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離婚届の提出を受けた役所は、たとえその離婚届が相手に無断で提出されたものであったとしても、離婚届の記載の形式的な面の不備がなければ離婚届を受理します。
しかしながら、相手が離婚届の提出に同意していない以上、離婚は無効です。
そのため、離婚届を提出した後に再婚をしても重婚となって再婚の取り消し事由となりますし、重婚罪という犯罪で再婚相手もろとも処罰される可能性もあります。
しかも、離婚届を受理したことは相手に通知されるため、すぐに相手に知られることになります。
さらには、相手に無断で離婚届を提出する行為には犯罪が成立する可能性もあります。
このページの目次
1.相手が離婚に同意していなくても役所は離婚届を受理する
離婚する夫婦の大部分は協議離婚(離婚すること及び離婚条件について夫婦が話し合って合意して離婚を成立させるとの方法)で離婚しています。
しかし、離婚したいのに相手がどうしても離婚することに同意してくれない場合もあります。
その場合は、弁護士などの第三者を間に入れて交渉を進めるか、離婚調停を申し立てるかして、相手との間で離婚の話を進めていくことが必要となります。
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ただ、そのようなことをしている期間は離婚が成立しませんし、じっくりと話し合ったとしても結局相手が離婚に合意しなければ、最終的には離婚裁判で離婚判決を勝ち取るまで離婚が成立しません。
では、このような離婚紛争の長期化を回避するために、離婚に同意していない相手に無断で離婚届を役所に提出たらどうなるでしょうか?
なんと役所は無断で提出された離婚届でも受理します。
2.離婚届が受理された場合の状況
⑴役所は提出された離婚届の何を確認するか
役所は、提出された離婚届の記載の形式的な面の不備のみをチェックし、その点に不備がなければ離婚届を受理します。
役所は、相手が離婚に同意しているかどうかは確認しませんし、相手に役所まで来てもらうことや電話で確認をすることなどはしません。
それどころか、離婚届を郵送で提出することも認められています。
離婚届には相手の署名が必要ですが、たとえその相手の署名が別の人が記入したものであったとしても、役所は離婚届を受理します。
なお、離婚届を役所に提出した際にその場にいなかった配偶者に対しては、離婚届が受理された旨の通知が行われます。
そのため、相手に無断で離婚届を提出したことは、その通知により相手に発覚します。
⑵役所が離婚届を受理すると戸籍に「離婚」と記載される
離婚届が役所に受理されると、その時点で離婚が成立した扱いとなり、戸籍に「離婚」と記載され、婚姻の際に入籍した方の戸籍は別の戸籍(結婚前の戸籍or離婚の際に新たに作成した戸籍)に移ります。
このように、離婚届は、相手が離婚に同意していなかったとしても、夫婦の一方のみが相手に無断で提出してしまうことができてしまうのです。
なお、離婚後の戸籍及び苗字(氏)がどうなるのかの点については【離婚後に苗字を変えない方法と結婚前の苗字(旧姓)に戻す方法を解説】をご確認ください。
⑶ただし離婚は無効!
法律上、協議離婚(離婚すること及び離婚条件について夫婦が話し合って合意して離婚を成立させるとの方法)が有効に成立するためには、以下の2つの要件を満たすことが必要です。
協議離婚の要件
- 離婚届を役所に提出し受理されること
- 離婚届を役所に提出する時点で夫婦の双方に離婚する意思があること
※離婚する意思=離婚届を提出する意思
そうだとすれば、離婚届を役所に提出する時点で相手が離婚届を提出することに同意していない場合には、②の要件が満たされていないことになります。
なお、②の要件を満たすために必要な「離婚する意思=離婚届を提出する意思」は「離婚届を役所に提出する時点」で必要となります。
そのため、離婚届に署名・押印をする際には本当に離婚をするつもりであったとしても、離婚届に署名・押印をした後に気が変わって離婚する気がなくなった場合は、②の要件を満たしていないことになります。
②の要件を満たしていないということは、離婚は無効であるということです。
その結果、離婚は無効であるにも関わらず、離婚届は役所の受理されてしまい、戸籍上は「離婚」が成立したことを前提とした記載がされているという状況になります。
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3.離婚が無効の場合に戸籍の記載を訂正する方法
⑴役所に言っても役所は戸籍を訂正してくれない
離婚の成立要件が満たされていない以上、離婚は無効です。
その場合は、役所に行って経緯を説明して離婚届の提出を取り消して戸籍を訂正してもらえば良さそうなものです。
しかし、役所に行って「離婚届が勝手に提出されました!私は離婚に同意していないので、離婚は無効です!離婚届を返してください!戸籍の記載を戻してください!」と伝えても、役所は対応してくれません。
役所には、一度受理した離婚届を取り消す権限がないのです。
⑵戸籍の記載を訂正するためには裁判所を通じた手続きが必要となる
役所に戸籍の記載を訂正してもらうためには、裁判所を利用した手続を通じて「実は離婚は最初から無効だった」ということを確認しなければならないことになっています。
具体的には、まずは家庭裁判所に協議離婚無効確認調停を申し立てる必要があります。
裁判所・裁判手続案内 ・裁判所が扱う事件・家事事件・協議離婚無効確認調停
協議離婚無効確認調停では、離婚届を無断で提出した相手との間で、調停委員を間に入れて、離婚が無効であることについて話し合うこととなります。
その調停での話し合いを通じて、相手との間で離婚が無効であることの合意が成立すれば、家庭裁判所が事実の調査などを行った上で、離婚が無効であるとの合意に相当する審判が出されます。
他方、離婚届の無断提出をした相手が協議離婚無効確認調停の期日に裁判所に来なかったり、裁判所に来たとしても離婚が無効であることを認めなかったりした場合には、調停は不成立となって終了してしまいます。
その場合は、協議離婚が無効であることを確認する裁判(協議離婚無効確認訴訟)を提起して、裁判所に離婚が無効であることを確認する判決を出してもらうことが必要となります。
離婚の無効確認を行うことができる期間
無効な離婚が時間の経過によって有効となることはありません。
離婚届が提出されてから1年後でも、10年後でも、30年後でも、いつでも協議離婚無効確認の手続きを始めることが可能です。
ただし、無効な離婚を追認することは認められており、無効な離婚を追認した後に、やっぱり離婚は無効だと主張することはできません。
いきなり協議離婚無効確認訴訟を提起することはできるか
いきなり協議離婚無効確認訴訟を提起することは原則として認められず、まずは協議離婚無効確認調停を申し立てなければならないことになっています(調停前置主義)。
その結論は、離婚届を無断で提出した相手が離婚の無効に絶対に合意しないという強い意向を示していたとしても変わりません。
仮に家庭裁判所に対して協議離婚無効確認調停を経ることなくいきなり協議離婚無効確認訴訟を提起したとしても、家庭裁判所はその事件を調停に変えてしまいます(家事事件手続法第257条2項本文)。
ただし、以下のような場合であれば、協議離婚無効確認調停を申し立てるのは文字通り完全に無駄ですので、裁判所も多くの場合でいきなり協議離婚無効確認訴訟を提起することを認めています。
- 相手が生きているのか死んでいるのかが不明の場合(生死不明)
- 相手がどこにいるのかが分からない場合(行方不明)
- 相手が強度の精神病などのために話し合うことができない場合 など
4.離婚届の不受理申出書を出しておけば離婚届の無断提出は防げる!
相手が離婚届を勝手に提出してしまう不安が少しでもある場合は、役所に離婚届の不受理申出書を提出しておくことをおすすめします。
役所に離婚届の不受理申出書を提出しておけば、役所はその離婚届の不受理の申出が取り下げられるまでの間、離婚届の受理をしません。
なお、離婚届の不受理申出書は相手の同意なく提出することはできますが、原則として郵送で提出することは認められません(提出の際に役所で本人確認を受けることとなります)。
5.相手に無断で離婚届を提出してはならない理由
⑴いつ離婚が無効とされるのかが分からない状況が延々と続く
上述したように、相手が離婚届を提出することに同意していなければ離婚は無効です。
しかも、無効な離婚が時間の経過によって有効となることはありません。
そのため、いつまで経っても「相手の気持ち次第で離婚が無効となる」という状況が延々と続くこととなります。
⑵相手に無断で離婚届を提出することは犯罪です!
上述したように、離婚届は無断で提出しても受理されるにも関わらず、後から戸籍を訂正することはかなりの時間や手間が必要となります。
だからといって、相手がどうしても離婚に同意しない場合には、相手に無断で離婚届を提出しちゃえば、相手は手間を嫌がって結局なし崩し的に離婚の方向でことが進む可能性があるから、相手に無断で離婚届を提出してしまえば良い、ということではありません。
相手に無断で離婚届を提出する行為は、違法であって犯罪行為となり得る行為です。
具体的には、以下の犯罪が成立する可能性があります。
役所に提出する目的で離婚届を偽造した場合
私文書偽造罪(刑法159条1項)が成立する可能性がある
偽造した離婚届を役所に実際に提出した場合
偽造私文書行使罪(刑法161条1項)が成立する可能性がある
相手が離婚に同意していないことを知りながら役所に離婚届を提出した場合
公正証書原本不実記載等罪(刑法157条1項)が成立する可能性がある
※仮に離婚届自体は偽造していない(相手が署名・押印していた)場合でも成立する可能性がある
⑶再婚しても重婚となる!
裁判上の手続で離婚が無効であることが確認された場合、離婚は最初からずっと無効だった(=ずっと婚姻関係が継続していた)ということになります。
しかしながら、戸籍上は既に離婚が成立しているかのような記載となっていたのですから、離婚の無効が確認されて戸籍が訂正されるまでの間に再婚しようと思えば再婚できてしまいます。
そして、再婚した後に離婚の無効が確認された場合は、「重婚」と言われる状況になり、再婚の取り消し事由となります。
また、重婚罪(刑法184条)という犯罪で、再婚相手もろとも処罰される可能性もあります。
刑法184条
配偶者のある者が重ねて婚姻をしたときは、2年以下の懲役に処する。その相手方となって婚姻をした者も、同様とする。
⑷まとめ
相手に無断で離婚届を提出することは絶対にやめ、正規の方法で離婚する道を検討しましょう。
離婚は、離婚問題に精通した弁護士に依頼をすれば、高確率で成立に至ることができます。
レイスター法律事務所では、無料相談にて、同居・別居の別や子あり・子なしの別などの具体的な状況を踏まえて、
- 早期かつ好条件での離婚成立のために最適な離婚交渉の方針や交渉戦略
- 離婚成立までの婚姻費用(生活費)の具体的な金額
- 想定される離婚条件(財産分与・慰謝料・解決金・養育費など)の金額
などといった離婚問題全般の見通しなどについて、具体的なアドバイスを行なっています。
どのように離婚問題を進めていくかお悩みの際は、是非、お気軽にこちらからご連絡ください。