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夫以外の男性の子ども(不倫相手の子どもや再婚予定の男性の子どもなど)を妊娠した女性には、①その子どもを夫の子どもとして育てる、②夫と離婚して一人で育てる、③子どもの本当の父親と育てる、という選択肢が考えられます。
ただし、いずれの選択肢も自分だけの独断で決められるものではなく、夫や子どもの本当の父親(生物学上の父親)がどのように考え、どのように決断するのかによって大きく影響されます。
夫以外の男性の子どもを妊娠した場合には、次の人生の安定に向けてこの難問を解消していかなければなりません。
このページの目次
1.不倫相手の子や再婚予定の男性の子を産むかどうか
夫以外の男性の子ども(不倫相手の子や再婚予定の男性の子など)の妊娠が発覚した場合、何よりもまず、以下の事項を速やかに決断することが必要です。
妊娠発覚後に速やかに決断するべき事項
⇨子どもを「産む」か「産まない」か
日本では妊娠22週未満(妊娠21週6日まで)であれば中絶することができますが、中絶は心身に多大な影響を与えます。
特に初期中絶ができる期間(妊娠12週まで)を超えて中期中絶に至ると途端に心身への影響が大きくなるとともに、費用も高額となったり、役所に死産届と死産証明を提出する義務が生じたりします。
子どもを「産む」か「産まない」かの判断は速やかに行わなければなりません。
「産む」か「産まない」かを妊娠した女性のみで判断する必要はなく、子どもの父親などと話し合って決めることとなることが多いでしょう。
ただし、最終的な判断は子どもを妊娠した女性の決断に委ねられ、誰からも強制されることはありません。
- 夫との関係はどういう状況か
- 育児に協力してくれる人がいるか
- 出産を祝福してくれる人がいるか
- 生まれてきた子どもの成長を見守ってくれる人がいるか
- その子どもの父親と結婚できるか
- 結婚できないとしてもちゃんと養育費を支払ってもらえるか
…などの事項は、子どもを「産む」か「産まない」かの判断の前提として重要な事項でしょう。
この記事では、子どもを「産む」と決断した場合に生まれてきた子どもの法律上の父親となって扶養義務などの法律上の責任を負うべき男性が誰になるのかを中心に、解説します。
2.夫以外の男性との間の子どもの法律上の父親は誰?【2024民法改正対応】
子どもに対して扶養義務を負い養育費を負担する責任を負うのは、法律上その子どもの父親であるとされた男性(法律上の父親)です。
子どもの法律上の父親に関しては、それが子どもの生物学上の父親と一致している状況が本来の形でしょう。
しかしながら、母親と異なり、父親は子どもを身に宿しているわけでも出産するわけでもありませんので、子どもの生物学上の父親であることが客観的に示されているわけではありません。
だからといって、常にDNA鑑定などで父親と子どもの生物学上の親子関係を厳密に確認することは現実的ではありません。
そのため、民法は、子どもの身分関係の法的安定を保持するために、子どもの法律上の父親を、生物学上の父親を特定するステップを経ることなく、妻が妊娠・出産したタイミングから速やかに確定させることとしています。
子どもと父親との法律上の親子関係が発生するルール
①妊娠したタイミング
⇨妻が妊娠した子どもは夫の子どもと推定される(嫡出推定、民法772条1項)
↓妻が妊娠したタイミングが不明であったとしても
②出産したタイミング
・妻が結婚から200日経過以降に出産した子どもは夫の子どもと推定される(民法772条2項、1項)
・離婚したとしても、元妻が離婚後300日以内に出産した子どもは元夫の子どもと推定される(民法772条2項、1項)
③結婚・再婚したタイミング
⇨妻の結婚・再婚後に出産した子どもは、結婚・再婚後の夫の子どもと推定される(民法772条1項)
このようなルールで法律上の父親を確定させることとしている結果、以下の場合は子どもの生物学上の父親と法律上の父親がズレることとなります。
子どもの生物学上の父親と法律上の父親がズレる場合
⇨以下の場合は子どもの生物学上の父親は夫以外の男性であるが、子どもの法律上の父親は夫となる
- 妻が夫と婚姻中に夫以外の男性の子どもを妊娠した場合
- 妻が夫と結婚してから200日経過以降に夫以外の男性の子どもを出産した場合
- 妻が夫と離婚した後、再婚せず、離婚後300日が経過する前に夫以外の男性の子どもを出産した場合
そして、子どもの生物学上の父親と子どもの法律上の父親がズレている場合は、子どもの本当の父親(生物学上の父親)は、子どもに対して扶養義務を負っておらず、養育費を負担する責任がないことになります。
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3.子どもの生物学上の父親に法律上の父親となってもらうために必要なこと
子どもの本当の父親(生物学上の父親)に子どもの法律上の父親となってもらいたい場合に必要なことは、以下の2つです。
- 子どもと夫との間に法律上の親子関係が発生していない状況にする
- 子どもと本当の父親(生物学上の父親)との間で法律上の親子関係を発生させる
以下で解説します。
①子どもと夫との間の法律上の親子関係が発生していない状況にする
- 子どもと夫との間に法律上の親子関係を発生させない方法
上述した通り、夫と離婚したとしても、離婚した後再婚せずに、離婚後300日が経過する前に子どもを出産した場合には、生まれた子どもと前婚の夫との間に法律上の親子関係が発生することになります。
そのため、子どもと前婚の夫との間に法律上の親子関係を発生させたくない場合には、夫と離婚した後300日が経過する前に出産することとならないよう、妊娠するタイミングに注意する必要があります。
子どもと夫との間の法律上の親子関係を発生させない方法
⇨夫と離婚した後300日が経過する前に出産しない
なお、夫と離婚した後、子どもが生まれる前に別の男性と再婚する場合であれば、その子どもの法律上の父親は離婚した元夫ではなく、再婚相手の男性となります(民法772条)。
- 子どもと夫との間に法律上の親子関係が発生してしまった場合
嫡出否認調停を申し立てる【2024民法改正対応】
子どもと夫との間に法律上の親子関係が発生してしまっている場合は、その法律上の親子関係を否定する必要があります。
その方法は、「嫡出否認」という方法です(民法774条)。
ただし、「嫡出否認」という方法が認められる期間には制限がありますので、注意です。
「嫡出否認」を行うために必要なこと
妻が申し立てる場合:
子どもを出産してから3年以内に嫡出否認調停を申し立てることが必要
夫が申し立てる場合:
子どもの出生を知ってから3年以内に嫡出否認調停を申し立てることが必要
※2024年の改正民法施行によって、嫡出否認を申し立てる権利が母及び子にも認められるようになり、期間制限も1年から3年に伸長されました。
そのため、夫以外の男性の子どもを授かった場合には、期間制限内に調停を申し立てることが必要となります。
そして、嫡出否認調停の手続きを通じて夫との間で夫婦の子ではないという合意ができた場合には、裁判所による合意の正当性の確認を経た上で、裁判所から子どもと夫との間の法律上の親子関係を否定する審判が出されることとなります。
他方、夫との間で合意ができなかった場合には、嫡出否認訴訟を提起して、裁判所に決めてもらうことになります。
参照:裁判所・裁判手続案内・裁判所が扱う事件・家事事件・嫡出否認調停
親子関係不存在確認調停を申し立てる
「嫡出否認」の申立てが認められる期間が経過してしまったためにもはや「嫡出否認」との方法を行うことができなくなってしまった場合には、子どもと夫との間の法律上の親子関係を否定する方法はないのでしょうか。
その場合に考えられる方法としては「親子関係不存在の確認」の手続きを行うことです。
「親子関係不存在の確認」の手続きであれば、期間制限はありません。
ただ、裁判所は、法律上夫の子どもであると推定されている場合は、DNA鑑定などで子どもの実の父親(生物学上の父親)が夫ではないことが明らかであったとしても、「親子関係不存在の確認」の手続きを行うことを認めていません。
他方、どう考えても夫が子どもの生物学上の父親であるはずがない場合(そもそも夫婦間で一切の接触がないことが明白である場合、夫が性的不能者である場合など)であれば、「親子関係不存在の確認」の手続きを行うことが認められています。
また、そのような例外的な場合ではなかったとしても、夫 (法律上の父親)と母親のいずれもが子どもと夫(法律上の父親)との間の親子関係を否定している場合には、裁判所が「親子関係不存在の確認」の手続きにて子どもと夫(法律上の父親)との法律上の親子関係の否定を認めてくれる場合もあります。
そのため、「嫡出否認」の方法ができなくなったとしても、それで諦めるのではなく、夫(法律上の父親)と話し合って、「親子関係不存在の確認」という方法を進めることが検討できます。
なお、「親子関係不存在の確認」の手続きの進め方も「嫡出否認」の手続きと同様の流れで進めることとなります。
すなわち、親子関係不存在確認調停の手続きを通じて夫との間で夫婦の子ではないという合意ができた場合には、裁判所による合意の正当性の確認を経た上で、裁判所から子どもと夫との間の法律上の親子関係を否定する審判が出されることとなります。
参照:裁判所・裁判手続案内・裁判所が扱う事件・家事事件・親子関係不存在確認調停
②子どもと本当の父親(生物学上の父親)との間で法律上の親子関係を発生させる
子どもと子どもの本当の父親(生物学上の父親)との間で法律上の親子関係が発生していない場合には、それを発生させる手続きを行う必要があります。
具体的には、子どもの本当の父親(生物学上の父親)に子どもを「認知」してもらうことが必要です。
認知の種類には任意認知(父親となるべき男性が自らの意思で認知するという認知の方法)と強制認知(子どもの側から父親となるべき男性に対して裁判上の手続きを通じて認知するよう請求して強制的に認知させるという認知の方法)があります。
認知の種類
任意認知
…父親となるべき男性が自らの意思で認知するという認知の方法
強制認知
…子ども側から父親となるべき男性に対して裁判上の手続きを通じて認知するよう請求して、強制的に認知させるという認知の方法
ただ、母親が認知を希望する以上、本当の父親(生物学上の父親)が認知することを拒否していたとしても、子どもの母親が認知を希望する以上、結局強制認知をさせられる状況に至ることとなります。
そのため、本当の父親(生物学上の父親)が認知することを拒否していたとしても、母親と子どもの本当の父親(生物学上の父親)との間でしっかりと話し合いを行うことで、強制認知に至ることなく、任意認知の方法で認知を行なってもらえることが多いです。
認知により生じる権利(養育費の請求)や認知の方法などについては、以下の記事で詳しく解説しています。
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4.夫以外の男性の子どもを妊娠した際には多くの決断に迫られます
夫以外の男性の子どもを妊娠した女性には、以下の選択肢が考えられます。
- 子どもを「産む」
- 子どもを「産まない」
この選択は、子どもを妊娠した女性の決断に委ねられています。
そして、子どもを「産む」場合には、以下の選択肢が考えられます。
❶このまま夫の子どもとして育てていく
❷夫と離婚して自分だけで育てていく
❸子どもの本当の父親と再婚して一緒に育てていく
「❶このまま夫の子どもとして育てていく」
❶の場合には、妊娠した子どもが夫の子どもじゃないことが夫に発覚した場合には、多くの場合離婚問題に発展していき、妻の意思に関わらず夫と離婚せざるを得ない状況となることも多いです。
その際には、多くの場合、慰謝料の請求もされることでしょう。
さらに、夫が子どもの出生を知ってから3年が経過していない場合は、夫から「嫡出否認」の手続きが開始されてしまい、子どもとの法律上の親子関係を否定されてしまう可能性もあります。
「❷夫と離婚して自分だけで育てていく」
❷の場合には、子どもの法律上の父親にしっかりと養育費を支払ってもらう必要があるでしょう。
子どもの法律上の父親が離婚した夫である場合には夫に対して養育費を請求し、離婚した夫が子どもの法律上の父親ではない場合には子どもの本当の父親(生物学上の父親)に認知をしてもらった上でしっかりと養育費を支払ってもらいましょう。
「❸子どもの本当の父親と再婚して一緒に育てていく」
❸の場合には、再婚相手の子どもを妊娠するタイミングに注意しなければ、再婚相手との間の子どもの父親が離婚した前婚の夫になってしまう可能性があります。
様々な苦悩を乗り越え、ようやく離婚したかった夫から解放され、大好きなパートナーと再婚に至ったとしても、いつまで経っても離婚した夫の顔がチラつくこととなり、その都度嫌な気分となり、とてもストレスだという場合もよくある話です。
そうなってしまった場合には、上述した通り、前婚の夫と子どもとの間の親子関係を否定するために離婚した前婚の夫に速やかに主体的に動いてもらわなければならないことになります。
夫以外の男性の子どもを妊娠した場合には、次の人生の安定に向けてこの難問を解消していかなければなりません。
しかも、中絶にも嫡出否認の手続きにも期間制限がありますので、時間が経過すると選択肢が消えていってしまいます。
一人で悩む必要はありません。
レイスター法律事務所では、あなたの希望に応じて、どのような選択肢が存在しているのか、どのような法律上の権利が認められておりそれを実現するためにはどのような手続きを行う必要があるのかなどについて無料法律相談にて具体的なアドバイスをしています。
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