる期間は、示談交渉や裁判の進行状況によって異なります。
相手との話し合いで早期に慰謝料の合意が成立する場合には数週間から数ヶ月で解決することもありますが、裁判になると1年以上の期間を要する場合もあります。
早期解決のためにも、貞操権侵害事案に詳しい弁護士に相談し、適切な手続きを進めることが大切です。
⑷慰謝料請求の時効
慰謝料請求には時効があり、法的に定められた期間内に請求を行わないと、権利が消滅する可能性があります。
通常、貞操権侵害に関する慰謝料請求は、被害者が侵害の事実を知った日(=相手が既婚者だと判明した日)から3年以内に行う必要があります。
特に時効が迫っている場合は、迅速に弁護士に相談し、適切な手続きを行って請求権を確保することが求められます。
また、貞操権侵害行為から20年が経過した場合も、同様に時効によって慰謝料を請求する権利は消滅してしまいます。
6.既婚を隠されていたのに不倫慰謝料を請求された場合
⑴あなたには不倫慰謝料請求に応じる義務はない
交際相手が既婚者であった場合、交際相手の妻からすれば、あなたは自分の配偶者の不倫相手となるわけです。
そのため、いつ交際相手の妻から不倫慰謝料請求されたとしてもおかしくありません。
しかし、交際相手はあなたに既婚者であることを隠して、あなたのことを騙していたわけですので、あなたには不倫という違法な行為をしているとの認識がなかったわけです。
それにも関わらず、あなたが交際相手の妻からの不倫慰謝料請求に応じなければならないというのはおかしな話です。
法律上も、
①交際相手が既婚者であることを知らず(故意がない)、
しかも
②交際相手が既婚者ではないと信じたことに過失(不注意)もない
場合は、不倫慰謝料請求に応じる義務はないと考えられています。
⑵実際には交渉は難航して裁判に至る例もある
- 不倫慰謝料請求が認められてしまう場合も多い
交際相手の妻は、あなたがいくら「交際相手が既婚者であることを隠して、私のことを騙していたため、私は交際相手が既婚者であるとは知らなかった。」と説明をしても、簡単には納得してくれないこともあります。
あなたがいくら誠実に真実を伝えても、交際相手の妻が、夫の不倫相手の女性(あなた)が自己防衛のために言い逃れを言っていると捉えている可能性もあります。
特に、交際相手の妻が弁護士に依頼をしてあなたに不倫慰謝料請求をしてきた場合には、あなたに対する不倫慰謝料請求をなかなか諦めてはくれません。
その場合は、結局は交際相手の妻が提起した不倫慰謝料請求訴訟に巻き込まれてしまうこととなってしまうリスクがあります。
そして、過去の判例・裁判例を分析すると、不倫慰謝料請求が認められてしまう可能性もあります。
なぜならば、裁判所は、あなたと同じ立場に一般人が立った場合に、その一般人が「もしかしたら交際相手は既婚者なのかもしれない」と思うであろうと考えられる場合には、故意や過失があると認定するからです。
仮にあなたが嘘偽りなく本当に知らなかったとしても、裁判所に容赦無く「交際相手が既婚者であることを知っていたものと認められる」と判断されてしまうリスクがあるということです。
また、裁判所は、交際相手の言葉を単純に信じただけであった場合には、「少なくとも過失があった」と判断する例も散見されます。
このように、裁判所に「故意も過失もない」と判断してもらうことが難しく、そのために慰謝料責任が認められてしまう可能性もあります。
特に、あなたを騙していた交際相手の男性が、自分の妻の手先のようになっている場合には、このリスクは高いです。
- 裁判所に「故意も過失もない」ことをわかってもらう
しかし、裁判所も、「一般人であれば交際相手が既婚者かどうか疑うこともしない状況で交際していた」といえる場合には、「故意も過失もない」と判断してくれます。
そして、現在では一昔前とは異なり、人と人とのコミュニケーションの内容が数多く記録として保存されています(LINE、メール、SNS等)。
そのため、交際相手が既婚者であることを隠して、あなたのことを騙していたために、あなたは故意も過失もなく交際相手が未婚・独身であると考えていたという事実を裁判所に分かってもらう資料も、一昔前と比べて格段に数多く残されている可能性があります。
⑶不倫慰謝料請求の具体的な対応方法
交際相手の妻があなたに対して不倫慰謝料請求をしてきた場合は、交際相手の妻に対して、交際相手があなたに既婚者であることを隠していたこと、あなたは騙されていたことを粘り強く説明・説得しましょう。
その際、あなたがどう考えていたのか(あなたの主観的な事情)を説明するだけではなく、客観的な資料に基づいて説明すると効果的です。
客観的な資料とは、例えば、
- 結婚相談所を通じて知り合った場合には相手の作成した結婚相談所のプロフィールの写し
- 交際相手があなたのことを未婚・独身であると騙していたことが分かる交際相手とのやり取りの記録(LINE、メール、SNSでのやり取り、手紙など)
などです。
あなたに不倫慰謝料請求をしてきた交際相手の妻が、自分の配偶者があなたに既婚者であることを隠していたこと、あなたは騙された被害者であることを知らなかったという場合も多くあります。
交際相手の妻に対して、むしろ自分は交際相手に騙された被害者であるということをしっかりと分かってもらい、仮に裁判に至った場合には不倫慰謝料請求が認められない可能性が高いということを認識してもらいましょう。
交際相手の妻としては、心情的にはなかなか納得し切れないところもあるでしょうが、客観的な資料を見せられれば納得をせざるを得ないこともあるでしょう。
しかも、そのような客観的な資料が存在している状況を認識すれば、あなたに対して不倫を理由とする不倫慰謝料請求訴訟を提起しても請求が認められない可能性があることが分かりますので、交際相手の妻・夫があなたに対して不倫慰謝料請求訴訟を提起してくることを抑止することが期待できます。
⑷交際相手が既婚者であると判明した場合には即座に行動を!
交際開始の当初には交際相手が未婚であると考えていたとしても、交際を続けているうちに交際相手が既婚者だと判明することもあります。
そのような場合、交際開始の当初は交際相手が既婚者であることについてあなたに故意も過失もなかったとしても、交際相手が既婚者だと判明した後もそのまま肉体関係を伴う交際関係を継続した場合には、あなたは交際相手が既婚者であることを認識した上でその既婚者である人物と肉体関係を伴う交際をしていたこととなります。
そのため、その場合には、交際相手の妻に対して不倫の慰謝料を支払うべき義務を負うこととなります。
このような事態を回避するためには、交際相手が既婚者であると判明した時点で速やかに交際相手との関係を清算する必要があります。
その際、交際相手の妻・夫から不倫慰謝料請求がされた場合の証拠とするため、交際相手に対して、LINE、メール、SNS、手紙などで明確に別れを切り出すことが良いでしょう。
少なくとも、交際相手が既婚者であると判明した以降は、交際相手と不用意に会うことは避けるべきでしょう。
ただし、交際相手が既婚者であると判明した時点で速やかに交際相手との関係を清算したとしても、それでもなお交際相手の妻が不倫慰謝料請求をしてくる可能性があります。
そのため、交際相手の妻から不倫慰謝料請求がされた場合に備えて、それに対応するための資料を適切に収集・準備しておかなければなりません。
収集・準備しておく資料としては、上記でも記載している交際相手とのやり取りの履歴(LINE、メール、SNSでのやり取り、手紙など)が考えられますが、その他にも具体的な状況に応じて様々な資料が考えられます。
このように、交際相手が既婚者だと判明した場合には、突如として様々な決断を迫られ、様々な行動をしなければならないこととなります。
そのため、自分の置かれている状況を整理し、今後なすべき適切な行動を把握するためにも、出来るだけ早く貞操権侵害事案に精通した弁護士に相談することを強くお勧めします。
7.まとめ
交際相手が既婚者だと発覚して、相手と交際していた間の貴重な20代〜30代の人生の時間は戻ってこないということに、絶望を感じている方もいるかもしれません。
加えて、あなたが相手との結婚を前提に考えて交際していた場合には、騙して交際を続けていた相手への怒りがおさまらないことも当然でしょう。
そして、既婚であることがバレた途端に、騙していた相手と連絡が取れなくなってしまうことも多いです。
そこで泣き寝入りする必要はありません。
一度弁護士へ相談することで、騙していた相手に対して慰謝料請求という方法で落とし前をつけさせることができるかもしれません。
レイスター法律事務所では、無料法律相談にて、想定される慰謝料の具体的な金額について、類似案件に関する判例・裁判例や交渉での解決結果に基づいて、交渉にて解決した場合と裁判に至った場合とに分けて、できる限り具体的にお伝えしています。
貞操権侵害事案についてのお悩みの場合は、ひとりで悩まず、こちらからお気軽にご相談ください。
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