家庭内別居とは?離婚の可否・離婚条件・不倫の責任を左右する大問題

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【家庭内別居で離婚できるか】

 家庭内別居とは、一般に、同居中であるものの、その生活状況が夫婦としての共同生活を否定するものである状況(夫婦が共同生活をしているとは言えない状況)を言います。
 つまり、同じ場所に夫婦関係が極めて悪化した夫婦がそれぞれ別々に暮らしている場合です。
 家庭内別居であるかどうかは、離婚の可否、離婚条件、不倫の法的責任の有無の結論が変わる大問題です。
 この記事では、どのような事情があれば家庭内別居に当たるか、家庭内別居中の生活費の分担、家庭内別居中の離婚問題の進め方などを解説します。

1.家庭内別居とは

家庭内別居とは、一般に、同居中である(客観的な状況としては同じ住居で生活している)ものの、その生活状況が夫婦としての共同生活を否定するものである(共同生活をしているとは言えない状況)を言います。

つまり、同じ場所に夫婦関係が極めて悪化した夫婦がそれぞれ別々に暮らしている場合です。

ただ、家庭内別居には法律上の明確な定義はありませんので、離婚問題や不倫慰謝料問題において、様々な場面で、様々な意味合いで、「家庭内別居」という言葉が使われ、それが「家庭内別居」と認められたり認められなかったりしています。

例えば、家庭内別居は、以下のような場面で主張され、家庭内別居であるかどうか(夫婦が「別居」している状況と認められるかどうか)が争われています。

家庭内別居が争われる3つの場面

1.別居期間にカウントされるか

別居期間は「婚姻を継続し難い重大な事由」という離婚原因の存在を基礎付ける重大な要素の一つとなります。

離婚したい方は家庭内別居を主張して別居期間のカウントを増やしたいでしょうが、離婚したくない方はあくまでも同居中であったと主張したいでしょう。

2.財産分与の基準時がいつか

財産分与の基準時は、別居することなく離婚する場合には離婚時、別居が開始されている場合には別居時となります。

そのため、夫婦が「別居」(「家庭内別居」)の状況に至っていたのかどうかで、財産分与の基準時が違ってきますので、財産分与するべき金額が変わってきます。

3.不倫が開始された時点が別居前か別居後か

不倫が開始された時点で夫婦が既に別居している状況であれば、以下の状況となります。

 不倫慰謝料の金額が減額されたり、そもそも不倫慰謝料責任が発生しないこととなったりする場合があります。

 不倫をした方の配偶者は、有責配偶者に該当しない可能性が十分に出てきます。

このように、家庭内別居であるかどうか(夫婦が別居している状況と認められるかどうか)は、

  1. 離婚の可否(離婚裁判で離婚判決が出るかどうか)
  2. 離婚条件(財産分与の算定の基準時はいつになるか)
  3. 不倫の法的責任の有無(不倫慰謝料責任の発生の有無や有責配偶者該当性)

の結論が変わる大問題です。

では、実際にどのような事情があれば「家庭内別居」は夫婦の別居と認められるのでしょうか。

2.どのような事情があれば家庭内別居に当たるか

家庭内別居がどのような状態かは、家庭内別居が争われる3つの場面を見れば分かります。

家庭内別居は、夫婦が場所的には同居しながらも、

①その状況が継続すれば婚姻関係が破綻していると考えざるを得ないものであり、

②その状況以降に形成された資産はそれぞれの特有財産と考えることとなり、

③夫婦がもはや互いに貞操義務を負っていない(婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益が存在していない)と言い得るだけの事情がある場合です。

具体的には、以下のような状況が様々積み重なって、もはや夫婦としての実態が喪失していると言える状況であれば、家庭内別居と認められる可能性があります。

家庭内別居と認められるための具体的な状況

  1. 夫婦間の会話がない、互いに無視している
  2. 夫婦の寝室が別
  3. 性行為や肉体的接触が全くない
  4. 夫婦が顔を合わせないように工夫して生活をしている
  5. 夫婦が日常的な家事(掃除・洗濯・食事)を完全に別々に行っている
  6. 夫婦の間に経済的協力関係がない
  7. 近い将来に場所的な別居を開始する明確な取り決めがある
  8. 夫婦の間に将来離婚する約束(例えば「子どもが高校を卒業したら離婚する」との約束)がある

家庭内別居と「仮面夫婦」の違い

家庭内別居と似た言葉に「仮面夫婦」という言葉があります。

「仮面夫婦」とは、一般的に、夫婦の婚姻関係は既に破綻しているものの、対外的関係においては互いに「あたかも普通の(円満な)夫婦であるかのような仮面」を被っている状況を言います。

「仮面夫婦」も対内的関係(夫婦の内部的関係)においては既に夫婦という実態を喪失している状況に至っているものですので、「仮面夫婦」は自宅では家庭内別居の状況であることはよくあることです。

仮面夫婦はこのように対外的関係における見た目上の関係性を指している言葉であって、家庭内別居とは表現している内容は異なってはいます。

ただし、もはや夫婦としての実態が喪失している状況であることに変わりはありません。

3.家庭内別居中の生活費の分担

⑴家庭内別居中でも生活費(婚姻費用)の請求は可能

家庭内別居の状況に至る程に夫婦の婚姻関係が悪化している場合は、一方の配偶者が生活費を出し渋るようになったり、家にお金を入れなくなったりする場合もよくあります。

ただ、夫婦は「夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する」義務を負っています(民法760条)。

そのため、配偶者が生活費を入れてくれない場合には、その配偶者に対して婚姻費用を請求することができます

相手が生活費を出さずに兵糧攻めをしてくる場合

相手が婚姻費用を支払ってくれない場合には、相手による経済的DVが認められる可能性がありますし、その態様によっては法定離婚原因である悪意の遺棄(民法770条1項2号)が認められる可能性もあります。

⑵場所的に別居していない場合の婚姻費用の算定方法

夫婦が別居中であれば裁判所が作成した算定表が婚姻費用の算定のベースとなります。

※引用:裁判所 – 統計・資料:公表資料:平成30年度司法研究(養育費,婚姻費用の算定に関する実証的研究)の報告について

ただ、この算定表は夫婦が場所的に別居している状況である場合を想定して作成されています。

夫婦が場所的に同居している場合の婚姻費用の請求金額の算定に一般的な基準はありません

この場合は、婚姻費用算定表により算定された金額をベースにしつつ、日々の食費・医療費・水道光熱費・通信費・家賃や住宅ローンの負担などの現実に発生している生活費の金額やその分担状況などを踏まえ、夫婦で話し合って決めることが一般的です。

⑶話し合いが難航したら婚姻費用分担請求調停を申し立てよう

婚姻費用の請求は法律上の正当な権利であり、婚姻費用を支払うことは法律上の義務です。

婚姻費用の話し合いが難航したり、相手が話し合いに応じてくれない場合には、場所的に別居していなくても、家庭裁判所に婚姻費用分担請求調停を申し立てることができます

婚姻費用分担請求調停の期日では、調停委員会を交えて婚姻費用の適正な金額がいくらであるか、義務者(婚姻費用を支払う配偶者)が権利者(婚姻費用の支払いを受ける配偶者)に対して支払うべき婚姻費用の具体的な金額がいくらなのかについて話し合いが行われます。

そして、権利者と義務者との間で合意が成立すれば、合意内容が調停調書に記載されます。

他方、権利者と義務者との間で合意が成立しなければ、調停は不成立となって終了して、自動的に婚姻費用分担請求審判の手続きに移行します。

そして、婚姻費用分担請求審判手続きでは、家庭裁判所が当事者双方の収入状況や生活費の負担状況などを検討して、適正な婚姻費用の金額を審判という形式で決定してくれます。

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⑷義務者が調停調書・審判で決定された支払いをしない場合

義務者が調停調書または審判にて決定された婚姻費用を支払わない場合には、以下の制度を利用して義務者からの支払いを確保することとなります。

婚姻費用の支払いを確保するための制度

  1. 履行勧告
  2. 履行命令
  3. 強制執行

①履行勧告

履行勧告とは、義務者に対して、家庭裁判所から、裁判所での調停・審判で決められた通りに婚姻費用を支払うよう、電話や書面で督促してもらう制度です(家事事件手続法289条)。

この制度を利用するためには、婚姻費用の金額を定めた際に利用した裁判所に電話もしくは窓口に赴いて、義務者が調停・審判で決められた婚姻費用の支払いをしないので裁判所から履行勧告をしてもらいたい旨を告げましょう。

ただ、履行勧告の制度は、あくまで義務者に対する説得・勧告をするにとどまるものであり、それ以上の強制力はありません。

②履行命令

義務者が裁判所からの履行勧告を受けてもなお養育費を支払わない場合には、今後は裁判所に対して履行命令の申出を行いましょう。

履行命令は、義務者が正当な理由なく履行命令に従わない場合には、状況によって10万円以下の過料の支払いが命じられる場合があるなど、履行勧告よりも強制的色彩の強い手続きです(家事事件手続法290条)。

強制的色彩が強い分だけ、履行勧告よりもさらに義務者が翻意して養育費の支払いを開始することが期待できます。

③強制執行

義務者がどうしても婚姻費用を支払わない場合には、強制執行を実施することも可能です。

強制執行を実施すれば、義務者の預貯金口座や所有不動産などの資産を差し押さえてそこから強制的に婚姻費用の支払いを受けたり、裁判所から義務者の勤務先に連絡してもらって義務者の給与債権を差し押さえて義務者の勤務先から直接婚姻費用の支払いを受けたりすることができます。

4.家庭内別居での離婚問題の進め方

⑴相手も離婚を考えている(離婚する意思がある)場合

相手も離婚を考えている場合であれば、相手との対立を不必要に深めることなく、離婚条件を1つ1つ決めていくことで、早期に協議離婚が成立する可能性があります。

相手との間で離婚条件に関して合意ができない場合や、相手の提示してきている離婚条件が納得できない場合には、どこまでであれば譲歩して合意してよいいかなどについて、離婚後の生活も見据えた上で慎重に検討する必要があります。

ひとたび合意した離婚条件を、後から無かったことにすることは通常できませんので、適宜弁護士に離婚の交渉を依頼して相手との交渉の間に入ってもらったり、離婚調停を申し立てたりすることを検討することが良いでしょう。

⑵相手が離婚を考えていない(離婚する意思がない)場合

物理的な別居ができないかを改めて検討する

相手が離婚を考えていない場合や、離婚を切り出すことができない事情がある場合(相手が精神的に不安定な気質である、相手からの暴力・DV被害を受ける恐れがある、相手が全く取り合ってくれないなど)の離婚の進め方としては、物理的な別居が可能であれば別居した方が良いです。

離婚問題に関して物理的な別居を開始することのメリットは大きく、早めに物理的な別居を開始することが極めて有用と言える場合も多いです。

なお、別居に際しての経済的な問題については物理的な別居と同時に婚姻費用を請求することでカバーできる場合もありますので、その方向で検討することは有用です。

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物理的な別居できない事情がある場合の離婚問題の進め方

物理歴な別居できない事情がある場合は、場所的に同居しながら離婚問題を進めていくこととなります。

ただ、同じ場所に居住している状況であるということは、相手の突発的・感情的な言動の被害を被ってしまうということです。

そのため、離婚の進め方としては、可能な限り直接話し合うことは避けるべきでしょう。

相手に対して、弁護士を通じて、離婚の話は自宅内で当事者間で直接することは一切せずに全て弁護士又は裁判所を通じて行うことを強く要請しつつ、家庭裁判所に離婚調停の申し立てをして調停委員といった裁判所に所属する第三者に間に入ってもらうことで相手をけん制し、離婚を進めていくことが有用です。

5.家庭裁判所に「家庭内別居」を別居と認めてもらうために

このように、家庭内別居が別居と認められるかどうかで、離婚問題も不倫問題も結論が大きく異なってくる場合があります。

ただし、家庭裁判所が家庭内別居を別居と認める水準は相当高いものです。

そのため、自身では家庭内別居の状況にあると考えていたとしても、家庭裁判所が別居とは認めてくれない可能性もあります。

現在の夫婦の状況が離婚問題や不倫問題において別居と考えて良いものかどうかについては、ご自身で判断されるのではなく、弁護士などの専門家に相談して慎重に検討を進めることを強くお勧めします。

レイスター法律事務所では、無料相談にて、現在の状況が「別居」と認められるかどうかや、子あり・子なしの別などの具体的な状況を踏まえて、

  1. 早期かつ好条件での離婚成立のために最適な離婚交渉の方針や交渉戦略
  2. 離婚成立までの婚姻費用(生活費)の具体的な金額
  3. 想定される離婚条件(財産分与・慰謝料・解決金・養育費など)の金額

などといった離婚問題全般の見通しなどについて、具体的なアドバイスを行なっています。

配偶者との離婚をお考えの際は、是非、お気軽にこちらからご連絡ください。

     

この記事の執筆者

弁護士山﨑慶寛

弁護士法人レイスター法律事務所
代表弁護士 山﨑慶寛

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