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離婚した後の苗字と戸籍はどうなる?
離婚後に苗字を変えないで婚姻中の苗字のまま生活をしていくか、離婚を契機に婚姻前の苗字(旧姓)に戻すこととするか・・・。
苗字の選択は、人生において、とても大切でとても重要なものです。
人は苗字を背負って生きています。
あなたの周りの人からすれば、あなたはその苗字の人なわけです。
この記事では、離婚後の自分と子どもの苗字はどうなるのか(どのような選択肢があり、どのような手続きが必要となるのか、戸籍との関係はどのようなものか)について解説します。
1.苗字を変えないこと・旧姓に戻すことの意味
苗字は生きる上でとても大切な意味を持っています。
苗字はその人が所属する最小単位(通常は家族)を表す名称であり、人は自分の苗字を背負って生きることとなります。
周りの人は、あなたのことをその苗字で呼ばれる人と認識して、その苗字であなたのことを他の人と区別し、その苗字であなたのことを呼びます。
日本では夫婦は同じ苗字となりますので(夫婦同姓制度)、婚姻中は夫婦及び子どもは同じ苗字を背負って生きるわけです。
民法750条
夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する。
※「氏」も「姓」も「苗字」も同じ意味です。
他方、離婚後は配偶者とはもはや夫婦ではありませんので、同じ苗字を背負う必要はありません。
離婚という人生の再スタートに伴って結婚中に名乗っていた苗字を変えることは、気持ちに区切りをつける上でも大きなメリットがあるでしょう。
ただ、苗字を変更して旧姓に戻した場合は、周りの人はあなたの「苗字が変わった」ことに気が付きます。
日本では、周りの人は「苗字が変わった=離婚した」と考えますので、苗字を変えることは、婚姻中からの付き合いがある人との関係では、離婚を公表することに等しくなります。
また、苗字を変えることに伴って、様々な煩雑な事務手続が発生することにもなりますし、仕事によっては何らかの支障が生じる可能性もあるところです。
それを避けるためには、離婚した後の婚姻中に名乗っていた苗字を変えないでそのまま名乗り続けるとの選択をすることもあり得ます。
この記事では、離婚後の苗字はどうなるのか(どのような選択肢があり、どのような手続きが必要となるのか、戸籍との関係はどのようなものか)について解説します。
2.離婚後の苗字は2パターンの選択式
結婚する際に苗字を配偶者の苗字に変えた人(相手の籍に入った人)は、離婚後も婚姻中の苗字をそのまま変えないで名乗り続けることも、結婚前の苗字(旧姓)に戻すことも任意に選択することができます。
離婚後の苗字の選択肢
⇨以下のいずれかを任意に選択できる
- 婚姻中の苗字を変えないで名乗り続ける
- 結婚前の苗字(旧姓)に戻す
なお、時折、離婚した配偶者から「離婚後は苗字を戻してもらいたい」とか「離婚後も苗字はそのまま変えないでもらいたい」などといった希望を受けることもあります。
しかしながら、離婚後の苗字の選択の際の手続きにおいて、離婚した配偶者の同意が必要となるものはありません。
以下で、それぞれの選択のために必要な手続きを解説します。
3.離婚後の苗字を決める手続き
⑴離婚後の苗字の問題=離婚後の戸籍の問題である
日本は戸籍と苗字が完全に連動しており、同一の戸籍に入っている人は全員が同じ苗字になります。
結婚する際に苗字を配偶者の苗字に変えた人は、結婚する際に配偶者の戸籍に入ることに連動して、配偶者と同じ苗字に変わったということです。
そして、離婚の際には配偶者の戸籍から抜けることとなります。
抜けた後に新たに入る戸籍が婚姻中の苗字を名乗る戸籍であれば苗字は婚姻中の苗字をそのまま名乗ることになり、新たに入る戸籍が結婚前の苗字(旧姓)を名乗る戸籍であれば苗字は結婚前の苗字(旧姓)に戻ることになります。
このように、苗字をどうするかという問題は、離婚後の戸籍をどうするかという問題でもあるわけです。
⑵離婚後に結婚前の苗字(旧姓)に戻す場合の手続き
離婚後に結婚前の苗字(旧姓)に戻すためには、離婚により配偶者の戸籍から抜けた後に新たに入る戸籍が結婚前の苗字(旧姓)を名乗る戸籍であることが必要です。
そして、そのような「結婚前の苗字(旧姓)を名乗る戸籍」としては、①結婚前に入っていた戸籍に戻ることもできますし、②新たに旧姓の戸籍を作ってそこに入ることもできます。
離婚後に結婚前の苗字(旧姓)に戻す方法
①離婚後に結婚前の戸籍に戻る
※既に戸籍が存在していない場合は①の方法はできません。
②離婚後に「結婚前の苗字(旧姓)を名乗る戸籍」を新たに作ってその戸籍に入る
そして、このいずれの方法を選択するかは、離婚届の「婚姻前の氏にもどる者の本籍」の欄を記載することで決めることができます。
【離婚届の記載例】 ※引用:法務省
なお、民法は離婚に連動して婚姻前の氏に戻ることが原則的な形と考えており、後述する離婚後も苗字を変えないための手続きをしなければ、離婚に連動して結婚前の苗字(旧姓)に戻ることになります。
民法767条1項
婚姻によって氏を改めた夫又は妻は、協議上の離婚によって婚姻前の氏に復する。
⑶離婚後も苗字を変えないために必要な手続き
離婚後も苗字を婚姻中のまま変えないようにするためには、離婚により配偶者の戸籍から抜けた後に新たに入る戸籍が婚姻中の苗字と同一の苗字を名乗る戸籍であることが必要です。
そして、そのような戸籍が自然に発生するものではありませんので、そのような戸籍を新たに作ることとなります。
離婚後も苗字を変えない方法
離婚後に「婚姻中の苗字と同一の苗字を名乗ることができる新たな戸籍」を作ってその戸籍に入る
この手続きをするためには、離婚届の他に、「離婚の際に称していた氏を称する届」(戸籍法77条の2)を提出する必要があります。
「離婚の際に称していた氏を称する届」の記載内容には特に難しいところはありませんが、離婚届と同時か離婚の日から3か月以内に提出する必要があるので注意が必要です。
民法767条2項
1 婚姻によって氏を改めた夫又は妻は、協議上の離婚によって婚姻前の氏に復する。
2 前項の規定により婚姻前の氏に復した夫又は妻は、離婚の日から三箇月以内に戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、離婚の際に称していた氏を称することができる。
4.離婚後の子どもの苗字はどうなるのか
離婚後の子どもの苗字をどうするかという問題も、離婚後の子どもの戸籍をどうするかという問題です。
⑴離婚しただけでは子どもの戸籍も苗字も変わらない
結婚に伴って配偶者の戸籍に入った人は、離婚の際に配偶者の戸籍から抜けることとなります。
他方、子どもの戸籍は離婚するだけでは変わりません。
つまり、離婚後に子どもの親権者となる人が戸籍から抜けた後も、子どもは元配偶者(非親権者)を筆頭者とする戸籍に残ったままになり、子どもの苗字も結婚中の苗字と変わりません。
そのため、子どもの親権者が離婚後に結婚前の苗字(旧姓)に戻した場合は、親権者と子どもの苗字が違うという状況になります。
⑵子どもの苗字を変えるために必要な手続き
親権者と子どもの苗字が違う場合に子どもの苗字を親権者の苗字に変えるためには、子どもの戸籍を親権者を筆頭者とする戸籍に移動させることが必要です。
しかし、日本では苗字を自由に変更することは認められていませんので、役所に子どもの戸籍を自分の戸籍に移してもらいたいと伝えるだけでは、役所は移動してくれません。
それをするためには、まずは子どもの住所地を管轄する家庭裁判所に「子の氏の変更許可」の申し立てを行なって、家庭裁判所に変更許可の審判を出してもらうことが必要となります。
参考:裁判所・裁判手続案内・裁判所が扱う事件・家事事件・子の氏の変更許可
なお、家庭裁判所は、子どもの親権者からの申し立てであれば、苗字の変更を許可しないことは通常ありません。
そして、家庭裁判所から許可審判書をもらった上で、それを添付して役所にて子どもの戸籍を自分の戸籍に移動させる手続きをすることになります。
「子の氏の変更許可」の申立人は誰?
「子の氏の変更許可」の申し立てをすることができる「申立人」は子ども自身です。
ただし、子どもが15歳未満の場合は、親権者が子どもを代理して申し立てを行うことができます。
子どもが15歳未満の場合
⇨親権者が子どもを代理して申し立てを行うことができる
子どもが15歳以上の場合
⇨子ども自身が申し立てを行うことが必要
5.離婚してしばらくしてから苗字を変えることは可能?
離婚のときに決めた苗字について、離婚後しばらくしてからやっぱり旧姓に戻したい・婚姻中の苗字に戻したいと考えた場合、どのような手続きが必要となるでしょうか。
上述した通り、日本では苗字を自由に変更することは認められていません。
苗字を変更するためには、自身の住所地を管轄する家庭裁判所に「氏の変更許可」の申し立てを行って家庭裁判所に変更許可の審判を出してもらう必要があります。
参考:裁判所・裁判手続案内・裁判所が扱う事件・家事事件・氏の変更許可
ただし、家庭裁判所は、「やむを得ない事情」がある場合(苗字を変更しなければ社会生活において著しい支障を来す場合)でなければ、苗字の変更を許可してくれません。
婚姻中の苗字(離婚した配偶者の苗字)から結婚前の苗字(旧姓)に戻すことは比較的認められやすい傾向にありますが、それでも許可してもらえないことも多い印象です。
6.離婚後の苗字の選択は慎重に!
このように、離婚の際には苗字を自由に選択することができます。
ただし、一度決めた苗字を後から変更することは簡単にはできません。
苗字をどうするかは人生において極めて大きな問題でもあります。
離婚後の苗字の選択は、法律論や過去の判例・裁判例で決まる問題ではなく、一般的な正解がある問題でもありません。
離婚後の苗字の選択は、時間をかけてでも慎重に検討することが良い問題でしょう。