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家庭内別居とは、一般に、同居中であるものの、その生活状況が夫婦としての共同生活を否定するものである状況(夫婦が共同生活をしているとは言えない状況)を言います。
言うなれば、同じ場所に夫婦関係が極めて悪化した夫婦がそれぞれ別々に暮らしている場合です。
家庭内別居であるかどうかは、離婚の可否、離婚条件、不倫の法的責任の有無の結論が変わる大問題です。
この記事では、どのような事情があれば家庭内別居に当たるか、家庭内別居中の生活費の分担、家庭内別居中の離婚問題の進め方などを解説します。
1.「家庭内別居」とは
家庭内別居とは、一般に、同居中である(客観的な状況としては同じ住居で生活している)ものの、その生活状況が夫婦としての共同生活を否定するものである(共同生活をしているとは言えない状況)を言います。
言うなれば、同じ場所に夫婦関係が極めて悪化した夫婦がそれぞれ別々に暮らしている場合です。
ただ、家庭内別居には法律上の明確な定義はありませんので、離婚問題や不倫慰謝料問題において、様々な場面で、様々な意味合いで、「家庭内別居」という言葉が使われ、それが「家庭内別居」と認められたり認められなかったりしています。
例えば、家庭裁判実務では、以下のような3つの場面で家庭内別居であるかどうか(夫婦が「別居」している状況と認められるかどうか)が争われています。
- ❶家庭内別居の期間が別居期間としてカウントされるか
別居期間は「婚姻を継続し難い重大な事由」(民法770条1項5号)という離婚原因の存在を基礎付ける重大な要素の一つとなります。
家庭裁判所は、離婚訴訟において、不倫やDVなどといった明確な離婚の理由が存在していなかったとしても、別居期間が概ね2年半〜3年以上に及んでいる場合には、「婚姻を継続に難い重大な事由」が存在するとして、離婚判決を出す場合が多いです(ただし有責配偶者とされてしまった場合はより長期間の別居の継続などが必要となります。)。
逆に、家庭裁判所は、離婚訴訟において、夫婦が同居中の場合は、何らかの明確な離婚原因がない限り、なかなか離婚判決を出しません。
そのため、離婚したい方は、なるべく早い時期から家庭内別居状態であったということを主張して、別居期間のカウントを増やしたいでしょう。
そして、離婚したくない方は、「家庭内別居ではなくあくまでも同居中であった」と主張したいでしょう。
- ❷財産分与の基準時がいつか
財産分与の基準時は、別居することなく離婚する場合には離婚時、別居が開始されている場合には別居時となります。
そのため、夫婦が「別居」(「家庭内別居」)の状況に至っていたのかどうかで、財産分与の基準時が違ってきますので、財産分与するべき金額が変わってきます。
家庭内別居が「別居」に当たるとされた場合には、家庭内別居が始まったと判断できる日が財産分与の基準時とされます。
逆に、家庭内別居の期間が「別居」に当たらないとされた場合には、財産分与の基準時は、場所的な別居をした日(別の住居で生活を始めた日)や、離婚協議を本格的に始めた日など、家庭内別居が始まった日よりも後の日付となることがあります。
この点は、お互いに、自分に都合の良くなる方(自分の分与金額が多くなる方)を主張したいでしょう。
- ❸不倫が開始された時点が別居前か別居後か
不倫(不貞行為)が開始された時点で夫婦が既に別居している状況である場合、不倫慰謝料の金額が減額されたり、そもそも不倫慰謝料責任が発生しないこととなったりする場合があります。
それに加えて、不倫をした方の配偶者は、有責配偶者に該当しない可能性が十分に出てきます。
上述のとおり、有責配偶者とされてしまった配偶者が離婚判決を得るためには、通常より長期間の別居の継続などが必要となるため、一方が有責配偶者であるかどうかは離婚裁判において非常に重要な事項です。
そのため、配偶者との家庭内別居中に新しいパートナーとの不倫を開始した配偶者としては、家庭内別居は「別居」であったと主張したいでしょう。
逆に、家庭内別居中に配偶者が他の異性と不倫していたという場合には、夫婦の状況は家庭内別居でなくあくまでも同居中であったとして、夫・妻や不倫相手に慰謝料を請求したいところでしょう。
このように、家庭内別居であるかどうか(夫婦が別居している状況と認められるかどうか)は、
- 離婚の可否(離婚裁判で離婚判決が出るかどうか)
- 離婚条件(財産分与の算定の基準時はいつになるか)
- 不倫の法的責任の有無(不倫慰謝料責任の発生の有無や有責配偶者該当性)
の結論が変わる大問題です。
では、実際にどのような事情があれば「家庭内別居」は夫婦の別居と認められるのでしょうか。
2.家庭内別居に該当する事情の例
⑴家庭内別居と認められる可能性のある具体的な状況の例
家庭内別居がどのような状態かは、離婚裁判において家庭内別居が争われる3つの場面を考えれば、分かります。
家庭内別居は、夫婦が場所的には同居しながらも、
- その状況が継続すれば婚姻関係が破綻していると考えざるを得ないものであり、
- その状況以降に形成された資産はそれぞれの特有財産と考えることとなり、
- 夫婦がもはや互いに貞操義務を負っていない(婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益が存在していない)と言い得るだけの事情がある
場合です。
具体的には、以下のような状況が様々積み重なって、もはや夫婦としての実態が喪失していると言える状況に至っていれば、家庭内別居と認められる可能性があります。
家庭内別居と認められるための具体的な状況
- 夫婦間の会話やコミュニケーションがない、互いに無視を続けている
- 夫婦の寝室が別
- 性行為や肉体的接触が全くない
- 夫婦が顔を合わせないように工夫して生活をしている
- 夫婦間で相互に干渉しないようにルールを定めて生活をしている
- 夫婦が日常的な家事(掃除・洗濯・食事)を完全に別々に行っている
- 夫婦の間に経済的協力関係がない
- 近い将来に場所的な別居を開始する明確な取り決めがある
- 夫婦の間に将来離婚する約束(例えば「子供が高校を卒業したら離婚する」との約束)がある
なお、どちらかが一方的に配偶者を避けているだけの状態である場合は基本的には家庭内別居に該当しないとされることが多いですが、そのような状況について他方の避けられている配偶者が事実上是認して、そのような「夫婦が避けるようにして生活をしている」という状況が固定化されている場合には家庭内別居に該当する可能性が十分にあります。
他方、端的に夫婦仲が悪いだけの状態、どちらかが相手のことを内心嫌いであってストレスを感じているなどというだけの状態では、家庭内別居には該当しません。
⑵家庭内別居と「仮面夫婦」の違い
家庭内別居と似た言葉に「仮面夫婦」という言葉があります。
「仮面夫婦」とは、一般的に、夫婦の婚姻関係は既に破綻しているものの、対外的関係においては互いに「あたかも普通の(円満な)夫婦であるかのような仮面」を被っている状況を言います。
「仮面夫婦」も対内的関係(夫婦の内部的関係)においては既に夫婦という実態を喪失している状況に至っているものですので、「仮面夫婦」は自宅では家庭内別居の状況であることはよくあることです。
仮面夫婦はこのように対外的関係における見た目上の関係性を指している言葉であって、家庭内別居とは表現している内容は異なってはいます。
ただし、もはや夫婦としての実態が喪失している状況であるという点では、家庭内別居と変わりはありません。
3.家庭内別居を選択する理由
⑴「別居」でなく「家庭内別居」をする理由
離婚の進め方としては、場所的な「別居」が可能であれば別居した方が良いでしょう。
ただ、離婚を考えてはいるものの、様々な事情によっては場所的な別居を開始することができず、家庭内別居を選択せざるを得ない状況の人もいるかもしれません。
例えば、場所的な別居をした場合には、引越しの費用や新しい住居の初期費用・毎月の家賃の支払い・家具家電の購入費用等を自身で賄わなければなりませんので、同居時よりも出費が多くなることとなります。
特に相手方配偶者よりも収入が少ない人や専業主婦であった場合には、別居後の生活に不安を抱えて、場所的な別居を開始することができず、家庭内別居となってしまう人も少なくありません。
また、子供がいる場合には、転居することによって生活環境ががらっと変化したり、転校の手続きをして新しい学校に通うこととなったりするため、子供の精神面への影響を考えて、場所的な別居に踏み切れないこともあるでしょう。
子供の年齢がある程度に達するまで(例えば、高校を卒業するまで、高校や大学の受験が終わるまで、など)、配偶者との別居や離婚を我慢しているというパターンも存在します。
他には、夫婦仲が悪化して今にも離婚紛争に突入しそうな状況にあるということを両親や親族に言い出せなかったり、近隣住民からの目や世間体が気になったりするために、場所的な別居ができないという場合もあります。
特に、熟年離婚を見据えている場合には、結婚してから長年住んでいた自宅や地域を離れることに抵抗のある人もいるでしょう。
その他にも、職場への通勤手段が変わったり、遠方の実家に戻る場合にはそもそも仕事を変えなければならなかったり、さらには別居先で子供が保育園に入れるかどうかなど、場所的な別居に踏み切れない理由は多くあると考えられます。
⑵家庭内別居はいつまで続くか
家庭内別居とは言っても、今にも離婚してしまいたいほどに嫌いな夫(妻)と同じ住居で一緒に生活し、同じ住所を使い、同じ生活空間を共有し続けることには、いつか限界が訪れるものでしょう。
同じ住居の中で、毎日何をしているのか行動を探られているように感じて気が気でなかったり、相手の生活音が気になって心が休まらなかったり、どうにか相手と会わないように何かとタイミングをずらしたりするような生活に、徐々に疲弊していくことは想像に難くありません。
家庭内別居と言える状態に至るほどに婚姻関係が破綻している場合には、もしかするとお互いにどちらかが離婚を言い出すのを待っている状態かもしれません。
今後も夫婦関係が修復へ向かうことは一切ないと確信した場合には、自分から離婚を切り出して、新しい生活へと踏み出していくことも一つの手です。
離婚後の経済面の不安については、離婚することで、離婚した配偶者から財産分与や慰謝料などの経済的給付が受けられる可能性もあります。
また、別居に際しての経済的な問題については、婚姻費用を請求することでカバーできる場合もありますので、次の項目で詳しく説明します。
4.家庭内別居中の生活費の分担
⑴家庭内別居中でも生活費(婚姻費用)の請求は可能
家庭内別居の状況に至る程に夫婦の婚姻関係が悪化している場合は、一方の配偶者が生活費を出し渋るようになったり、家にお金を入れなくなったりする場合もよくあります。
ただ、夫婦は「夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する」義務を負っています(民法760条)。
そのため、配偶者が生活費を入れてくれない場合や、生活費を入れてはくれるもののその金額が不当に少額である場合は、その配偶者に対して婚姻費用を請求することができます。
なお、相手が婚姻費用を支払ってくれなかったり、生活費を支出していた銀行口座を使用できなくしたり、クレジットカードの使用を停止したりして、いわば兵糧攻めをしてくる場合があります。
その場合には、相手による経済的DVが認められる可能性がありますし、その態様によっては法定離婚原因である悪意の遺棄(民法770条1項2号)が認められる可能性もあります。
⑵場所的に別居していない場合の婚姻費用の算定方法
夫婦が別居中であれば裁判所が作成した算定表が婚姻費用の算定のベースとなります。
ただ、この算定表は夫婦が場所的に別居している状況である場合を想定して作成されています。
夫婦が場所的に同居している場合の婚姻費用の請求金額の算定に一般的な基準はありません。
この場合は、婚姻費用算定表により算定された金額をベースにしつつ、日々の食費・医療費・水道光熱費・通信費・家賃や住宅ローンの負担などの現実に発生している生活費の金額やその分担状況などを踏まえ、夫婦で話し合って決めることが一般的です。
夫婦の収入が少ない方や、普段子供を監護養育している方にとっては、相手からの婚姻費用の支払いは生活するための生命線とも言えますから、毎月の婚姻費用の金額や相手からの支払いのペースは非常に重要です。
当事者間で一度取り決めた婚姻費用の金額を後になってから増減することは難しいため、家庭内別居である場合の具体的な婚姻費用の金額の計算については、当事者間で取り決めをする前に、一度離婚問題に精通した弁護士へ相談することをおすすめします。
⑶話し合いが難航したら婚姻費用分担請求調停を申し立てよう
婚姻費用の請求は法律上の正当な権利であり、婚姻費用を支払うことは法律上の義務です。
婚姻費用の話し合いが難航したり、相手が話し合いに応じてくれなかったりする場合には、場所的に別居していなくても、家庭裁判所に婚姻費用分担請求調停を申し立てることができます。
婚姻費用分担請求調停の期日では、調停委員会を交えて夫婦がそれぞれ負担するべき婚姻費用の適正な金額がいくらであるかについて話し合いが行われます。
そして、婚姻費用の金額や支払い方法について当事者間で合意が成立すれば、合意内容が調停調書に記載されます。
他方、当事者間で合意が成立しなければ、調停は不成立となって終了して、自動的に婚姻費用分担請求審判の手続きに移行します。
そして、婚姻費用分担請求審判手続きでは、家庭裁判所が当事者双方の収入状況や生活費の負担状況などを検討して、適正な婚姻費用の金額を審判という形式で決定してくれます。
つまり、相手が婚姻費用を支払わない場合には、まずは家庭裁判所へ婚姻費用分担請求調停を申し立てることで、相手が支払いに合意しなくても最終的には婚姻費用の金額について裁判所が決めてくれます。
調停にかかる期間は、調停を申し立ててから数か月と長引いたりする可能性もありますので、離婚前の生活費に不安がある場合には、早めに婚姻費用調停の申立を検討した方が良いでしょう。
万一、婚姻費用の金額が調停や審判で決定したにも関わらず、相手が決定した通りの婚姻費用を支払わない場合には、家庭裁判所の履行勧告・履行命令・強制執行の制度を利用して義務者からの支払いを確保することとなります。
5.家庭内別居での離婚問題の進め方
⑴相手も離婚を考えている(離婚する意思がある)場合
相手も離婚を考えている場合であれば、相手との対立を不必要に深めることなく、離婚条件を1つ1つ決めていくことで、早期に協議離婚が成立する可能性があります。
離婚の際には、財産分与の金額や、子供の親権をいずれにするか、そして非親権者が支払う養育費の金額・面会交流の条件などを話し合って決めることとなります。
相手との間で離婚条件に関して合意ができない場合や、相手の提示してきている離婚条件が納得できない場合には、どこまでであれば譲歩して合意してよいかなどについて、離婚後の生活も見据えた上で慎重に検討する必要があります。
ひとたび合意した離婚条件を、後から無かったことにすることは通常できませんので、適宜弁護士に離婚の交渉を依頼して相手との交渉の間に入ってもらったり、離婚調停を申し立てたりすることを検討することが良いでしょう。
⑵相手が離婚を考えていない(離婚する意思がない)場合
- 物理的な別居ができないかを改めて検討する
相手が離婚を考えていない場合や、離婚を切り出すことができない事情がある場合(相手が精神的に不安定な気質である、相手からの暴力(DV)を受ける恐れがある、相手が全く取り合ってくれないなど)の離婚の進め方としては、物理的な別居が可能であれば別居した方が良いです。
離婚問題に関して物理的な別居を開始することのメリットは大きく、早めに物理的な別居を開始することが極めて有用と言える場合も多いです。
なお、別居に際しての経済的な問題については物理的な別居と同時に婚姻費用を請求することでカバーできる場合もありますので、その方向で検討することは有用です。
- 物理的な別居できない事情がある場合の離婚問題の進め方
物理歴な別居できない事情がある場合は、場所的に同居しながら離婚問題を進めていくこととなります。
ただ、その場合の大きなデメリットは、相手の突発的・感情的な言動の被害を被ってしまう可能性があるということです。
また、父親と母親が離婚の話し合いをしており、対立している様子を子供に見せてしまうことは、可能な限り避けるべきです。
そのため、離婚の進め方としては、可能な限り直接話し合うことは避けるべきでしょう。
相手との間で冷静かつ建設的に話し合いを進めることができそうもない場合には、相手に対して、弁護士を通じて、離婚の話は自宅内で当事者間で直接することは一切せずに全て弁護士又は裁判所を通じて行うことを強く要請しつつ、家庭裁判所に離婚調停の申し立てをして調停委員といった裁判所に所属する第三者に間に入ってもらうことで相手をけん制し、離婚を進めていくことが有用です。
6.家庭内別居を別居と認めてもらうために
このように、家庭内別居が別居と認められるかどうかで、離婚問題も不倫問題も結論が大きく異なってくる場合があります。
ただし、家庭裁判所が家庭内別居を別居と認める水準は相当高いものです。
そのため、自身では家庭内別居の状況にあると考えていたとしても、家庭裁判所が別居とは認めてくれない可能性もあります。
現在の夫婦の状況が離婚問題や不倫問題において別居と考えて良いものかどうかについては、ご自身で判断されるのではなく、弁護士などの専門家に相談して慎重に検討を進めることを強くお勧めします。
レイスター法律事務所では、無料相談にて、現在の状況が「別居」と認められるかどうかや、子あり・子なしの別などの具体的な状況を踏まえて、
- 早期かつ好条件での離婚成立のために最適な離婚交渉の方針や交渉戦略
- 離婚成立までの婚姻費用(生活費)の具体的な金額
- 想定される離婚条件(財産分与・慰謝料・解決金・養育費など)の金額
などといった離婚問題全般の見通しなどについて、具体的なアドバイスを行なっています。
配偶者との離婚をお考えの際は、是非、お気軽にこちらからご連絡ください。
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