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家庭裁判実務上、婚姻費用の金額は、婚姻費用算定表を用いて計算されています。
ただし、婚姻費用算定表には、義務者が子供と同居しているパターンや、給与を得つつ自営での稼ぎもあるパターンや、収入が2000万円を超えているパターンが記載されていません。
その場合は、婚姻費用算定表の考え方(標準算定方式)にまで遡って計算をする必要があります。
このページの目次
1.算定表から分からないパターン
別居中、収入が多い方の配偶者(義務者)は収入が少ない方の配偶者(権利者)に対して、原則として、婚姻費用を支払う義務を負います。
そのため、あなたが配偶者よりも収入が少ない、もしくは専業主婦等で無収入であるなどの場合は、相手から婚姻費用を受け取る権利があります。
婚姻費用の支払いがあるとないとでは、別居中の生活状況や、離婚の話し合いの状況はかなり変わってきます。
そして、婚姻費用を具体的にいくら請求できるのかは、家庭裁判所が公開している婚姻費用算定表を見ればおおよそ検討がつきます。
ただ、ここで問題となってくるのは、婚姻費用算定表はあくまでオーソドックスなパターンしか記載されていないという点です。
具体的には、婚姻費用算定表に記載されているのは、以下のパターンのみです。
子供 | ・1人〜3人の場合 ・権利者(受け取る側)が子供全員の親権者である場合のみ |
年収 | ・給与所得0円〜2000万円の場合 ・事業所得0円〜1567万円の場合 |
そして、それ以外のパターンは婚姻費用算定表に記載されていませんので、子供の人数や年収がこの枠内を超えている場合には、婚姻費用算定表を確認するだけでは婚姻費用の金額は分かりません。
例えば、婚姻費用を支払う側(義務者)が子供と同居している場合や、給与所得と事業所得の両方を得ている場合や、収入が2000万円を超えている場合などの場合の婚姻費用の金額は、婚姻費用算定表を見ても分かりません。
その場合は、婚姻費用算定表の考え方(標準算定方式)にまで遡って計算をする必要があります。
2.算定表の考え方(標準算定方式)
婚姻費用算定表は、「標準算定方式」という計算方法に基づいた計算結果を表にまとめたものです。
「標準算定方式」では、婚姻費用の金額を以下のように計算します。
「標準算定方式」の計算方法
- 計算の前提となる夫婦の収入を確定
- 基礎収入金額の合計を算定
- 子どもとの同居の状況に応じて必要となる生活費指数を確定
- 妻と夫のそれぞれに必要となる生活費の具体的金額を計算
- 必要となる生活費に不足している金額を計算 ⬅︎これが婚姻費用の年額
⑴①計算の前提となる夫婦の収入を確定
婚姻費用の金額は夫婦の現実の収入金額に基づいて計算されるのが原則です。
ただし、現実の収入金額を前提として計算すると不当になる場合もあります。
その場合は、婚姻費用の金額を、現実の収入金額を前提とするのではなく、その気になれば稼げるであろう水準の収入(潜在的稼働能力)に基づいて計算をすることとなる場合もあります。
この潜在的稼働能力は、特に、義務者が無収入・低収入になった場合や、権利者が別居後も無収入である場合に問題となります。
【婚姻費用】相手が無職・低収入の場合は潜在的稼働能力を主張しよう
⑵②基礎収入金額の合計を算定
収入金額の全額を生活費として使用することはできません。
実際に生活費として使用できるのは、収入金額から税金などの様々な費用を差し引いた残りの金額です。
この実際に生活費として使用できるであろう金額のことを、基礎収入金額と呼びます。
標準算定方式では、基礎収入金額を、収入金額に一定の割合(基礎収入割合)を掛け算することで計算しています。
標準算定方式が計算で用いている基礎収入割合は、以下の通りです。
- 給与所得者の場合の基礎収入割合
収入金額 | 基礎収入割合 |
---|---|
〜75万円 | 54% |
〜100万円 | 50% |
〜125万円 | 46% |
〜175万円 | 44% |
〜275万円 | 43% |
〜525万円 | 42% |
〜725万円 | 41% |
〜1325万円 | 40% |
〜1475万円 | 39% |
〜2000万円 | 38%〜 |
- 自営業者の場合
収入金額 | 基礎収入割合 |
---|---|
〜66万円 | 61% |
〜82万円 | 60% |
〜98万円 | 59% |
〜256万円 | 58% |
〜349万円 | 57% |
〜392万円 | 56% |
〜496万円 | 55% |
〜563万円 | 54% |
〜784万円 | 53% |
〜942万円 | 52% |
〜1046万円 | 51% |
〜1179万円 | 50% |
〜1482万円 | 49% |
〜1567万円 | 48% |
具体例で説明①
例えば、夫の収入が800万円(自営業者)、妻の収入が300万円(給与所得者)の場合は、基礎収入の合計金額は、以下のようになります。
⚫︎夫の基礎収入金額:
800万円×52%=416万円
⚫︎妻の基礎収入金額:
300万円×42%=126万円
⚫︎基礎収入金額の合計:
542万円
⚫︎結論
この夫婦の場合、実際に生活費として使用できるであろう合計金額は542万円。
⑶③子供との同居状況に応じて必要となる生活費指数を確定
子供との同居状況に応じて、妻と夫の各々が実際に必要としている生活費の指数を確定します。
例えば、妻は子供2人(5歳と16歳)と生活をしており、夫は一人暮らしをしていたとした場合、妻は自身の生活費に加えて子供2人の生活費も負担しなければなりません。
つまり、この場合、妻と夫のそれぞれに必要となる生活費は、以下のようになります。
⚫︎妻に必要となる生活費
大人1人分の生活費
5歳の子供の分の生活費
16歳の子供の分の生活費
⚫︎夫に必要となる生活費
大人1人分の生活費
そして、必要となる生活費の金額は、大人と子供とで異なります。
また、子供についても、子供の年齢によって必要となる生活費の金額は異なります。
標準算定方式は、このことを、生活費指数という数値を用いて計算しています。
具体的には、標準算定方式は、この大人と子供のそれぞれに必要となる生活費について、大人の生活費を「100」だとした場合、14歳以下の子供の生活費は「62」、15歳以上の子供の生活費は「85」だろうと考えて、生活費指数を割り振っています。
生活費指数 | |
---|---|
大人 | 100 |
14歳以下の子ども | 62 |
15歳以上の子ども | 85 |
具体例で説明②
上記の妻は子供2人(5歳と16歳)と生活をしており、夫は一人暮らしをしていたとした場合の例で説明します。
⚫︎妻に必要となる生活費
大人1人分「100」
5歳の子供の分「62」
16歳の子供の分「85
⇨合計「247」の生活費が必要!
⚫︎夫に必要となる生活費
大人1人分「100」
⇨必要な生活費は「100」のみ
⚫︎結論
この夫婦の場合、妻は「247」、夫は「100」の生活費が必要となる。
⑷④妻と夫のそれぞれに必要となる生活費の具体的金額を計算
妻と夫のそれぞれに必要となる生活費の具体的な金額は、②の基礎収入金額(実際に生活費として使用できるであろう金額)の合計を、③の生活費指数(実際に必要としている生活費の指数)で按分計算することで算定できます。
具体例で説明③
⚫︎事例
夫の収入は800万円(自営業者)、妻の収入は300万円(給与所得者)とする。
妻は子供2人(5歳と16歳)と生活しており、夫は一人暮らしをしているとする。
⚫︎②基礎収入金額の合計
夫の基礎収入金額は416万円
妻の基礎収入金額は126万円
基礎収入金額の合計は542万円
⚫︎③生活費指数
妻は「247」
夫は「100」
⚫︎④按分計算
542万円を「妻(247):夫(100)」で按分計算する
妻=385万8040円
夫=156万1960円
⚫︎結論
つまり、妻には385万8040円の生活費が必要となり、夫には156万1960円の生活費が必要となるということになる。
⑸⑤必要となる生活費に不足している金額を計算
必要となる生活費に不足している金額は、④で計算したその者に必要となる生活費から、その者の基礎収入金額(実際に生活費として使用できるであろう金額)を差し引くことで計算できます。
夫婦の一方に不足金額があるということは、夫婦の他方には余剰の金額があるということです。
この不足金額が婚姻費用の年額となりますので、それを月額に引き直すことで毎月請求できる婚姻費用の金額が算定できます。
具体例で説明④
上記の例ですと、妻に必要となる生活費は「385万8040円」でした。
ただ、妻の基礎収入金額(実際に生活費として使用できるであろう金額)は126万円です。
つまり、妻は、必要となる生活費が「259万8040円」(385万8040円−126万円)不足している状況にあるということです。
これを月額に引き直すと、月額21万6503円(259万8040円÷12か月)となります。 そのため、妻は、夫に対して、婚姻費用として月額21万6503円を請求することができます。
3.算定表に記載されていないパターンの計算
婚姻費用算定表に記載されていないパターンも、家庭裁判実務上、婚姻費用算定表の考え方(標準算定方式)に基づいて計算されています。
上記の計算方法で順番に計算をしていけば、以下のような婚姻費用算定表に記載されていないパターンの場合の婚姻費用の適正額の計算も可能です。
- 婚姻費用の支払義務者が子供と生活をしている場合
- 給与所得と事業所得の両方を得ている場合
- 収入が2000万円を超えている場合
なお、この点については、別の機会に、その際の注意点や、問題となる点、有利に交渉を進めるために知っておくべき事項などについて、改めて解説する予定です。
合意すると大損害!?相手が子どもと同居している場合の婚姻費用請求
4.婚姻費用は離婚協議中の生活状況に直結する
婚姻費用の金額は、支払う側にとっても、受け取る側にとっても、別居後の生活に多大な影響を及ぼすことの多い問題です。
支払う金額・受け取る金額が毎月数千円の違いだとしても、別居期間が長引けば長引くほど、その合計金額は何万円、何十万円と膨らんでいきます。
また、別居中の生活費の問題は、離婚条件の話し合いにも影響を及ぼすことが多い問題です。
特に、すでに婚姻費用分担調停の中で話し合いが進んでいる場合や、自身が算定表に当てはまらないパターンであり婚姻費用の計算が煩雑になりそうな場合には、一度弁護士の無料相談などを利用することをお勧めします。
レイスター法律事務所では、無料相談において、
- 婚姻費用・養育費の金額を算定表で計算する際に少しでも有利な金額となるために必要な事情
- 標準算定方式での計算よりも有利な金額が認められる可能性
- 調停で実際に認められる余地のある婚姻費用・養育費の金額の幅
などといった事項について、具体的なアドバイスを行なっています。
離婚や婚姻費用に関してお悩みの際は、是非、こちらからお気軽にご連絡ください。