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財産分与は、夫婦共有「財産」を離婚時に分け合う制度ですが、実は、このように「財産」に着目した財産分与は、数種類ある財産分与のうちの①「精算的財産分与」のことを指しています。
そして、財産分与には、①「精算的財産分与」の他にも、②離婚後の扶養を考慮する「扶養的財産分与」、③離婚に伴う慰謝料を考慮する「慰謝料的財産分与」、④婚姻費用の分担の状況を考慮する「過去の婚姻費用の精算」があります。
このような多様な財産分与の中に、財産分与の話し合いを有利に進めるヒント・きっかけが隠されている可能性があります。
このページの目次
1.財産分与の金額は「夫婦の財産」だけでは決まらない!
離婚する場合は、離婚条件の一つとして財産分与の話し合いが行われることになります。
この財産分与について、民法768条3項は、以下のように規定します。
民法768条3項
(家庭裁判所が財産分与を判断する場合には、)「家庭裁判所は、当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定める。」
このように、法律上、家庭裁判所は、財産分与の金額について、「当事者双方がその協力によって得た財産の額」の他に「その他一切の事情」を考慮した上で定めることになります。
つまり、実は、財産分与の金額は、必ずしも「財産」の金額のみから決まるものではないということです。
2.財産分与の金額に影響を与える考慮要素は4つある!
財産分与の金額に影響を与える考慮要素は、以下の4つであると考えられています。
財産分与の金額に影響する考慮要素
- 夫婦の財産を考慮する
「精算的財産分与」←一番有名 - 離婚後の扶養を考慮する
「扶養的財産分与」 - 離婚に伴う慰謝料を考慮する
「慰謝料的財産分与」 - 婚姻費用の分担の状況を考慮する
「過去の婚姻費用の精算」
3.①「精算的財産分与」の説明
精算的財産分与とは、婚姻生活の中で築かれた財産(夫婦共有財産)は、原則として夫婦で2分の1ずつ分け合うという財産分与をいいます。
一般的に「財産分与」と言われた際に頭に思い浮かべる財産分与はこれでしょう。
この精算的財産分与について詳しくは、以下の記事をご確認ください。
4.②「扶養的財産分与」の説明
扶養的財産分与とは、離婚後の扶養(生活保障)の趣旨で行われる財産分与名目の支払いのことを言います。
精算的財産分与は離婚前の夫婦の財産に着目して財産分与の金額を算定するものですが、扶養的財産分与は離婚後の一方当事者の生活状況に着目して財産分与の金額を算定するものです。
この扶養的財産分与が認められ得る場合とは、離婚によって一方当事者が経済的に過酷な生活状況に置かれてしまう場合です。
つまり、以下の2点が認められる場合には、扶養的財産分与が認められやすいです。
扶養的財産分与が認められやすい要素
- 精算的財産分与や慰謝料などの他の離婚条件に基づく給付の金額がない・少ない
- 離婚後の生活が困窮したものとなることが明らかである
※高齢の専業主婦、病気のために仕事ができない人など
※なお、例えば子どもが幼いなどのために離婚後数年間は就職が困難と考えられる場合は、その数年間の間における扶養的財産分与が認められる余地がある。
なお、裁判例の中には、扶養的財産分与を認める理由として、婚姻によって一般的に期待される終生の相互的扶養や相続期待権を喪失するものであることを上げている例も見られます。
また、扶養的財産分与は、離婚時の一括金としての支払いとされる場合もありますが、どちらかというと一定の期間(概ね離婚後半年〜3年間程度の期間)における毎月の支払い金額を定める(例えば「令和6年3月まで毎月末日限り4万円を支払え」などと定める)例が多い印象です。
5.③「慰謝料的財産分与」の説明
財産分与の中に慰謝料を考慮してその分高額の財産分与の金額を定めることがあります(最判昭和46年7月23日)。
このように慰謝料を考慮して決められた財産分与のことを慰謝料的財産分与と言います。
「慰謝料的財産分与」と「離婚慰謝料の請求」との最も大きな違いは、前者はあくまでも財産分与であるという点です。
つまり、離婚慰謝料請求が認められた結果として受け取れるものは金額(お金)のみですが、慰謝料的財産分与では例えば自宅・自動車・ペットなどといった現物を受け取ることもできます。
なお、離婚慰謝料請求と慰謝料的財産分与の請求をどちらも行うことは可能ですが、二重取りは認められません。
つまり、以下のようになります。
総額200万円の慰謝料責任が発生している場合
◯ 慰謝料200万円を受け取る
◯ 慰謝料100万円と慰謝料的財産分与として100万円分の現物を受け取る
◯ 慰謝料的財産分与として180万円分の現物を受け取りつつ残りの20万円は慰謝料として現金で受け取る
× 慰謝料200万円を受け取りつつそれに加えて慰謝料的財産分与としてプラスアルファの現物を受け取る
× 慰謝料的財産分与として200万円相当額の現物給付の利益を受けつつつ、それとは別に離婚慰謝料の請求をする
アドバンスな交渉戦略①
財産分与調停で慰謝料的財産分与が問題となっている場合は、離婚慰謝料責任について最終的には財産分与審判の中で家庭裁判所が判断することになります。
つまり、財産分与調停の中で慰謝料的財産分与を問題とすることで、本題であれば地方裁判所に訴訟を提起しなければならなかった離婚慰謝料問題を、家庭裁判所の調停の中で問題として上げて、家庭裁判所の審判で判断してもらうことができるのです。
アドバンスな交渉戦略②
財産分与の金額が当事者の合意により定まった場合は、特に慰謝料責任の分の上乗せが明確に取り決められている場合でない限り、その財産分与の金額の中には慰謝料的財産分与が含まれてはいないとされる傾向にあるように思います。
つまり、慰謝料責任の分の上乗せが明確に取り決められている場合であれば、離婚成立後に別途離婚慰謝料を請求して地方裁判所に訴訟を提起した際には、「慰謝料的財産分与の話も含めて財産分与の合意が成立しているから離婚慰謝料は認められない」ということになるのではなく、「財産分与の合意は成立しているが、その合意の中には慰謝料的財産分与の合意は含まれていないので別途離婚慰謝料の請求をすることは認められる」ということになるように思われます。
6.④「過去の婚姻費用の精算」という考慮要素の説明
この財産分与の考慮要素は、財産分与の金額の算定に際して、婚姻費用の分担の状況(婚姻費用の支払いの状況)を考慮するというものです(最判昭和53年11月14日)。
婚姻費用を支払うことは法律上の義務ですので(民法760条)、婚姻費用の支払義務者は、本来であれば、婚姻費用の権利者に対して婚姻費用を支払っていなければならないはずです。
このことは同居中であっても別居後であっても同様です。
それにも関わらず、婚姻費用の支払義務者が婚姻費用を負担していなかった場合には、婚姻費用の支払義務者の財産はその分減少せずに維持されており、他方において婚姻費用の権利者の財産はその分減少しているという状況になっているわけです。
具体例で説明①
事例
夫が妻に対して生活費(婚姻費用)を支払わなかったため、本来であれば夫が妻に対して支払わなければならないはずの生活費(婚姻費用)の金額が100万円になっていた場合
夫と妻の財産状況
夫が所有している金員のうちの100万円は、本来、夫から妻に支払われて妻が所有しているはず
→つまり、夫の財産は本来よりも100万円多く、妻の財産は本来よりも100万円少ない状況
また、それと同様に、婚姻費用の過払い(払い過ぎ)があった場合には、婚姻費用の支払義務者は、本来であれば支払義務を負っていなかったはずの金額を婚姻費用の権利者に支払うことにより、その分資産が減少しており、他方において婚姻費用の権利者の資産が増加しているという状況になっているわけです。
具体例で説明②
事例
夫が妻に対して生活費(婚姻費用)として本来の適正な金額よりも50万円多く支払っていた場合
夫と妻の財産状況
妻が所有している金員のうち50万円は、夫から過分に移動してきた財産であって、本来であれば妻ではなく夫が所有しているはず
→つまり、妻の財産は本来よりも50万円多く、夫の財産は本来よりも50万円少ない状況
財産分与において、この婚姻費用の支払い(分担)の状況によって増減変動をしている当事者の資産の状況を考慮することは、理屈としてはおかしなことではありません。
ただ、過去の裁判例を見ると、未払いの婚姻費用がある場合も、過払いの婚姻費用についても、その全額を財産分与の計算の基礎に入れている例は極めて稀です。
また、そもそも財産分与の計算の基礎に入れるべき未払婚姻費用・過払婚姻費用の金額は具体的にいくらなのかを巡って詳細かつ錯綜した紛争が繰り広げられることも多いです。
そうはいっても、裁判所は婚姻費用の未払金・過払金を財産分与の算定に際して考慮してくれる場合もありますので、最初から諦めずに丁寧に主張することが重要です。
7.相手の財産が思いの外少なかったとしても諦めない!
このように、財産分与の金額は「夫婦の財産」だけでなく、離婚後の扶養・慰謝料・婚姻費用の分担の状況など様々な事情を検討して算定されます。
そのため、例えば離婚調停などで、相手の財産が思いの外少なくて、期待したよりも財産分与でもらえる金額が少額となりそうである場合、そこで財産分与の金額の交渉を諦める必要はありません。
あなたを取り巻く状況次第では、より高額の財産分与を獲得するための方法が存在している可能性があります。
諦める前に、是非一度当事務所にご相談ください。
レイスター法律事務所では、無料法律相談において、家庭裁判実務上の現在の状況を踏まえ、ご相談者の希望する理想的な解決法の実現可能性や、それを実現するための今後の交渉の進め方などについて具体的なアドバイスを行なっています。
あなたと一緒に、高額の財産分与を獲得する方法が本当にないのかどうか、どのような交渉の進め方が最も良いかなど、徹底的に検討いたします。