更新日:
浮気・不倫相手の異性に心移りしたことで配偶者との離婚を望むようになった時、素直に「好きな人ができた。その人と一緒になりたいから離婚してほしい。」などと白状するでしょうか?
そのような時、多くの場合は、真実の離婚を望む理由は隠したまま、どうにか離婚に合意してもらおうと考えます。
ただ、そのようにして離婚に至った後になって、実は離婚前から浮気・不倫をしていたことが発覚する場合もあります。
その場合、離婚を取り消したり、慰謝料を請求したりすることができるでしょうか。
このページの目次
1.離婚後に浮気・不倫が発覚することは多い
人は、結婚していても他の異性のことを好きになってしまうことがあります。
毎月のように有名人や芸能人の不倫のニュースは流れ、毎年大量の浮気・不倫を理由とする損害賠償請求事件が起こり、多くの夫婦が異性問題で離婚していることからしても、人は、浮気・不倫などの許されない恋に落ちてしまうことがある生き物であると言わざるを得ないでしょう。
そして、浮気・不倫をしている人の心理として、浮気・不倫相手との交際をきっかけとして配偶者との離婚を考えるようになることがあります。
浮気・不倫には、ただの遊びの浮気・不倫から不倫相手との結婚を考えるような本気の不倫まで様々な形がありますが、特に本気の不倫の場合は、配偶者との離婚の検討に繋がっていきやすいものです。
ただ、自分の浮気・不倫が発覚することで離婚の話し合いが難航したり、有責配偶者(夫婦の婚姻関係の破綻に主な責任を負う配偶者)であるとされて離婚できなくなってしまったりすることを恐れて、正直に「好きな人ができた。その人と一緒になりたいから離婚して欲しい。」などとは言わず、別の離婚したい理由をでっちあげてくることも多いです。
特段離婚したい理由が思い当たらなかった場合には、どうにか離婚するような状況に持っていくために、ガラッと態度を変え、配偶者に辛くあたったり、配偶者の何でもない言動に難癖をつけて自分が被害者であるかのように装ったりし、夫婦の関係性が悪化していくように仕向けてくる場合もあります。
その結果、浮気・不倫が他方の配偶者に発覚することなく離婚に至る夫婦も数多く存在しています。
ただ、離婚が成立した後に配偶者が即座に結婚(再婚)したことや、配偶者が自宅に残していった物品などがきっかけとなり、配偶者が実は以前から浮気・不倫をしていたことが発覚する場合もあります。
いわば真実の離婚理由を隠され、騙されて離婚に合意させられたわけです。
その場合、離婚を取り消したり、慰謝料を請求したりすることができるでしょうか。
2.離婚をなかったことにできる?
結論を言うと、一度成立した離婚をなかったことにはできません。
離婚をなかったことにする方法としては離婚の無効の場合と離婚を取り消す場合がありますが、真実の離婚理由を隠されていたことは、離婚を無効とする事由にも離婚を取り消せる事由にも当たりません。
つまり、浮気・不倫を隠されたままで離婚に至ったとしても、その離婚は完全に有効です。
3.元配偶者に慰謝料を請求することはできる?
離婚が成立した後であっても元配偶者に対して慰謝料を請求することは可能です。
ただし、元配偶者に慰謝料を請求するためには、以下の3つの要件が満たされることが必要です。
元配偶者に慰謝料を請求するための要件
- 浮気・不倫が夫婦の婚姻関係が破綻した原因となっていること
- 時効が成立していないこと
- 離婚の際に清算条項を取り決めていないこと
以下で解説します。
①浮気・不倫が夫婦の婚姻関係が破綻した原因となっていること
元配偶者に対して浮気・不倫の慰謝料を請求するためには、元配偶者の浮気・不倫が夫婦の婚姻関係が破綻した原因となっていることが必要です。
元配偶者の浮気・不倫とは無関係の事情によって夫婦の婚姻関係が破綻していた場合には、離婚した後に元配偶者に対して浮気・不倫の慰謝料を請求することはできません。
例えば、以下の場合は、元配偶者に対して浮気・不倫の慰謝料を請求することはできません。
元配偶者に対して浮気・不倫の慰謝料を請求できない場合
⇨元配偶者の浮気・不倫以外の事情で夫婦の婚姻関係が破綻した場合
- 元配偶者の浮気・不倫とは無関係に、性格の不一致や価値観の相違などの事情が専らの原因で夫婦の婚姻関係が破綻した場合
- 元配偶者の浮気・不倫が始まる前に夫婦の婚姻関係が悪化して別居に至っていた場合
他方、配偶者以外の異性に心を奪われて離婚を望むようになった人との間で円満な婚姻関係を維持していくことなどできません。
そのため、夫婦の婚姻関係が破綻するに至った直接の原因が元配偶者の浮気・不倫ではなかったとしても、夫婦の婚姻関係が悪化していった根本的な原因が元配偶者の浮気・不倫にあると考えられる場合であれば、元配偶者に対して浮気・不倫の慰謝料を請求することができる可能性があります。
例えば、以下のような場合です。
元配偶者に対して浮気・不倫の慰謝料を請求できる可能性がある場合
⇨元配偶者の浮気・不倫が始まった時点では夫婦の婚姻関係が破綻していなかった場合
- 夫婦の間で性格の不一致や価値観の相違などの問題が持ち上がるより以前から既に元配偶者が浮気・不倫をしていた場合
- 元配偶者の浮気・不倫が始まった後に夫婦の関係性が悪化して別居に至った場合
②時効が成立していないこと
元配偶者に対して浮気・不倫の慰謝料を請求するためには、元配偶者に対する慰謝料請求権が時効で消滅していないことが必要です。
元配偶者に対する慰謝料請求権が時効により消滅するまでの期間(時効期間)は、以下の通りです。
元配偶者に対する慰謝料請求権の時効期間
離婚に至ったことに対する離婚慰謝料請求権
⇨離婚した日から3年
不貞したこと自体に対する慰謝料請求権
⇨不貞の事実を知った日から3年
つまり、離婚した後2年間が経過した時点で元配偶者の浮気・不倫が発覚した場合には、その時点から3年が経過するまでの間は、元配偶者に対して浮気・不倫の慰謝料を請求することができます。
離婚慰謝料と不倫慰謝料
元配偶者に対する慰謝料請求は、厳密には、「離婚慰謝料」と「不倫慰謝料」の2つがあります。
離婚慰謝料
…婚姻関係を破綻させられたことに対する慰謝料
不倫慰謝料
…不貞をしたこと自体に対する慰謝料
慰謝料の交渉をする際や慰謝料請求に関する裁判ではこの2つを厳密に分けて話し合いをすることは少なく、「婚姻関係を破綻させたことに対する慰謝料」のみにスポットライトを当てて進められることが多いです。
ただ、時効については、この2つの慰謝料請求権で時効期間のカウントがスタートする時点が異なるために、この2つの違いが問題となる場合があります。
そうはいっても、この2つの慰謝料請求ごとに精神的苦痛の程度が異なることは然程想定されませんので、慰謝料の金額が大きく変わることはあまりないでしょう。
③離婚の際に清算条項を取り決めていないこと
- 清算条項がある場合は原則として慰謝料請求はできない
離婚する際に、配偶者との間で、親権・養育費・財産分与・離婚慰謝料・面会交流の条件(面会条件)・年金分割などといった様々な離婚条件を話し合って取り決めた上、離婚協議書などの書面を作成する場合があります。
清算条項とは、そのような取り決めの際に、当事者間の争いを残さず紛争を終わらせるために当事者間の合意の中に入れられる条項です。
例えば、以下のような条項です。
精算条項
当事者双方は、本件離婚に関し、本合意書に定めるほか、何らの債権債務がないことを相互に確認する。
このような清算条項は、いわば「お互いに言いたいことはあるかもしれないけれど、もうこれでいいっこなしで争うことを辞めました」という約束です。
そのため、このような清算条項の取り決めが存在している場合は、後から慰謝料を請求することは原則としてできません。
- 清算条項があっても離婚後に慰謝料を請求できる場合
清算条項を工夫する
例えば、精算条項に以下のような限定がついていた場合は、離婚後に慰謝料を請求することができます。
離婚後に慰謝料の請求を可能とする清算条項
当事者双方は、本件離婚に関し、本合意書に定めるほか、何らの債権債務がないことを相互に確認する。ただし、当事者のいずれかに婚姻期間中に不貞が存在していたことが発覚した場合には、当該不貞の慰謝料に関する事項については別途当事者双方で協議して定める。
そのため、相手が浮気・不倫をしている可能性がある場合には、このような取り決めをしておくことを検討して良いでしょう。
相手が浮気・不倫を隠したままでどうにか離婚の合意を取り付けたいと考えている場合であれば、この取り決めを真正面から拒否することは難しいところです。
アドバンスな交渉戦略
隠れて浮気・不倫をしている相手は、あなたに自分の浮気・不倫が発覚することを恐れて、「自分は浮気・不倫など絶対にしているはずがない!」という振る舞いを続けようとしています。
それであれば、そのような相手に対して、あえて過剰な要求をしてみることも考えられます。
具体的には、例えば、以下のような合意を求めるなどが考えられます。
本合意の成立後に当事者のいずれかに婚姻期間中に不貞が存在していたことが発覚した場合には、不貞をしていた当事者は、他方の当事者に対して、慰謝料として1000万円を支払う。
相手が本当に浮気・不倫をしていないのであれば、このような条項を取り決めたとしても完全にノーリスクのはずです。
相手が何かと理由をつけて合意に渋ってくる場合には、相手は実は浮気・不倫をしているのではないかとの疑いが強まります。
そのため、相手の反応を窺って今後の話し合いをどのように進めるかを検討するためにも、相手に対して上記のような提案をしてみることも、時に有用でしょう。
元配偶者に合意を求める
仮に清算条項によって法律上は請求することができなかったとしても、元配偶者が任意に慰謝料の支払いに応じるのであれば問題ありません。
元配偶者としても、隠れて浮気・不倫をしていたことが発覚したことは極めて後ろめたい事実でしょうし、既に離婚という最大の目標は達している以上トラブルは早く全て片付けてしまいたいなどと考えることもあるでしょう。
また、後述するように、元配偶者に対して慰謝料を請求できなかったとしても、元配偶者の浮気・不倫相手に対して慰謝料を請求することができる場合もあります。
元配偶者としても、そのような状況に至ることは避けたいと考え、それであれば自分が話をつけて全てを終わらせたいと考えることもあり得るところです。
そのため、元配偶者に対して、婚姻期間中の浮気・不倫について慰謝料の請求をする意思を強く有していることを伝えてみることが考えられます。
元配偶者が話し合いに応じる場合には、そのまま話し合いを進めていくことで、慰謝料を得ることができる可能性があります。
清算条項の錯誤無効を主張する
清算条項の合意をした際に元配偶者の浮気・不倫を全く知らず、元配偶者との間で話し合いのテーマにも全くあがっていなかったような場合であれば、清算条項の錯誤無効(民法95条)を主張することが可能な場合があります。
民法95条1項
意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。
一 意思表示に対応する意思を欠く錯誤
二 表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤
4.元配偶者の浮気・不倫相手に慰謝料を請求することはできる?
元配偶者に対しては清算条項ために既に慰謝料の請求ができない状況であったとしても、元配偶者の浮気・不倫相手に対して慰謝料を請求することは可能です。
また、元配偶者の浮気・不倫相手に対する慰謝料請求権の時効期間は、不貞の事実及び元配偶者の不貞の相手(元配偶者の浮気・不倫相手)を知った時から3年です。
そして、不貞の相手(元配偶者の浮気・不倫相手)を知った時とは「賠償請求が事実上可能な状況のもとに、その可能な程度にこれを知った」時をいいます(最高裁判所判例昭和48年11月16日)。
そのため、例えば離婚した後6年経過した後に元配偶者の浮気・不倫相手の氏名や住所を初めて知った場合には、その時点から3年経過するまでの間は、慰謝料を請求することができます。
5.慰謝料の相場金額
配偶者の浮気・不倫が原因で離婚に至った場合の慰謝料の相場金額(裁判所が認めている金額)は、150万円〜300万円程度となる場合が多いです。
ただし、具体的に裁判所が認める不倫慰謝料の金額は、個別具体的な増減事由によりかなりの幅があり、上記相場以上の金額が認められているケースも数多く存在しています。
慰謝料の相場金額に関しては以下の記事で詳細に解説していますので、併せてご確認ください。
関連記事
レイスター法律事務所では、無料相談において、浮気・不倫をしていた元配偶者や元配偶者の浮気・不倫相手に対して慰謝料請求が可能な状況であるか、証拠は十分であるかといった事項や、想定される不倫慰謝料の具体的な金額の幅について交渉にて解決した場合と裁判の判決に至った場合とに分けてできる限り具体的にお伝えしています。
無料相談のご予約は、こちらからお気軽にご連絡ください。