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養育費算定表は、子どもの教育費について、「子どもが公立中学校・公立高校に進学・通学すること」を前提として計算された養育費を算定しています。
つまり、子どもが私立学校・大学に進学・通学して高額の学費が発生する場合は、養育費算定表に基づいて取り決めた養育費の金額を支払うだけでは実際に発生する子どもの教育費に見合っていない金額しか支払っていないこととなります。
この記事では、実際に発生する子どもの教育費分の養育費の増額が認められる場合と認められない場合、具体的に増額が認められる金額、及び、一旦取り決めた後から養育費の金額を増額するための手続きについて解説します。
このページの目次
1.養育費を増額して子どもの教育費を請求したい!
多くの夫婦は、離婚する際に、離婚後の子どもの親権者の取り決めに付随して、養育費の金額を取り決めます。
養育費の具体的な金額については、裁判所は、子どもを監護・養育するために通常必要な標準的な費用を前提として作成された養育費算定表に基づいて計算しています。
※引用 裁判所:統計・資料:公表資料:平成30年度司法研究(養育費,婚姻費用の算定に関する実証的研究)の報告について
そのため、離婚する当事者間の話し合いにおいても、養育費算定表に基づいて計算されるであろう相場金額を前提として、その相場金額の範囲内の金額で当事者間に合意が成立することが圧倒的に多数です。
ただ、子どもの養育には何かとお金がかかるものであり、養育費算定表に基づいて計算された養育費では不十分であると感じることもあるでしょう。
特に、子どもが私立学校や大学に通学するような時は、その学費についても離婚する相手に負担してもらいたいものです。
この記事では、実際に発生する子どもの教育費分の養育費の増額が認められる場合と認められない場合、具体的に増額が認められる金額、及び、一旦取り決めた後から養育費を増額するための手続きについて解説します。
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2.養育費と教育費の違い
養育費とは、離婚により親権を失った方の親(非親権者)が子どもの生活のために負担するべき費用のことをいいます(民法766条、民法877条)。
養育費の中には、子どもの生活費、居住費、食費、通常の医療費などの他、一定の教育費も含まれています。
それに対し、教育費とは、子どもの教育にかかる費用全般のことをいいます。
教育費の内訳は、概ね以下のものです。
教育費の内訳
①学校教育費
⇨小学校・中学校・高校・大学などの学校教育機関に通学させるために必要となる費用(入学金、納付金、寄付金、教科学習費、教科外活動費、保健衛生費、通学費など)
②家庭教育費
⇨家庭における補助学習費(書籍代、学習用の物品代、学習塾などの習い事関連の費用など)
3.実際に発生する子どもの教育費を考慮して養育費を増額できる根拠
教育費の金額がいくらなのかは、家庭・親の教育方針などによって千差万別です。
しかしながら、養育費の支払い義務者は、養育費算定表に基づいて計算された養育費の金額を支払っていれば、基本的に子どもの養育のために法律上支払わなければならない費用を全て負担しているという扱いとなります。
ただし、養育費算定表は子どもの教育費全体のうちの学校教育費の一部のみしか考慮していません。
具体的に養育費算定表で考慮されている子どもの教育費の金額は、以下の金額です。
養育費算定表が考慮している教育費(年額)
子どもが0歳〜14歳の場合…13万1379円
※公立中学校に通学する子どもがいる世帯の年間平均収入(732万9628円)の基礎収入割合(40%)に対する公立中学校の学校教育費相当額
子どもが15歳以上の場合…25万9342円(公立高校の学校教育費相当額)
※公立高校に通学する子どもがいる世帯の年間平均収入(761万7556円)の基礎収入割合(40%)に対する公立高校の学校教育費相当額
つまり、養育費算定表は「子どもが公立中学校・公立高校に進学・通学すること」を前提として計算された養育費を算定しているのです。
そうだとすれば、子どもが私立学校・大学に進学・通学して高額の学費が発生する場合は、養育費算定表に基づいて取り決めた養育費の金額を支払うだけでは実際に発生する子どもの教育費に見合っていない金額しか支払っていないこととなります。
その場合は、実際に発生する子どもの教育費分を考慮して養育費の金額を増額しなければ、子どもの教育費に関する父母の分担が不公平な状況となってしまいます。
そのため、子どもが私立学校や大学に進学・通学するために公立中学校・公立高校の学費よりも高額の学費が発生する場合は、その分の金額について養育費の増額が認められる場合があります。
家庭教育費の分担について
家庭教育費(書籍代、学習用の物品代、学習塾などの習い事関連の費用など)が高額になるとの理由で養育費の金額を増額することは、基本的に認められません。
例えば、子どもが新たに習い事を始めたとか、子どもが留学するとかいった事情で費用が発生する場合も、そのような事情は子どもの親権者として子どもの監護養育に関する決定権を有している方の親が決めるべきことですので、法律上、養育費の増額を請求することなどは認められません。
ただし、稀な例ではありますが、離婚時に既に発生していた習い事の費用や、その習い事を行う必要性が高いという事情がある場合には、養育費の支払い義務者の同意の有無や両親の学歴・経歴・収入金額など次第では、養育費の増額ないし一時金として、一定程度養育費の支払い義務者の負担が認められる場合もあります。
また、法律上は養育費の支払い義務者に請求することができないとしても、養育費の支払い義務者が任意に支払うということであれば何らの問題もありません。
特に子どもとの面会交流の協力を継続的に続けている場合であれば、養育費の支払い義務者としても、可愛い子どものために養育費に追加して一定の費用を負担してくれるかもしれません。
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4.実際に発生する子どもの教育費を考慮して養育費の増額が認められる場合と認められない場合
子どもが私立学校や大学に通学することとなる場合でも、常に養育費の増額が認められるわけではありません。
養育費の増額が認められるか否かのポイントは、養育費の支払い義務者がそのような子どもの教育費の発生を想定できたといえるかどうかです。
例えば、離婚する際に子どもが既に私立学校・大学に通学していた場合には、実際に発生する子どもの教育費の中に私立学校・大学に通学するための費用が含まれることは、当然養育費の支払い義務者は想定できます。
また、離婚前に夫婦で子どもの教育方針・進学方針について話し合いをしており、夫婦間で子どもを私立学校・大学に通学させたいとの共通認識が存在していた場合も、養育費の支払い義務者は実際に発生する子どもの教育費の中に私立学校・大学に進学・通学するための費用が含まれる可能性を想定できたといえます。
さらに、
- 両親(特に養育費の支払い義務者)が大学・大学院を卒業していた
- 両親(特に養育費の支払い義務者)の職業が私立学校・大学・大学院の教員である
- 両親(特に養育費の支払い義務者)の収入が高収入である
などといった事情がある場合は、養育費の支払い義務者は実際に発生する子どもの教育費の中に私立学校・大学に進学・通学するための費用が含まれる可能性を想定できたとされる傾向にあります。
他方、
- 夫婦で話し合って子どもは公立学校に入学させることとしていた
- 養育費の支払い義務者が私立学校・大学への進学を反対していた
- 両親が私立学校・大学に通学していなかった(両親ともに公立高校を卒業して大学に進学していない)
- 両親の収入が低収入である
などといった事情がある場合は、養育費の支払い義務者が実際に発生する子どもの教育費の中に私立学校・大学に進学・通学するための費用が含まれることを想定していたとはいえず、養育費の増額が認められない可能性が高いです。
養育費の増額が認められるか否かのポイント
⇨養育費の支払い義務者が子どもの私立学校・大学への進学を想定できたといえるかどうか
① 私立学校・大学への進学を想定できたといえる
- 離婚時に子どもが私立学校・大学に通学していた
- 離婚前に夫婦で話し合って私学・大学に進学させようとしていた
- 両親(特に養育費の支払い義務者)が高学歴である
- 両親(特に養育費の支払い義務者)が私立学校・大学・大学院の教員である
- 両親(特に養育費の支払い義務者)が高収入である
⬇️
養育費の増額が認められる方向
②私立学校・大学への進学を想定できたといえない
- 離婚前に夫婦で話し合って公立学校に入学させることとしていた
- 養育費の支払い義務者が私学・大学への進学に反対していた
- 両親の学歴が私立学校・大学卒業ではない
- 両親の収入が低収入である
⬇️
養育費の増額が認められない方向
5.養育費の増額が認められる具体的な金額
実際に発生する子どもの教育費を考慮して養育費の増額が認められる場合の養育費の増額分の具体的な金額は、以下の方法で計算されることが通常です。
養育費の増額分の金額の計算方法
① 実際に発生する私立学校・大学に関する教育費から、養育費算定表で考慮されている教育費の金額を差し引く
② ①の計算の結果算出された金額を、養育費の権利者と義務者の基礎収入に応じて按分して養育費の支払い義務者が実際に負担するべき年額を算定する
③ ②で算定した年額を月額に換算する
①実際に発生する私立学校・大学に関する教育費から、養育費算定表で考慮されている教育費の金額を差し引く
まずは、実際に発生する私立学校・大学に関する教育費から、養育費算定表で考慮されている教育費の金額を差し引きます。
養育費算定表で考慮されている教育費の金額を差し引く理由は、その金額分については養育費算定表に基づいて計算された養育費を支払っていれば既に負担したこととなるからです。
また、この際に養育費の増額の検討において考慮されるべき私立学校・大学に関する教育費の範囲には、以下の考え方があり得ます。
養育費の増額の検討において考慮されるべき私立学校・大学に関する教育費の範囲
- 子どもが私立学校・大学に進学・通学するために必要となった実際の費用の総額
- 実際の総額から被服代・鞄代などの物品等差し引いた金額
- いわゆる学費の金額のみ
この点に関しては、自分にとって最も有利な主張をした上で、話し合って金額を調整していく流れとなることが多いです。
また、養育費算定表で考慮されている教育費の金額が具体的にいくらなのかの点に関しても、以下の考え方があり得ます。
養育費算定表で考慮されている教育費の金額の具体的な金額の考え方
- 子どもが14歳までは「13万1379円」、15歳以上なら「25万9342円」とする考え方
- ❶の金額を実際の世帯年収に応じて増減させる考え方
この点は、❶の考え方は、子どもが14歳までの場合は世帯年収が「732万9628円」であることを前提として「13万1379円」という金額が算定されており、子どもが15歳以上の場合は世帯年収が「761万7556円」であることを前提として「25万9342円」と計算されているため、実際の世帯年収がそれとは異なる場合には、その分を計算して増減させる考え方の方が、理論的には正しいといえます。
ただ、いずれの考え方でも話し合いがまとまる可能性があるところですので、この点に関しても、自分にとって最も有利な主張をした上で、話し合って金額を調整していくこととなるところです。
② ①の計算の結果算出された金額を、養育費の権利者と義務者の基礎収入に応じて按分して養育費の支払い義務者が実際に負担するべき年額を算定する
基礎収入とは実際に生活費として使用できるであろう金額のことをいいます。
基礎収入金額は、収入金額に一定の割合(基礎収入割合)を掛け算することで計算することとなります。
基礎収入割合は、以下の通りです。
基礎収入割合
・給与所得者の場合
・自営業者の場合
具体例で説明①
・200万円の給与所得がある場合の基礎収入金額
⇨200万円×43%=86万円
・400万円の事業所得がある場合の基礎収入金額
⇨400万円×55%=220万円
・500万円の給与所得と400万円の事業所得がある場合の基礎収入金額
⇨500万円×42%+400万円×55%=430万円
具体例で説明②
事例
- 妻(養育費の権利者):200万円の給与所得
- 夫(養育費の支払い義務者):500万円の給与所得+400万円の事業所得
子どもが私立高校に進学して教育費として100万円が必要となり、そこから養育費算定表で考慮されている教育費の金額として「28万円」を差し引くこととなった。
計算
❶ ①の計算で算出された金額
→100万円−28万円=72万円
❷ 妻と夫の基礎収入金額
・妻の収入は200万円の給与所得
→妻の基礎収入金額は「200万円×43%」の86万円
・夫の収入は500万円の給与所得と400万円の事業所得
→夫の基礎収入金額は「500万円×42%+400万円×55%」の430万円
❸ ❶の金額を妻と夫の基礎収入金額で按分して夫の負担分を計算
→72万円×(430万円÷(86万円+430万円)=60万円
結論
つまり、夫は、養育費の増額分として年額60万円を支払うべきこととなる。
③ ②で算定した年額を月額に換算する
②で計算した金額は年額ですので、これを毎月の支払い金額に引き直す(12か月で割る)必要があります。
具体例で説明③
上記の例ですと、夫が養育費の増額分として支払うべき年額は60万円ですので、これを月額に換算すると月額5万円(60万円÷12か月)となります。
そのため、夫は、妻に対して、養育費の増額分として月額5万円を支払うべきこととなります。
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6.養育費を後から増額することはできるか
離婚した後に子どもが私立学校・大学に進学することとなった場合に、離婚の際に取り決めた養育費の金額を増額変更することはできるでしょうか。
⑴養育費の金額の増額変更は可能
養育費の金額は一度取り決めたら変更が認められないものではなく、後から養育費の育費の金額を増額変更することも認められています。
家庭裁判所も養育費増額調停という制度も用意しています。
⑵養育費の増額の手続き
- 養育費の支払い義務者との間で話し合って決める
養育費の支払い義務者が養育費の増額に応じるのであれば問題ありません。
その場合は、後から言った言わないの争いとならないためにも、できるだけ養育費の支払い義務者との間で合意が成立した養育費に関する事項を明確に記載した書面を作成しておきましょう。
さらに、可能な限り公正証書にしておくことをお勧めします。
養育費に関する合意を公正証書にしておくことで、相手が養育費を支払わなくなった場合に強制執行を行うことができるようになります。
公正証書にはこのような極めて強い効力がありますので、養育費に関する取り決めを公正証書にしておくことにより、相手が取り決めた内容通りの支払いを確実に行ってくれる可能性が高まります。
- 養育費増額調停を申し立てる
養育費の支払い義務者が養育費の増額の話し合いに応じなかったり、増額を認めなかったりする場合もあります。
その場合は、家庭裁判所に養育費増額請求調停を申し立てて、調停委員を間に入れて、相手との話し合いを進めることとなります。
そして、義務者との間で養育費に関して合意が成立すれば、合意内容が調停調書に記載されます。
- 養育費増額審判で裁判所が決定する
養育費の支払い義務者が養育費増額調停の期日に出頭しなかったり、調停期日に出頭しても増額を拒否して増額の合意が成立しなかったりした場合は、調停手続は不成立となって終了し、自動的に審判手続に移行します。
そして、審判手続では、家庭裁判所が当事者双方の主張や資料などを検討して、養育費の増額が認められるかどうか及び増額されるべき金額を決定してくれます。
その際、裁判所は、離婚時に取り決めた養育費の金額を増額するべき「事情の変更」が発生した場合に、養育費の金額の増額変更を認めます。
例えば、離婚する際に既に子どもが私立学校・大学に入学していたり、離婚する際に将来入学する可能性が高かったりした場合は、離婚する際の取り決めのタイミングから「事情の変更」はないとされ、養育費の増額が認められない可能性があります。
他方、離婚する際には子どもが私立学校・大学に進学することを想定していなかった場合や、いじめ・居住環境など何らかの事情によって子どもを私立学校に通学させざるを得なくなったような場合には「事情の変更」が認められる可能性があります。
アドバンスな交渉戦略
子どもが将来私立学校・大学に進学するかどうかが未定の場合には、将来養育費の増額の話し合いをする余地を広げ、養育費増額調停・審判で「事情の変更」が認められる可能性を高めるために、例えば、最初の養育費の取り決めの際に、以下のような取り決めを一緒にしておくことが検討できます。
「将来子どもが私立学校・大学に進学する場合には、そのために必要となる教育費の分担について、父母で誠実に協議して定める。」
7.離婚時には子どもの将来の選択肢を踏まえて離婚条件を取り決めよう
養育費の金額は後から増額することが認められるものではありますが、養育費の支払い義務者が養育費の増額に応じない場合には、養育費増額調停の申し立てや審判手続きなどといった対応が必要となってしまいます。
また、その結果、養育費の増額が認められない可能性も存在しています。
養育費の支払い義務者の資金協力が得られない場合には、子どもに私立学校・大学への進学を諦めさせざるを得なかったり、借金・奨学金などを負担せざるを得なかったりする可能性が生じます。
子どもの将来の選択肢を広く残しておくためにも、最初に養育費を取り決める際には、子どもの将来を見据えた上で離婚条件を検討し、取り決めることが良いでしょう。
レイスター法律事務所では、無料相談において、養育費算定表で計算された養育費の金額よりも養育費の増額が認められる可能性があるかどうか、増額できる養育費の具体的な金額、増額の合意を得るために必要な視点や手続き、そのために必要となる証拠は何かなどといった事項について、具体的なアドバイスを行なっています。
子どもの養育費や教育費に関してお悩みの際は、是非、こちらからお気軽にご連絡ください。