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産後クライシスとは、一般に、産後に夫婦の婚姻関係が急激に悪化することを言います。
子どもが生まれてから数年以内のタイミングは、夫婦の間で離婚問題が持ち上がることが極めて多いタイミングです。
産後クライシスで離婚にまでは至らなかったとしても「子どもの出産直後から夫婦仲が悪化したまま改善されていない状態の夫婦」の数は、極めて多数にのぼると考えられます。
この記事では、産後クライシスの原因や産後クライシスの乗り越え方、産後クライシスで離婚を決意した場合の離婚の進め方について解説します。
このページの目次
1.産後クライシスとは
産後クライシスとは、一般に、産後に夫婦の婚姻関係が急激に悪化することを言います。
子どもが生まれてから数年以内のタイミングは、夫婦の間で離婚問題が持ち上がることが極めて多いタイミングです。
子どもがいる夫婦が離婚して母子家庭となるタイミングは、子どもが「0歳〜2歳」のタイミングが全体の39.6%にものぼります。
子どもが「3〜5歳」のタイミングまで含めると全体の59.3%にものぼっており、離婚する夫婦の半数以上が子どもが幼いタイミングで離婚しています。
参考:厚生労働省・平成28年度全国ひとり親世帯等調査結果報告・ひとり親世帯になった時の親及び末子の年齢
離婚が持ち上がってから実際に離婚が成立するまでに1年〜2年程度の期間を要することも珍しいことではありませんので、そうすると、子どもの出産直後の時期に離婚問題が持ち上がってしまう夫婦の数は極めて多いものと推測されます。
また、統計上の数字では現れてこない「離婚の危機を離婚瀬戸際で回避した夫婦の数」や「既に夫婦の婚姻関係は破綻しているものの子どものために離婚をしていないだけの夫婦の数」も相当な数にのぼっていることでしょう。
人の心や関係性の修復は容易ではなく、一度不信感や違和感などを抱いたり性格の不一致・価値観のズレを感じるようになった場合に、それを本質的に払拭・解消することは困難であることを考えると、「子どもの出産直後から夫婦仲が悪化したまま改善されていない状態の夫婦」の数は極めて多数にのぼると考えられます。
夫婦は、将来離婚に至ることなどないと信じ、将来の伴侶と誓い合って、結婚するものです。
しかしながら、夫婦の婚姻関係は、子どもの出産直後という夫婦となって比較的早いタイミングで、早速悪化してしまう可能性があるのです。
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2.産後クライシスの原因
産後クライシスに至る原因は様々な要因が複合的に積み重なっていることが多いものですが、大きく分けると、以下の3通りに分けることができます。
産後クライシスに至る原因
- 出産により妻に生じる変化
- 出産による生活状況の変化
- ①と②に対する夫の不理解・不対応
①出産により妻に生じる変化
人の精神状態は、本人の意思とは無関係に、ホルモンのバランスに大きく左右されます。
そのこと自体は、人がそういう作りとなっているものであって、誰が悪いという問題ではありません。
そして、女性は、妊娠中はエストロゲンやプロゲステロンなどの女性ホルモンが急増しますが、出産した後はそれが急激に減少します。
このホルモンバランスの乱れにより、出産直後の女性は、自分の意思とは関係なく、自律神経が乱れてしまったり、精神的に不安定になってしまったりすることがあるため、
- 漠然とした不安感に苛まれたり
- 理由もなくイライラしてしまったり
- 従前は許せていた夫の言動を許せない心持ちになってしまったり
- 攻撃的になってしまったり
- 夫とのスキンシップに嫌悪感を抱いたり
することがあります。
②出産による生活状況の変化
妻の出産により2人きりの家庭生活を送ってきた夫婦の生活の中に子どもが加わり、夫婦の生活は子どもが中心になります。
子育ての負担は、特に出産直後〜子どもが乳幼児である間は、妻の負担が圧倒的に大きなものとなることは避けがたいことも多いです。
③ ①と②に対する夫の不理解・不対応
妻は、子育ての中心人物として奮闘することとなる場合が多いです。
育児には休憩や休暇はありませんので、手放しに自由になれる時間はなく、睡眠は不足し、食事をとる時間も取れず、休みたいと考えても逃げ場がありません。
ストレスや疲労は溜まる一方で、精神的にも余裕がなくなってしまうことは当然です。
また、子どもの出産後は夫との夫婦水入らずの時間や夫のための時間を設けることは難しくなりますし、ホルモンバランスの乱れから夫に対してどうしてもスキンシップを拒否してしまったり攻撃的になってしまったりすることもあるところです。
それに対して、夫はどうでしょうか。
そのような妻の状況をしっかりと理解し、妻を労わり、妻の育児の負担が低減するように主体的に行動する夫ばかりではありません。
夫が、出産前と変わらない時間やお金の使い方を続けていたり、育児に対して思い付きや実情を理解しないままでの付け焼き刃の知識で横から口を挟んできたり、僅かばかりの育児への協力を殊更に強調するような言動をしたりすることも、よく聞く話です。
また、ホルモンバランスの乱れや育児疲れのために精神的に余裕がない妻の言動に対して不平不満を伝えてきたり、それだけにとどまらず「妻は出産後に人が変わってしまった」などと被害者のような感覚に陥る夫もいます。
中には、あえて仕事からの帰宅時間を遅くしたり、プライベートの時間を多く設けるようにしたりするなど、自宅から距離を置こうとする夫もいます。
夫婦間のスキンシップが減少・喪失し性交渉ができる状況でもないことや、そもそも妻から拒絶されていると感じられることから、このタイミングは夫が浮気・不倫に走りやすいタイミングでもあります。
夫婦の状況は、精神的に余裕がなくイライラしており夫に対して攻撃的な言動をしがちな妻と、そのような状況に理解を示すことなく子育てへの主体的な協力もせずに妻への不平不満を募らせる夫という状況です。
夫婦のコミュニケーションはうまく取れなくなり、妻は子育ての相談をすることができる相手がおらず、それでいて妻が実家に帰るとなれば夫の不平不満が大きくなったりします。
そのような状況では夫婦の婚姻関係が円滑に行くはずはありませんし、妻はますます精神的に追い詰められてしまいます。
その結果、産後うつを発症してしまう妻もいます。
そのようにして、夫婦でしっかりと話し合う機会を設けることもできないまま、夫婦の間の精神的な繋がりは希薄化し、離婚問題に発展していってしまうのです。
産後うつについて
日本産婦人科医会によると、出産後に産後うつを発症してしまう女性は「およそ10%」(10人に1人)にものぼります。
引用:日本産婦人科医会・女性の健康Q&A・妊娠・出産・産後うつ病について教えてください
産後うつは、発症すると、突如強い悲しみを感じたり、涙が止まらなくなったり、情緒が不安定となったり、重症の場合には、不眠・摂食障害(食欲減退・過食)の他、子どもも含め物事に対する関心が喪失し、無力感や絶望感を感じ、そのような自分に対する罪悪感に苛まれ、最悪のケースでは自殺に至る場合もある恐ろしい病気です。
産後うつは、軽度であれば周囲の理解と支えにより自然に回復することもありますが、症状が重い場合には医療機関での治療が必要となります。
出産後の子育てでストレスが溜まっていると感じたり、精神的な辛さを感じたりしている場合には、「きっと大丈夫」ではなく、「念の為」という視点で、念の為に医療機関の診断を受けることをお勧めします。
3.産後クライシスを乗り越えるには
産後クライシスを乗り越えるためには、何よりも、夫婦相互の理解と協力が必要であり、産後の時期を夫婦で乗り越えていくという意識が重要です。
出産によるホルモンバランスの乱れは、個人差はありますが、産後1か月程度(母乳保育の場合は母乳をやめてから1〜3か月程度)で正常に戻ります。
夫が、事前に、出産により妻に生じ得る変化(人の作りからして妻の意思とは関係がなくそのようなことが起こり得るということ)を理解して受け入れるとともに、出産後は子ども中心の生活となることを受け入れることは、絶対に必要でしょう。
その上で、夫婦のそれぞれの生活状況や、出産後の状況を想定し、しっかりと話し合っておくことが重要です。
夫には、妻の状況をしっかりと理解し、妻を労わり、妻の育児の負担が低減するように主体的に行動することが求められます。
出産後の家事・育児の基本的な役割分担を決めつつ、実際に出産した後にそれをベースに夫婦でより良い形を模索するようにすることも有用です。
また、夫は、妻に対して、仕事などの夫がその時期にどうしても絶対にやらなければならない事項や、その時期にやるべきであると考えている事項をしっかりと説明して分かってもらい、妻はそれをしっかりと理解して分かってあげることも必要でしょう。
妻としても、なんでもかんでも自分で抱え込む必要は全くありませんので、周囲の人の手を借りて、夫に頼るところはどんどん頼って、適宜自分だけの時間を確保するなどして、無理のし過ぎの状況に陥らないようにすることが重要です。
妻が健やかに笑っていてくれればそれだけで嬉しいと感じる夫も多く、そのような妻のためには協力を惜しまない夫も沢山いるものです。
4.産後クライシスで離婚を決意した場合の離婚の進め方
産後の状況を受けて、離婚を決意した場合には、どのように離婚問題を進めていけば良いでしょうか。
⑴協議離婚
夫が離婚及び離婚条件に合意すれば、離婚の理由は問わず、離婚は成立します。
そのため、夫が離婚に合意している場合には、夫と離婚条件などを話し合って、協議離婚(離婚すること及び離婚条件について夫婦が話し合って合意して離婚を成立させる離婚の方法)の形で離婚問題を解決することで目指すことで良いでしょう。
ただ、夫が離婚に合意しなかったり、離婚条件に関して夫との話し合いが難航しそうであったりする場合には、別居ができる状況であれば早めに別居を開始することが良いでしょう。
離婚問題における別居を開始することのメリットについて詳しくは【別居して離婚を考えている】をご確認ください。
また、協議離婚の成立を早急に諦めて離婚調停を申し立てた方が結果として早期に有利な条件で離婚が達成できると思われる場合もありますので【離婚調停で離婚を有利に!離婚調停を早期に申し立てた方が良いケース】をご確認ください。
⑵離婚調停
協議離婚にて離婚合意が成立しなさそうな場合には、家庭裁判所に離婚調停を申し立てて調停離婚の成立を目指すことになります。
離婚調停とは、夫婦間の離婚問題を解決するために、裁判所(調停委員会)が仲介して夫婦間の合意を成立させるための手続きです。
離婚調停では、調停委員が離婚に合意しない方を離婚に合意させようと必死に検討してくれることもあり、全体の半数近く(離婚調停中に協議離婚が成立した場合も含む)で離婚の合意が成立しており、離婚調停に弁護士が関与している場合にはさらに離婚合意の成立率は高まります。
離婚調停について詳しくは【離婚調停とは?申立てから終了までの流れや平均的な期間・手続の特徴を解説】をご確認ください。
⑶離婚裁判
夫が離婚調停でも離婚に合意せず、離婚調停が不成立で終わった場合には、離婚するためには離婚裁判を提起することが必要です。
離婚裁判を提起した場合の直近10年間(平成25年〜令和4年)の離婚の成立率(判決離婚又は和解離婚に至る割合)は、合計で8‐%であり、ほとんどの場合で離婚が成立しています。
離婚裁判はまさに離婚達成のための最終手段といえます。
離婚裁判で裁判所に離婚判決を出してもらうためには、裁判所に離婚原因(法定離婚原因)が存在していることを認定してもらうことが必要です。
具体的には、夫が不倫をしたなどの事情がない場合には、裁判所が夫婦の間に「婚姻を継続し難い重大な事由」(民法770条1項5号)が存在すると判断すれば離婚判決が出されることになりますし、裁判所が夫婦の間に「婚姻を継続し難い重大な事由」は存在しないと判断すれば棄却判決(離婚請求を認めない判決)が出されることになります。
そして、裁判所は、夫婦の間に「婚姻を継続し難い重大な事由」が存在しているかどうかを、その夫婦の間に存在した多種多様な事情を総合的に考察・検討して判断します。
「婚姻を継続し難い重大な事由」の存否を巡る離婚裁判の特徴や、具体的にどのようなことを行なっていくこととなるのかについては【離婚裁判で激しい争いとなりやすい典型的な5つのケースを解説します・③「婚姻を継続し難い重大な事由」の存否を巡る争いがあるケース】をご確認ください。
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5.本当に離婚で良いのか改めて検討する時間は大切です
離婚は、離婚問題に精通した弁護士に依頼をすれば、高確率で成立に至ることができます。
ただ、夫が不倫をしたり、夫からの暴力(DV)・モラハラがあったりするのであればまた別の問題ですが、そうでない場合には、本当に離婚で良いのか、今一度改めて慎重に考えてみることは大切です。
産後クライシスを切り抜けて、幸せな家族に成長していく夫婦も多くいます。
また、離婚後の生活状況がどのようなものとなり得るのかは、本当に離婚に踏み切って良いのかの最終的な判断をする前に、その前提として知っておくことが有用です。
レイスター法律事務所では、無料法律相談において、個別的・具体的な事情を踏まえて、離婚に踏み切った場合に、離婚紛争がどのような状況になるのか・離婚が成立する時期の見通しや、最終的にどのような離婚条件となる見込みが高いのかなどといった具体的なアドバイスを行なっていますので、できれば離婚を切り出す前に、是非ご利用ください。