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今から離婚を切り出して離婚の話を進めようとしている相手(DV夫)は、自分の妻に暴力を振るえるタイプの人間です。
そのような相手(DV夫)は、離婚を切り出されたことで逆上して強烈な暴力を振るってくることがあります。
それを避け、DV夫との間で身の安全を確保しつつ離婚の話を進めるためには、別居や保護命令の申立てなどの方法を検討するべきです。
また、DV夫に対して慰謝料を請求するためには証拠を確保しておくことが重要です。
このページの目次
1.DVという最悪の行動の特徴
DVは「ドメスティック・バイオレンス(domestic violence)」の頭文字であり、日本語で言うと「家庭内暴力」です。
DVは、本来愛し守るべき存在であるはずの配偶者に対して行われる攻撃です。
DV加害者から逃げ出すことはとても勇気がいることであり、自身が現在置かれている状況(家庭という生活・人生の基盤)からの完全なる離脱を伴うものであって、その先に離婚問題も控えているものであり、その労力は極めて大きいものになります。
他方において、DV加害者は、常に一方的かつ理不尽な暴力を振るってくるわけではなく、DVを行なった後にコロッと別人のようになり、真摯に反省して見せ、とても優しく接し、強い愛情を感じるような行動をしてくることを繰り返してくるケースが多いです。
家庭内には逃げ場がありませんので、DV加害者がDVを行なったことを反省して優しく接してくれることは、DVの恐怖が強ければ強いほど、逃げ場がなければないほど、その分強い安堵感と期待感を抱かせる要因になります。
定期的にこのような安堵の状況があり得るため、DV被害という強い緊張を感じた際に、逃げ出すなどといった現状からの離脱という発想ではなく、安堵の状況をどうにか継続し、作って行こうと考える方向に発想が向かっていくものです。
このように、家庭内という小さな世界の中でDV➡︎過度の優しさ・愛情というサイクルを繰り返し受けているうちに、客観的に見ればDV被害を受けていることが明らかであるにもかかわらず、その自覚がないまま、そのような生活を自身の生活の一部として受け入れて、DV加害者に従順になり、DV加害者が望むことを最優先して行動するように自然と振る舞うようになり、DV加害者から離れられないと思い込むようになってしまうケースも見られます。
その結果、誰にも相談しないまま追い詰められ、不眠、頭痛、動悸、下痢、胃痛などの身体症状が現れたり、PTSD(心的外傷ストレス傷害)などの精神疾患を発症してしまったり、命に関わるような大きな暴力・傷害事件の被害に発展してしまったりする例もあります。
DVは、絶対にあってはならないはずの最悪の行動です。
ただ、痛ましいことに、DV被害は後を絶ちません。
令和2年度の配偶者暴力相談支援センターへのDV相談件数は8万0579件、令和2年度のDV相談プラスへのDV相談件数は3万6472件、令和3年度の警察へのDV相談件数は8011件にものぼります。
参考:内閣府男女共同参画局・配偶者暴力相談支援センターにおける相談件数等(令和2年度分)
このようなDVを行う配偶者との離婚を決意した時、離婚の話をどのように進めればよいでしょうか。
2.DV夫に対して離婚を切り出す前に検討するべき事項
⑴離婚を切り出す前に別居して身の安全を確保しよう
世の中には配偶者に暴力を振るえるタイプの人間と、そうではない人間がいます。
そして、あなたが離婚を切り出そうとしている人間は、配偶者に暴力を振るえるタイプの人間です。
そのような人間を相手に離婚を切り出すことは、とてもリスクのある行動です。
離婚を切り出された相手が逆上して強烈な暴力の被害を受けてしまうことがあります。
そのため、離婚の進め方としては、身の安全を確保するべく、離婚を切り出す前に別居を先行させるべきでしょう。
別居することが経済的に難しい場合には、別居と同時に婚姻費用を請求することでカバーできる場合もありますので、その方向性を検討することも有用です。
なお、離婚紛争における別居することの一般的なメリットについては、【別居して離婚を考えている】にて詳しく説明していますので、併せてご確認ください。
別居の準備を進めることが難しい場合
相手に悟られないように別居の準備を進めることが難しい場合もあるでしょう。
そのような場合には、十分な準備ができないままで別居を強行するしか方法はないのでしょうか。
別居先の新居の準備などができていない場合は、取り急ぎ保護施設(シェルター)に入るという方法もありますが、保護命令(退去命令)の制度を利用するという方法も検討できます。
この制度を利用することにより、むしろ相手の方に一時的に自宅から退去してもらって、その間に別居の準備を終わらせることが可能となります。
⑵保護命令の制度の利用を検討しよう
配偶者に別居先が知られていなければまだ安全かもしれません。
ただ、DV夫が妻に別居されたとの事態を受けておとなしく別居状況を受け入れるケースもありますが、妻の別居先を探し始めるケースもよくあります。
特に、DV夫があなたに固執するタイプの人間であったり、独善的な正義を掲げて行動をするタイプの人間であったりする場合は、あなたの別居先の住所を探している可能性は否定できません。
その可能性が払拭できない場合は、身を守るために、保護命令の制度を利用するべきです。
保護命令が出されると、相手方(加害者)は、以下の行動ができなくなります。
- あなたに接近する(接近禁止)
- 子どもに接近する(子への接近禁止)
- 親族・近しい友人等に接近する(親族等への接近禁止)
- 電話やメールなどの一定の行動(電話等禁止)
警察からの指導・監視にも関わらず相手方(加害者)が保護命令に違反する行動をした場合には、相手方(加害者)は逮捕され、刑事罰(1年以下の懲役又は100万円以下の罰金)の制裁を受けることとなります(DV防止法29条)。
なお、令和3年中における保護命令違反で検挙された件数は0件であり、保護命令はDV加害者からの被害を防止するために実際に十分機能している制度です。
保護命令の概要・種類・効果・手続の流れなどや、保護命令の申立て要件などについて詳しくは、以下の記事をご確認ください。
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⑶証拠を確保しておこう
DV夫の特徴として、妻に暴力を振るいはするものの、妻のことが憎かったり、嫌いだったりするわけではないこともよくあることです。
中には、妻に誠実に謝れば解決すると勘違いしているDV夫もいます。
また、DV夫にはDV夫独自の正義や正しさがある場合もあり、話し合いが噛み合わなかったりします。
そのため、DVを理由とする離婚は、DV夫が離婚に合意せずに、離婚の話し合いが難航するケースが多いです。
DV夫が離婚に合意しなければ、離婚の話し合いや離婚調停で離婚は成立せず、離婚裁判に至ることとなります。
また、DVを理由に慰謝料を請求することができる場合も多いのですが、相手がどうしても慰謝料の支払いに合意しない場合は、離婚裁判で慰謝料請求を認めてもらう必要が生じます。
そして、裁判所に離婚や慰謝料の判断をしてもらう場合に重要になってくることは、DVの事実を証明するための証拠です。
別居した後に証拠を確保することは難しい場合も多いため、可能であれば別居前に確保できる証拠は確保しておくことが良いでしょう。
なお、離婚裁判で裁判所に離婚判決を出してもらうためには、法律に定められている離婚原因(法定離婚原因)が存在していることが必要です。
そして、DVそれ自体は法定離婚原因に明記はされていませんが、「婚姻を継続し難い重大な事由」(民法770条5号)という離婚原因の存在を基礎付ける要素の一つとなります。
⑷弁護士に依頼することを検討しよう
DV夫と別居していたとしても、DV夫との間で離婚の話し合いを進めていくことは精神的にとても辛いことです。
このような相手との離婚問題に関しては、特に弁護士に依頼するメリットが大きいと言えます。
依頼を受けた弁護士は、まずはあなたの日常生活の平穏を確保するために、DV夫に対して、あなたの自宅・実家・職場への連絡・来訪を固く拒否する旨を通告し、今後の連絡は全て弁護士に対してするよう強く要請します。
また、弁護士に依頼をすれば、今後一切DV夫と会うことなく離婚を成立させることも可能です。
DV夫との離婚は、DV夫に対して離婚を切り出す前に、別居を先行させた上で、弁護士に依頼をして全ての連絡・交渉を弁護士にしてもらう形がベストでしょう。
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