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離婚届は、大部分が離婚の当事者である夫婦のみで作成できますが、「証人」欄はそうはいきません。
役所は証人欄が空欄だと離婚届を受理しませんので、証人欄を記載してくれる人がいないと協議離婚できません。
では、離婚届の証人欄の記入は、誰に頼むことができるのでしょうか。
そもそも、この離婚届にある「証人」欄とは一体なんなのでしょうか。
このページの目次
1.証人欄は必ず記入しなければいけないのか?
⑴離婚届は夫婦だけでは埋められない
離婚条件の合意ができただけでは離婚は成立せず、離婚が成立するのは、あくまで離婚届が受理されたタイミングです(民法764条、民法73条)。
そのため、協議離婚の最後の仕上げとして、離婚届を完成させて役所に提出することが必要です。
離婚届は、その大部分が離婚の当事者である夫婦のみで作成することができます。
ただし、離婚届の右側にある「証人」欄については、離婚する本人が記入することはできません。
証人欄をささっと記載してくれそうな友人・知り合いなどが見つかればよいですが、そうはいかない場合もあります。
離婚を他人に話すことを避けたい人もいるでしょう。
時には、この証人欄の記載を埋めることが大きなハードルになってしまうこともあります。
しかし、後述の通り、この「証人」欄の記載を完成させられなければ、協議離婚はできません。
⑵証人欄の記載がない離婚届は受理されない
離婚届の提出を受けた役所は、離婚届の記載の形式的な面の不備のチェックのみを行い、その点に不備がなければ離婚届を受理します。
そして、「証人」の欄の記載がないことは、離婚届の形式的な不備に該当してしまいます。
民法739条2項
「・・・(離婚届は)当事者双方及び成年の証人二人以上が署名した書面で、又はこれらの者から口頭で、しなければならない。」
民法765条1項
「離婚の届出は、その離婚が前条において準用する第739条第2項の規定・・・に違反しないことを認めた後でなければ、受理することができない。」
このように、法律で、証人欄の記載がない離婚届は受理できないと定められています。
つまり、「証人」欄を空欄にしたままで役所に離婚届を提出しても、役所は離婚届を受理してくれません。
ですから、証人欄が空欄の離婚届を持参していくら役所の窓口で頼み込んだとしても、担当者の判断で受理してもらうことはできません。
2.証人欄の記載は誰に頼む?
⑴証人欄の記載を頼める人
実際に「証人」に署名を求めるとして、どのような人に署名を頼めばよいのでしょうか。
答えは、未成年者でなければ誰でも「証人」として有効に署名することが認められています。
ただし、離婚する当事者本人たちが、証人欄までも記入することはできません。
当事者以外の成人であれば、知人や友人のみならず、赤の他人に頼んだり、会ったこともない人に記入を頼んだりすることも認められています。
もちろん、いずれかの両親やきょうだいなどの親族などに頼むことも可能です。
「証人」欄の記載を頼める人
離婚する当事者以外及び未成年者以外であれば誰に頼んでもOK
ただし、証人2名の「署名」が必要ですので、証人となってくれる人の名前だけを借りて、離婚する当事者が記入を代行したりすることはできません。
⑵記載を頼める人がいない場合
証人欄を記載してくれる人がどうしても見つからなかったり、すぐにでも離婚届を提出したかったりしたとしても、証人欄を離婚する当事者が記載することは認められません。
「証人」欄を離婚する当事者が記載して役所に離婚届を提出する行為には、私文書偽造罪(刑法159条1項)・偽造私文書行使罪(刑法161条1項)が成立する可能性がありますので、絶対にやめましょう。
また、最近、ネット上では、離婚届などの公的な書類の証人・署名を代行するサービスをうたう業者も見受けられます。
そういった外部の機関を利用する場合には、個人情報の漏洩などのリスクが付きまといますので、離婚後の生活の安心を確保するためにも、よく考えましょう。
3.証人2名は夫婦それぞれ1人ずつではない
法は「成年の証人二人以上」の書面を求めていますが、離婚する夫婦がそれぞれ「証人」を1人ずつ探す必要はありません。
法の要求はあくまで「証人二人以上」に過ぎませんので、離婚する夫婦のいずれか一方が証人を2人探すことで問題ありません。
例えば、当事者の一方の両親(父親と母親の2人)に証人欄の記載をお願いすることも認められます。
押印することは必要?
以前は、証人欄には証人が押印することが必要とされていました。
しかしながら、そもそも法律が求めているのは「証人・・・が署名」であり、押印は求められていません(民法739条2項)。
そのため、令和3年9月1日から、証人の押印は不要となりました。
※なお、離婚する夫婦の押印も不要。
4.証人欄に記載したことで発生する責任
離婚届の「証人」欄を記載したことで、その記載した人に何らかの法的な責任が発生することは通常ありません。
ただし、夫婦の一方が配偶者に無断で離婚届を作成して提出しようとしている際に、その事情を知った上で離婚届の「証人」欄に記載をした場合は、私文書偽造罪(刑法159条1項)・偽造私文書行使罪(刑法161条1項)の幇助が成立する可能性がありますので、絶対にやめましょう。
5.証人欄の記載が必要なのは協議離婚だけ
法が離婚届の作成に際して「証人」欄の記載を求めた理由は、後述するように、離婚を慎重に検討させ不当な離婚を防止しようとする点にあります。
そのため、裁判所が夫婦の離婚意思を慎重に確認した上で成立する調停離婚(審判離婚)や、裁判所が離婚の成否を判断する裁判離婚の場合には、離婚届の「証人」欄の記載は不要とされています。
さらには、調停離婚・審判離婚・裁判離婚では、離婚届の「相手の欄」の記入も不要ですので、別居中の相手に離婚届を送りあったりする手間がないというメリットもあります。
ただ、家庭裁判所の手続きを通じて離婚が成立した場合は、証人欄や相手の欄の記載が不要となる代わりに、離婚届を提出する際に、離婚届とともに以下の書類を持参する必要があります(裁判所に交付申請することで取得できます)。
- 調停離婚の場合…調停調書の省略謄本
- 審判離婚の場合…審判書の省略謄本と審判確定証明書
- 裁判離婚(和解)の場合…和解調書の省略謄本
- 裁判離婚(判決)の場合…判決書の省略謄本と判決確定証明書
なお、当事者間で離婚協議書や公正証書を作成した場合は協議離婚に当たりますので、証人欄の記載が必要となり、離婚届の記入の際に、どちらが証人を用意するのか話し合う必要があります。
6.離婚届の証人欄の記載が必要な理由
離婚は、離婚する当事者間の極めてプライベートな出来事であり、あまり人に言うべき出来事ではありません。
人によっては完全に秘密にしておきたいと考えている場合もあるでしょう。
それなのに、法は、離婚届の作成に際して「証人」欄の記載を求めることによって、離婚の事実を「証人」となる第三者にわざわざ知らせることを求めています。
その理由は、以下のように考えられています。
「証人」という他人に離婚届の作成に関与させることで
- 離婚しようとしている当事者に離婚するかどうかを慎重に考える契機(きっかけ)を与える
- 離婚の不当性が発覚する契機(きっかけ)となり得る
離婚は人生そのものに多大な影響を与える行為ですが、役所は離婚届の記載の形式的な面の不備のチェックしか行いません。
本当に離婚する気があるのかとか、離婚してしまった後に後悔することがないかとかいった事柄には、役所は一切関与しません。
つまり、「離婚するという判断」が妥当かどうかなどといった事項は当事者間のみの問題とされ、当事者が離婚に合意さえしていれば離婚は簡単に成立することになります。
離婚するという判断の形成過程に離婚する夫婦の一方からの不当な働きかけや夫婦の一方の勘違い・誤解などが存在していたとしても、当事者のみがゴーサインを出せば、それだけで離婚は成立してしまうことになります。
しかし、ここで、離婚届に「成年の証人二人以上」の署名が必要ということとなれば、当事者間のみで離婚を成立させることができなくなります。
離婚する当事者は、その「証人」からの署名を得るために、「証人」となる第三者に対して離婚することについて説明をしなければなりません。
その過程で、離婚することが、離婚届を提出して離婚が成立する前に、「証人」という当事者以外の第三者に知られることになります。
当事者としても、「証人」となる第三者に離婚することについて説明をするとなれば、その分改めて離婚について慎重に考える契機(きっかけ)となりますし、その際に「証人」から何らかのアドバイスがもらえる可能性もあります。
また、仮に離婚したい夫婦の一方からの不当な働きかけや夫婦の一方の勘違い・誤解などが介在していた場合には、「証人」がその違和感や離婚の不当性に気づいてくれる可能性もあります。
さらに言えば、離婚届を偽造して離婚を成立させようと画策したとしても、配偶者の署名のみを偽るだけではなく、筆跡の異なる「証人二人以上」の署名も離婚届に記載しなければならないことになりますので、その分偽造のハードルが上がり、翻意するきっかけにもなります。 これが、法が離婚届の作成に際して「証人」欄の記載を求めている理由と考えられています。
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