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役所は提出された離婚届の記載の形式的な不備のみをチェックして、その点に問題がなければ離婚届を受理した上、戸籍に「離婚」と記載し、婚姻の際に入籍した方の戸籍を別の戸籍に移します。
その上、役所には一度受理した離婚届を役所の判断で取り消したり無効の扱いとしたりする権限がありません。
そのため、離婚が取り消せるものであったり無効であったりした場合でも、役所は戸籍を元に戻してはくれません。
この記事では、役所に離婚をなかったことにしてもらうために必要な離婚の無効確認と離婚の取り消しについて詳しく解説します。
このページの目次
1.離婚をなかったことにしたい場合
夫婦が離婚したいと考えるに至った理由やパートナーが望む離婚に同意することとした理由、実際に離婚に至るまでの話し合いの経緯は実に様々です。
また、夫婦の間に離婚問題が持ち上がってから実際に離婚に至るまでの期間も、短いと数日程度であることもありますし、長いと何年もの期間が経過することもあります。
それに対して、離婚するための手続きは一瞬です。
離婚は、夫婦が協議(話し合い)をして離婚することに同意した上で、役所に離婚届を提出して受理されるだけで成立します(民法763条、民法764条、民法739条)。
民法763条
夫婦は、その協議で、離婚をすることができる。
そして、役所に離婚届が受理された瞬間に、今まで夫婦だったパートナーとは法律上他人になります。
ただ、様々な理由から、役所に離婚届が受理された後に、離婚をなかったことにしたいと考えることもよくあるものです。
離婚をなかったことにしたいと考える場合の具体的な状況
- 離婚することがどういうことなのかを真剣に考えていなかった
- 離婚に同意するかどうかを最後まで悩んでおり、離婚届を提出した後になって離婚に同意したことに対して強い後悔に襲われた
- パートナーの「離婚届を提出するだけで夫婦の状況は今まで通りで何も変わらない」という言葉を信じて重く考えずに離婚届を提出したものの、離婚届を提出した後にパートナーがいなくなってしまった
- 離婚するつもりではいたものの、離婚を急かしてくるパートナーの「とりあえず離婚届を提出しよう。大丈夫、絶対慰謝料も財産分与も払うし、離婚しても生活の面倒を見るから安心して!」などといった言葉を信用して、離婚の条件についての話し合いをしっかりと行わないままで離婚届を提出したところ、離婚届を提出した後になってパートナーが豹変して約束を守ってくれない
- 苗字(氏)をパートナーの苗字(氏)に直すために離婚して即再婚をするという計画で離婚届と婚姻届を作成してその役所への提出をパートナーに任せていたところ、パートナーが離婚届だけを提出して行方をくらませてしまった
- 本当は離婚したくなかったものの、パートナーに強く離婚を迫られて半ば無理やり離婚届を書かされた
- 以前夫婦喧嘩した時に作成した離婚届を、それから随分期間が経過した後に、パートナーが急に役所に提出した
- 全く思い当たる節がないのに離婚届が提出されていた
ただ、離婚をなかったことにしたいと思っても、役所には一度受理した離婚届を役所の判断で無効の扱いとしたり取り消したりする権限がありません。
そのため、いくら役所に言っても離婚はなかったことにはしてくれません。
このような場合に離婚をなかったことにする方法は、以下の2つに限られています。
離婚をなかったことにする方法
- 離婚の無効確認
- 離婚の取り消し
この記事では、離婚の無効確認と離婚の取り消しについて詳しく解説します。
2.離婚の無効確認について
⑴どのような場合に離婚の無効確認ができるか
協議離婚の成立要件が満たされていなければ、たとえあたかも離婚が成立しているかのような状況であったとしても、そもそも離婚は最初から無効です。
そのような状況になっている場合には、離婚が無効であるということをしっかりと確認しなければなりません(離婚を無効とするのでなく、離婚がそもそも最初から無効であったことを確認するということが必要となります。)。
協議離婚の成立要件は、以下の2つです。
協議離婚の成立要件
- 離婚届を役所に提出し受理されること
- 離婚届を役所に提出する時点で夫婦の双方に離婚する意思があること
つまり、①役所が離婚届を受理していたとしても、②離婚届を役所に提出する時点で夫婦の双方に離婚する意思がなければ、その離婚は無効です。
離婚の成立要件が満たされていないのに離婚届は受理されるの?
役所は提出された離婚届の記載の形式的な面の不備のみチェックして、その点に問題がなければ離婚届を受理します。
つまり、役所では②の要件が満たされているかどうかの確認は行われません。
その結果、②の要件が満たされていないにも関わらず離婚届が受理されるという状況が発生し得るのです。
そして、役所は、離婚届を受理した場合には、その時点で離婚が有効に成立した扱いとなり、戸籍に「離婚」と記載され、婚姻の際に入籍した方の戸籍は別の戸籍(婚姻前の戸籍又は新たに作成した戸籍)に移ることになります。
⑵②の要件が満たされない場合とはどのような場合か
- ②の要件の「離婚する意思」の意味
②「離婚届を役所に提出する時点で夫婦の双方に離婚する意思があること」の「離婚する意思」とは、離婚届を提出する意思で足りると考えられています。
つまり、パートナーとの関係を解消する意思がなかったとしても、夫婦の双方に離婚届を提出する意思があればそれだけで②の要件は満たされることになります。
そのため、偽装離婚(夫婦共同生活を維持しつつ、このような離婚によってもたらされるメリットを受けることのみを目的として離婚すること)は完全に有効な離婚です。
ただし、②の「離婚する意思」(=離婚届を提出する意思)は、実際に離婚届を提出する時点で存在していることが必要です。
まとめ
離婚届を役所に提出する時点で、夫婦の双方に離婚届を提出する意思があれば、②の要件は満たされる。
- ②の要件が満たされない場合の具体例
②「離婚届を役所に提出する時点で夫婦の双方に離婚する意思があること」の要件が満たされない場合とは、具体的には、以下の2つの場合が考えられます。
- パートナーに離婚届を勝手に作成されて役所に提出された
- 離婚届を作成したことはあったが、その離婚届が役所に提出される時点では離婚届を役所に提出する意思がなかった
❶の場合とは、つまりパートナーに離婚届を偽造されたということです。
❷の場合とは、例えば、結婚する際に離婚届を2部作成しておいて夫婦のそれぞれが所持しているという形を選択した場合や、以前夫婦喧嘩の際に勢いで作成した離婚届をパートナーが所持していた場合に、ある日突然パートナーがその離婚届を提出した場合などの場合が考えられます。
これらの場合は、いずれにしても離婚届を提出する時点で離婚届を提出する意思がありません。
そのため、役所が離婚届を受理して離婚が有効に成立したものとして戸籍が修正されようが、離婚は無効です。
なお、離婚届を無断で作成・提出する行為は犯罪になりかねない行為です。
具体的には、以下の犯罪が成立する可能性があります。
成立し得る犯罪
役所に提出する目的で離婚届を偽造した場合
私文書偽造罪(刑法159条1項)が成立する可能性がある
偽造した離婚届を役所に実際に提出した場合
偽造私文書行使罪(刑法161条1項)が成立する可能性がある
相手が離婚に同意していないことを知りながら役所に離婚届を提出した場合
公正証書原本不実記載等罪(刑法157条1項)が成立する可能性がある
※仮に離婚届自体は偽造していない場合でも成立する可能性がある
⑶離婚の無効確認の手続き
離婚の成立要件が満たされていない以上、誰が何と言おうが離婚は無効です。
その無効な離婚を追認して有効な離婚とすることができるのは、勝手に離婚届を提出された配偶者だけです。
しかし、離婚が無効であることを役所に分かってもらって戸籍を元に戻してもらうためには、裁判所を利用した手続きを通じて「実は離婚は最初から無効だった」ということを正式に確認する必要があります。
具体的には、家庭裁判所に協議離婚無効確認調停を申し立てて、調停委員を間に入れて、離婚届を勝手に役所に提出したパートナーとの間で離婚が無効であることについて話し合うこととなります(調停前置主義)。
裁判所・裁判手続案内 ・裁判所が扱う事件・家事事件・協議離婚無効確認調停
そして、調停手続きにおいて当事者双方の間で離婚が無効であるという合意ができた場合には、家庭裁判所が念の為当事者間の合意の正当性を検討して問題がなければ、当事者間の合意に従った内容の審判が出されます。
他方、離婚届を勝手に役所に提出したパートナーが協議離婚無効確認調停の期日に出頭しなかったり、調停期日で話し合ったものの離婚の無効に合意しなかったりした場合には、協議離婚無効確認調停は不成立となって終了します。
その場合は、離婚届を勝手に役所に提出したパートナーに対して、協議離婚無効確認訴訟を提起して、裁判所に離婚が無効であることを確認する判決を出してもらう必要があります。
離婚の無効確認を行うことができる期間
無効な離婚が時間の経過によって有効となることはありませんので、上記の手続きの期間制限はありません。
離婚届が提出されてから1年後でも、10年後でも、30年後でも、いつでも協議離婚無効確認の手続きを始めることが可能です。
3.離婚の取り消しについて
⑴どのような場合に離婚の取り消しができるか
自由に離婚の取り消しができるとすれば、身分関係の秩序が崩壊してしまいます。
そのため、法律は、以下の場合に限り、離婚の取り消しができるものとしています。
離婚の取り消しができる場合
不適法な婚姻である場合(民法744条)
- 婚姻適齢違反(民法731条)
- 重婚であった場合(民法732条)
- 再婚禁止期間中に結婚した場合(民法733条)
- 禁止されている近親婚であった場合(民法734条)
- 禁止されている直系姻族間の結婚であった場合(民法735条)
- 禁止されている養親子等間の結婚であった場合(民法736条)
詐欺又は強迫を受けて離婚させられた場合(民法747条1項、民法764条)
このように、法律は、詐欺や強迫を受けて離婚させられた場合には、その離婚を取り消すことを認めています。
⑵どのような場合に詐欺や強迫による離婚の取り消しが認められるか
パートナーから嘘をつかれたものの騙されなかった(錯誤がなかった)場合には、離婚の取り消しは認められません。
同様に、パートナーに脅されたとしても別に怖くなかった (畏怖しなかった)場合にも、離婚の取り消しは認められません。
つまり、詐欺や強迫による離婚の取り消しが認められるためには、騙された・脅されたことが原因で離婚に合意させられたという状況が存在していることが必要です。
また、僅かばかりの嘘や脅しでは離婚の取り消しは認められず、ある程度強度の違法性や離婚の決断に対する影響力が認められるものであることが必要と考えられています。
ただ、詐欺や強迫による離婚の取り消しが認められる場合に関する基準が確立されているところではなく、婚姻取り消しの場合とは異なり身分関係の解消である離婚の場合は広く取り消しを認めるべきであるという考え方もあるところですので、具体的な事情や担当裁判官の考え方次第で広く離婚の取り消しが認められる可能性があります。
裁判例
長野地方裁判所判決昭和46年2月26日
事案
- 夫が、妻以外の女性と再婚する目的で、妻に離婚に合意させるべく、妻に対して、仕事で多額の借金を抱えてしまって債権者に追われているので迷惑をかけないために離婚したことにして1年くらいしたら籍を戻そうなどと嘘の説明をした
- 妻は夫の説明を信じて離婚に合意した
裁判所の判断
⇨妻の離婚に応じる意思表示は夫の詐欺にとってなされたものであるから、離婚の取り消しを認める
なお、パートナー自身による詐欺や強迫だけではなく、例えばパートナーの親族などの第三者から詐欺や強迫を受けたために離婚した場合も離婚を取り消すことができると考えられています。
⑶詐欺や強迫による離婚の取り消しの手続き
詐欺や強迫による離婚の取り消しをするためには、協議離婚取消しの調停を申し立てて、パートナーとの間で離婚の取り消しを認めるかどうかについて話し合うこととなります (調停前置主義)。
そして、調停手続きにおいて当事者双方の間で離婚の取り消しの合意ができた場合には、家庭裁判所が念の為当事者間の合意の正当性を検討して問題がなければ、当事者間の合意に従った内容の審判が出されます。
他方、パートナーが協議離婚取消しの調停の期日に出頭しなかったり、調停期日で話し合ったものの離婚の取り消しに合意しなかったりした場合には、協議離婚取消しの調停は不成立となって終了します。
その場合は、パートナーに対して、協議離婚取消し訴訟を提起して、裁判所に離婚を取り消す内容の判決を出してもらう必要があります。
詐欺や強迫による離婚の取り消しを行うことができる期間
詐欺や強迫による離婚の取り消しは、騙されていたことを知った時又は脅されていた状況から脱した時から3か月以内に行う必要があります(民法747条2項、764条)。
4.離婚の無効確認・離婚の取り消しをした後の手続き
⑴戸籍を訂正する手続きを行う
離婚の無効確認・離婚の取り消しを認める審判や判決を得たら、役所に行って、審判書や確定した判決書を添付して、戸籍を訂正する手続きを行うことができます。
⑵配偶者が再婚していた場合
パートナーが無効な離婚を強行したり、取り消し得るような離婚を行なったりした場合は、その理由は別の異性と早く再婚をしたいという思いにあることがあります。
たとえ無効な離婚であったり、取り消すことができる離婚であったりしたとしても、戸籍上は既に離婚が成立した状況になっているため、再婚しようと思えば再婚することが可能な状況です。
その場合は、離婚の無効確認や離婚の取り消しをして戸籍を是正したとしても、既にパートナーは別の異性と婚姻している状況にあるため、戸籍上「重婚」の状態となってしまいます。
そのため、戸籍を離婚前の状態に戻すためには、パートナーが行った再婚を取り消さなければなりません。
具体的には、パートナーに対して協議離婚無効確認調停や協議離婚取消しの調停を申し立てる際に、それと併せてパートナー及びパートナーの再婚相手に対して婚姻取消しの調停を申し立てることが必要となります。
5.念の為に離婚届の不受理申出書を提出しておこう!
役所に離婚届の不受理申出書を提出しておけば、役所はその離婚届の不受理の申出が取り下げられるまでの間、離婚届を受理しません。
パートナーの手元に作成済みの離婚届が存在していたり、パートナーが妙に離婚の成立を急いでいたりする場合には、パートナーが勝手に離婚届を提出してしまわないようにするために、念の為に役所に離婚届の不受理申出書を提出しておきましょう。
なお、離婚届の不受理申出書は相手の同意なく提出することができます。
6.離婚の無効確認や離婚の取り消しをした先に待っていること
離婚の無効確認や離婚の取り消しを行って戸籍を元に戻したとしても、問題なのはパートナーとの間における夫婦の関係性です。
パートナーは無効な離婚を強行したり、取り消し得るような離婚を強行したりする程、あなたと離婚したかったということです。
そのようなパートナーとの離婚を選択する場合には、離婚の取り消しや離婚の無効確認を行った上で、またはそれを行うことなく、財産分与・養育費・年金分割などの離婚条件の合意に加えて、不法に離婚を強行したことや浮気・不倫をしていたことなどを理由とした高額の慰謝料を請求するなどし、もらえるものをもらえるだけもらった上で離婚することとなるでしょう。
他方、パートナーとの離婚を望まない場合には、時間をかけてでもパートナーとしっかりと話し合って、夫婦の関係性を修復・改善していかなければなりません。
パートナーとの夫婦の関係性を修復・改善できなければ、遅かれ早かれ離婚に至る可能性がありますし、仮に離婚はしなかったとしても辛く悲しい夫婦の生活状況が固定化されることとなってしまいかねません。
パートナーとの離婚を選択するにせよ、パートナーとの夫婦関係の継続を選択するにせよ、パートナーとのしっかりとした話し合いが必要です。
そして、離婚の無効確認や離婚の取り消しの手続きは、パートナーと今後の夫婦のことをしっかりと話し合うための場としての機能も有しています。
レイスター法律事務所では、無料相談において、現在の状況を踏まえて、法律上どのようなことができその結果どのような状況に至ることが期待できるか、仮に最終的に離婚の状況を受け入れる場合に想定される慰謝料などの離婚条件はどのようなものか、仮に離婚しないという選択をする場合にはその状況をどの程度継続することが可能かなどといった事項について、具体的なアドバイスを行なっています。
パートナーとの離婚の無効や取り消しに関してお悩みの際は、一人で悩まず、是非こちらからお気軽にご連絡ください。