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不倫関係にある男性や内縁関係にある男性との間でできた子どもは、その男性(生物学上の父親)に扶養してもらって然るべき子どもです。
ただ、その男性に、子どもに対する法律上の扶養義務を負ってもらうためには、その男性と子どもとの間で法律上の親子関係を発生させる必要があります。
そのための手段が「認知」です。
父親が認知することを拒否したとしても、強制的に認知させた上、父親に対して養育費を請求することが可能です。
自分の子どもでありながら責任を負いたくないなどといった都合の良い甘えは通じません。
この記事では、認知を行う必要がある場合や認知により生じる権利・義務及び認知の種類や認知の方法について解説しています。
このページの目次
1.認知とは?
認知とは、結婚していない男女の間に生まれた子どもとの間で法律上の親子関係を発生させる行為をいいます(民法779条以下)。
法律上の親子関係が発生することにより、親は子どもに対して扶養義務を負うことになるなど、様々な法律上の権利や義務が発生することになります。
法律上の親子関係は、結婚している男女間に生まれた子どもに関しては、子どもと母親(妻)との間のみならず、子どもと父親(夫)との間にも自動的に発生します。
他方、例えば不倫関係にある男性や内縁関係にある男性との間でできた子どもとその男性(生物学上の父親)との間には、法律上の親子関係は当然には発生しません。
その男性(生物学上の父親)に子どもに対する扶養義務などの法律上の義務を負ってもらうためには、子どもとその男性(生物学上の父親)との間に法律上の親子関係を発生させる必要があります。
そのための方法が「認知」です。
この記事では、認知を行う必要がある場合や認知により生じる権利・義務及び認知の種類や認知の方法について解説します。
2.認知を行う必要がある場合
認知は、法律上の親子関係を発生させる必要がある場合に行うことになります。
では、具体的に、どのような場合に法律上の親子関係を発生させる必要があるのでしょうか。
⑴子どもと母親の法律上の親子関係
子どもと母親との間の法律上の親子関係は、子どもを産んだという事実(分娩の事実)によって当然に発生します。
子どもを産んだ女性がその子どもの母親であることは、出産したという事実から客観的に明らかです。
そのため、子どもと母親との間の法律上の親子関係が問題となることはありませんので、認知の問題が生じることは通常ありません。
⑵子どもと父親の法律上の親子関係
父親は子どもを産むものではないため、「誰がその子どもの父親であるか」が目に見える形で客観的に示されているものではありません。
例えば、可能性としては、結婚している夫婦の間に生まれた子どもであっても、その子どもが実は夫との間の子どもではなく、妻とその不倫相手の男性との間の子どもである可能性もあります。
妻に夫以外の男性と性交渉をした事実など全くないとしても、法律上の親子関係が発生した場合に生じる扶養義務などを嫌がった父親がそのようなことを言い出してごねる可能性もあります。
だからと言って、出生した全ての子供についてDNA鑑定などで厳密に実の父親を確定させることは現実的ではありません。
そのため、子どもと父親との間の法律上の親子関係の発生に関しては、一定のルールが必要です。
この点について、法は、妻が出産した子どもについて、以下のルールに基づいて夫の子どもであると推定し、夫との間で法律上の親子関係が発生することとしています。
なお、以下の文章は、令和6年4月1日以降に出生した子どもを前提としています。
子どもと父親との法律上の親子関係が発生するルール
①妊娠したタイミング
⇨妻が妊娠した子どもは夫の子どもと推定される(嫡出推定、民法772条1項)
↓妻が妊娠したタイミングが不明であったとしても
②出産したタイミング
・妻が結婚から200日経過以降に出産した子どもは夫の子どもと推定される(民法772条2項、1項)
・離婚したとしても、元妻が離婚後300日以内に出産した子どもは元夫の子どもと推定される(民法772条2項、1項)
③結婚・再婚したタイミング
⇨妻の結婚・再婚後に出産した子どもは、結婚・再婚後の夫の子どもと推定される(民法772条1項)
④出産した女性が結婚も離婚もしていなかった場合
⇨法律上の父親(法律上の親子関係が発生する男性)は不在
そして、このルール上では、未婚の女性が出産した場合や、女性が離婚後300日が経過した後に出産した場合は、法律上の父親は不在となります。
ただし、法律上の父親(法律上の親子関係が生じる男性)が不在だったとしても、(生物学上の)父親はどこかに必ず存在しています。
その父親(生物学上の父親)との間で法律上の親子関係を発生させるためには、その父親(生物学上の父親)に子どもを認知してもらうことが必要となります。
法律上の父親が生物学上の父親ではない場合
上記のルールに基づいて法律上の親子関係が発生した男性と子どもとの間に、生物学上の親子関係が存在していない場合もあります。
例えば、妻が不倫相手との間の子どもを出産した場合などの場合です。
この場合は、夫は妻が出産した子どもの法律上の父親となりますが、その子どもの本当の父親(生物学上の父親)は妻の不倫相手です。
ただし、法は、このような生物学上の父親でない男性が法律上の父親となっている場合であったとしても、子どもの身分関係を保護するために、法律上の親子関係が発生した父親が子どもとの間に発生した法律上の親子関係を否定する方法を極めて限定しています。
この点については、【妻が産んだ子が自分の子じゃなかった場合に親子関係を否定する方法】をご確認ください。
3.認知されることにより発生する権利と義務
⑴父親の子どもに対する扶養義務などが発生する
認知されることにより、子どもと父親との間には法律上の親子関係が発生することとなります。
その結果、以下の権利・義務などが発生することとなります。
認知により発生する権利・義務の例
子ども
- 扶養請求権
- 相続権
父親
- 扶養義務
- 相続権
- 面会交流権
このうちで特に重要なものは、なんといっても父親に子どもに対する扶養義務が発生するという点です(民法877条1項)。
父親に子どもに対する扶養義務が発生することにより、父親に対して、法律上、養育費を請求することができるようになります。
⑵法律上の父親に対して養育費を請求するための具体的な方法
- 父親と話し合い(協議)をして決める
父親に養育費を請求して、父親との間で養育費の月額などについて合意が成立した場合には、その合意の内容を書面に記載して、お互いに署名・押印をして、それで養育費の話し合いは終了です。
ただ、養育費は相当長期間継続して支払ってもらわなければならない費用であるため、未払いが起こりやすいものです。
そのため、養育費に関する取り決めは、可能な限り公正証書にしておくことをお勧めします。
養育費に関する取り決めを公正証書にしておくことにより、父親が養育費の未払いをした場合に強制執行を実施することができるようになります。
- 養育費請求調停を申し立てる
父親が養育費の支払いに応じない場合には、家庭裁判所に養育費請求調停を申し立てて、父親との間で話し合いを進めていくことが必要です。
参照:裁判所・裁判手続案内・裁判所が扱う事件・家事事件・養育費請求調停
養育費請求調停の期日では調停委員会を間に入れて、養育費の適正な金額などの条件についての話し合いが行われます。
その結果、父親との間で養育費に関して合意が成立すれば、合意内容が調停調書に記載され、調停手続きは終了します。
- 養育費請求審判
父親が養育費請求調停の期日に出頭しなかったり、調停期日で話し合ったものの合意が成立しなかったりした場合には、調停手続は不成立となって終了し、自動的に審判手続に移行することとなります。
審判手続では、家庭裁判所が当事者双方の収入状況などを見て適正な養育費の金額を「審判」という形式で決定することとなります。
そして、調停調書または審判にて養育費の金額が決定されたにもかかわらず父親が養育費を支払わない場合には、強制執行を実施することができます。
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4.認知の種類
認知の種類には、任意認知と強制認知があります。
認知の種類
- 任意認知
- 強制認知
①任意認知
- 任意認知とは
任意認知とは、父親となるべき男性が任意に(すなわち自らの意思で)認知するという認知の方法です。
父親となるべき男性が子どもの法律上の父親となることに合意している場合には、この方法で認知を行うこととなります。
- 任意認知の方法
任意認知の方法は極めて簡単であり、父親となるべき男性に役所に対して認知届を提出してもらうだけです(民法781条1項)。
また、任意認知は、遺言によってすることもできます(民法781条2項)。
民法781条1項
認知は、戸籍法の定めるところにより届け出ることによってする。
民法781条2項
認知は、遺言によっても、することができる。
- 任意認知を行うことができる時期
任意認知は、子どもが生まれた後であっても、子どもが生まれる前であっても行うことができます。
子どもが生まれた後に任意認知を行う場合には、母親の同意は不要とされています(民法780条)。
ただし、その子どもが成人している場合には、認知を行うためにはその子どもの承諾が必要です(民法782条)。
民法780条
認知をするには、父又は母が未成年者又は成年被後見人であるときであっても、その法定代理人の同意を要しない。
民法782条
成年の子は、その承諾がなければ、これを認知することができない。
他方、子どもが生まれる前に任意認知を行う場合は、母親の同意が必要となります(民法783条1項)。
民法783条1項
父は、胎内に在る子でも、認知することができる。この場合においては、母の承諾を得なければならない。
- 認知を取り消せるか
認知が取り消せるとなると子どもの身分関係が極めて不安定となってしまいます。
そのため、一旦認知した以上は、認知を取り消すことはできません(民法785条)。
民法785条
認知をした父又は母は、その認知を取り消すことができない。
②強制認知
- 強制認知とは
強制認知とは、子どもの側から父親となるべき男性に対して裁判上の手続きを通じて認知するよう請求して強制的に認知させるという認知の方法です。
父親となるべき男性が自発的に認知を行なってくれない場合には、この強制認知の方法で認知してもらうこととなります。
- 強制認知の方法
まずは家庭裁判所に認知調停を申し立てて、調停委員を間に入れて認知をするよう話し合っていくこととなります(調停前置主義)。
そして、調停手続きにおいて男性が認知することに合意した場合、家庭裁判所が念の為当事者の合意の正当性を検討して問題がなければ、当事者間の合意に従った内容の審判が出されます。
他方、男性が認知調停の期日に出頭しなかったり、調停期日で話し合ったものの自分の子どもであると認めずに認知に合意しなかったりした場合には、認知調停は不成立となって終了します。
その場合は、男性に対して認知の訴えを提起して、裁判所に判決により認知することを求めることとなります(民法787条本文)。
認知の訴えでは、裁判所が「生物学上の父親」であるかどうかを審理することとなりますが、結局のところ事実上DNA鑑定の結果で結論が決まることとなります。
つまり、DNA鑑定の結果、男性が子どもの「生物学上の父親」であることがほぼ間違いないという鑑定結果が出れば、ほぼ間違いなく認知を認める判決が出されます。
なお、認知調停の申立てや認知の訴えの提起は、相手の男性が死亡していたとしても、死亡後3年以内であれば行うことができます(民法787条ただし書)。
アドバンスな交渉戦略
現在はDNA鑑定を簡単かつ比較的安価で行うことができ、しかもその精度は極めて高いです。
そして、男性としては、DNA鑑定の結果が出れば、いずれにしても認知しなければならない状況であるため、認知に合意しないで認知の訴えの提起を受けて争っていくメリットは通常ありません。
そのため、認知の訴えに至る前に、DNA鑑定の結果を受けて、認知の合意に至る例が多いです。
また、認知の訴えを提起した後であっても、判決に至る前に和解により認知の合意が成立する例が多いです。
5.子どもの父親にはしっかりと扶養してもらおう!
様々な事情があって父親となるべき男性に対して認知をしてもらうべき状況に至っているものと思います。
ただ、いずれにしてもあなたが子どもを完全に独力で育てていく必要はなく、子どものためにも、父親には適正な金額の養育費を支払ってもらうべきです。
例えば、あなたが他に配偶者のいる男性との間の子どもを身籠ったものだとしても、あなたとその男性との間の子どもの父親はその男性である以上、その子どもはその男性に扶養してもらうべき子どもです。
認知は父親に子どもに対する扶養義務という極めて負担の大きな法律上の義務を発生させるものであるため、父親からの強い抵抗にあうこともあります。
しかし、いかなる事情があったとしても自分の子どもなんですから、しっかりと扶養してあげるべきであり、自分の子どもでありながら責任を負いたくない・扶養したくないという都合の良い甘えは通じません。
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