いきなり離婚裁判の提起は可能?調停前置主義の内容・例外・注意点を解説

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離婚調停をやることなくいきなり離婚裁判を提起することは認められるのでしょうか。

法は、離婚裁判の提起前に「まず家庭裁判所に家事調停の申立てをしなければならない」と規定しています(調停前置主義)。

ただ、相手が絶対に離婚に合意しそうにない場合や、相手が生死不明・行方不明であったり、病気で意思疎通ができない場合もあります。

また、「家事調停の申立て」はしたものの、調停を取り下げたり、調停が不成立になってから長期間が経過したり、調停不成立ではなくて「別居調停」が成立している場合もあります。

どのような場合であれば離婚裁判の提起が認められるのでしょうか。

1.裁判離婚をいきなり提起するという方法

裁判離婚をいきなり提起するという方法

裁判離婚とは、家庭裁判所に離婚裁判(離婚訴訟)を提起して離婚判決を得ることにより離婚する場合をいいます。

裁判離婚は裁判官に離婚判決を出してもらう離婚の方法ですので、離婚の協議や離婚調停とは異なり、相手に離婚に合意してもらう必要はありません

そのため、相手の要求を聞く必要はありませんし、相手と長々と話し合いを続けた結果結局離婚の合意が成立しなかったということもありません。

離婚裁判を提起した場合の離婚成立率は8割以上ですし、離婚裁判では1歩1歩確実に結論(判決)に向かって歩みを進めていくことが可能です。

離婚裁判全般について詳しくは、【離婚裁判は離婚達成のための最終手段!手続きの流れや期間・要件などを解説】をご確認ください。

そうであれば、離婚したい場合にはいきなり離婚裁判を提起すれば良いのではないかとも思われます。

しかし、法律上、いきなり離婚裁判を提起することは認められておらず、まずは離婚調停を申し立てなければならないというルールになっています(調停前置主義。家事事件手続法第257条1項)。

調停前置主義(家事事件手続法第257条1項)

第244条の規定により調停を行うことができる事件について訴えを提起しようとする者は、まず家庭裁判所に家事調停の申立てをしなければならない。

そのため、残念ながら、いきなり離婚裁判を提起するという方法は原則として認められていません

2.相手が絶対に離婚に合意しない場合にも離婚調停を経る必要があるか

相手が絶対に離婚に合意しない場合にも離婚調停を経る必要があるか

相手が絶対に離婚に合意しないという強い意向を示している場合には、離婚の協議をしたり、離婚調停をしたりするだけ無駄であるようにも思えます。

しかし、離婚の合意が成立しないと考えられる理由が、そのような「相手がそういう人だから」「相手が拒否しているから」といった主観的な事情にある場合は、残念ながら調停前置主義の適用を免れることはできません。

そのような場合であったとしても、いきなり離婚裁判を提起することは認められておらず、まずは離婚調停を申し立てなければならないことになります。

そのため、仮に家庭裁判所に対して離婚調停を経ることなくいきなり離婚裁判を提起したとしても、家庭裁判所はその事件を調停に変えてしまいます(家事事件手続法第257条2項本文)。

家事事件手続法第257条2項本文

前項の事件について家事調停の申立てをすることなく訴えを提起した場合には、裁判所は、職権で、事件を家事調停に付さなければならない。

このように、いきなり離婚裁判を提起したとしても、結局、家庭裁判所により、無理やりに離婚調停を先にやらされることとなります。

3.いきなり離婚裁判を提起することが認められる場合

いきなり離婚裁判を提起することが認められる場合

法が離婚問題について調停の前置(まずは調停で話し合いをすること)を求めている理由は、離婚問題という身分関係の変動を伴う人生に与える影響が極めて大きな問題については、いきなり裁判所が一刀両断的に判断をするのではなく、まずは当事者間で話し合いによる解決を試みてもらうことが必要であると考えているためです。

そうであれば、相手がどうせ離婚に合意するわけがないという主観的な事情を超え、「そもそも相手との話し合いをすること自体が客観的に不可能」と考えざるを得ない場合には、流石に法も離婚調停の前置を要求していません(家事事件手続法第257条2項ただし書)。

家事事件手続法第257条2項ただし書

ただし、裁判所が事件を調停に付することが相当でないと認めるときは、この限りでない。

「事件を調停に付することが相当でない」とは、例えば、

  1. 相手が生きているのか死んでいるのかが不明の場合(生死不明)
  2. 相手がどこにいるのかが分からない場合(行方不明)
  3. 相手が強度の精神病などのために話し合うことができない場合

などの場合を言います。

このような場合には離婚調停を申し立てるのは文字通り完全に無駄ですので、裁判所も多くの場合でいきなり離婚裁判を提起することを認めています。

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4.調停が前置されているかどうかが問題となる場合

離婚調停を実施し、調停期日において離婚の合意の形成に向けて相手と話し合ったものの話し合いがまとまらずに調停が不成立となって終了した場合には、次のステップとして離婚裁判の提起が認められます。

ただ、以下のような場合は、再度の離婚調停の実施を求められてしまう可能性があります。

再度の離婚調停の実施を求められてしまう可能性がある場合

  1. 離婚調停を取り下げた場合
  2. 離婚調停が不成立となってから長期間が経過していた場合
  3. 離婚調停が不成立ではなく「別居調停」という形で成立していた場合

①離婚調停を取り下げた場合

調停が前置されているかどうかが問題となる場合

上述したように、法が離婚裁判を提起する前に離婚調停を経ることを要求している理由は、まずは当事者間で話し合いによる解決を試みてもらうことが必要であると考えているからです。

そのため、例えば、離婚調停を申し立てた直後(初回の期日が実施される前)に取り下げた場合には、調停手続において夫婦間が離婚問題について全く話し合いをしていないので、調停が前置されているとは言えませんので、調停が前置されているとはいえません。

では、離婚調停を申し立てたものの、相手が調停の期日に裁判所にこなかった場合はどうでしょうか。

この場合は、ちゃんと離婚調停にて話し合いをするつもりであったのに、相手が裁判所に来ることさえしなかったために調停で離婚の話し合いができなかったものです。

申立人は、話し合いによる解決を試みたものの、それが功を奏さなかったという状況ですので、離婚裁判の提起が認められても良いようにも思えます。

しかし、家庭裁判実務上は、相手が離婚調停の初回期日に1回来なかっただけですぐに離婚調停を取り下げた場合には、未だ調停での話し合いを十分に試みていないとされ、裁判所に調停が前置されていないと判断されてしまう可能性が高いです。

さらには、調停での話し合いが実際に行われていたとしても、離婚調停が取り下げられている場合には、家庭裁判所に調停での話し合いは未だ不十分であると判断され、調停が前置されていないと判断されてしまう可能性があります。

このように、離婚調停が取り下げられている場合は、裁判所に調停の前置がされていないとされ、再度の離婚調停を経ることを求められてしまう可能性が残ります。

そのため、確実に離婚裁判を提起して裁判で離婚を進めるためには、離婚調停を取り下げるのではなく、調停手続きを不成立という形で終了させることが良いでしょう。

なお、調停を不成立とするかどうかは、調停の申立人ではなく、担当の裁判官が判断します。

そして、家庭裁判実務上、離婚調停に相手が来なかったとしても初回期日でいきなり離婚調停を不成立としてもらえることは稀であり、少なくとも2回以上相手が裁判所に無連絡で理由を告げることなく来なかったなどの事情が必要となる場合が多いです。

②離婚調停が不成立となってから長期間が経過していた場合

離婚調停が不成立となってから長期間が経過していた場合

離婚調停が不成立で終了した直後であれば、問題なく離婚裁判の提起は認められます。

他方、例えば、離婚調停が不成立で終了してから長期間経過していた場合は、その長期間の間に夫婦の生活状況は変動していたり、夫婦の考えが変わっていたりする可能性があります。

この場合は、離婚調停の不成立から長期間経過後の今現在の夫婦の間には、離婚問題に関して離婚調停での話し合いが前置されている状況とは言えないと判断されてしまう可能性があります。

このように、離婚調停が不成立で終了してから長期間が経過してしまうと、裁判所に「もう一回離婚調停を申し立てて話し合いでの解決を試みてください」と言われてしまう可能性が出てきます。

具体的にどの程度の期間が経過してしまうと調停の前置が認められなくなるのかの一般的な基準はありませんが、概ね調停不成立から1年以内であれば調停の前置が認められ、離婚訴訟の提起が認められるものと考えられます。

③離婚調停が不成立ではなく「別居調停」という形で成立していた場合

別居調停とは、「当面の間、別居する」という内容で成立する調停のことをいいます。

別居調停が成立する際には、「別居する」という合意の他に、別居中の生活費(婚姻費用)の分担や、子どもの監護・養育のあり方、子どもと別居親との面会交流の条件などといった、別居中の生活に関する取り決めが一緒にされる例もあります。

別居調停は、夫婦の婚姻関係をどうするかの結論を先送りにしつつ、差し当たってしばらくの間は今の状況のまま別居を続けましょうという合意であり、将来の離婚を前提とするものでも将来の復縁を前提とするものでもありません。

このように別居調停が成立している場合は、夫婦の間で離婚問題について「結論を先送りにした」という状況ですので、離婚裁判を提起した際に、裁判所に「離婚問題については未だ調停での話し合いが尽きていない」と判断されてしまう可能性があります。

そのため、離婚裁判の提起を考えている場合は、相手や調停委員から別居調停の打診をされたとしても、それに応じるかどうかは慎重に検討するべきです。

5.相手が離婚に合意しなさそうでもまずは調停での離婚合意を目指そう!

相手が離婚に合意しなさそうでもまずは調停での離婚合意を目指そう!

上述したように、相手が「絶対に離婚には合意しない!」「何がなんでも離婚しない!」と意固地になっている場合であっても、いずれにせよ離婚裁判の前に離婚調停を実施することが必要となります。

そのため、ここは一旦腰を据えて、調停手続きでの離婚の合意成立を最初から諦めるのではなく、まずは切り替えて離婚調停における離婚合意の達成を真剣に目指してみることをお勧めします。

調停手続において夫婦の間に入って話し合いを取り持ってくれる調停委員は並々ならぬ熱意で調停をまとめようと必死に検討し、事実上、「離婚に合意しない方をどうにかして離婚に合意させること」に多くの力を注いでくれます。

そのためもあり、どんなに離婚を強く拒否している相手であっても、離婚調停の手続きを通じて様々な工夫を凝らして説得を続けることで、調停離婚が成立する可能性は十分に存在しています

実際、離婚調停では、全体の半数近く(離婚調停中に協議離婚が成立した場合も含む)で離婚の合意が成立しており、離婚調停に弁護士が関与している場合にはさらに離婚合意の成立率は高まります。

参照:裁判所・令和4年 司法統計年報(家事編) 

離婚調停にて離婚を拒否している相手との間で離婚合意を達成するための工夫やノウハウは様々ありますので、相手が離婚に合意しないことでお悩みの場合は、レイスター法律事務所の無料法律相談をご利用ください。

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この記事の執筆者

弁護士山﨑慶寛

弁護士法人レイスター法律事務所
代表弁護士 山﨑慶寛

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