離婚に関するお金の知識-養育費

1.養育費とは

離婚により子どもの親権を失った方の親(非親権者)も、子どもの生活のための費用を負担する義務を負い続けます(民法766条、877条)。

この離婚により親権を失った方の親(非親権者)が子どもの生活のために負担するべき費用のことを養育費といいます。

2.養育費の金額の決め方

養育費の具体的な額の算定は、家庭裁判実務上、養育費算定表に基づいて行われています。

ただし、父母が養育費算定表に基づかないで養育費の金額を話し合って合意をするのであれば、その合意された金額が優先されます。

しかしながら、父母の話し合いがまとまらなければ、結局、裁判所が養育費算定表の考え方に基づいて養育費の金額を決定します。

そのため、権利者(養育費の支払いを受ける親)には養育費算定表の金額未満の金額で合意する経済的なメリットが乏しく、義務者(養育費を支払う親)には養育費算定表の金額より高額の養育費の支払いに合意する経済的なメリットが乏しいということになります。

このような状況にあるため、養育費の金額については、結局のところ、養育費算定表をベースとした金額で合意が成立することが圧倒的に多数です。

3.養育費の金額を変更する方法

養育費の金額を決めた後の事情の変更により養育費の金額が適正な金額ではなくなった場合には、養育費の金額を増減変更して適正な金額に修正することができます。

養育費の増額が認められる典型例は、子どもが15歳になったことです。

なぜなら、子どもが15歳になると、そもそも基準となる養育費算定表がより金額が高額なものに変わる(子どもに割り当てられている生活費指数の数値が62から85に増加する)からです。

他方、養育費の減額が認められる典型例は、義務者の収入の減少・権利者の収入の増加、義務者が再婚して新たに扶養するべき子どもが誕生したこと、権利者が再婚して子どもが養子縁組をしたことなどです。

ここで注意が必要なのは、たとえ明らかに養育費の減額が認められる状況であったとしても、調停や裁判で決められた養育費の金額の変更は、権利者との間で明確に合意を取り付けるか、養育費増額・減額調停・審判を申し立てて行う必要があるということです。

調停や裁判で決められた養育費の金額を独自の判断で勝手に減額してしまうと、養育費に未払いがあることとなり、強制執行を受けてしまう可能性があります。

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4.養育費の終期

養育費を支払う義務は、子どもが未成熟子である間は継続します。

未成熟子とは、一般的に、「身体的・精神的・社会的になお成熟化の過程にあって労働に従事すればその健全な心身の発育を害されるおそれがあるため労働就労を期待しがたく、そのため第三者による扶養を必要とするような期間にある子など」をいいます。

簡単にいえば、一般社会常識上自ら生計を立てて生活をしていくことが期待されていない子どものことをいいます。

そのため、一般的に、大学生などの学生も未成熟子にあたると考えられています。

他方において、子どもが高校卒業後に就職して生計を立てるに十分な収入を得ている場合は、もはや未成熟子には当たりません。

なお、例えば子どもが浪人や留年を繰り返している場合は、形式的には大学生である以上、いつまでも未成熟子として養育費の支払いが受けられることとなってしまいます。

このような結論は不当であり、そのような負担は子どもを監護養育している親権者(権利者)において甘受するべきともいえるでしょう。

そのため、家事調停実務上、養育費の終期は、「未成年者が満20歳に達する日の属する月まで(ただし、満20歳に達する日の属する月に、大学に在学していたときは、満22歳に達した後の最初の3月まで)」などと定める例が一般的です。

このように定めておけば、子どもが大学に進学しなかった場合には養育費を支払う義務は20歳までで終了することとなりますし、子どもが大学に進学した場合でも留年や浪人などの事情に関わらず養育費は子どもがストレートで大学を卒業する時まで(満22歳に達した後の最初の3月まで)で終了することとなります。

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5.子どものためにも養育費は確実に支払ってもらおう!

⑴ 安定して養育費の支払いを受けることの経済的価値は莫大

離婚の際に約束した養育費を支払ってもらえなくなったとのご相談は多いです。

そして、そのような場合でも、しっかりとしたステップを踏めば、ほとんどの場合で安定して養育費の支払いを受けられる状況に至ることができます。

養育費は毎月支払ってもらえる費用ですので、最終的には「月額×12か月×養育費の終期までの年数」の金額を受け取ることができます。

例えば、

・権利者(養育費の支払いを受ける親)の年収が150万円
・義務者(養育費を支払う親)の年収が650万円
・子どもが2人(3歳と5歳)いる

この場合、養育費の相場金額は、概ね月10万円程度(1人月額5万円程度)となります。

その場合、養育費の終期が20歳までだとすると、支払ってもらえる養育費の総額は、概ね「5万円×12か月×(18年+16年)=2040万円」程となることが見込まれます。

安定して養育費の支払いを受けるということは、これだけの大金を子どものために使うことができるということです。

子どものためにも、養育費は確実に支払ってもらうべきでしょう。

⑵ 安定して養育費の支払いを受けられる状況に至るためのステップ

離婚の際に養育費の金額を公正証書や調停・審判・裁判で決めていた場合

ステップの全体像:①交渉→②履行勧告→③履行命令→④強制執行

離婚の際に養育費の金額を公正証書や調停・審判・裁判で決めていた場合、少なくとも離婚した後しばらくの間は養育費を支払ってもらえている例が多いです。

しかし、この場合でも、ある時から養育費を支払ってもらえなくなってしまう例もよく見られます。

離婚してから期間が経過すればするほど、離婚後の新たな生活が人生に染み付いていきます。

人生の必須のパーツとして新たな恋人、新たな配偶者(再婚相手)、新たな子どもが現れ、その分自身の生活の構成要素になっていない元配偶者との間の子どもに対する興味・関心は薄れていきます(離婚後に面会交流が行われていない場合は特にその傾向が顕著です。)。

そのため、心情的にも養育費を支払い続けるという経済的負担をしたくなくなってしまうことが多いのです。

しかし、養育費の金額を

  1. 公正証書
  2. 調停
  3. 審判
  4. 裁判

のいずれかで決めていた場合であれば、いつでも義務者から養育費を強制的に取り立てる(強制執行を行う)ことができます。

問題なのは、強制執行を行うことは手間も時間もかかるということです。

そのため、離婚の際に養育費の金額を調停・審判・裁判で決めていた場合には、まずは①改めて義務者に支払いを請求したり、②履行勧告・③履行命令という制度を利用して義務者に養育費の支払いをするよう働きかけることをお勧めします。

そして、それでもなお義務者が養育費の支払いをしない場合には、④義務者から強制的に取り立てる(強制執行を行う)ことを検討するべきです。

ステップ①:義務者に支払いを請求する

養育費の金額を公正証書や調停・審判・裁判で決めていた場合であれば、義務者も自分が養育費の未払いをしていることを明確に認識しているはずです。

そのため、改めて義務者に養育費の支払いを強く請求することで、義務者が観念して養育費の支払いを再開する場合もあります。

しかし、義務者としても、様々な事情を検討した上で、いわば逃げ得を期待して腹を決めて養育費の支払いをストップしていることもあります。

また、義務者が「今までこれだけ支払ったのだからもういいだろう」「こちらにもこちらの事情があるから許してもらえるはずだ」などと独善的に都合の良いように考えている場合もあります。

そのような場合には、弁護士に義務者との交渉を依頼するという方法があります。

依頼を受けた弁護士は、義務者に対して、義務者が負っている養育費支払い義務の内容や現在未払いとなっている具体的な金額を突き付け、このまま養育費を支払わないままで逃げ得をさせることは絶対にないことを告知します。

それでも義務者が養育費の支払いを再開しない場合には、裁判所を通じて請求をしたり、強制執行を実施したりする予定である旨を再度通告し、直ちに義務者に養育費の支払いを再開するよう強く要求します。

また、後述の「ステップ②:履行勧告の制度」や「ステップ③:履行命令の制度」も適宜並行的に利用して、義務者に養育費の支払いの早期再開を迫ります。

義務者としても、弁護士から正式に請求を受けた場合には、観念して養育費の支払いを再開することも多いです。

また、弁護士に依頼をすれば、義務者と直接やりとりをしたり、自宅に義務者からの連絡が入ったりすることを避け、日常生活に影響を与えないようにしながら養育費の支払いの再開に向けて動いていくことができます。

ステップ②:履行勧告の制度を利用する

履行勧告とは、義務者に対して、家庭裁判所から、裁判所での調停・審判・裁判で決められた通りに養育費を支払うよう、電話や書面で督促してもらう制度です(家事事件手続法289条)。

この制度を利用するためには、養育費の金額を定めた際に利用した裁判所に電話もしくは窓口に赴いて、義務者が裁判所で決められた養育費の支払いをしないので裁判所から履行勧告をしてもらいたい旨を告げましょう。

ただ、履行勧告の制度は、あくまで義務者に対する説得・勧告をするにとどまるものであり、それ以上の強制力はありません。

ステップ③:履行命令の制度を利用する

義務者が裁判所からの履行勧告を受けてもなお養育費を支払わない場合には、今後は裁判所に履行命令の申出を行いましょう。

履行命令は、義務者が正当な理由なく履行命令に従わない場合には、状況によって10万円以下の過料の支払いが命じられる場合があるなど、履行勧告よりも強制的色彩の強い手続きです(家事事件手続法290条)。

強制的色彩が強い分だけ、履行勧告よりもさらに義務者が翻意して養育費の支払いを開始することが期待できます。

ステップ④:強制執行を実施する

離婚の際に養育費の金額を公正証書や調停・審判・裁判で決めていた場合には、強制執行を実施して、義務者の預貯金口座や所有不動産などの資産を差し押さえてそこから強制的に養育費の支払いを受けたり、裁判所から義務者の勤務先に連絡してもらって義務者の給与債権を差し押さえて義務者の勤務先から直接養育費の支払いを受けたりすることができます。

強制執行について詳しくは後述します。

離婚の際に養育費の金額を公正証書や調停・審判・裁判で決めていなかった場合

養育費の未払いが最も多いパターン

養育費を支払ってもらえないパターンとして最も多いのが、離婚の際に養育費の金額を公正証書や調停・審判・裁判で決めていない場合です。

この場合は、たとえ離婚の際に義務者(養育費を支払う親)との間で養育費の金額に関して明確な取り決めがあったとしても、履行勧告や履行命令の制度は利用できませんし、義務者から養育費を強制的に取り立てる(強制執行を行う)こともできません。

義務者の視点からすれば、養育費の支払いを止めたことのリスクが少ないため、その分養育費の支払いという経済的負担をすることが惜しくなってしまいやすいのです。

しかしながら、義務者が養育費の支払い義務を負っていることに変わりはありませんし、義務者の逃げ得を許すわけにはいきません。

この場合は、以下の手順にて安定して養育費の支払いを受けられる状況に至ることができます。

離婚の際に養育費の取り決めをしていた場合

離婚の際に義務者との間で養育費の金額に関して明確な取り決めをしていた場合には、

  1. 簡易裁判所に対して支払督促の申立てや少額訴訟の提起(請求金額60万円以下の場合)を行うか
  2. 地方裁判所に対して養育費の支払いを求めて訴訟を提起して、義務者が支払うべき養育費の金額を決定してもらう
    (または訴訟手続の中で義務者と養育費の金額に関して合意(和解)する)

ことが必要となります。

そして、そのようにして養育費の金額が決定されたにもかかわらずなおも義務者が養育費を支払わない場合には、義務者から養育費を強制的に取り立てる(強制執行を行う)ことが可能です。

離婚の際に養育費の取り決めをしていなかった場合

離婚の際に義務者(養育費を支払う親)との間で養育費の金額に関して明確な取り決めをしていなかった場合は、まずは養育費の月額を決めるために家庭裁判所に養育費請求調停を申し立てることが必要となります。

養育費請求調停においては適正な養育費の金額の話し合いが行われ、権利者と義務者の間で合意が成立すれば、合意内容が調停調書に記載されます。

もし相手が養育費請求調停の期日に出頭しなかったり、調停期日に出頭しても養育費の合意が成立しなかったりした場合には、調停手続は不成立となって自動的に審判手続に移ることとなります。

審判手続では、家庭裁判所が適正な養育費の金額を決定してくれます。

そして、調停調書または審判にて養育費の金額が決定されたにもかかわらずなおも義務者が養育費を支払わない場合には、義務者から養育費を強制的に取り立てる(強制執行を行う)ことが可能です。

なお、離婚の際に養育費の取り決めをしていなかった場合は、後から遡って離婚時からの養育費をまとめて請求することは難しい場合が多いです。

⑶ 養育費の強制執行をする際に重要なポイント

強制執行により養育費の支払いを受けることができる

強制執行とは、

①義務者の預貯金口座や所有不動産などの資産を差し押さえてそこから強制的に養育費の支払いを受けたり、

②裁判所から義務者の勤務先に連絡してもらって義務者の給与債権を差し押さえて義務者の勤務先から直接養育費の支払いを受けることができるようにしたり

する手続です。

離婚の際に養育費の金額を公正証書や調停・審判・裁判で決めていた場合には、プラスαの裁判所における手続(調停・審判・裁判)を経ることなく、強制執行を行うことができます。

①義務者の資産を差し押さえる場合

差し押さえるべき義務者の資産を特定できる場合

義務者の預貯金口座の銀行名及び支店名などの義務者の資産をしっかりと特定できる場合であれば、当該義務者の資産を差し押さえてそこから強制的に養育費の支払いを受けることができます。

差し押さえるべき義務者の資産を特定できない場合

義務者の資産を把握していない場合には、まずは差し押さえるべき義務者の資産を調査して特定しなければなりません。

義務者の資産を調査する方法としては、以下の方法があります。

財産開示手続(民事執行法196条以下)

財産開示手続を利用すれば、義務者を裁判所に呼び出して、自己の財産を開示させることができます。

義務者が正当な理由なく裁判所への出頭を拒んだり、裁判所に嘘をついたりした場合には、その行為は6か月以下の懲役または50万円以下の罰金という刑事罰の対象となります(民事執行法213条1項)。

つまり、逮捕されたり刑務所に入れられたり前科がついたりする可能性があるのです。

このように、財産開示手続を利用することで、刑事罰という極めて大きなプレッシャーを掛けて、義務者に正直に自己の財産を開示してもらうことが期待できます。

第三者からの情報取得手続(民事執行法204条以下)

第三者からの情報取得手続を利用すれば、裁判所が銀行などの金融機関・市区町村・日本年金機構・法務局などの機関に照会して、義務者の勤務先や預金口座・所有不動産などといった強制執行をするために必要な情報を取得してもらえます。

②義務者の給与債権を差し押さえる場合

②の義務者の給与債権を差し押さえる場合は、義務者の手取り金額の2分の1まで(義務者の手取り金額が66万円を超える場合には手取り金額の総額から33万円を差し引いた金額)を差し押さえ(民事執行法151条の2第1項3号、152条3項)、その金額分を義務者の勤務先から直接支払ってもらえるようになります。

また、養育費の強制執行の場合は、将来発生する分まで差し押さえることができるという強烈な効果が認められています(民事執行法151条の2第1項3号)。

将来発生する分まで差し押さえることが認められているということは、すなわち、一旦差し押さえを行えば、たとえ義務者が未払いを解消した上で差し押さえを取り下げてもらいたいと求めてきたとしても、延々と差し押さえ続ける(義務者の勤務先から直接支払いを受け続けることができる)ということです。

この効果は極めて強烈ですので、養育費の強制執行では、義務者の給与債権を差し押さえることが最も多いです。

なお、義務者の給与債権を差し押さえるためには義務者の勤務先を特定しなければなりませんが、義務者の勤務先が分からない場合には、第三者からの情報取得手続(民事執行法204条以下)を利用して、義務者の勤務先を調べることができます。

⑷ 養育費には時効があるので注意!

離婚の際に義務者との間で養育費の金額に関して明確な取り決めをしていた場合には、義務者に対して、未払いとなっている養育費の総額を一気に請求することができます。

しかし、未払いの養育費を請求せずに放置したままでいると、養育費を請求する権利は時効により消滅してしまいます。

養育費を請求する権利が時効により消滅するまでの期間は、以下の通りです。

原則
・・・支払期日から5年(民法166条1項1号)

調停・審判・裁判で未払養育費の金額が決まった場合
・・・支払期日から10年(民法169条1項)

※これはあくまで調停・審判・裁判で決まった未払養育費を請求する権利の消滅時効期間です。調停・審判・裁判で毎月の養育費の金額が決まった場合における当該毎月の養育費の時効期間は、原則通り支払期日から5年です(民法166条2項)。

ただし、時効期間が経過してしまったとしても、義務者が時効消滅を主張せずに任意に支払ってくれれば問題ないので、諦めずに義務者に請求をしてみましょう。

さらに、消滅時効の完成を阻止する制度として時効の完成猶予や時効の更新という制度があります。

消滅時効期間の経過間近である場合には、取り急ぎ義務者に内容証明郵便などで未払養育費の請求をして、消滅時効の完成を6か月間猶予されるようにしつつ、その6か月の猶予期間を利用して、裁判上の請求や強制執行手続の準備を進めましょう。

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この記事の執筆者

弁護士法人レイスター法律事務所
代表弁護士 山﨑慶寛

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