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「価値観の違い」を理由に離婚する夫婦は数多く存在します。
夫婦は大なり小なり互いに「価値観の違い」を感じ、それを受け入れて認め合ったり許し合ったり、話し合ってちょうど良い状況を探ったりしつつ、円満な夫婦の関係性を維持しています。
しかし、受け入れられないような顕著な「価値観の違い」が表面化し、それが原因となって夫婦の婚姻関係が破綻に至る場合もあります。
この記事では、離婚に至り得る夫婦間の「価値観の違い」の典型例や、「価値観の違い」を理由とする離婚の進め方について解説します。
このページの目次
1.離婚に至り得る夫婦間の「価値観の違い」
「価値観」の意味を言葉で表現することは困難ですが、あえて言うならば、「物事に関する考え方や重要性の程度」ということができるかもしれません。
価値観は人それぞれであり、夫婦といえども全く別の人格を有する独立した存在である以上、価値観が全く同一ということはあり得ません。
夫婦は育ってきた環境や年齢なども異なり、今までの人生経験も異なるものであり、男女の価値観の違いというものもあり得るところですので、夫婦の間には大なり小なり「価値観の違い」が存在していることは当然の話です。
むしろほとんど全ての物事に関する考え方や重要性の程度には、夫婦の間にある程度の「価値観の違い」が潜んでいるものでしょう。
そして、夫婦は、共同生活を送り、年を重ね、子どもが生まれるなどの様々な環境の変化の中で、パートナーとの間での表面化した様々な「価値観の違い」に直面します。
ただ、夫婦の間に「価値観の違い」が存在していたからといって、離婚問題に発展することは通常ありません。
夫婦は、ほとんどの場合、相互の「価値観の違い」を受け入れ、認め合って、許し合い、話し合ってちょうど良い状況を探り、乗り越える努力をして、円満な共同生活を維持・継続しています。
しかしながら、どうしても互いに認め合うことや許し合うことができないような顕著な「価値観の違い」に直面する場合もあります。
価値観は簡単には変えられませんので、受け入れられないような顕著な「価値観の違い」に直面した場合には、夫婦としての共同生活は違和感やわだかまりを抱えたままでその乗り越え方が見つからない状況となり、夫婦の婚姻関係を悪化させる原因となり得るものです。
そして、このような夫婦間の顕著な「価値観の違い」は、やがて夫婦の間に埋めることができないほどの大きな溝を生じさせ、その結果、夫婦の婚姻関係が破綻してしまい、離婚に至ることもあります。
2.離婚に至り得る夫婦間の「価値観の違い」の典型例
夫婦の間に離婚に至り得るほどの価値観の違いを生じさせる典型例としては、例えば以下のものです。
離婚に至り得る夫婦の「価値観の違い」の例
- 家族観・人生設計に関する価値観の違い
- 性的な価値観の違い
- 金銭的な価値観の違い
- 夫婦観・ジェンダー観の違い
- 宗教的な価値観の違い
①家族観・人生設計に関する価値観の違い
例えば、妻は子どもが欲しいと希望していたとしても、夫が子どもは一切望まないと考えていた場合、この夫婦の間の価値観の違いを話し合って乗り越えることは困難な場合もあるでしょう。
また、子どもが生まれた後の仕事のあり方や家族との関わり方、子どもの育て方や教育方針に関する感覚のズレも、夫婦の婚姻関係を離婚を決意するほどに悪化させてしまう原因となることがあります。
このような家族観・人生設計に関する価値観の違いは、パートナーに対する違和感・わだかまり・不平不満感が積み重なる原因となり、パートナーとの間で性格の不一致を理由とする離婚問題にもつながっていくものです。
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②性的な価値観の違い
夫婦の間における性的な価値観の違いは、セックスレスや性的DVの問題に繋がります。
夫婦相互のセックス観(人生における性交渉の意義や重要性の程度)にズレがあって、それを解消することができずに夫婦間の溝が広がり、夫婦の婚姻関係の破綻につながることがあります。
また、夫婦であるからといって性的な行為を強要することは一切許されず、本人が望んでいない性的な行為は全て性的DV(性的な行為を通じて配偶者を肉体的・精神的に支配すること)に該当する可能性がある行為です。
セックスレスも性的DVも離婚のみならず慰謝料請求が認められ得るものです。
セックスレスを理由とする離婚・慰謝料請求について詳しくは【セックスレスは離婚理由になる!夫(妻)が拒否する場合の離婚と慰謝料】を、性的DVを理由とする離婚・慰謝料請求について詳しくは【【性的DV】夫による性的暴力・性的強要という悪質なDVと離婚・慰謝料】をご確認ください。
③金銭的な価値観の違い
お金の問題は常に夫婦喧嘩の原因の上位に位置し続けています。
夫婦の間に顕著な金銭感覚の違いが存在している場合、日常生活上の様々な場面で違和感・わだかまりが頻発することとなる可能性があります。
このような夫婦の間の顕著な金銭感覚の違いは、夫婦間の信頼関係を失わせる原因になり、パートナーとの間で性格の不一致を理由とする離婚問題にもつながっていくものです。
また、パートナーが浪費を繰り返し、隠れて借金までしていた場合には、それが離婚問題に発展していくことも十分あり得るものです。
さらに、ただ単にお金の使い方やお金に関する感覚のズレがあるにとどまらず、家族のために使用するお金の寡多に関する感覚が大いにズレており、家族の生活を維持するために必要な生活費を負担せず、自らの貯蓄や遊興のために用いている場合には、「悪意の遺棄」という法定離婚原因(民法770条1項2号)に該当する場合さえあります。
なお、この生活費を負担しないという問題は、特に妻が離婚調停を申し立てる理由として「性格の不一致」(性格が合わない)に次いで多い理由であり、最新の司法統計(令和3年度)でも、離婚したい女性(妻)の約31%が「生活費を渡さない」という理由で離婚調停を申し立てています。
また、このような夫婦間の金銭的な価値観の違いは、経済的DV(配偶者による金銭の消費を徹底的に制限・管理して監視下に置く行為)につながる場合もあります。
④夫婦観・ジェンダー観の違い
かつて日本では、女性は結婚したら男性の「家」に入り、夫及び夫の「家」のやり方に対応して生きていくことが当然であるかのような夫婦観・ジェンダー観がありました。
しかし、今はそのような古い夫婦観・ジェンダー観は一切妥当せず、夫婦は完全に平等であり、共に尊重し合い、全く同じ視点に立って共同生活を送っていくことは当然であり、性別・身体的機能や社会的役割に起因する夫婦間の価値の差も力の差もありません。
ただ、現在でもなお、夫の方が「夫」「男性」であるから偉いかのような勘違いをした対応をしてくる夫もいます。
また、そこまで酷いものではなかったとしても、物事に関する考え方の根本的な発想の中に、大なり小なり「性別」を理由とした「べき論」が染み付いている人もいます。
例えば、以下のような考えです。
- 妻は家事育児をメインで担うべき
- 妻は夫を立てるべき
- 妻は夫の決断に口を出すべきではない
- 夫は仕事をして家族の生活に責任を持つべき
- 夫は困難な問題を率先して引き受けるべき
- 夫は自己犠牲をしてでも妻を守るべき
パートナーの物事に関する考え方の根本的な発想の中にこのような「性別」を理由とした「べき論」が染み付いていることが表面化し、それを受け入れられない場合には、パートナーにそのような価値観を改善してもらう必要があるでしょう。
そのように夫婦で価値観の違いを乗り越えることができれば良いですが、価値観を変えることは難しく、それができずにパートナーに対する違和感やわだかまりが積み重なっていくと、パートナーとの間で性格の不一致を理由とする離婚問題につながっていく場合があります。
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⑤宗教的な価値観の違い
どのような宗教を信仰するかは極めて個人的な問題(個人の自由)と考えられており、特定の信仰を持っていることそれ自体や、夫婦の間で信仰が違うことそれ自体は、通常、裁判所は離婚原因とは考えていません。
ただ、単に心の中の問題にとどまらず、パートナーに対する信仰の押し付け(特定の信仰を放棄するように迫る、特定の信仰を持つように迫るなど)がある場合には、その程度によっては離婚が認められることもあります。
また、そのような信仰が具体的な行動に現れる場合には、そのような行動が原因で離婚が認められることもあります。
例えば、以下のような場合です。
- 宗教活動を優先させるあまり仕事・家事育児などを放棄するようになった
- 宗教活動のために多額の金員を費やして家族の生活に支障が生じている
3.「価値観の違い」を理由とする離婚の進め方
パートナーとの間における「価値観の違い」を理由に離婚を決意した場合に、どのように離婚問題を進めていけばいいでしょうか。
まず、離婚の進め方の全体像は、以下の通りです。
以下で順に解説します。
⑴パートナーとの間で離婚の話し合い(離婚協議)をする
相手が離婚に合意する場合には、離婚の理由を問わず、協議離婚(離婚すること及び離婚条件について夫婦が話し合って合意して離婚を成立させる離婚の方法)は成立します。
あなたがパートナーとの間で離婚を切り出すほどの顕著な「価値観の違い」を感じている場合であれば、パートナーとしても夫婦の間に乗り越え難い問題が存在していることを認識している場合もあります。
そのため、相手に離婚を切り出して、相手も離婚することに応じる可能性も十分にあり、その場合には、協議離婚にて早期に離婚が成立する可能性があります。
⑵離婚調停を申し立てて調停離婚の成立を目指す
相手が離婚に応じない場合や、離婚条件の話し合いが難航している場合には、離婚調停を申し立てて裁判所(調停委員会)の仲介のもとで離婚の話し合いを進めていくこととなります。
離婚調停では、調停委員が離婚に合意しない方を離婚に合意させようと必死に検討してくれることもあり、全体の半数近く(離婚調停中に協議離婚が成立した場合も含む)で離婚の合意が成立しており、離婚調停に弁護士が関与している場合にはさらに離婚合意の成立率は高まります。
なお、協議離婚の成立を早急に諦めて離婚調停を申し立てた方が結果として早期に有利な条件で離婚が達成できると思われる場合もありますので、【離婚調停で離婚を有利に!離婚調停を早期に申し立てた方が良いケース】もご確認ください。
⑶離婚裁判を提起して離婚判決を獲得する
離婚調停を実施しても離婚の合意が成立しなかった場合には、離婚するためには、離婚裁判を提起して離婚判決を得る必要があります。
- 離婚裁判では高確率で離婚が成立している
離婚裁判を提起した場合の直近10年間(平成25年〜令和4年)の離婚の成立率(判決離婚又は和解離婚に至る割合)は、合計で80%であり、ほとんどの場合で離婚が成立しています。
裁判離婚は、唯一相手が離婚に合意せずとも強制的に離婚となるものであり、離婚達成のための最終手段です。
- 離婚裁判で裁判所に離婚判決を出してもらう方法
離婚裁判では、裁判所は、民法770条1項に規定されている離婚原因(法定離婚原因)が存在する場合に離婚判決を出します。
法定離婚原因は以下の5つです。
法定離婚原因(民法770条1項)
- 「配偶者に不貞な行為があったとき」(1号)
- 「配偶者から悪意で遺棄されたとき」(2号)
- 「配偶者の生死が三年以上明らかでないとき」(3号)
- 「配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき」(4号)
- 「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」(5号)
このように、法定離婚原因の中には「価値観の違い」そのものは含まれていません。
そのため、夫婦の間に「価値観の違い」があること自体が認められたとしても、そのことから直ちに離婚が認められることにはなりません。
この場合は、裁判所に対して、夫婦の間に顕著な「価値観の違い」があるために、もはや「婚姻を継続し難い重大な事由」(5号)が存在している状況に至っていることを認定してもらう必要があります。
「価値観の違い」を理由とする離婚問題では特に別居期間が結論を左右する重要な要素となることが多いですので【短い別居期間で離婚するには?別居期間が短い場合の離婚の進め方】も併せてご確認ください。
また、「婚姻を継続し難い重大な事由」の存否を巡る離婚裁判の特徴や具体的にどのようなことを行っていくこととなるのかについては【離婚裁判で激しい争いとなりやすい典型的な5つのケースを解説します・③「婚姻を継続し難い重大な事由」の存否を巡る争いがあるケース】をご確認ください。
4.受け入れ難い「価値観の違い」で離婚を検討している場合
夫婦の間に受け入れ難い「価値観の違い」が存在している場合には、その改善は難しい場合も多いです。
価値観の違うパートナーとの共同生活に苦痛を感じている場合には、そのようなパートナーと今後も(それこそ人生の最後まで)共同生活を続けていくことは、幸せなこととはいえないでしょう。
パートナーとの間に受け入れ難い「価値観の違い」がある場合には、離婚問題に精通した弁護士に依頼をすれば、高確率で離婚の成立に至ることができます。
ただ、「価値観の違い」を理由とする離婚は明確な法定離婚原因が存在しない場合も多いため、離婚問題の進め方次第では必要以上に離婚紛争の長期化を導いてしまう可能性があります。
また、最終的に離婚を巡る争いが離婚裁判に至った場合に離婚判決が出される状況かどうかの見通しは、極めて専門的な判断が必要となります。
そして、離婚判決が出される状況かどうかで、離婚の協議や離婚調停の進め方や譲歩が必要な範囲も大きく変わってきます。
レイスター法律事務所では、無料法律相談にて、夫婦の個別的・具体的な状況や同居・別居の別、婚姻費用の金額や支払い状況、子どもの有無などの具体的な状況に応じて、最適な離婚問題の進め方などについて具体的かつ実践的なアドバイスを行なっていますので、是非ご利用ください。