うつ病の夫(妻)と離婚した方がいい場合と離婚したい場合の進め方

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うつ病の夫(妻)と離婚した方がいい場合と離婚したい場合の進め方

夫(妻)が何事も無くうつ病から立ち直ってくれるのであれば、それが一番でしょう。

しかし、配偶者のうつ病の治療が長引いているうちに、夫婦生活に精神的な限界を感じたり、子どもへの悪影響が生じたりする場合もあります。

また、うつ病の夫・妻に振り回され、努力をし続ける生活を続けるうちに、夫・妻のことが嫌いになり、一緒にいたくないと感じるようになることもあるものです。

この記事では、うつ病の配偶者との離婚問題について解説します。

1.夫・妻がうつ病になった場合に直面する問題

夫・妻がうつ病になった場合に直面する問題

うつ病とは、気分や感情のコントロールができなくなってしまい、抑うつ状態(気分が落ち込んでいる状態)に陥って抜け出せない状況が続く気分障害です。

また、抑うつ状態(気分が落ち込んでいる状態)のみならず、抑うつ状態と躁状態(気分がたかぶった状態)を交互に繰り返す状態の場合は、双極性障害と呼ばれています。

うつ病になると、気分が落ち込んでやる気が起きず何もしたくなくなり、物事に対する悲観的な考えから離れられなくなり、心配事ばかり考え続けてしまうなどといった精神的症状が現れるとともに、不眠や頭痛や食欲不振などの身体的症状が現れたりします。

それに躁状態が挟まる場合には、定期的に極めて活動的になり、本人の自覚なく周りを巻き込み、気前よく散財したり、現実的ではない無謀な計画に基づく行動・言動をしたりして、破産に追い込まれたり、友人との関係や職場での人間関係などが破壊されていったりします。

夫・妻がうつ病になった場合、他方の配偶者は、そのようなうつ病の配偶者と同居し続けて、病気の治療や生活の維持ために努力し続ける義務を負うこととなります(夫婦の同居義務・協力義務・扶助義務、民法753条)。

しかし、うつ病の程度によっては、治療が長引き、いつ回復するかも分からない状況の中で、延々とうつ病の配偶者に振り回される生活状況に陥ってしまい、精神的に追い詰められてしまうことも多くあります。

この記事では、うつ病の夫・妻との離婚問題について解説します。

2.うつ病の夫(妻)と離婚した方がいい場合

⑴自分の精神的な限界を感じている場合

自分の精神的な限界を感じている場合

人の精神状態は、近しい人に影響されるものです。

最も身近な存在である配偶者が延々と悲観的な言葉を言い、心配事ばかりを伝えてくる生活は、精神的にとても落ち込んでしまうものです。

そのようなうつ病の配偶者を支えて出口の見えない生活を続けている状況に精神的に追い詰められてしまうことがあります。

また、うつ病の夫・妻から酷い暴言やモラハラを受けることもあります。

そのようなうつ病の相手との共同生活に精神的な限界を感じている場合には、自分もうつ病や適応障害などの精神疾患に罹患してしまうなどといった状況に至る前に、そのような相手との別離・離婚に進めることもあり得る考え方です。

⑵子供に悪い影響が生じている場合

子供の精神状態も、子供と一緒に生活をしているうつ病の夫(妻)に影響されるものです。

そして、子供がうつ病の親に影響されて精神的に不調な状況に陥っている場合には、子供のためにも、うつ病の父親・母親と引き離した生活をさせることが必要な場合もあります。

また、子供が自身の意思を明確に表明できる年齢である場合は、子供がうつ病である親のことを受け入れず、強く拒絶するようになる場合があります。

うつ病の夫(妻)と子供との関係が極めて悪化しており、共同生活を続ける中で改善することができそうもない場合には、配偶者との別居や離婚を検討せざるを得ない場合もあります。

⑶共依存の状況に陥っている場合

共依存の状況に陥っている場合

夫(妻)のうつ病に向き合い、夫(妻)のことを献身的に支えて生活をする中で、知らず知らずに共依存の状態に陥ってしまう場合があります。

自分が「自分の支えがなければ生きていけない病気の夫(妻)を支えている状況」に安心感や満足感を得ており、うつ病の配偶者としても献身的に支えられている状況に甘えて病気の状況から脱却する力を失ってしまっており、このような夫婦間の双方向的な依存関係が出来上がっている場合は、とても危険です

共依存夫婦の状況は、夫婦の双方又は一方が苦痛を感じながらもその状況から抜け出せずにその苦痛が広がっていくという悪循環に至る可能性が常に内在しています。

そのような共依存夫婦の状況から抜け出そうにもどうしても抜け出せずに、夫婦の関係性からもたらされる苦しみが耐え難いものとなっている場合には、相手との離婚を視野に入れることも必要な場合があります。

⑷共同生活を続けることが苦痛となっている場合

夫婦の関係は人と人との関係であり、それを本当の意味で円満に維持していくためには、相互間の心の親密な繋がりと、一定程度の自己犠牲の覚悟が必要です。

しかし人の心は綺麗事だけで成り立っているものではありませんので、うつ病の夫・妻に振り回され、努力をし続ける生活を続けるうちに、相手のことが嫌いになり、一緒にいたくないと感じるようになることもあるものです。

そのような場合、配偶者に拘束された人生から解放されたいと願い、離婚したくなることもおかしなことではありません。

夫婦として共同生活を続けることに強い苦痛と耐え難いストレスを感じている場合であれば、苦痛に耐えて無理やり夫婦の体裁を貫く人生を過ごしていくのではなく、お互いのために離婚した方が良い場合もあるでしょう。

3.うつ病の夫(妻)と離婚する方法

⑴話し合いで離婚する方法

話し合いで離婚する方法

まずは、協議離婚・調停離婚にて離婚の合意を成立させられるかどうかを模索・検討していくこととなります。

具体的には、うつ病の相手が離婚することに合意する場合であれば、あとは離婚条件について合意できれば、当事者間の話し合い(協議離婚)の形で早期に離婚が成立する可能性があります。

相手が離婚することに合意しない場合や、離婚条件(財産分与の金額、子どもの親権者、養育費の金額、面会交流の方法など)について合意ができなかった場合は、家庭裁判所に離婚調停を申し立てて家庭裁判所で調停委員の仲介のもとで調停離婚の成立を目指すこととなります。

離婚調停の手続きでは、調停委員が離婚に合意しない方を離婚に合意させようと必死に検討してくれることもあり、全体の半数近く(離婚調停中に協議離婚が成立した場合も含む)で離婚の合意が成立しており、離婚調停に弁護士が関与している場合にはさらに離婚合意の成立率は高まります。

相手が離婚調停を行なってもなお離婚に合意しない場合や、離婚調停においても離婚条件についての話し合いがまとまらなかった場合には、離婚調停は不成立で終了し、裁判離婚(離婚裁判を提起して離婚判決を得ることで離婚する方法)を検討することとなります。

⑵夫(妻)と裁判で強制的に離婚する方法

離婚裁判(離婚訴訟)を提起して離婚判決を得る(離婚が認められる)ためには、法律に定められている離婚原因(法定離婚原因)が存在していることが必要です。

法定離婚原因とは、具体的には以下の5つです。

法定離婚原因(民法770条1項)

  1. 「配偶者に不貞な行為があったとき」(1号)
  2. 「配偶者から悪意で遺棄されたとき」(2号)
  3. 「配偶者の生死が三年以上明らかでないとき」(3号)
  4. 「配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき」(4号)
  5. 「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」(5号)

法定離婚原因の中で、配偶者がうつ病である場合に該当する可能性のある項目は以下の3つです。

②「配偶者から悪意で遺棄されたとき」(2号)
③「配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき」(4号)
⑤「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」(5号)

この3つについて、以下で解説します。

  • ②「配偶者から悪意で遺棄されたとき」(2号)

夫(妻)が悪意の遺棄をしていた場合であれば、民法770条1項2号の離婚原因が認められますので、離婚判決が出されます。

悪意の遺棄とは、夫婦の共同生活を否定する意図のもとで、夫婦が互いに負っている同居義務・協力義務・扶助義務に正当な理由なく違反することをいいます。

配偶者が家事・育児に協力しなかったり、生活費を負担しなかったり、仕事をしなかったりしている場合には、悪意の遺棄に該当する可能性があります。

ただし、ただ、悪意の遺棄をしたと言うためには、正当な理由なく夫婦の共同生活を否定する意図のもとに行われたものであることが必要です。

そのため、以下のような「うつ病」であることに原因がある行為については、裁判所が悪意の遺棄に該当すると認めることは考えにくいです。

  1. うつ病であるために仕事に行けなくなり、休職・退職したために収入が無くなった
  2. うつ病であるために積極的に家事や育児をすることができなくなった

他方、「うつ病」というきっかけで物事の考え方や捉え方・人生観などの人格形成の根本的な部分が歪み、家族のことを顧みないような人物に変わってしまったというのであれば、悪意の遺棄が認められる可能性も大いにあります。

その場合は、離婚に加えて、慰謝料の請求も認められる可能性が高いです。

  • ④「配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき」(4号)

夫婦の関係は男女の精神的な結合・結び付きを大前提とした生涯を通じた繋がりです。

そのため、法は、配偶者が「強度の精神病」かつ「回復の見込みがない」場合には、夫婦間で精神的な結合関係を形成できないため、離婚して夫婦関係を解消することを認めています。

ただ、過去の裁判例を分析すると、この離婚原因による離婚が認められている精神病の大多数は統合失調症(旧病名:精神分裂症)です。

その他にも、少数ながら認知症を民法770条1項4号にいう「精神病」に該当すると判断した裁判例もあります。

他方、うつ病は、重度の「精神病」に該当すると判断されることはあり得なくはないところですが、「回復の見込みがない」ことを根拠付ける鑑定結果が出されることがまずありません。

そのため、配偶者がうつ病であったとしても、そのうつ病という「精神病」を理由として離婚することは困難です。

ただ、だからと言ってうつ病の相手と離婚できない訳ではなく、後述する⑤「婚姻を継続し難い重大な事由」の存在が認められて、離婚することができる場合も多いです。

  • ⑤「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」(5号)

「婚姻を継続し難い重大な事由」とは、婚姻関係が既に破綻しており、修復することが不可能と思わざるを得ない事由をいいます。

裁判所が夫婦の間に「婚姻を継続し難い重大な事由」が存在すると判断すれば離婚判決が出されます。

ただ、裁判所は、夫(妻)がうつ病であるという事情だけでは、「婚姻を継続し難い重大な事由」が存在するとは認めてくれません。

他方、相手方配偶者からモラハラやDVを受けていた場合や、夫・妻が子供に対する虐待行為を行なっていた場合には、「婚姻を継続し難い重大な事由」が認められる可能性が十分にありますし、慰謝料の請求が認められる可能性もあります。

そのような明確に相手方に非のあるような事情が存在していなかった場合に、「婚姻を継続し難い重大な事由」を裁判所に認めてもらうためには、裁判所に対して、

  1. あなたが夫(妻)との関係に悩んで精神的に追い詰められていたこと
  2. あなたが夫(妻)との離婚を決意する程に追い詰められた経緯
  3. あなたが夫(妻)との関係を維持・継続するために今まで行ってきた努力
  4. あなたが夫(妻)から言われた酷い言葉の数々

などについて、具体的なエピソードを交えて詳細に説明することが重要です。

4.うつ病の夫(妻)が離婚したがる場合

うつ病の夫(妻)が離婚したがる場合

うつ病に罹患している配偶者が離婚したがる場合には、あなたがそれに合意すれば協議離婚が成立することとなります。

ただし、あなたがその相手との離婚を望まない場合には、後で後悔しないためにも、望まない離婚に合意することは慎重に検討するべきです。

うつ病の症状として、物事に対してとても悲観的になってしまうことがありますので、うつ病の影響での気分の浮き沈みの中で離婚したがっているタイミングが現れ、相手は一時的にそれに囚われてしまったただけかもしれません。

また、自分のうつ病のためにあなたに迷惑を掛けていることに気を病んでしまい、あなたのために離婚した方が良いなどと考えて離婚したがっているのかもしれません。

このような場合に必要なのは、まずは夫婦のコミュニケーションです。

うつ病の夫(妻)が離婚したいと考えた理由をしっかりと聞いた上、やり直す道を検討することが必要です。

実際に離婚に合意するかどうかの判断は、相手としっかりと話し合った上で、相手の離婚の意思が固くてどうしようもない場合に初めて行うこととなるものでしょう。

5.モラハラ・DVでうつ病となった場合

夫(妻)からの暴言(モラハラ)・暴力(DV)などが原因で自分がうつ病を発症してしまった場合には、前述の⑤「婚姻を継続し難い重大な事由」が認められる可能性が極めて高いでしょう。

あなたがそのようなモラハラやDVを行なっていた相手との離婚を望む場合には、相手がいくら反省の態度を示してあなたとやり直したいと願っていたとしても、有無を言わせず離婚裁判で離婚が認められるでしょう。

また、相手からのDVやモラハラが存在し、それによってあなたがうつ病になってしまったことが証明できれば、高額の慰謝料請求も認められる可能性が高いです。

離婚裁判で慰謝料請求するためには、

  1. 配偶者の言動が原因でうつ病に罹患したことの診断書
  2. 相手からのDVによる怪我の写真や診断書
  3. DV被害を警察やDV相談センターなどに相談した記録
  4. モラハラを受けていた証拠(LINEのやりとりや録音など)

など、事前に証拠となる資料を準備した上で裁判に望むことも重要です。

なお、相手がDVやモラハラをするようなタイプの人間である場合、直接のやり取りを避け、身の安全を守るためには、裁判に至る前の時点で弁護士へ依頼することも有用でしょう。

6.うつ病の夫(妻)を支え続けるか解放される道を目指すか

うつ病の夫(妻)を支え続けるか解放される道を目指すか

うつ病は治る病気ですので、夫(妻)が何事も無くうつ病から回復することが何よりも一番でしょう。

ただ、うつ病は放置しておけば治るわけではなく、適切な治療が必要であり、また、治るまで長期間の治療・療養が必要となることもあります。

うつ病の配偶者が通院や服薬を拒否することもあるところであり、特に躁状態がある場合(双極性障害の場合)は病気の深刻さを認識してくれないことも多々あります。

加えて、うつ病は、再発しやすい病気でもあります。

また、夫(妻)のうつ病がキッカケとなり、相手の様々な本質的な部分や将来の展望、現時点における自分の本当の心などが分かってくることもあります。

このまま長い期間うつ病の配偶者の治療・生活をサポートし続けるのか、それとも別居や離婚の道を選ぶのか、難しい判断かもしれません。

うつ病の夫・妻との離婚を決意した場合には、別居して弁護士に依頼をすることで、相手と一切顔を合わせることなく、離婚を成立させることも可能です。

レイスター法律事務所では、無料相談において、

  1. 離婚に向けて進める場合の離婚交渉の方針
  2. 有利な条件で早期に離婚達成するのための交渉戦略
  3. 離婚が成立する場合の離婚条件(財産分与・慰謝料・親権・養育費など)の金額の幅

などの離婚問題全般の見通しなどについて、具体的なアドバイスを行なっています。

うつ病の夫(妻)との離婚問題でお悩みの際は、是非、こちらからお気軽にご連絡ください。

     

この記事の執筆者

弁護士山﨑慶寛

弁護士法人レイスター法律事務所
代表弁護士 山﨑慶寛

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