ドケチ夫は「経済的DV夫」かもしれません
経済的DVとは、一般に、配偶者による金銭の消費を徹底的に制限・管理して監視下に置く行為をいいます。
稼ぎのない状況で生活資金(=生きていくためのお金)を徹底管理され監視下に置かれてしまったら、相手に従わざるを得ない状況に陥る可能性があります。
経済的DVを行う理由は、相手の性格的な問題や相手が家庭よりも自分の欲望(趣味・浪費等)を優先していることにある場合などもありますが、そもそも経済的支配関係を作ること自体が目的となっている危険な共依存の状況である場合もあります。
この記事では、どこから経済的DVなのかのチェック項目や、経済的DVを理由とする離婚問題・慰謝料請求、裁判所に経済的DVを認めてもらうために必要な証拠などについて解説します。
このページの目次
1.経済的DVとは?

経済的DVとは、一般に、配偶者による金銭の消費を徹底的に制限・管理して監視下に置く行為をいいます。
DVをする配偶者(DV加害者)の大きな傾向として、配偶者を力で支配したいという思いがあります。
その思いが配偶者の使用する金銭を管理するという形で行われている状況です。
生活していくためにはどうしても金銭(生活費など)を消費することが必要です。
そのため、金銭の消費について徹底的に管理され監視下に置かれてしまったら、否応がなく生きていくために相手に従わざるを得ない状況に陥ってしまう可能性があります。
配偶者から受ける経済的圧迫がDV(ドメスティック・バイオレンス、家庭内暴力)として明確に認識されるようになったのは比較的新しいことですが、その被害は従前から数多く存在しています。
最新の内閣府男女共同参画局作成の統計資料によると、約4人に1人(26.2%)は配偶者から暴力の被害を受けたことがあると自覚しており、経済的DV(経済的圧迫)の被害に限定しても約15人に1人(6.8%)が経済的DVの被害を自覚しています。
約15人に1人という割合は、例えば学校のクラスで考えると、1つのクラスに30人以上の人数がいるとすれば、1つのクラスの中に被害者が2人以上存在しているとの計算になります。
経済的DVは、被害者が自身がDVの被害者であることに気が付きにくいとの特徴があるDVですので、実際の被害者の数はさらに多いものと考えられます。
このように、経済的DVの被害は珍しいものではなく、とても多くの夫婦(特に妻)を悩ませている問題です。
2.経済的DVが行われているかどうかをチェックしよう

経済的DVは、被害者が自身がDVの被害を受けているというこに気が付きにくいとの特徴があるDVです。
その理由の一つは、どこまでが通常の範囲内の家計管理等であって、どこからが経済的DVに至るほどの状況であるのかが分かりにくいことにあります。
確かに、身体的DVなどとは異なり、経済的DVの場合は、どこから経済的DVと言えるのかが夫婦の稼働の状況や家族構成、経済的圧迫をしている理由などによってまちまちであり、一般的に線引きすることはできません。
ただし、以下のような行為が行われていた場合には、経済的DVの被害を受けている状況である可能性がありますので、チェックしてみてください。
経済的DVの可能性がある行為
- 仕事をさせない、仕事を辞めさせて専業主婦(夫)となることを強いる
- 自由に使用できるお金(お小遣い)を一切渡さない
- 何も買わせない、買い物の決定権を与えない
- 欲しいものを買う際に強くお願い(時には懇願・土下座など)させる
- 十分な生活費を渡さない
- 生活のために独身時代の預貯金を取り崩していたり両親からの援助を受けていたり借金をしていたりすることを見て見ぬふりをする
- 生活費を渡す時に感謝の意の表明を強いたり、懇願・土下座させる
- 過度に家計を管理する
- お金の使い道を過度に細かくチェックする
- 過度に倹約・節約を強いる
- 家計の状況を頑なに一切明かさない
- 給与明細や家族の貯蓄口座の状況を頑なに一切明かさない
- 金銭の消費につき苦言を呈して謝罪を強要する
- 半ば無理やり借金を負わせる
- 相手の金を無断で使用する
なお、それをする合理的な理由があったり、それをされたとしても経済的圧迫が存在していなかったり、それをされたとしてもなお経済的な自由が残っている場合には、一般的に、経済的DVとは言い難いです。
経済的DVとは言い難い場合
それをする合理的な理由がある場合
…例えば、子どもの将来のためや一方当事者の浪費・借金が発覚したことなどを受けて夫婦で話し合って取り決めた内容通りに行っている場合や、急な失業や突発的な事故などでそれを行わざるを得ない状況に陥ってしまっている場合など
それをされたとしても経済的圧迫を与える状況ではない場合
…例えば、仕事を辞めさせられたものの、毎月十分な生活費を家庭に入れている場合など
※経済的DVには当たらないとしても、無理やり仕事を辞めさせられた理由次第では、精神的DV・モラハラなどに当たる場合もあります。
それをされたとしても経済的な自由が失われない場合
…例えば、生活費を家庭に入れてくれないものの、共働きであって自身の稼ぎで十分に生活することができる場合など
また、経済的な問題に付随して懇願・土下座・謝罪などを求める行為や、過剰に苦言・文句を付ける行為は、精神的DV・モラハラなどに当たる場合もあります。
3.経済的DVを行う加害者の心理
⑴性格的な問題の場合

相手が性格的にとても細かいことを気にするタイプであったり、将来の家族や子どものことを思ってドケチな振る舞いをしている状況であったりし、それが過剰であって客観的に見れば経済的DVに該当し得る状況に至っている場合もあります。
このような場合には、相手は責任を持って家計を管理しており、家族の預貯金もしっかりと貯めている場合も多いです。
このような相手は、あなたを苦しめようとなど思ってはいませんので、あなたが苦しんでいたことを知れば改善する方向で話し合っていけることが期待できます。
そのような相手とは、夫婦の婚姻関係が深くこじれてどうしようもなくなってしまう前に、自身が感じている苦しみをしっかりと伝え、夫婦で話し合って夫婦間に生じている考え方のズレを前向きに修正する方法を探ることが必要でしょう。
⑵自身の欲望を優先するタイプである場合

相手が自分の使えるお金を多く持ちたいがために生活費を家庭に入れることをケチっており、その結果、生活費が足りないこととなり、経済的DVと言わざるを得ない状況に至っている場合もあります。
このような相手は浪費癖を持っていたり、ギャンブルやスマホ課金などに依存していたりする場合もあります。
このような場合には、相手は「家族の将来のためだ」「子どもの将来のためだ」などと程の良い言い訳を言ってきたりしますが、その裏で良いようにお金を使い込み、家族の預貯金はほとんど貯めていない場合も多いです。
このような、家族単位での経済的な状況に配慮することができない相手も、あなたのことをあえて苦しめようと思って経済的な締め付けをしているというわけではありません。
ただ、このような相手は、あなたが苦しんでいることを見て見ぬふりをして、それをなんだかんだ言って許してくれるあなたに甘えて自身の欲望を優先させるようなタイプの人間であると言わなければならないかもしれません。
このような場合は、相手と話し合って、相手にしっかりと反省し、家族として共に支え合って生きていくことの責任と自覚を持ってもらう必要があります。
相手に生活の糧を握られている状況で相手とぶつかることはとても怖いことですが、このままではいずれ夫婦の婚姻関係の破綻に繋がっていってしまう可能性もあります。
そもそも夫婦・家族にとって大切な話をすることさえできない相手と共同生活を続けていくことは良い状況であるとは言えませんし、常に夫婦の一方だけが我慢を強いられるような関係性を円満な状況に維持し続けていくことは困難でしょう。
このような相手方とも、夫婦の婚姻関係が深くこじれてどうしようもなくなってしまう前に、適宜両親などの第三者を交えたり、冷却期間の趣旨で一時的に実家に帰るなどの方法を検討したりしつつ、相手に反省・改善を促していくことが必要でしょう。

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⑶経済的支配関係を作ること自体が目的となっている場合

あなたとの間で経済的支配関係を作ることそれ自体が目的となっている場合があります。
このような相手は、あなたのことが嫌いだとか、あなたのことを憎く思っているわけではなく、夫婦の婚姻関係を破綻させたいなどとは思っていません。
このような相手は、自分があなたのことを経済的に支配している状況に安心感や満足感を得てそれに依存しています。
そのような心の満足・安心感を得るために、あなたを経済的に自立が困難な状況にあえて陥らせて「自分がいなければ生きていけない」状態(自分に依存している状態)に持ち込むことで逃げられない状況を作り出したり、あなたに対して自身が経済的に支配しているという優越的な状況にあるということを繰り返し突きつけたりしている可能性があります。
このような依存の関係性は非常に危険であり、このままではいずれ夫婦の婚姻関係の破綻に至ってしまう可能性が高い状況である場合もよくあります。
このような場合は、今後夫婦の婚姻関係が破綻する方向に向かっていかないためにも、あなた自身も仕事をして経済的に自立するとか、両親などの第三者を交えて話し合いを行う場を設けて改善策を明確なルールとして定めるとか、実家の協力を得て一旦相手の経済的な支配下から完全に離脱した生活を送って相手の改心を促すなどといった行動が必要な場合もあります。

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4.経済的DVを行う配偶者との離婚を決意した場合
⑴離婚するには経済的自立が必要

離婚するまでの間は相手から婚姻費用の支払いを受けることができますので、その婚姻費用で生活をしていくことができる場合もあります。
もし相手が婚姻費用の支払いをしない場合には、そのような相手の行為は「悪意の遺棄」に該当する場合もあります。
悪意の遺棄とは、夫婦の共同生活を否定する意図のもとで、夫婦が互いに負っている同居義務・協力義務・扶助義務に正当な理由なく違反することをいいます。
ただし、婚姻費用は離婚した後は支払ってもらえませんので、離婚する場合にはいずれにしても経済的に自立しなければなりません。
そのため、離婚する場合には、就職活動をして仕事を始める必要があります。
他方、離婚後した後も、子どもがいる場合には養育費の支払いは継続的に受けることが可能です。
⑵経済的DVの証拠を確保しよう
相手との離婚の話し合いが難航して離婚裁判に至る場合、裁判所に離婚や慰謝料請求を認めてもらうためには、相手から経済的DVを受けていた証拠が必要となります。
そのための証拠の一例としては、例えば以下のものが考えられます。
経済的DVの事実を証明するための証拠の一例
- 経済的困窮の状況や、相手の浪費の事実などを記載した日記・メモ書き
- 経済的圧迫を受けていたことが分かる通帳・家計簿など
- 経済的圧迫を受けていたことが分かる相手の発言の録音・動画
- 経済的圧迫を受けていたことが分かる相手からのメール・SNSでのやり取りなど
- 借金の借用書・明細書など
⑶離婚問題の進め方
協議離婚

離婚問題は、一般的に、まずは協議離婚(離婚すること及び離婚条件について夫婦が話し合って合意して離婚を成立させる離婚の方法)での離婚の成立を試みることから始まります。
協議離婚の成立要件や注意点については【協議離婚とは?協議離婚の成立要件や離婚協議書の重要性を弁護士が解説】を、離婚の協議において夫との間で話し合いをしていくこととなる具体的な内容や、離婚問題を有利に進めるためのポイントは【離婚の際に抑えるべきポイント】をご確認ください。
また、相手との直接のやり取りをしたくない場合には、弁護士に依頼をすることで、相手と直接やり取りをすることなく協議離婚を成立させることが可能です。
調停離婚
相手との間で離婚の話し合いがまとまらなかったり、相手が経済的DVの他に身体的DVや精神的DV(モラハラ)なども行うタイプであったり、相手と直接話し合いをすることが精神的に辛かったりする場合には、離婚調停を申し立てて離婚の話し合いを進めることとなります。
離婚調停の手続きでは、夫婦は家庭裁判所において、調停委員を間に入れて、「離婚するかどうか」及び「離婚条件」について話し合いを進めることとなります。
そして、夫婦が離婚調停という手続きを通じて話し合いを行った結果、話し合いがまとまった場合に成立する離婚のことを調停離婚といいます。
離婚調停では、調停委員が離婚に合意しない方を離婚に合意させようと必死に検討してくれることもあり、全体の半数近く(離婚調停中に協議離婚が成立した場合も含む)で離婚の合意が成立しており、離婚調停に弁護士が関与している場合にはさらに離婚合意の成立率は高まります。
離婚調停について詳しくは【離婚調停とは?申立てから終了までの流れや平均的な期間・手続の特徴を解説】をご確認ください。
なお、協議離婚の成立を早急に諦めて離婚調停を申し立てた方が結果として早期に有利な条件で離婚が達成できると思われる場合もありますので、【離婚調停で離婚を有利に!離婚調停を早期に申し立てた方が良いケース】もご確認ください。
離婚裁判
離婚調停で話し合ってもなお夫との間で合意が成立しなかった場合には、離婚するためには離婚裁判を提起することが必要です。
離婚裁判では、裁判所が法定離婚原因が存在していると判断すれば離婚判決が出されますし、裁判所が法定離婚原因が存在していないと判断すれば離婚請求の棄却判決が出されます。
法定離婚原因は、以下の5つです。
法定離婚原因(民法770条1項)
- 「配偶者に不貞な行為があったとき」(1号)
- 「配偶者から悪意で遺棄されたとき」(2号)
- 「配偶者の生死が三年以上明らかでないとき」(3号)
- 「配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき」(4号)
- 「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」(5号)
経済的DVを理由とする離婚問題の場合に問題となり得る法定離婚原因は、以下の2つです。
- 「配偶者から悪意で遺棄されたとき」(2号)
- 「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」(5号)
1つ目の悪意の遺棄とは、夫婦の共同生活を否定する意図のもとで、夫婦が互いに負っている同居義務・協力義務・扶助義務に正当な理由なく違反することをいいます。
2つ目の「婚姻を継続し難い重大な事由」の存否を巡る離婚裁判の特徴や具体的にどのようなことを行なっていくこととなるのかについては【離婚裁判で激しい争いとなりやすい典型的な5つのケースを解説します・③「婚姻を継続し難い重大な事由」の存否を巡る争いがあるケース】をご確認ください。
また、悪意の遺棄が認められる場合や、DVにより夫婦の婚姻関係が破綻したと言える場合は、相手に離婚慰謝料を請求できることがあります。
DVを理由とする離婚慰謝料に関する裁判例の解説や証拠について詳しくは、【DV離婚の慰謝料相場と慰謝料が裁判で認められるための証拠】をご確認ください。
5.日常生活の平穏を確保・維持するために

経済的DVに限らず、DVをしてくるタイプの配偶者との離婚問題はストレスフルな争いとなり得るものであり、難航する可能性も高いです。
このような相手との離婚問題に関しては、特に離婚問題に精通した弁護士に依頼するメリットが大きいといえます。
依頼を受けた弁護士は、離婚問題のみならず、相手に対して、婚姻費用の支払いなどを請求したり、あなたの自宅・実家・職場への連絡・来訪を固く拒否する旨を通告し、今後の連絡は全て弁護士に対してするよう強く要請したりして、離婚問題が解決するまでの間のあなたの日常生活の平穏を確保・維持するための活動をします。
また、弁護士に依頼をすれば、今後一切相手と会うことなく離婚を成立させることも可能です。
レイスター法律事務所では、無料相談において、DVをしてくる相手との間でどのように離婚問題を進めていくことが最も妥当か、離婚成立までの間に相手から支払ってもらえる婚姻費用の金額は具体的にいくらになるか、離婚条件としてどのような経済的な給付を受けることができるのかなど、離婚問題を進めるかどうかの判断の前提となる事項を具体的かつ詳細にお伝えしています。
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