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養育費は離婚後の生活のための大切な資金ですので、少しでも長く支払ってもらいたいもの。
ただ、法律上養育費の請求が認められる期間は、子どもが高校卒業後に大学に進学するか就職するかといった事情や、子どもの抱える障害・病気などによって変わってきます。
この記事では、様々な状況ごとに、法律上養育費を請求が認められる期間や、養育費の終期を巡る夫婦の話し合いがどのように進むかなどについて、法律改正で成年年齢が18歳に引き下げられたことの影響なども踏まえて解説します。
このページの目次
1.養育費はいつまで請求できる?
離婚した後に請求できる養育費の金額は、夫婦で合意が成立するのであれば合意した金額となります。
ただ、家庭裁判実務上は、養育費算定表をベースとした金額で合意が成立することが圧倒的に多数です。
※引用 裁判所:統計・資料:公表資料:平成30年度司法研究(養育費,婚姻費用の算定に関する実証的研究)の報告について
この養育費はいつまで請求することができるのでしょうか。
2.養育費は子どもが「未成熟子」である間は請求できる
養育費を支払わなければならい理由は、離婚した後も実の子どもに対する扶養義務を負っているからです(民法877条1項)。
そのため、養育費は、子どもが扶養してあげなければ生活できない状態にあるうち(子どもが「未成熟子」である間)は支払ってあげなければならないと考えられています。
つまり、養育費は、子どもが「未成熟子」である間は請求することができます。
「未成熟子」とは、一般的に、未だ成熟化の過程にあって、労働に従事すれば心身の発育を害される恐れがあるために、他者による扶養を必要とするような期間にある子どもをいいます。
この「未成熟子」という概念は「未成年者」は別の概念であり、簡単にいえば、一般社会常識に照らして自ら生計を立てて生活をしていくことが期待されていない子どものことをいいます。
子どもが成年に達していたとしても自ら生計を立てることができない事情がある場合は、なおも「未成熟子」と扱われることがあります。
逆に、子どもが未成年者であったとしてもしっかりと仕事をして自ら生計を立てている場合は「未成熟子」には当たりません。
以下で、具体的に検討します。
⑴子どもが高校を卒業するまでの間
子どもが高校を卒業するまでの間は、子どもに自ら生計を立てて生活をしていくことを期待することはできません。
そのため、高校を卒業するまでの間の子どもは「未成熟子」に当たりますので、養育費を請求することができます。
⑵子どもが高校を卒業した後に大学に進学した場合
大学に通学しながら自ら生計を立てて生活していくことを期待することは酷でしょう。
そのため、大学生は、一般的に「未成熟子」に当たると考えられています。
ただし、仮に子どもが2回浪人して5回留年した場合は、30歳を過ぎてもなお大学生であることになります。
そのような場合も、離婚後に子どもの監護養育に携わることができない非親権者である親が養育費を支払い続けなければならないとまでは考えられていません。
このような場合の子どもの生活費の負担は、子どもの親権者として子どもを監護養育してきた方の親が負担するべきでしょう。
そのため、大学生の子どもが「未成熟子」に当たるとされるのは浪人も留年もすることなくストレートに4年制の大学を卒業するまでとされることが通例です。
家事調停実務上も、養育費の終期は、「未成年者が満20歳に達する日の属する月まで(ただし、満20歳に達する日の属する月に、大学に在学していたときは、満22歳に達した後の最初の3月まで)」などと定める例が一般的です。
アドバンスな交渉戦略①
養育費の終期について当事者間で話し合いがつかなければ、最終的には裁判所が決定することとなります。
そして、裁判所は、夫婦の学歴や従前の子どもの教育方針に関する夫婦の話し合いの存在・内容などを勘案して養育費の終期を決定することとなります。
ただ、離婚する際に子どもが将来大学に進学するかどうか(成年に達した後もなお「未成熟子」のままであるかどうか)は、事前に確実に判明するものではありません。
そのため、裁判所は、基本的は「未成年者が満20歳に達する日の属する月まで」と言う決め方となることが多いです。
ならば、養育費の支払義務を負う方としては、相手から何と言われようと意地でも養育費の終期については「未成年者が満20歳に達する日の属する月まで」と言うことで譲らないと争うことも考えられます。
ただし、養育費の終期について話し合いが付かなければ、結局離婚条件について合意が成立しないということです。
その場合は、離婚の話し合いは終わらず、離婚調停も不成立となり、離婚紛争は離婚裁判にまで発展することとなります。
離婚紛争が長期化して離婚裁判にまで発展することの負担は極めて大きいことや、子どもが大学に進学することとなった後というかなり先の話であるということもあります。
そのため、この場合は、結局、離婚の話し合いは、養育費の権利者の方が折れて養育費の終期を「未成年者が満20歳に達する日の属する月まで」と言う決め方で合意するか、養育費の義務者の方が折れつつも別のところで一定のメリットのある合意を形成するという進み方をすることが、圧倒的に多いパターンです。
アドバンスな交渉戦略②
養育費の算定は、家庭裁判実務上は養育費算定表に基づいて算定されることが通例です。
当事者間で養育費の金額の合意が整わなければ、裁判所は養育費算定表の考え方に基づいて養育費の金額を決定することが大多数です。
しかし、裁判所は、常に形式的に養育費算定表に基づいて淡々と養育の金額を算定しているものではありません。
裁判所が、具体的な状況によっては、当該事案の実際上の妥当性を優先して、算定表の原則的な計算を変える場合もあります。
例えば、両親ともに高齢や持病のために満足に働けず、他方大学生の子どもは元気にアルバイトに精を出していたとします。
このような場合は、裁判所は、当該事案の具体的妥当性を優先し、養育費の金額を、子どもが実際には15歳以上であるにもかかわらず、子どもが15歳以上の場合の高額の算定表を用いるのではなく、子どもが15歳未満の場合の低額の算定表を用いて計算をしている例などがあります。
⑶子どもが高校を卒業した後に就職した場合
子どもが高校を卒業した後に就職して十分な収入を得ている場合は「未成熟子」には当たりません。
そのため、離婚の際に養育費の終期を「未成年者が満20歳に達する日の属する月まで」と取り決めていたとしても、取り決めの際に子どもが就職しても20歳までは養育費を負担することが前提となっていたなどの事情がない限り、養育費が打ち切られてしまう可能性があります。
他方、既に仕事はしているものの、その稼ぎだけでは生活を維持していくには不十分である場合は、未だ「未成熟子」に当たると考えられます。
この場合は、子どもが生活を維持していくために必要な生活費を、親権者と非親権者とで分担する必要があります。
そのため、一般的な相場よりも低額とはなりますが、一定程度の金額の養育費を請求することができる余地があります。
なお、養育費の打ち切りや減額が認められ得る場合であっても、既に取り決められている養育費の合意内容を当事者の一方が勝手に変更することはできません。
その場合は、改めて相手と話し合って合意をするか、養育費増額・減額調停・審判という手続にて新たな取り決めをしていくこととなります。
アドバンスな交渉戦略③
離婚する際に子どもが幼い場合、その子どもが将来高校・大学に進学するかどうかは、予想はできてもそれはあくまでも将来の予想です。
高校には当然進学するだろうと考えていても、子どもの意思や社会的情勢の突然の変化などで、中学校を卒業して就職することとなるかもしれません。
可能性的には、例えば、子どもが高校在学中にYouTuberとして大成功を収めて、高校を卒業した後に大学に進学せずにYouTuberの道に進み、18歳のうちに親よりも高額の収入を得ることとなっているかもしれません。
それにも関わらず、離婚する際に、養育費の終期を「未成年者が満20歳に達する日の属する月まで」と定めるのであれば、子どもが高校を卒業・就職して「未成熟子」でなくなった後も養育費を支払い続けることとなる可能性があるわけです。
加えて、そのような事情が発生した場合にも、養育費に関する離婚時の取り決め内容を勝手に変更することはできず、改めて取り決め直すというステップを踏む必要があります。
相手が納得しなければ、弁護士に依頼して交渉をしたり、養育費増額・減額調停・審判という手続を行ったりする必要があり、その負担は大きいです。
それを避けるために、子どもが大学に進学した場合の条件を括弧書きで併記することと同様に、例えば、以下のように合意することが考えられます。
子どもが高校卒業後に就職することを見越した合意内容
養育費の終期を「未成年者が高等学校を卒業した後に就職する場合には未成年者が高等学校を卒業する月までとし、未成年者が高等学校を卒業した後に大学に進学する場合には未成年者が満22歳に達した後の最初の3月までとする」
実際にこのような内容で養育費の終期の合意が成立している例もありますが、家庭裁判実務上は、このような取り決めはごく少数です。
このことを調停期日で主張しても、調停委員から「そのようなことは言いっこなしにしましょう」という方向で説得されてしまう可能性もあります。
ただ、この点は、成年年齢が18歳に引き下げられたことの影響で、今後、上記のような取り決めが家庭裁判実務上も徐々に一般的になっていく可能性もあるかもしれません。
従前は、「20歳までは未成年者」「未成年者なんだから養育費を支払ってあげましょう」という状況でしたが、今や「18歳になったらもう成年」なわけです。
そのため、上記のような子どもが高校卒業後に就職することを見越した内容の合意も、今後は増えてくるのではないでしょうか。
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⑷子どもが成人しているものの障害や病気を抱えている場合
子どもが成人してはいるものの、障害や病気を抱えているために自ら生計を立てて生活をしていくことが期待できない場合もあるでしょう。
その場合は、子どもが成年した後も「未成熟子」に当たるとして、養育費の請求が認められることがあります。
ただし、裁判所は、障害や成病のために働けない状況にある成人した子どもが「未成熟子」に当たるかどうかについて、その障害や病気の状況などの具体的な事実を詳細に検討した上、厳しく判断しています。
関連裁判例
平成19年2月27日東京高裁
・子どもの状況
肢体麻痺の障害を負い、 現在も両手両足が不自由な状態にあり、1級の身体障害者であった。
日常生活(食事・入浴・排泄・移動)は介護者による十分な介護が必要であり、会話も相当困難な状況であった。
・裁判所の判断
「未成熟子」に該当すると判断した。
平成22年11月26日高松高裁
・子どもの状況
先天性の心疾患(無脾症候群、単心房単心室、共通房室弁逆流、心内膜繊維弾性症)、発作生上室性頻拍症(反復性)、先天性両脛骨欠損、足の指の欠損、 右多合指症があった。
また、視力障害(両網膜剥離、 右眼球癆〈右眼が失明し、眼球が落ち込んでいる状態〉、左白内障)があって光を感じることができる程度の視力しかなかった。
さらに、重度精神遅滞であり、難聴であった。
全く歩行ができず、日常はほとんどベッドで過ごす生活を送っており、24時間介護が必要な状態であった。
・裁判所の判断
「未成熟子あるいはこれに準じるものというべき」と判断した。
平成26年7月18日大阪高裁
・子どもの状況
群発頭痛の疾病を有しており、継続的に就労するには相当の困難が伴うことは容易に推察される状況であった。
・裁判所の判断
「未成熟子として考慮するのは相当ではな」いと判断した。
3.養育費の支払いを受けた場合の経済的メリット
養育費の支払いを安定的に受けた場合の経済的メリットについて、以下でいくつかの想定されるパターンを記載しました。
ご自身に近いパターンで概ねどの程度の金額がもらえるのかご確認ください。
なお、養育費の金額は後から変更することができますが、ここではそのことは考えず、離婚時に取り決めた相場金額を変えることなく最後まで支払い続けた場合の金額を記載しています。
養育費の月額と総額の目安
パターン1
- 権利者の年収150万円
- 義務者の年収650万円
- 子どもが2人(3歳と5歳)
⇨月額10万円程度(1人5万円程度)
⇨ 総額2040万円程度
パターン2
- 権利者の収入120万円
- 義務者の収入400万円
- 子どもが1人(1歳)
⇨月額4万円程度
⇨総額960万円程度
パターン3
- 権利者の収入300万円
- 義務者の収入500万円
- 子どもが1人(16歳)
⇨月額5万円程度
⇨総額300万円程度
パターン4
- 権利者の収入0円
- 義務者の収入2000万円
- 子どもが3人(1歳と3歳と7歳)
⇨月額42万円程度(1人14万円程度)
⇨総額8736万円程度
パターン5
- 権利者の収入800万円
- 義務者の収入300万円
- 子どもが2人(16歳と18歳)
⇨月額2万円程度(1人1万円程度)
⇨総額96万円程度
安定して養育費の支払いを受けるということは、これだけの大金を子どものために使うことができるということです。
レイスター法律事務所では無料法律相談において想定される養育費の具体的な金額や、少しでも有利な金額となるような話し合いの進め方などを詳細にお伝えしていますので、是非ご利用ください。