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内縁(事実婚)とは、婚姻届を提出していないだけで生活実態は婚姻届を提出した夫婦と全く違いがない場合をいいます。
内縁(事実婚)の状態と認められる場合は、恋人同士の同棲の場合とは異なり、法律婚の場合とほぼ同様の権利が認められています。
さらに、内縁(事実婚)の関係を解消する際には、法律婚の場合と同様、慰謝料請求や財産分与請求などをすることができます。
ただ、内縁(事実婚)の場合、法律婚の場合とは①戸籍、②子どもの戸籍・親権、③相続、④税法上の優遇措置など、⑤住民票の「続柄」の記載の点で異なった扱いを受けます。
このページの目次
1.内縁(事実婚)とは?
内縁(事実婚)とは、事実上夫婦としての共同生活の実態がある場合(夫婦として生活をしているものの婚姻届の提出をしていないだけの場合)を言います。
つまり、本人同士もいわゆる夫婦として共同生活をしているものと考えていますし、周囲の人間も「あの男女は夫婦である」と認識しているような関係です。
このような内縁(事実婚)の状態と認められる場合は、恋人同士の同棲とは異なり、法律婚に準じた権利が認められており、保護されています。
2.婚姻届の提出をしていないことの影響(法律婚との違い)
このように内縁(事実婚)は婚姻届を提出していないだけで生活実態は婚姻届を提出した夫婦と全く同じです。
ただ、婚姻届を提出していないことから、法律婚(婚姻届を提出している場合)とは以下の扱いが異なってきます。
- 戸籍
- 子どもの戸籍・親権
- 相続
- 税法上の優遇措置など
- 住民票の「続柄」の記載
①内縁(事実婚)の場合の戸籍
法律婚の場合は同一の戸籍に入ります。
他方、内縁(事実婚)の場合は、別の戸籍になります。
そのため、内縁(事実婚)では夫婦別姓を実現することができますので、苗字(氏)が変わることによる仕事上の不都合や、免許証・パスポートなどの様々な氏の変更を行う必要がありません。
また、法律婚の場合は離婚した際には戸籍に「離婚」と記載されますが、内縁(事実婚)の場合は関係を解消したことは戸籍上には記載されません。
内縁(事実婚)と法律婚の違いその①…戸籍
内縁(事実婚)の場合
- 夫婦は別の戸籍に入り、苗字(氏)も別
- 関係解消しても戸籍上はそのことが記載されない
法律婚の場合
- 夫婦は同一の戸籍に入り、同一の苗字(氏)となる
- 関係解消(離婚)した場合はそのことが戸籍に記載される
②内縁(事実婚)の場合の子どもの戸籍・親権
法律婚の場合は、夫婦の間に生まれた子どもは嫡出子として扱われ、夫婦と同一の戸籍に入りますし、夫婦の共同親権が認められます。
他方、内縁(事実婚)の夫婦の間に生まれた子どもは非嫡出子として扱われ、母親の戸籍に入りますし、子どもの親権者は母親のみとなります。
父親はそのままでは法律上父親とは認められていませんので、法律上の親子関係を発生させるためには認知の手続きを行うことが必要です。
ただし、父親が認知をしたとしても子どもの親権者は母親のみであることは変わらず、父母の共同親権が認められることにはなりません。
なお、父親が認知をしてくれない場合は、強制的に認知させることも可能です。
認知について詳しくは【認知とは?結婚していない父親から養育費をもらうための手続きを解説】をご確認ください。
内縁(事実婚)と法律婚の違いその②…子どもの戸籍・親権
内縁(事実婚)の場合
- 子どもは非嫡出子として扱われる
- 子どもの親権者は母親のみ
- 子どもは母親の戸籍に入る
法律婚の場合
- 子どもは嫡出子となる
- 子どもは父母の共同親権に服する
- 子どもは夫婦と同一の戸籍に入る
③内縁(事実婚)の場合の相続
内縁(事実婚)の状況では、夫婦は相互に法定相続人とはなりません。
そのため、財産を残すためには遺言を行うことなどが必要となります。
内縁(事実婚)と法律婚の違いその③…相続
内縁(事実婚)の場合
- 夫婦は相互に相続人に法定相続人にはならない
法律婚の場合
- 夫婦は相互に第1順位の法定相続人になる
④内縁(事実婚)の場合の税法上の優遇措置など
内縁(事実婚)の場合は配偶者控除や配偶者特別控除などの控除を受けられませんし、青色専従者となることもできません。
内縁(事実婚)と法律婚の違いその④…税法上の優遇措置など
内縁(事実婚)の場合
- 配偶者控除・配偶者特別控除・青色専従者などの税法上の制度は利用できない
法律婚の場合
- 配偶者控除・配偶者特別控除・青色専従者などの税法上の制度を利用できる
⑤内縁(事実婚)の場合の住民票の「続柄」の記載
法律婚の場合は住民票の「続柄」の欄に「妻」や「夫」と記載されます。
他方、内縁(事実婚)の場合は、住民票の「続柄」の欄に「同居人」や「妻(未届)」「夫(未届)」と記載されることになります。
なお、住民票の記載は、夫婦間で対立が発生した場合に内縁(事実婚)関係であることを証明する有力な証拠となりますので、「同居人」ではなく「妻(未届)」「夫(未届)」との記載としておくことをお勧めします。
他方、住民票において夫婦の世帯が分かれている場合は、そのことは逆に内縁(事実婚)ではないことの証拠と評価される可能性があります。
内縁(事実婚)と法律婚の違いその⑤…住民票の「続柄」の記載
内縁(事実婚)の場合
- 同居人」や「妻(未届)」「夫(未届)」と記載される
法律婚の場合の戸籍
- 「妻」「夫」と記載される
3.婚姻費用は請求できる?
夫婦は、互いに婚姻費用(共同生活を維持するために必要な生活費、居住費、食費、医療費、学費など)を分担する義務を負っています(民法760条)。
そのため、相手が生活費を負担してくれない場合には、相手に対して婚姻費用の分担を請求することができます。
このことは内縁(事実婚)の夫婦の場合も同様と考えられています。
つまり、内縁関係にあるパートナーが生活費等を負担してくれない場合には、パートナー対して生活費等を請求することができます。
ただし、後述するように、夫婦の一方が夫婦としての共同生活を解消する意思で別居を開始した場合には夫婦としての共同生活の実態が失われてしまい内縁(事実婚)の夫婦関係は解消してしまいます。
そのため、一時的な別居や同居中における請求はあり得ますが、「別居している内縁の夫に対して生活費を請求する」といったことは困難です。
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4.内縁(事実婚)の夫婦関係を解消する方法
法律婚の場合は夫婦関係を解消するためには離婚しなければなりません。
そして、早期円満に離婚するためには相手に離婚に同意してもらう必要がありますが、相手が同意しない場合にはどうにか相手を説得したり、離婚訴訟を提起して争う必要が生じたりします。
他方、内縁(事実婚)の場合は、ただ夫婦としての共同生活の実態を解消すれば良いだけです。
すなわち、別居すれば内縁(事実婚)の夫婦関係は解消します。
そして、上述したように、戸籍に「離婚」と記載されることもありません。
5.内縁(事実婚)であったかどうかが争いとなる場合
(1)内縁(事実婚)であったかどうかの争いが発生する可能性
内縁(事実婚)の夫婦の関係が悪化して関係を解消することとなった場合には、法律婚の場合と同様、慰謝料請求や財産分与請求などをすることができます。
そのため、慰謝料や財産分与で損をする方から、「ただの同棲だった!」「内縁なんかじゃなかった!」などといった責任逃れの主張がされることがあります。
その場合には、今までの生活実態が内縁(事実婚)であるのかそうではないのかが争いとなります。
(2)内縁(事実婚)であったことを証明するための証拠
内縁(事実婚)の関係が成立していたことを証明するためには、「夫婦としての共同生活の実態があった」ことを証明する必要があります。
そのための有力な事実・証拠は、上述した「続柄」に「妻(未届)」「夫(未届)」と記載された住民票の存在です。
また、夫が子どもを認知していることや連れ子を養子縁組していることも極めて重要な事実となります。
また、「夫婦としての共同生活の実態がある」と言うためには一定期間の同居共同生活の継続が必要です。
その他には、例えば、
- 対外的な関係で夫婦と名乗っていたことの分かる証拠(町内会・会社・子どもの習い事先などに提出した届出の記載など)
- 互いに両親に夫婦として紹介していたこと・互いの両親が夫婦として共同生活をしているものだと考えていたこと
- 結婚指輪をして生活をしていたこと
- 結婚式を挙げていたこと
などといった様々な事情を踏まえて、「夫婦としての共同生活の実態がある」ことを証明していくこととなります。
内縁(事実婚)が成立していたことを証明するための証拠の例
- 「続柄」に「妻(未届)」「夫(未届)」と記載された住民票
- 内縁の夫が子どもを認知していることが分かる戸籍謄本
- 対外的な関係で夫婦と名乗っていたことの分かる証拠(町内会・会社・子どもの習い事先などに提出した届出の記載など)
- 互いの両親が夫婦として共同生活をしているものだと考えていたことが分かる資料(メール・LINE・SNSのやり取りや日記など)
- 結婚指輪をして生活をしていたことが分かる写真
- 結婚式を挙げていたことが分かる資料(写真など)
6.内縁(事実婚)の夫婦間で争いが発生する前に
内縁(事実婚)の状態は夫婦の相互が信頼関係に基づく共同体であり、同じ方向を向いて生活をしている場合には特段の問題が生じないものです。
ただ、上記のように、内縁(事実婚)の関係は、法律婚の場合とは異なり、特別の手続きをすることなく、夫婦で話し合いをすることさえせずに、一方的に関係を解消されてしまうものであり、その点で極めて危うい関係でもあります。
内縁(事実婚)の相手との関係が悪化してしまっていたりして争いが発生しそうな場合は、その争いが実際に発生する前に、事前にリスクを最小限に減らす方法や今後のあり得る紛争の流れ・必要な証拠などについて、弁護士に相談をして確認しておくことをお勧めします。
レイスター法律事務所では、初回1時間無料にて法律相談を実施していますので、是非、お気軽にこちらからご連絡ください。
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