更新日:
性的DV(配偶者による性的暴力・性的強要)とは、性的な行為を通じて配偶者を肉体的・精神的に支配することを言います。
配偶者からの性的暴力・性的強要の被害は内容的に最も他人に相談しにくく、また、DVの被害に遭っているものと気がつきにくい場合もあります。
ただ、夫婦であるからといって性的な行為を強要することは一切許されず、望まぬ性的な行為は全て性的DVに該当する可能性があります。
性的DVは決して許されるものではなく、夫の一方的な性的欲望を満足させるために我慢をする必要は一切ありません。
夫にやりたい放題させているままでは、いつまで経っても変わりません。
手はあります。まずは、ご相談を。
このページの目次
1.性的DVとは
性的DV(配偶者による性的暴力・性的強要)とは、性的な行為を通じて配偶者を肉体的・精神的に支配することを言います。
DV加害者の大きな傾向として配偶者を力で支配したいという思いがあり、その思いが様々なDV行為の理由・背景的要因になっていることが多いです。
DVの種類
- 身体的DV(身体的暴力)
- 精神的DV(精神的暴力)
- 経済的DV(経済的暴力)
- 性的DV(性的暴力)
- 社会的DV(社会的暴力)
- 子どもを使ったDV
性的DVは、その「相手を支配したい」という思いが性的な行為を通じて行われている状況です。
最新の内閣府男女共同参画局作成の統計資料によると、約4人に1人(26.2%)は配偶者から暴力の被害を受けたことがあると自覚しており、性的DV(性的強要)の被害に限定しても約16人に1人(6%)が性的DVの被害を自覚しています。
そして、夫がDV気質の場合、そのような夫が身体的DVなどは行うものの性的DVだけは絶対に行わないという状況にあるとは考えにくく、大なり小なり妻に対する性的暴力・性的強要も行われているであろうことは容易に推察されるところです。
性的DVは最も他人に相談しにくいDVであるために、統計資料などには表れてはいませんが、夫による性的DVの実際の被害数は極めて多いと推測されます。
この記事では性的DVの特徴や具体例及び性的DVを理由とする離婚問題・慰謝料請求などについて解説します。
2.性的DVの被害は相談しにくい
⑴DVは許されない行為である
女性は結婚したら男性の「家」に入るという古い夫婦観・ジェンダー観のもとでは、女性は、結婚して妻となったら社会から隔離され、夫及び夫の「家」のやり方に対応して生きていく他に生き方の選択肢が乏しく、しかもそれが当然であるかのような風潮がありました。
その古い時代では、夫からのDV被害を受けやすい環境と、DV被害から逃れることが極めてし難い環境がありました。
そのため多くの妻が夫からのDV被害に耐え、泣き寝入りして苦痛の中で人生を過ごすしかありませんでした。
しかし、今はそのような古い夫婦観・ジェンダー観は一切妥当しません。
夫婦は完全に平等であり、共に尊重し合い、全く同じ視点に立って共同生活を送っていくことは当然であり、性別・身体的機能や社会的役割に起因する夫婦間の価値の差も力の差もありません。
いうまでもなく、DVは絶対にあってはならないはずの最悪の行動であり、許されるはずはありません。
DVに関する情報はインターネット上で容易に取得・収集でき、DVの相談ができる公的機関なども増え(配偶者暴力相談支援センター、DV相談プラス、女性センター、福祉事務所、精神保険福祉センター)、法律上も保護命令などのDV被害から守る制度などが存在し、DV被害からの保護に専門性がある弁護士も増えています。
⑵DVの相談をしない理由
令和2年度の配偶者暴力相談支援センターへのDV相談件数は8万0579件、令和2年度のDV相談プラスへのDV相談件数は3万6472件、令和3年度の警察へのDV相談件数は8011件にものぼります。
参考:内閣府男女共同参画局・配偶者暴力相談支援センターにおける相談件数等(令和2年度分)
そうはいっても、現在も配偶者からのDVの被害を相談しない人は多くいます。
DV被害を相談しない理由は様々あります。
DV被害を相談しない理由
- 相談するほどのことではないと思ったから
- 自分にも悪いところがあると思ったから
- 相談してもむだだと思ったから
- 自分さえがまんすれば、なんとかこのままやっていけると思ったから
- 別れるつもりがなかったから
- 恥ずかしくてだれにも言えなかったから
- 自分が受けている行為がDVとは認識していなかったから
- どこ(だれ)に相談してよいのかわからなかったから
- 世間体が悪いと思ったから
- 他人を巻き込みたくなかったから
- 相手の行為は愛情の表現だと思ったから
- そのことについて思い出したくなかったから
- 他人に知られると、これまでどおりのつき合い(仕事や学校などの人間関係)ができなくなると思ったから
- 相談相手の言動によって不快な思いをさせられると思ったから
- 相手の仕返しが怖かったから(もっとひどい暴力や、性的な画像のばらまきなど)
そして、様々なDVの中でも性的DVは最も他人に相談しにくいDVであり、最も泣き寝入りが起こりやすいDVです。
また、日常的に夫からの性的DVの被害に遭っている場合は、それが自身の生活の一部として日常化してしまっており、そのような夫の行為がDVであると気がつきにくいことが特徴です。
その結果、誰にも相談しないままで追い詰められて不眠、頭痛、動悸、下痢、胃痛などの身体症状が現れたり、PTSD(心的外傷ストレス傷害)などの精神疾患を発症してしまったりする例もあります。
夫からの性的DVの被害は心身ともに多大な影響を被る被害です。
性的DVにより被った精神的なダメージは、単純な身体的DVによるダメージよりも回復して立ち直ることができるまで非常に時間を要することが多く、その被害は深刻です。
言うまでもなく、性的DVは決して許されるものではありません。
3.性的DVの具体的内容
性的DVを行う夫は、妻に対して性的な行為を直接的に無理やり強要するのみならず、妻がそれを行うことを拒否したり主体的に行動しない場合に暴言・暴力などを加えたりすることにより、妻に自身の願望に沿った性的な行為に応じさせようと強要します。
ただ、夫婦であるからといって性的な行為を強要することは一切許されません。
本人が望んでいない性的な行為は、全て性的DVに該当する可能性がある行為です。
例えば、以下のような行為は性的DVに該当する行為と考えられます。
性的DVに該当する可能性のある行為
- 望まない性行為を強要する
- 過剰な頻度での性行為を強要する
- 嫌がる性的な行為を強要する
- 特殊な性的嗜好(SM行為、排せつ行為、他人との性交渉など)を強要する
- AV(アダルトビデオ)で視た性的な行為の実践を強要する
- 異物や性的な道具を用いた性的な行為を強要する
- 薬を使われて性行為をされる
- 扇情的な動画の視聴や書籍を読むことを強要する
- 卑猥な言葉を聞かされる・言わされる
- 他の女性との比較や過去の性的経験・性的体験を聞かされる
- 過去の性的経験・性的体験を言わされる
- 外出先での露出・性的な行為をすることを強要する
- 衣服や下着を着せずに行動することを強要する
- 写真や動画の撮影を強要する
- 身体を道具のように扱われる
- 性的な事柄について侮辱・否定する、性的に貶める
- 避妊に協力しない
- 望まぬ妊娠・出産を繰り返させる(多産DV)
- 中絶を強要する
- 売春・性風俗・性的サービス産業での労働を強要する
このような行為が行われていた場合には、殴る・蹴るなどの身体的DV(身体的暴力)が伴わない場合でも、性的DVに該当する可能性があります。
夫の一方的な性的欲望を満足させるために我慢をする必要は一切ありません。
むしろ夫婦であるからこそ相手のことを労り、性的価値観や考え方、性的な事項に関する希望などにおいても相互に尊重して理解を深めていかなければならないところです。
それにも関わらず、自身の欲望のままに一方的な行為を強要することは、夫婦間の信頼関係を裏切る、許されざる行為と言うことができるでしょう。
望まぬ性行為を強要する夫に性犯罪は成立するか
かつては夫婦間で性犯罪は成立しないとする考え方(別途、暴行罪・脅迫罪などの成立を検討するような立場)もありました。
しかし、現在では夫婦間であったとしても強制性交罪(刑法177条)や強制わいせつ罪(刑法176条)といった性犯罪が成立するという考え方が主流です。
刑法176条
13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、6月以上10年以下の懲役に処する。13歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。
刑法177条
13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いて性交、肛門性交又は口腔性交(以下「性交等」という。)をした者は、強制性交等の罪とし、5年以上の有期懲役に処する。13歳未満の者に対し、性交等をした者も、同様とする。
さらに進んで、夫婦間における意に反する性行為の強要が処罰の範囲に含まれることを刑法の条文の表現の上でも明らかにする方法や、「不同意性交罪」という犯罪の新設などについても議論されています。
4.性的DVの被害に遭っている場合に考えるべきこと
⑴公的な機関に相談する
自身が性的DVの被害に遭っている場合、ないしその可能性があると感じた場合には、配偶者暴力相談支援センター、DV相談プラス、女性センター、福祉事務所、精神保険福祉センターなどに相談することをお勧めします。
⑵DV夫と離婚する
夫からの性的DV被害に遭っていることは、法定離婚原因(裁判所が離婚判決を出す事情)である「婚姻を継続し難い重大な事由」(民法770条1項5号)に該当する可能性が高いです。
そのため、あなたが性的DVを行なっている夫との離婚を望むのであれば、夫がどんなに離婚を拒否しても、裁判所はあなたの離婚請求を認めます。
しかも、あなたは財産分与や養育費などの他、性的DVを行なっていた夫に対して高額の離婚慰謝料を請求することができる可能性もあります。
離婚慰謝料の請求はあなたの法律上当然の権利です。
DVが原因となって夫婦の婚姻関係が破綻したケースで認められる慰謝料の相場金額としては、過去の判例・裁判例では数十万円〜300万円程度の金額となる場合が多いです。
特に、一般的には性的DV被害がある場合の離婚慰謝料の金額は高額になる傾向が見られ、事情によっては300万円を優に超える慰謝料が認められる場合もあります。
関連記事
5.性的DVを行う夫との離婚問題を進める場合の注意点
今から離婚問題を進めていこうとしている相手は、妻に対してDVを行うことができるタイプの人間です。
そのため、離婚の進め方としては、身の安全を確保するべく、離婚を切り出す前に別居を先行させるべきでしょう。
別居することが経済的に難しい場合には、別居と同時に婚姻費用を請求することでカバーできる場合もありますので、その方向性を検討することも有用です。
また、適宜DV夫から身を守るための制度である保護命令の制度を利用することも有用です。
保護命令が出されると、夫は、以下の行動ができなくなります。
- 妻に接近する(接近禁止)
- 子どもに接近する(子への接近禁止)
- 親族・近しい友人等に接近する(親族等への接近禁止)
- 電話やメールなどの一定の行動(電話等禁止)
保護命令の制度の詳細や有用性などについて詳しくは【保護命令とは?DV夫から自分と子どもを守る制度を解説します】及び【保護命令の申立ての要件と保護命令の離婚問題への影響】をご確認ください。
以上に関連し、DV夫との離婚を検討している場合に知っておくべき重要事項については【DV夫との離婚を安全に進めるために知っておくべき重要事項】にまとめていますので、併せてご確認ください。
6.弁護士が力になります
性的DVを行う夫との別居・離婚を検討している場合には、弁護士が力になります。
依頼を受けた弁護士は、離婚問題のみならず、離婚するまでの生活費の問題(婚姻費用)を確保したり、あなたの別居先の自宅・実家・職場への連絡・来訪を固く拒否する旨を通告したり、適宜保護命令の申し立てを行なったりして、離婚問題が解決するまでの間のあなたの日常生活の平穏を確保・維持するための活動をします。
弁護士に依頼をすれば、今後一切DV夫と会うことなく離婚を成立させることも可能です。
レイスター法律事務所では、DVをしてくる相手との間でどのように離婚問題を進めていくことが最も妥当か、離婚成立までの間に相手から支払ってもらえる婚姻費用の金額は具体的にいくらになるか、離婚条件としてどのような経済的な給付を受けることができるのかなど、離婚問題を進めるかどうかの判断の前提となる事項を具体的かつ詳細にお伝えしています。
DVをしてくる相手との離婚を検討している場合には、是非、レイスター法律事務所の無料法律相談をご利用ください。