離婚するときには、婚姻期間中の夫婦の財産を分け合う「財産分与」が発生します。
そして、財産分与の基準時(別居時又は離婚時のいずれか早い方)において、既に受給済みの退職金は財産分与の対象となります。
ただ、財産分与の基準時において、既に受給された退職金を消費していた場合はどのような扱いになるのでしょうか。
また、未だ受給していない退職金は財産分与の対象となるのでしょうか。
この記事では、退職金が財産分与の対象となる場合とならない場合を紹介した上で、退職金が財産分与の対象となる場合における具体的な計算方法について解説します。
このページの目次
1.退職金は財産分与の対象となる?

財産分与では、別居時又は離婚時のいずれか早い方を基準として、その時点における夫婦共有財産を分け合うこととなります。
退職金は高額になりやすいケースが多く、財産分与の中でも重要な位置を占めることが少なくありません。
ここで、別居時又は離婚時において、既に勤務先から退職金が支給されていたのであれば、既に退職金という資産は手元に存在しているのですから、それを分与することに大きな違和感はありません。
他方、別居時又は離婚時において未だ勤務先から退職金が支給されていない場合は、退職金という資産が手元にあるわけではありません。
それでも退職金は財産分与の対象になるのでしょうか。
以下では、まず退職金が財産分与の対象となる法的根拠や、既に支給されている場合と未だ支給されていない場合に分けて、その基本的な考え方を確認します。
2.別居時または離婚時に受給済みの場合
2-1.受給した退職金が預貯金として残っている場合
退職金は「給与の後払い」という性質を有しているため、原則として財産分与の対象となります。
そして、別居時又は離婚時に既に勤務先から支給されていた退職金は、別居時又は離婚時に預貯金という形で存在しているのであれば、当該預貯金は当然に財産分与の対象となります。
実際に働いて退職金を得たほうの配偶者が、別居時又は離婚時に残っている退職金を独り占めできるできるわけではありません。
これは、夫婦は法的には同等であり、財産分与も平等の割合(2分の1ずつ)で分与するべきであるためです。
専業主婦やパートで家事や育児をしていたほうの配偶者の寄与があってこそ、正社員で勤めるもう一方が退職金を受け取ることができたのですから、高額の退職金でも財産分与の対象となり、夫婦間で分け合うことが原則です。
2-2.受給した退職金をすでに消費していた場合
会社から支給された退職金を別居時又は離婚時までの間に消費していた場合は、既にその分の資産は存在していません。
財産分与は別居時又は離婚時に現存している資産を分与する制度であるため、この場合は特に消費した分の退職金相当額を財産分与することとなるわけではありません。
補足説明
退職金を消費してはいるものの、その分の資産が別居時又は離婚時に存在していた場合には、当該資産は財産分与の対象となります。
例えば、退職金で新たに自動車を購入し、その新車が別居時又は離婚時に存在していた場合は、当該新車は財産分与の対象となります。
では、退職金を消費した理由が住宅ローンの繰上げ返済であった場合はどうでしょうか。
この場合は、退職金で住宅ローンの繰上げ返済を行なった分、別居時又は離婚時における負債が減少していることになります。
そして、財産分与の対象となる財産は、別居時又は離婚時の負債はその負債の名義人のプラス財産から差し引いて計算することになります。
そのため、この場合は退職金により繰上げ返済をした分、他のプラス財産から差し引くことができる負債が減少していることになりますので、その分財産分与の対象となる財産が多くなります。
つまり、この場合は、住宅ローンの繰上げ返済に費やした退職金の価値分は財産分与の計算に反映されることになります。
具体例で説明
●事例
夫が退職して退職金1000万円を受け取ったので、そのうちの300万円を貯金に回した上、残りの700万円で夫名義の自宅の住宅ローン1000万円の繰上げ返済を行ない、残ローンを300万円にまで減らした。
●別居時又は離婚時における夫名義の資産状況
①夫名義の資産(プラス財産)
・預貯金→元々の200万円に退職金300万円が加わって合計500万円
・不動産→査定評価額2000万円
・合計→2500万円
②夫名義の負債(マイナス財産)
→住宅ローンが1000万円から繰上げ返済で300万円にまで減少
●財産分与の対象となる財産の金額
①夫名義の資産2500万円−②夫名義の負債300万円=2200万円
3.別居時又は離婚時に支給されていない退職金の財産分与
3-1.手元にない退職金を分与するということの違和感

定年退職の年齢を過ぎており退職金がすでに支給された後に熟年離婚に至る夫婦の割合はそれほど多くはありません。
むしろ、30代〜50代で、勤め先で退職金を積み立てている段階であって、将来的にいくらの退職金がもらえるのかは未確定であるという方が圧倒的に割合が多いです。
そして、このような場合(退職金が別居時又は離婚時に支給されていない場合)は、別居時又は離婚時に退職金という資産は手元に存在していません。
それにも関わらず、退職金を分与しなければならないことになると、退職金が支給されるよりも先に財産分与として退職金分の経済的支出が迫られることになります。
その上、実際に退職金が支給される時期は何年も、何十年も先である場合もあります。
このような状況はいかにもおかしいと違和感を感じる人も多いでしょう。
退職金は常に財産分与の対象となる、と考えてよいのでしょうか。
3-2.法的性質からすれば退職金は財産分与の対象となる
退職金は「給与の後払い」という法的性質を有しているとされています。
そして、夫婦の給与は、夫婦の協力の下で成り立っていた労働の対価であると考えられているため、夫婦共有財産に含まれます。 そのため、退職金も法的性質からすれば財産分与の対象に含まれます。
補足説明
古い裁判例では退職金は財産分与の対象とはならないとしているものもあります(東京高等裁判所昭和61年1月29日判決、長野地方裁判所昭和32年12月4日判決など)。
ただ、現在の家庭裁判実務では、このようなかつての裁判例を証拠として提出して「そもそも論として退職金は財産分与の対象となるものではない!」と主張しても、まず認められないでしょう。
3-3.未支給の退職金の金額はいくらとして計算する?
退職金が未だ支給されていないケースでも、財産分与の計算上は退職金の金額を明確に算出する必要があります。
このようなケースでは、別居時又は離婚時において「自己都合退職」として退職した場合の退職金を算出することが通例です。
会社によっては、明確な退職金規定があったり、該当日時点の退職金証明を発行してもらえる場合もあるため、お勤め先に確認しましょう。
3-3-1.アドバンスな交渉戦略:退職金が給与の後払いの性質で無い場合
退職金が財産分与の対象となると考えられている根拠は、退職金が給与という夫婦の協力(寄与)の下で成り立っていた労働の対価の後払いと考えられているからです。
そうだとすれば、将来支給されることとなる退職金が給与の後払いの性質を有しておらず、全く別の趣旨からの支給である場合は、そのような特殊な趣旨の退職金は財産分与の対象とはならないはずです。
例えば、勤務先の合併に伴う退職者に対して生活保障の趣旨から特別に支給された退職金であったり(東京家庭裁判所八王子支部平成11年5月18日審判)、専ら老後の糧(退職後の生活保障)の趣旨で支給される退職金であったりする場合が、この場合に当たり得るところです。
もし、そのような主張が相当の根拠と資料に基づいて展開できるのであれば、積極的に主張していくことを検討してもよいでしょう。
将来支給される退職金の給与の後払いの性質を否定することは通常困難と思われますが、退職金に老後の糧という性質が確かに含まれている(その分通常想定される退職金の金額よりも相当高額の退職金が支給される予定である)などの場合であれば、少なくとも退職金の一部は財産分与の対象とはらないと主張し、その主張が交渉上一定の効果を発揮するかもしれません。
4.支給される可能性が低い退職金は財産分与の対象?
4-1.将来退職金が支給されないことが確実である場合
そもそも退職金が存在していない場合は、当然ながら、退職金は財産分与の対象にはなりません。
また、近い将来会社が倒産するなどして退職金が支給されないことが確実な場合は、そのことを確実な根拠資料に基づいて主張することができれば、退職金を財産分与の対象から外すことができるでしょう。
補足説明
近い将来会社が倒産することが確実であったとしても、会社が倒産しただけでは退職金がもらえなくなることが決定されるわけではありません。
この場合に退職金を財産分与の対象から外すためには、「会社が倒産することが確実」という状況に加えて、「退職金が支給されないことが確実」という状況であることが必要です。
4-2.将来退職金が支給される可能性が低い場合
退職金が支給されないことが確実とまではいえないものの、退職金が支給されない可能性が高いといったケースでも、退職金は常に財産分与の対象となるのでしょうか。
将来退職金が支給されないのであれば、結局支給が受けられなかった退職金を離婚時にすでに離婚相手に支払っていたという状況になります。
このような事態は極めて不合理であり、当事者間の公平を害するとも言えます。
そのため、家庭裁判所も、将来退職金が支給される可能性(蓋然性・確実性)を問題として、支給の可能性(蓋然性・確実性)が低い場合には、退職金は財産分与の対象としないとする例も多く存在しています(東京高等裁判所平成10年3月13日決定、名古屋高裁平成21年5月28日判決など)。
そして、この将来の退職金の支給の可能性(蓋然性・確実性)は、概ね以下の要素を総合的に検討して、判断されることになります。
- 退職金規定・就業規則などにより退職金の算定方法がどの程度明らかとなっているか
- 定年退職するまでの期間
- 勤務先の性質・規模(公務員・大企業・中小企業・ベンチャー企業など)
- 従前の勤務状況
ただし、裁判所はこの退職金の支給の可能性(蓋然性・確実性)を相当簡単に認めています。
公務員や大企業勤務である場合は、相当若年であり実際に退職金が支給されるのが10年以上先のことであったとしても、退職金の財産分与該当性を否定してもらうことは、現在の家庭裁判実務の状況からして相当困難です。
さらに、私企業の場合は、どんなに大企業であったとしても、将来何が起こるかなど誰にも分かりません。
近年JALが倒産し、従業員の退職金問題が裁判にまで発展しています。
JALのような大企業であったとしても、退職金が(決められた通りに満額)支給されるかどうかは確実ではないということです。
それでもなお、現在の仮定裁判実務においては、裁判所は、相当緩やかに退職金の支給の可能性(蓋然性・確実性)を認める傾向にあります。
ただし、裁判所によっては、その際、想定される退職金の全額について財産分与の対象とするのではなく、一定程度の減額を認めるなどといった調整を行う場合もあります。
そのため、この点を争うメリットは十分に存在しています。
4-3.アドバンスな交渉戦略:財産分与における退職金の取り扱いのレアケース
上記の名古屋高裁平成21年5月28日判決は、夫が定年退職して実際に退職金が支給されるまで15年以上もの期間があったことから、退職金の受給の確実性は明確ではないとして、退職金という資産を財産分与の対象とはしませんでした。
ただし、同判決はこのような言い回しを使っています。
「(退職金は)直接精算的財産分与の対象とはせず」
これはなんなのかというと、実は、同判決は、夫が将来受けられる可能性がある退職金について妻が離婚時に財産分与を受けられなかったということを、夫から妻に対する扶養的財産分与の金額を算定する事情として考慮しています。
その結果、裁判所は、夫から妻に対する一定の扶養的財産分与の支払いを判決で示しています。
このように、退職金という資産が財産分与の対象とはならないこととなったとしても、裁判所はその分別の箇所で一定の支払いを判断してくることがあります。
財産分与における受給済みの退職金の分与金額の具体的な計算方法にはいくつかの考え方があります。
また、未だ受給していない退職金は財産分与の対象となる場合とならない場合がありますし、財産分与の対象となる場合であっても財産分与における具体的な計算方法にはいくつかの考え方があります。
さらに、分与する時期(相手に支払う時期)を退職金が将来支給された後とする例もあります。
このように、財産分与における退職金の取り扱いには様々なレアケースが実際に存在しています。
ご自身にとって有利な方法を把握しておくことは、離婚協議や離婚調停、財産分与調停での話し合いにおいても有益となるでしょう。
5.退職金の財産分与の計算方法

ここまで説明したように、別居時又は離婚時に既に勤務先から支給されていた退職金は、別居時又は離婚時に預貯金という形で存在しているのであれば、財産分与の対象となります。
また、別居時又は離婚時に未だ支給されていない将来支給される見込みの退職金も、余程将来支給される可能性が相当低い場合でない限り、財産分与の対象となります。
ここからは、退職金が財産分与の対象となる場合における、具体的な計算方法を解説します。
5-1.相手方配偶者とは関係がない金額は排除して計算する
そもそも退職金が財産分与の対象となる理由は、退職金が夫婦の協力の下で成り立っていた労働の対価である「給与の後払い」という性質を有しているからです。
簡単にいうと、退職金を受け取れたのは相手方配偶者の協力(寄与)のおかげであるという側面がある以上は、退職金も離婚の際に夫婦で分けましょうということです。
そうだとすれば、退職金のうち相手方配偶者の協力(寄与)が認められない部分は、財産分与の対象とはならないはずです。
そのため、退職金の財産分与を計算する際には、退職金のうち相手方配偶者の協力(寄与)が認められない部分を差し引くという計算をする必要があります。
具体的には、以下のように計算されることが一般的です。
退職金の財産分与の計算方法
「勤務開始から別居時又は離婚時までの期間」に基づく金額を「婚姻時から別居時又は離婚時までの期間」に引き直して算定する
つまり、相手と結婚する前にすでに今の会社で勤務を開始していた場合には、「勤務開始から結婚前まで」の期間の退職金は財産分与の対象とならないため、差し引くための計算をします。
また、財産分与の基準時は原則的に別居時で計算されるため、「別居開始してから現在まで」の期間の退職金についても財産分与の対象とならず、同様に差し引きます。
具体例で説明
●前提事情
①別居開始の時点における夫の退職金の金額は500万円だった
②夫は現在の会社に1990年4月から勤務を開始した
③婚姻時は2005年5月である
④2020年9月から別居している
●実際に計算してみよう

まず別居開始時である2020年9月の時点における夫の退職金の金額は500万円であるところ、この500万円との金額は、勤務開始日である1990年4月から別居開始時である2020年9月までの期間(366か月間)に対応する金額と考えます。
それに対して、婚姻時である2005年5月から別居開始日である2020年9月までの期間は185か月間です。 つまり、妻の協力(寄与)はこの185か月間の分しか認められません。
そのため、財産分与の対象となる退職金の金額は、総額500万円を185か月間に引き直した金額である252万7322円(500万円÷366か月×185か月)となります。
補足説明
上記の計算方式は、厳密に言うといささかおかしな点があります。
退職金が勤務期間に比例して定額的に増額していくのであれば、上記の計算方式で良いかもしれませんが、現実はそうではない場合も多いでしょう。
5-1-1.アドバンスな交渉戦略:退職金の計算方法の違い
退職金の財産分与の金額の計算の方法として、上記の他にも、①婚姻時に退職した場合の金額と②別居又は離婚時に退職した場合の金額との差額で計算するとの方法が採用される例もあります。
具体例で説明すると、例えば、①仮に婚姻時に退職した場合には退職金の金額は150万円であり、②別居又は離婚時に退職した場合の退職金の金額は500万円だとすれば、財産分与の対象となる退職金の金額は①と②の差額である350万円となります。
その他にも、細かなことを言えば、様々な計算方法で離婚の話し合いが行われて、合意が形成されています。
このように複数の計算方法が採用される可能性があるということは、どの計算方法が自身により有利かを検討して、自身に最も有利な計算方法を採用するべきだと主張することが、交渉上有利に進めるためには必要でしょう。
5-1-2.アドバンスな交渉戦略:配偶者の寄与の主張
相手方配偶者の生活態度などから考えて、退職金という資産の形成に相手方配偶者の協力(寄与)があったとはとても言えないような場合もあるかもしれません。
しかしながら、現在の家庭裁判実務では、そのような主張が通ることは極めて稀です。
とはいうものの、そのような主張をしてはならないということではありませんので、状況によってはそのような主張をしつつ、退職金の財産分与に関する話し合いを進めることも有益であることもあり得るでしょう。
5-2.将来支給される見込みの退職金の金額の計算
別居時又は離婚時に未だ支給されていない将来支給される見込みの退職金についても、財産分与は当該退職金の別居時又は離婚時における経済的価値が基準となります。
しかしながら、なにせまだ退職金は支給されていないわけですから、別居時又は離婚時における経済的価値をどのように計算するかが問題となります。
この点については、以下のように計算されることが一般的です。
未支給の退職金の別居時又は離婚時における金額の計算方法
計算方法1
実際に将来定年退職をした際に支給されるであろう退職金の見込み金額を基礎として計算する方法
計算方法2(退職擬制期間基準方式)
別居時又は離婚時に退職した場合に支給されるであろう退職金の見込み金額を基礎として計算する方法
ここで重要なのは、一般的に、①の計算方法1よりも②の計算方法2の方が金額が低額となることが多いということです。
その最たる理由は、①の計算方法だと退職金の金額を退職時まで勤め上げた場合の支給率で計算することとなる点と、②の計算方法の場合はそれよりも支給率が低かったり自己都合退社をした場合の計算となったりする場合がある点にあります。
実際に退職金の金額が具体的にいくらになるのか、上記の①の計算方法と②の計算方法でどの程度の金額のズレが生じるかは、具体的な退職金規定を検討して計算してみなければ分かりませんが、場合によってはかなりの金額の差が生じてくることもあります。
なお、この点は、現在の家庭裁判実務では、基本的に②の計算方法が採用される例が圧倒的に多数であり、①の計算方法が採用される例は実際の退職時期が間近に迫っているなどの場合に限定されています。
5-2-1.アドバンスな交渉戦略:東京地裁平成11年9月3日
上記の計算方法の他に、特殊な計算方式を採用した例として、東京地裁平成11年9月3日があります。
この裁判例では、基本的に①の計算方法を採用しつつ、さらに中間利息を控除するという計算をしています。
具体的には、実際に将来退職をした際に支給されるであろう退職金の見込み金額を基礎として財産分与の金額を計算しつつ、その金額から年5%で計算した現在時(支払時)から退職金の実際の支給時までの期間の中間利息を差し引いて、財産分与の対象となる退職金の金額を算定しています。
これは、そもそもまだ発生していない退職金を離婚先に先に受領することとなるわけですから、その先に受領するという利益分を計算式に入れ込んだものです。
極めて厳密に考察した上で計算された計算式ではありますが、このような計算までする例は離婚調停では少ないです。
ただ、主張してはならないということはありませんので、交渉戦略としてこのような主張を積極的にしていくことも検討できるところです。
6.退職金の財産分与の支払時期
6-1.退職金の財産分与は離婚時に支払うことが原則

退職金の財産分与の支払時期としては、財産分与の一環としての支払いであるため、離婚時に支払うことが原則です。
ただし、金も財産分与の対象となると言っても、実際に支給されていないのですから、手元にお金はありません。
そのため、離婚の話し合いの中で、退職金の財産分与に関しては、離婚時に支払うのではなく、将来退職金が実際に支払われた際に財産分与としての退職金も支払うという合意が成立する場合があります。
6-2.アドバンスな交渉戦略:支払い時期についての戦略
離婚調停などで「退職金の財産分与の支払時期を離婚時ではなくて将来退職金が実際に支払われた時期にしてもらいたい」という話を出すと、支払期限が実際に将来退職金の支給があった時とするかどうかの点のみならず、それと同時に、「対象となる退職金の金額についても実際の支給金額を基準に計算するべきではないか」との方向で話し合いが展開されていくこともあります。
退職金の財産分与の支払いを受けられる方からすれば、退職金の財産分与の支払いが受けられる時期が遅くなることはマイナスですが、その分実際の支給金額を基準に計算することとなれば、金額が増額することが見込まれますので、金額の点ではプラスになります。
退職金の財産分与を支払わなければならない方からしても、支払いの時期を実際に退職金の支給を受ける時期まで待ってもらえることはプラスですが、その分支払わなければならない金額が増額する可能性があるわけです。
このように、一長一短であり、当事者のいずれにもメリットもデメリットもあるため、話し合って譲歩して合意が成立する可能性は十分にあるところです。
ただし、将来退職金が支給されるまでの期間があまりにも長かったりする場合には、このような合意は現実的ではないでしょう。
7.弁護士への相談を検討しよう
退職金が財産分与の対象となるかどうか、またその額や具体的な計算方法は、夫婦の個別の状況によって異なってきます。
特に、退職金を未だ受給していない場合には、計算方法が複雑となるだけでなく、主張方法次第では、離婚の際に多額の損をしてしまう可能性もある重大な問題です。
退職金を巡る財産分与の問題には、他の財産的問題(不倫慰謝料や離婚慰謝料、養育費等)も含めてさまざまな要素が絡み合い、どのような主張や請求・計算方法が有利かを見極めるには、専門的な知識と実務経験が必要となります。
退職金だけに限らず、財産分与やその他の離婚条件(婚姻費用や年金分割、親権や面会交流)に少しでも不安を感じている場合には、早めに弁護士に相談・依頼されることをおすすめします。
また、離婚時に退職金の財産分与を受けていなかったという場合でも、財産分与の時効(離婚後2年以内)が到来していなければ、追加で相手に請求できる可能性もあります。
8. まとめ
本記事では、離婚時に退職金が財産分与の対象となるかどうか、そして対象となる場合の具体的な計算方法や支払い時期について解説しました。
本記事の重要ポイント
- 別居時又は離婚時に受給済みの退職金が預貯金などの形で実際に残っていれば、財産分与の対象となる
- 退職金が消費されていても、住宅ローンの繰上げ返済などで負債が減少した分は財産分与の計算に反映される
- 退職金が未受給の場合でも退職金が給与の後払い性質を有する限り、将来支給される蓋然性が高ければ財産分与の対象となる
- 退職金の具体的な計算方法は複数あり、交渉次第で結果が大きく変わる場合もある
- 財産分与の支払時期を、離婚時ではなく退職金が実際に支給されるときまで遅らせる合意をする例もある
レイスター法律事務所では、離婚問題に精通した弁護士による初回60分無料の法律相談を行っています。
退職金を含む財産分与や慰謝料、養育費などを適切に整理して離婚協議を有利に進めるために、ぜひ一度ご相談ください。