保護命令の申立ての要件と保護命令の離婚問題への影響

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保護命令は申立要件が整えば速やかに発令される

 保護命令はDV夫の暴力からあなたと子どもを守るための制度です。
 DV夫との離婚やDV夫に対する慰謝料請求を考えていたとしても、その前提としてまずは自分と子どもの安全を確保しなければなりません。
 この記事では、保護命令を申立てるための要件や保護命令の審理の特徴を解説しています。
 また、保護命令が出されたことがDV夫との離婚問題に与える影響やDV夫が離婚に応じない場合の離婚問題の進め方についても解説しています。

1.配偶者・元配偶者に加えて交際相手からの保護を求めることもできる!

保護命令が出されると、相手方(加害者)は、以下の行動ができなくなります。

  1. あなたに接近する(接近禁止)
  2. 子どもに接近する(子への接近禁止)
  3. 親族・近しい友人等に接近する(親族等への接近禁止)
  4. 電話やメールなどの一定の行動(電話等禁止)

また、同居中である場合には、一時退去を強制することも可能です(退去命令)。

保護命令の概要・種類・効果・手続の流れなどについては、以下の記事をご確認ください。

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配偶者暴力防止法(DV防止法)は保護命令という制度を定めています。保護命令とは、DV夫による暴力から被害者である配偶者を守るた…

この保護命令は、かつては配偶者(事実婚を含む)から身体的な暴力の被害を受けた人のみが保護の対象となっていました。

  • かつての保護命令の保護の対象
加害者配偶者(事実婚を含む)のみ        
保護の対象身体的な暴力を受けた人のみ        

しかし、現在では、配偶者(事実婚を含む)に加えて、生活の本拠を共にする交際相手(同居・同棲している交際相手)からの保護も対象となっています(DV防止法28条の2)。

さらに、身体的な暴力を受けた人のみならず、生命や身体に対する脅迫行為を受けた人も保護の対象となっています。

  • 現在の保護命令の保護の対象
加害者配偶者(事実婚を含む)・同棲している交際相手
保護の対象身体的な暴力を受けた人
生命や身体に対する脅迫を受けた人      

なお、婚姻中に配偶者から暴行・脅迫を受けた場合はその後離婚をしても保護の対象となりますし、同居・同棲中に交際相手から暴力・脅迫を受けた場合はその後に同居・同棲を解消しても保護の対象となります。

他方、同居・同棲していない交際相手からの暴力等に対しては、保護命令を申し立てることはできません。

その場合は、保護命令ではなく、ストーカー規制法による保護を求めたり、暴行罪・傷害罪・脅迫罪などの犯罪被害に遭った(その恐れがある)として警察に相談したりすることなどを検討することになります。

2.保護命令の申し立てを行うための要件

保護命令の申し立てを行うための要件について、法律は、このように定めています。

配偶者暴力防止法(DV防止法)10条1項本文

「被害者(配偶者からの身体に対する暴力又は生命等に対する脅迫(被害者の生命又は身体に対し害を加える旨を告知してする脅迫をいう。以下この章において同じ。)を受けた者に限る。以下この章において同じ。)が、配偶者からの身体に対する暴力を受けた者である場合にあっては配偶者からの更なる身体に対する暴力(配偶者からの身体に対する暴力を受けた後に、被害者が離婚をし、又はその婚姻が取り消された場合にあっては、当該配偶者であった者から引き続き受ける身体に対する暴力。第十二条第一項第二号において同じ。)により、配偶者からの生命等に対する脅迫を受けた者である場合にあっては配偶者から受ける身体に対する暴力(配偶者からの生命等に対する脅迫を受けた後に、被害者が離婚をし、又はその婚姻が取り消された場合にあっては、当該配偶者であった者から引き続き受ける身体に対する暴力。同号において同じ。)により、その生命又は身体に重大な危害を受けるおそれが大きいとき」

とても読みにくいですが、要するに、以下の2つの要件を満たす場合には保護命令を申し立てることができます

  1. 過去に加害者からされたこと
    …加害者から身体に対する暴力や生命や身体に対する脅迫を受けた。
  2. 今後加害者からされそうなこと
    …加害者から、今後、身体に対する暴力によって生命又は身体に重大な危害を受ける恐れが大きい。

このように「①加害者から身体に対する暴力や生命や身体に対する脅迫を受けた」ことが要件となっていますので、「殺すぞ!」「殴るぞ!」「また痛い思いをしたいのか!」などといった脅迫は該当しますが、人格批判などは該当しません。

また、②の要件に関しては、保護命令が刑事罰の発動にも繋がる極めて強い効果を有していることから、「単に将来暴力を振るうおそれがあるというだけでは足りず、従前配偶者が暴力を振るった頻度、暴力の態様及び被害者に与えた傷害の程度等の諸事情から判断して、配偶者が被害者に対して更に暴力を振るって生命又は身体に重大な危害を与える危険性が高い場合をいう」と解されています(東京高裁平成14年3月29日決定・判タ1141号267頁)。

とはいうものの、現在の実務上は、かなり広く保護命令の発令が認められている印象です。

3.裁判所は急いで審理して保護命令を発令してくれる!

保護命令は可能な限り速やかに発令をする必要性が高いため、法律上も、「裁判所は、保護命令の申立てに係る事件については、速やかに裁判をするものとする。」と規定されています(DV防止法13条)。

そのため、裁判所は、他の事件と異なり、保護命令の審理をとても急いで行ってくれます

具体的には、裁判所は、保護命令の申立書を受け取った後速やかに(当日に処理される場合もあります)、申立人(被害者)と連絡を取って、申立人(被害者)と面接をして事実などの確認を行います。

申立人が弁護士に依頼している場合には、この手続きに弁護士も同席して申立人をサポートします。

そして、通常その後速やかに(1週間程度先)、相手方(加害者)から事情を聞いたり相手方(加害者)の意向や意見を聞いたりするための手続き(口頭弁論又は審尋手続)を設けます。

なお、この手続の際、申立人本人の代わりに弁護士のみが出頭して対応することが可能です。

また、この相手方(加害者)から話を聞く手続きをしたのでは「保護命令の申立ての目的を達することができない事情があるとき」は、裁判所は、相手方(加害者)から話を聞くという手続きを行わずに、保護命令を発令することもできます(DV防止法14条1項)。

例えば、保護命令の申立てを知った相手方(加害者)が激高して暴力を振るってくることが確実視される場合などは、この場合に当たり得ます。

そして、裁判所は、保護命令の要件を満たしていると考えた場合には、速やかに保護命令を発令します

相手方(加害者)を裁判所に呼び出して相手方(加害者)の話を聞いたその当日に相手方(加害者)に対して保護命令の発令を伝える場合もあります。

このように、保護命令は迅速に審理・発令されることとなっており、保護命令の申立てから保護命令の発令までの期間は概ね2週間程度である場合が多いです。

そして、裁判所は、保護命令を発令した後速やかに警察本部に連絡して、保護命令の内容を伝え、申立人(被害者)を保護するための行動が開始されることになります。

保護命令発令後の流れについては、以下の記事をご確認ください。

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4.保護命令と離婚

離婚裁判で裁判所に離婚判決を出してもらうためには、法律に定められている離婚原因(法定離婚原因)が存在していることが必要です。

法定離婚原因は以下の5つです。

法定離婚原因(民法770条1項)

  1. 「配偶者に不貞な行為があったとき」(1号)
  2. 「配偶者から悪意で遺棄されたとき」(2号)
  3. 「配偶者の生死が三年以上明らかでないとき」(3号)
  4. 「配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき」(4号)
  5. 「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」(5号)

そして、この法定離婚原因があるかないかで、話し合いでの離婚(協議離婚・調停離婚)が成立するかどうかや、交渉の方向性が変わってきます。

なぜなら、法定離婚原因があることが明確な場合には、結局のところ離婚裁判を提起すれば間違いなく離婚となる状況ですから、お互いの負担などを考えて、離婚裁判を提起する前に話し合いで離婚を成立させる方向で進むことが多いです。

逆に、法定離婚原因がない場合は、結局のところ当事者が離婚に合意しなければ離婚にはならない状況ですので、その分 離婚の話し合いは難航する可能性が高まります。

そして、配偶者からの暴力・脅迫を理由に保護命令の発令までされているということは、上記の法定離婚原因のうちの「婚姻を継続し難い重大な事由」という離婚原因の存在を強く基礎付ける要素の一つとなります。

つまり、保護命令が発令されている状況であれば、他に不貞などの法定離婚原因が存在していなかったとしても、「婚姻を継続し難い重大な事由」という法定離婚原因が存在しているとされ、離婚訴訟を提起すれば離婚となる可能性が高い状況ということができます。

その分、離婚裁判に至る前に、早期に話し合いで離婚が成立する可能性が高いということができます。

また、もし加害者(相手方)があなたとの離婚を望まず、あなたと復縁したいとの希望を有していたとしても、自分がしたことが保護命令の発令までされるような極めて酷いことであったことを突き付けられれば、あなたとの復縁はあり得ない希望であることを受け入れざるを得ず、復縁を諦めるきっかけとなることにも期待できます。

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この記事の執筆者

弁護士山﨑慶寛

弁護士法人レイスター法律事務所
代表弁護士 山﨑慶寛

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