婚約破棄の慰謝料請求の可否や相場金額・証拠について解説

更新日:

婚約は破棄が可能!慰謝料は悪い方が払う!

 婚約してから実際に結婚するまでの期間は極めて特殊なもので、プロポーズ後に破局することも珍しいことではありません。
 結婚に「やっぱやめた」はありませんが、婚約には「やっぱやめた」があります。
 婚約相手との結婚に迷いが生じた理由次第では、婚約を破棄しても慰謝料を支払う必要はなく、むしろ婚約相手に対して慰謝料を請求できる場合もあります。
 この記事では、婚約破棄に伴う婚約相手に対する慰謝料が発生する要件と、慰謝料が発生する場合の相場金額、及び、その他婚約の破棄に伴って発生し得る経済的な負担について解説します。

1.婚約破棄を理由とする慰謝料請求

(1)「婚約」した後に感じる不安

「婚約」とは、将来結婚する約束のことを指します。

男女の関係は、多くの場合、まずは結婚後の生活を前提としていない形での交際関係の構築から始まります。

その後、将来の結婚を意識した男女は、結婚後の生活を前提とした様々な考察や検討を行いつつも関係を深めていき、やがて「婚約」をして結婚するに至ります。

「婚約」してから実際に結婚するまでの期間は極めて特殊なものです。

その期間には、結婚及び結婚した後の生活を意識した様々な準備や、結婚後の共同生活におけるライフスタイルなどに関する最終的な認識の擦り合わせなどが必要となります。

その中で、男女の関係性や各々の意識にも様々な変化が現れるものであり、婚約相手との間における価値観や人生観の違いが明確になってくることもよくあることです

男女は、「婚約」するまでの間は、「結婚」という一つの目標地点に向かって歩を進める状況であったかもしれません。

しかし、「結婚」というものは、男女の目標の一つとなり得るものではありますが、決して人生の最終到達点ではありません。

「結婚」した後には極めて長い「結婚」後の生活が続いていくことになります。


そして、「結婚」すると、途端に人生は配偶者に対して発生する様々な権利と義務に拘束されたものに変わり、人生の選択肢や自由度は激減することになります

例えば、結婚した後は配偶者と同じ戸籍に入り、同じ苗字を名乗り(民法750条)、相互に同居・協力・扶助義務(民法752条)を負い合うこにとなります。

また、夫婦は互いに貞操義務(他の異性と性的な結合関係を結ばないという義務。民法770条1項1号)を負いますので、今後手の届く範囲にどれほど素敵な異性が現れたとしても、その異性と男女の関係を深めていくことは結婚のルール違反となります。

その上、結婚後の生活が思っていたものと違ったとしても、そこから逃げ出すことは容易ではありませんし、離婚するには大変な苦労を伴います。

このように「結婚」は人生に極めて多大な影響を与えるものです。

しかしながら、「婚約」の時点では婚約相手の独身時代の顔しか知ることができませんので、結婚後に実際にどのような生活状況になるのか、結婚前にした約束はちゃんと守られるのか、子育ての協力は得られるのか、幸せになれるのかなどの事情は、本当のところ分かりません。

全ては予想の中で「婚約」、そして「結婚」という人生にとって極めて重大な決断をしなければならないことになります。

マリッジブルーという言葉が存在するぐらい、「婚約」をした後にその相手との「結婚」に不安を感じることがあることは、ある種当然のこととも言えるでしょう。

(2)「婚約」しても「結婚」は強制されない

「婚約」をしたとしても、婚約相手との結婚が強制されることはありません。

「婚約」したにとどまる時点では、考え直すことが認められます

「婚約」してから「結婚」するまでの期間は、言うなれば、今後の人生の形を決断する最後の考慮期間と言えるでしょう。

その結果、やはり婚約相手との結婚はできないとの結論に達した場合には、婚約をやめることとなります。

婚約をやめる方法としては、婚約相手と話し合って合意の上で婚約を取り消す婚約解消が最も穏当な方法です。

ただ、婚約相手が婚約の取り消しに応じない場合には、一方的に婚約を取り消すこと(婚約破棄)も認められています。

婚約をやめる方法

婚約の取消
⇨婚約相手と話し合って両者が合意の上で婚約を取り消すこと

婚約破棄
⇨一方的に婚約を取り消すこと

(3)婚約破棄の場合は慰謝料が発生する可能性がある

婚約破棄の場合には、婚約相手に対して慰謝料を支払わなければならない場合があります。

他方、婚約を破棄する正当な理由がある場合は、婚約相手に対して慰謝料を支払う必要はなく、むしろ婚約相手に対して慰謝料を請求することができる場合もあります。

2.婚約破棄を理由とする慰謝料が発生する要件

婚約破棄を理由とする慰謝料が発生する要件は、以下の2つです。

  1. 婚約が成立していること
  2. 婚約破棄に正当な理由がないこと

①婚約が成立していること

そもそも「婚約」が成立していなければ、交際相手との関係を精算することは自由恋愛の範疇の出来事として完全に自由であり、慰謝料の問題にはなりません。

では、交際相手はどこから婚約者となるのでしょうか。

以下では、どのような事情が存在していれば「婚約」が成立するのかを見ていきます。

婚約は口約束のみで成立する

婚約のやり方は決まっておらず、ただ単に男女が将来結婚することを口約束するだけでも婚約は成立します。

最高裁判所判決昭和38年9月5日

「当事者がその関係を両親兄弟に打ち明けず、世上の習慣に従って結納を取かわし或は同棲しなかったとしても、婚姻予約の成立を認めた原判決の判断は肯認しうる」

また、明確なプロポーズが存在していなかったとしても、将来結婚することを前提とした行動(結婚することを前提とした両親への紹介、結婚式場の下見や予約、新居購入など)を行なっていた場合には、当該男女の間には将来結婚する約束が存在していたと考えられ、婚約の成立が認められる場合があります。

ただし、男女が長い期間交際を続けていたり、同棲を続けていたりしただけでは婚約は成立しませんし、そのような交際関係の中で一方的に「この人と結婚することとなるんだろうな」「相手もきっとそう考えているんだろうな」と感じていたというだけでは、婚約は成立していません

将来結婚する意思が真摯なものであることが必要

婚約が成立するためには、男女の間で取り交わされた将来結婚する意思が真摯なものであることが必要です。

婚約破棄の慰謝料が問題となっている事案では、婚約の成立を否定したい相手から、将来結婚する意思が真摯なものではなかったと反論されることもよくあります。

例えば、以下のような事情がある場合には、将来結婚する意思が真摯なものとは言えないとされ、婚約の成立が否定される可能性があります。

婚約が否定される可能性がある場合

  1. 交際開始前(特に性的な関係を持つようになる前)に「結婚しよう」と言われたことがあるに過ぎない場合
  2. 性行為の最中・前後などのいわゆるピロートークの中で「結婚しよう」と言われたことがあるに過ぎない場合
  3. お酒の席で「結婚しよう」と言われたことがあるに過ぎない場合

他方、男女の間で将来結婚する約束が存在していたことに加えて、例えば以下のような事情がある場合には、将来結婚する意思が真摯なものであるとされ、婚約の成立が肯定される可能性が高いです。

婚約の成立が肯定される可能性が高い場合

  1. お互いに両親に紹介していた場合
  2. 結婚した後の同居共同生活のための新居探しをしていた場合
  3. 実際に同居を開始していた場合(この場合は内縁が成立している可能性もあります)
  4. 結婚式の開催のための準備(結婚式場の下見や予約など)を進めていた場合

婚約の成立を裁判所に認めてもらうためには証拠が必要

相手が婚約の成立を認めれば問題ありませんが、相手が婚約の成立を否定してきた場合には、裁判所に婚約の成立を認めてもらう必要があります。

そのためには、裁判所に、婚約が成立していたことを証拠に基づいて分かってもらうことが必要です。

婚約が成立していたことの証拠としては、例えば、以下のものが考えられます。

婚約の成立を立証するための証拠の具体例

相手から送られてきた手紙・メール・SNSのメッセージなど

結婚することや、同居して共同生活を行うことを前提としたメッセージは、将来結婚する約束が存在していたことの証拠となります。

結婚することを前提とした行動の証拠

  1. 婚約指輪の現物や婚約指輪を購入した際の領収書
  2. 結婚式場とのやり取りのメール履歴や結婚式場への振り込み明細
  3. 両親と一緒に撮影された写真
  4. 結納金の受書(領収書の一種)
  5. 結納金の授受があったことを示す資料

結婚後の共同生活のスタートに向けた行動の証拠

不動産業者とのやり取りのメール履歴、内覧の際に受け取った資料など

②婚約破棄に正当な理由がないこと

婚約を破棄することに正当な理由があれば、その婚約破棄は不法行為とも債務不履行ともなりませんので、慰謝料は発生しません。

むしろ婚約破棄に正当な理由がある場合には、婚約を破棄された婚約相手に慰謝料を請求できる場合もあります。

例えば、以下のような事情は婚約破棄の正当な理由に当たり得ます。

婚約破棄の正当な理由に当たり得る事情

  1. 婚約者が別の異性と肉体関係を持った
  2. 婚約者から暴力(DV)を受けた
  3. 婚約者からモラハラを受けた
  4. 婚約者が婚約成立時に婚約を決意する上で重要な事実(性的不能者である、同性愛者である、犯罪歴がある、多額の借金があるなど)を隠していたことが発覚した
  5. 婚約者が隠れて風俗に通っていることが判明した
  6. 婚約者から婚約成立時に取り決めていた結婚・共同生活に関する重要な事項(両親との同居の取り決め、新居の所在する都道府県等、結婚後の仕事、子どもに関する計画など)を守らないと言われた
  7. 婚約者が犯罪行為を犯して逮捕・服役した
  8. 婚約者が失業した後無職のまま仕事探しをしていない
  9. 婚約者から望まぬ入信や改宗を強く迫られた
  10. 婚約者が依存症(アルコール依存症・ゲーム依存症・ギャンブル依存症など)になった
  11. 婚約者から望まぬ形で性的嗜好の強要をされた
  12. その他、婚約者との間での信頼関係が喪失して結婚することを取りやめることに合理的な理由があると思われる事情

他方、以下のような事情は婚約破棄の正当な理由にはなりません。

そのため、婚約破棄をした理由が以下のようなものであった場合には、婚約相手から慰謝料を請求される可能性があります。

婚約破棄の正当な理由に当たらない事情

  1. 特に具体的な理由なく結婚することが嫌になった
  2. 婚約相手の他に気になる異性が現れた
  3. 相手の性格が嫌になった
  4. 友人や両親と話をするうちに婚約相手との結婚に消極的になった

なお、婚約が成立する前から分かっていた事情は婚約破棄の正当な理由にはなりません。

具体例で説明

事例

A女は交際相手であるB男から、自分は性的に不能であることを告白された上で、プロポーズを受けた。
A女は将来子どもを設けたいと考えていたものの、思い悩んだ末に、子なしの人生を選択し、B男からのプロポーズを受け入れた。
その後、A女とB男は互いに両親に紹介したり、結婚式場の下見をしたり、結婚後の同居生活の開始に向けた様々な準備活動をしていた。

⬇️しかし
その後、A女は、結婚後の生活を考えているうちに、どうしても子どものいる人生を諦めきれなくなり、B男との婚約を破棄する決断をした。

説明

A女は、B男が性的に不能であることを分かった上でB男と婚約しています。
そのため、B男が性的に不能であることは、婚約破棄の正当な理由とはなりません。

アドバンスな交渉戦略①

裁判例の中には、婚約後に婚約相手との間で価値観や人生観の違いが顕著に現れることも多いことや、実際に結婚するかどうかの選択の自由を維持する必要があることなどを理由として、婚約破棄の慰謝料は婚約解消の動機や方法等が公序良俗に反して著しく不当性を帯びている場合に限られるとしているものもあります(東京地方裁判所判決平成5年3月31日など)。

このような考え方の裁判官が担当することとなった場合には、婚約破棄の慰謝料が認められるのは、婚約破棄の理由が民族差別や部落差別などの公序良俗に反するような理由にある場合などに限られることとなります。

慰謝料の話し合い(交渉)においても、婚約破棄の理由の強弱や不当性の程度が、合意が成立し得る具体的な慰謝料の金額に連動することは多いです。

3.婚約破棄に伴う慰謝料の相場金額

以上のように、正当な理由のない婚約破棄を受けた場合には婚約相手に対して慰謝料を請求できる場合があります。

また、婚約破棄の理由が婚約相手の浮気・暴力(DV)・モラハラなどにある場合などの場合には、むしろ婚約破棄に伴って婚約相手に対して慰謝料を請求できる場合もあります。

このような婚約破棄に伴って婚約相手に対して請求できる慰謝料の金額は、具体的な事情によって大きく差があり、30万円〜200万円程度の幅で決まってくる場合が多いです。

ただし、婚約破棄が人生に多大なダメージを与えている場合や、婚約破棄の理由が婚約相手の浮気・暴力(DV)・モラハラなどにある場合などの場合は、慰謝料の金額は200万円を超え、具体的状況次第では400万円を超える慰謝料請求が認められる場合もあります。

高額の慰謝料が認められる可能性があるケース

  1. 婚約が成立するまでの交際期間が長いケース
  2. 婚約成立から婚約破棄までの期間が長いケース
  3. 結婚目前のタイミングで婚約が破棄されたケース
  4. 婚約相手の子どもを妊娠・出産しているケース
  5. 結婚・新生活に向けて退職・転職しているケース
  6. 婚約破棄の理由が婚約相手の浮気・暴力(DV)・モラハラなどにあるケース
    DVを立証するための証拠
    モラハラを立証するための証拠

他方、以下のようなケースでは、慰謝料が少額にとどまる場合があります。

慰謝料が少額にとどまる可能性があるケース

  1. 婚約が成立するまでの交際期間が短いケース
  2. 婚約成立から婚約破棄までの期間が短いケース
  3. 婚約破棄の理由がお互い様といい得るケース

財産的損害の賠償請求

慰謝料は婚約破棄に伴う精神的損害の賠償ですが、その他に婚約破棄によって財産的な損害が発生していた場合には、婚約相手に対して財産的損害の賠償請求ができる場合があります。

婚約破棄の事案では、むしろ財産的損害賠償の金額が高額となる場合もあります。

婚約相手に対して請求し得る財産的損害

  1. 婚約指輪や結婚指輪の購入費用
  2. 結婚式場のキャンセル料金
  3. 結婚後の住居や家具・家電類の購入費用
  4. 退職・転職による減収分(結婚に備えて退職や転職をしなければもらえていたであろう収入等の逸失利益)

アドバンスな交渉戦略②

婚約破棄の理由が婚約相手が他の異性と肉体関係を持ったことにある場合は、その異性に対して慰謝料を請求することができる場合があります。

ただし、その異性に慰謝料を請求するためには、その異性が婚約していることを知っていた(故意がある)か、婚約していないと認識していたことに過失がある場合でなければなりません。

そして、そのような相手の異性の故意・過失を証明する証拠を得ることは、実際上極めて困難です。

そのため、その婚約相手と肉体関係を持った異性に対して慰謝料請求をすることは、事実上困難な場合も多いです。

4.婚約破棄に伴う精算

⑴結納金

結納金は将来結婚することを前提として贈与された金員ですから、婚約が破棄された場合には返還する必要があります

仮に婚約相手が結納金を返還しない場合には、婚約相手に対して請求(不当利得返還請求)をすることができます。

ただし、婚約破棄の理由を作った方からの結納金の返還請求は信義則上認められないとされる場合があります(東京高等裁判所判決昭和57年4月27日判決など)。

⑵婚約指輪

婚約指輪も将来結婚することを前提として贈与した物ですから、婚約が破棄された場合には返還する必要があります

ただし、婚約指輪に関しても、婚約破棄の理由を作った方からの返還請求は信義則上認められないとされる場合があります。

⑶婚約相手の子どもを妊娠・出産した場合の子どもの養育費

婚約破棄したとしても婚約相手が実の父親であることに変わりはありません。

そのため、元婚約相手に対して子どもを認知するよう請求することや、子どもの養育費を請求することができます

5.婚約後結婚前の期間の重要性

婚約には強制的に結婚しなければならないという効力はありませんので、婚約をしたとしても望まぬ結婚を強いられることはありません。

婚約がどれほど真摯な気持ちから行われたものであったとしても、男女の関係は様々な要因で事後的に変化することがあるものです。

人生は結婚した後の期間の方が圧倒的に長いことや結婚は後から取り消すことができないものであることを考えると、婚約相手との結婚に迷いが生じた場合には、このままその相手との結婚に踏み切って良いかどうか今一度慎重に検討してみるのも良いかもしれません。

婚約相手との結婚に迷いが生じた理由次第では、婚約を破棄しても慰謝料を支払う必要はなく、むしろ婚約相手に対して慰謝料を請求できる場合さえあります。

どのような選択肢があるのか、その選択肢のリスクはどのようなものなのかについては、具体的な事情によって結論は変わってくることも多いです。

レイスター法律事務所では、無料法律相談にて、

  1. 相手との話し合いをどのように進めていくことが良いか
  2. どのような請求ができるか
  3. どのような請求を受けてしまう可能性があるか
  4. どのような証拠が必要となるか
  5. 手持ちの証拠で十分か

などといった具体的かつ実践的なアドバイスを行なっています。

婚約者との関係や婚約破棄の慰謝料問題でお悩みの際は、是非、こちらからお気軽にご連絡ください。

     

この記事の執筆者

弁護士法人レイスター法律事務所
代表弁護士 山﨑慶寛

相談のご予約はこちら

公式SNSをフォローして最新情報をcheck⬇️

      

keyboard_arrow_up

0357085846 問い合わせバナー 当事務所が選ばれる理由