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結婚前の男女は、交際相手に対して、互いに、多かれ少なかれ「ありのままの自分」よりも自分のことをよく見せたくなるものです。
ありのままの結婚相手の姿を知ることとなるのは、結婚した後です。
結婚した後に、結婚相手から騙されていたと感じることもあるでしょう。
結婚相手から騙されて結婚した場合には、騙されていた内容や程度によっては、婚姻を取り消すことができるかもしれません。
また、結婚を取り消すことはできなくても、騙していた相手と早期に離婚に至ることができる可能性があります。
この記事では、騙されて結婚してしまった場合に、望まぬ結婚相手との婚姻関係から解放される手段を解説します。
このページの目次
1.結婚した後に結婚相手に騙されていたことに気付いた時
男女は、結婚すると夫婦として同じ戸籍に入ることとなり、同じ苗字を名乗り(民法750条)、相互に同居・協力・扶助義務(民法752条)や貞操義務(他の異性と性的な結合関係を結ばないという義務。民法770条1項1号)を負うこととなります。
このように、結婚すると、人生は途端に結婚相手に対して発生する権利と義務に拘束されたものとなり、人生の選択肢や自由度は大幅に減少します。
しかも、ひとたび婚姻が有効に成立すると、夫婦の一方の意思で婚姻の拘束から逃れることは原則としてできません。
結婚した夫婦の誰しもが、良くも悪くも、その結婚相手と結婚していなかったら別の人生を歩んでいたはずです。
結婚した後の生活が想定した通りのものであれば良いでしょうが、結婚した後になって結婚相手に騙されていたことが発覚する場合もあります。
結婚した後に結婚相手から騙されていたことに気がつき、結婚したことを後悔することとなったとしても、既に結婚は成立してしまっています。
そのような時、相手選びに失敗した結婚を解消し、望まぬ結婚相手との婚姻関係から解放される手段はないのでしょうか。
2.結婚後に結婚相手に騙されていたと感じる事項の具体例
結婚前の男女は、お互いの良い面を見せ合い、見つけ合って、そこを評価して結婚に至るものです。
その際には、交際相手に対して、どうしても大なり小なり「ありのままの自分」よりも自分のことをよく見せたくなるものでしょう。
本当にありのままの結婚相手の姿を知ることとなるのは、結婚した後です。
結婚する前に結婚相手に関する全ての事項を証拠により証明させることは現実的ではありませんので、本当のところを知っていれば結婚などしなかったとしても、知らなかった・騙されていたために本当は結婚などしたくないはずの相手と結婚する、という誤った判断をしてしまうことはあり得ることです。
結婚した後に結婚相手から騙されていたと感じる事項の具体例としては、以下のものがあり得ます。
結婚した後に結婚相手から騙されていたと感じる事項の例
- 年齢が違った
- 職業が違った
- 出世コースと聞いていたが違った
- 資産・貯金額が違った
- 出身地が違った
- 家族構成が違った
- 離婚歴があった
- 病気・持病を持っていた
- 子ども好きと聞いていたが子ども嫌いだった
- 借金があった
- 無宗教と聞いていたが信仰を持っていた
- キリスト教徒だと聞いていたが怪しげな新興宗教の信者だった
- 性的不能だった
- 同性愛者だった
- 性的にノーマルではなかった
- 特殊な性的嗜好を持っていた
- ずっと二股をかけられていた
- 前科・犯罪歴があった
- 隠し子がいた
3.騙されてした結婚は無効にならないの?
婚姻(結婚)は、婚姻届を提出する際に、夫婦となろうとする男女が共に実質的婚姻意思(夫婦として共同生活を行なっていく意思)を有していれば有効に成立します。
婚姻の有効要件
- 婚姻届を役所に提出し受理されること
- 婚姻届を役所に提出する時点で婚姻しようとする男女の双方に実質的婚姻意思(夫婦として共同生活を行なっていく意思)があること
婚姻届が偽造されたものであったり、人違いであったり、婚姻届を提出した際に実質的婚姻意思(夫婦として共同生活を行なっていく意思)がなかったりする場合には、婚姻は無効です。
他方、たとえ結婚相手にまんまと騙されて、結婚相手のことを誤解していたとしても、その結婚相手と「夫婦となって生きていこう」と考えて婚姻届を提出していた場合は、婚姻は有効です。
たとえ役所に婚姻届を提出して受理された直後であったとしても、婚姻をキャンセルしたり撤回したりすることは基本的にできません。
4.騙されてした結婚を取り消せる場合がある!
⑴婚姻の取り消しが認められる要件
民法は、騙されてした婚姻(結婚)を取り消すことを認めています(民法747条1項)。
民法747条1項
詐欺又は強迫によって婚姻をした者は、その婚姻の取消しを家庭裁判所に請求することができる。
ただ、結婚前の男女はお互いに多少の嘘や誇張をしがちなものであり、それは人間の心理として仕方がないという面もあるでしょう。
わずかばかりの嘘や誇張があるだけで婚姻を取り消せるとなれば、ほとんどの婚姻が取り消せる可能性があるものとなってしまい、身分関係が極めて混乱してしまいます。
そのため、婚姻の取り消しが認められるためには、悪質な騙し行為によって結婚を決める前提として極めて重要な事項について錯誤に陥り、その錯誤が原因となって本来であればしなかったであろう結婚をしてしまったことが必要と考えられています。
婚姻取り消しが認められるための要件
- 悪質な騙し行為によって結婚を決める前提として極めて重要な事項について錯誤に陥り、
- その錯誤が原因となって本来であればしなかったであろう結婚をしてしまったこと
- 婚姻取り消しが認められる可能性が低い事情
例えば、
- 結婚相手の性格の問題
- 思っていたより怒りっぽかった
- 自己中心的な性格だった
- ひどく優柔不断だった
- 子ども好きじゃなかった など
- 趣味の問題
- 聞こえの良い嘘の趣味を伝えられていた
- 本当の趣味を隠されていた など
で婚姻取り消しが認められることは期待できません。
また、
- 年齢
- 職業
- 出世の可能性
- 資産・貯金額
- 出身地
- 家族構成
などに関しては、余程特殊な事情がない限りは、婚姻取り消しは認められないでしょう。
サバ読み事件(年齢の偽りに余程特殊な事情があったケース)
インターネット上で知り合った52歳の女性が「24歳」とサバを読んでおり、それに騙されて結婚したという事案で、婚姻の取り消しが認められた裁判例があります。
そこまでのサバを読んで騙しきって結婚に至った女性もすごいものですが、さすがにこれほどのサバを読まれては、裁判所も「婚姻後の生活設計も土台から異なってくるような違い」であると認め、婚姻の取り消しを認めました。
なお、この事案では、50万円の慰謝料請求も認められています。
- 婚姻取り消しが認められる可能性のある事情
他方、
- 離婚歴
- 病気・持病
- 宗教の問題
- 前科・犯罪歴
- 借金
などに関しては、その程度や当事者間の具体的な状況(積極的に騙していた、それが結婚することの前提となっているとの共通認識があった、結婚後の生活に具体的な問題が発生しているなど)によっては婚姻の取り消しが認められる可能性があります。
また、
- 性的不能
- 同性愛者
- 隠し子
に関しては、婚姻後の生活設計が根本的に違うものとなるような事情と言い得るところですので、婚姻の取り消しが認められる可能性が十分にあるでしょう。
⑵婚姻の取り消しの手続き
詐欺による婚姻(騙されてしてしまった結婚)を取り消すためには、まずは家庭裁判所に婚姻取消しの調停を申し立てて、結婚相手との間で婚姻の取り消しを認めるかどうかについて調停手続きを通じて話し合うことが必要です(調停前置主義)。
そして、調停手続きにおいて当事者双方の間で婚姻の取り消しの合意ができた場合には、家庭裁判所が念の為当事者間の合意の正当性を検討して問題がなければ、当事者間の合意に従った内容の審判が出されます。
他方、結婚相手が婚姻取消しの調停の期日に出頭しなかったり、調停期日で話し合ったものの婚姻の取り消しに合意しなかったりした場合には、婚姻取消しの調停は不成立となって終了します。
その場合は、結婚相手に対して、婚姻取消し訴訟を提起して、裁判所に婚姻を取り消す内容の判決を出してもらうことが必要となります。
そして、婚姻の取り消しを認める審判や判決を得たら、役所に行って、審判書や確定した判決書を添付して、戸籍を訂正する手続きを行うこととなります。
⑶婚姻の取り消しの効力
婚姻が取り消された場合、婚姻は最初からなかったことになるのではなく、婚姻が取り消された時点からなかったことになります(民法748条1項)。
民法748条1項
婚姻の取消しは、将来に向かってのみ その効力を生ずる。
⑷詐欺による婚姻の取り消しを行うことができる期間
詐欺による婚姻の取り消しは、騙されていたことを知った時から3か月以内に行う必要があります(民法747条2項)。
ポイントは、結婚してから3か月以内ではなく、騙されていたことを知った時から3か月以内であるという点です。
つまり、結婚してから1年後に騙されていたことを知った場合には、その時点から3か月以内であれば婚姻取り消しの手続きを申し立てることが可能です。
5.婚姻の取り消しができない場合に取り得る手段
結婚相手に騙されていた事項が婚姻の取り消しが認められないような事項であったり、騙されていたことを知った時から3か月が経過してしまったりして、もはや婚姻を取り消すことができない場合には、あとは離婚をするしかありません。
⑴離婚の進め方
離婚の進め方としては、結婚相手が離婚に合意するのであれば早期に協議離婚(離婚すること及び離婚条件について夫婦が話し合って合意して離婚を成立させる離婚の方法)が成立する可能性があります。
ただ、結婚相手が離婚することに合意しない場合には、家庭裁判所に離婚調停を申し立てて家庭裁判所で調停委員の仲介のもとで調停離婚の成立を目指すこととなります。
さらに、結婚相手が調停でも離婚に応じない場合には、離婚裁判を提起して、離婚裁判で離婚判決を得ることが必要となります。
⑵離婚裁判で離婚判決を得るために必要なこと
離婚裁判では、以下の法定離婚原因のいずれかが存在していれば、離婚判決が出されます。
法定離婚原因(民法770条1項)
- 「配偶者に不貞な行為があったとき」(1号)
- 「配偶者から悪意で遺棄されたとき」(2号)
- 「配偶者の生死が三年以上明らかでないとき」(3号)
- 「配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき」(4号)
- 「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」(5号)
例えば、結婚相手が結婚前から二股をかけていたことを隠しており、その二股の関係が結婚後にも続いていたのであれば、「配偶者に不貞な行為があったとき」という原因で離婚が認められますし、この場合は慰謝料請求も認められるでしょう。
【不倫慰謝料の相場】不倫が原因で離婚した場合に裁判所が認めている金額
また、結婚相手が悪意の遺棄をしている場合であれば「配偶者から悪意で遺棄されたとき」という原因で離婚が認められる可能性がありますし、この場合も慰謝料請求が認められる可能性が高いです。
悪意の遺棄について詳しくは、以下の記事をご確認ください。
そのような事情がなければ、「婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」という原因で離婚が認められるかどうかを争っていくこととなります。
その場合は別居期間が重要となりますが、そもそも同居の期間が存在していないとか、同居期間が極めて短いとかいった事情がある場合であれば、別居期間が短くても離婚が認められる可能性が十分にあります。
短い別居期間で離婚するには?別居期間が短い場合の離婚の進め方
また、モラハラやDVの被害を受けていた場合では、離婚も慰謝料請求も認められる可能性が十分にあります。
さらに、結婚相手が騙していた事項が結婚の判断や結婚後の夫婦の生活や将来設計・夫婦の信頼関係の構築に大きく影響を与えるような事項(性的不能だった、同性愛者だった、隠し子がいた、多額の借金があった、特殊な性的嗜好を持っていたなど)であった場合にも、別居期間が短くても離婚も慰謝料請求も認められる可能性は十分にあります。
6.結婚相手と生涯添い遂げることができそうかどうか
結婚相手に騙されて後悔するような結婚をしてしまった場合は、その結婚相手を受け入れて夫婦として生涯添い遂げることとするか、その結婚を解消して別の人生を歩むこととするかを選択しなければなりません。
一度きりの人生、自分の幸せのために人生を誰と生きていくこととするのかをじっくりと検討する必要があるでしょう。
そして、結婚相手と生涯添い遂げる気にはなれないと感じている場合は、人生に与えるマイナスの影響を最小限度に止めるためにも、速やかに婚姻の解消に向けて進めることが良いでしょう。
そのためには、婚姻の取り消しができれば一番良いです。
しかし、婚姻の取り消しができなかった場合には、騙されてしてしまった結婚から解放されるためには、離婚の手続きを進めなければなりません。
そして、離婚は、一般的に、早ければ早いほど人生に与える影響が少なくて済みますし、離婚もしやすく、また、離婚条件に関する話し合いもシンプルで済む場合が多いです。
特に子なし離婚の場合には親権者・養育費・面会交流などについて取り決める必要はありませんし、同居期間が短ければ財産分与の話し合いもシンプルになります。
また、結婚していた期間が短ければ年金分割という離婚条件も事実上ほとんど問題とならないでしょう。
レイスター法律事務所では、無料相談において、
- 騙していた結婚相手との婚姻の取り消しが認められる状況かどうか
- 婚姻の取り消しが認められない場合には離婚問題をどのように進めることが最も早期解決につながるか
- 万一離婚裁判までもつれ込んだ場合に離婚判決を勝ち取れる状況かどうか
- どの程度の金額の慰謝料の請求が認められるか
などといった事項について、具体的なアドバイスを行なっています。
結婚前に騙していた相手との関係解消についてお悩みの際は、是非、こちらからお気軽にご連絡ください。