配偶者が同性と不倫していた場合の離婚問題・慰謝料請求について解説します

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不倫相手が同性か異性かは本質的な問題じゃない

 不倫相手が同性である場合、その行為が「不貞」に該当するかどうかが問題とされます。
 確かに、「不貞」は法定離婚原因ですので、「不貞」に該当するかどうかは、離婚・慰謝料請求・有責配偶者該当性を巡る争いにおいて極めて重要な問題です。
 しかしながら、仮に同性との不倫が「不貞」ではないとして、それが夫婦の婚姻関係に多大なダメージを被らせる行為であることに変わりはありません。
 同性との不倫が「不貞」に該当するかどうかは本質的な問題ではなく、いずれにしてもそのことを理由に離婚や慰謝料請求は認められるべきとも考えられるところです。

1.同性との不倫は「不貞」に該当するか

⑴「不貞」に該当するかどうかは極めて重要な問題

「不貞」はそれだけで婚姻関係を破綻させる程に夫婦の婚姻関係に多大なダメージを与えるものと考えられており、法律上も、「配偶者に不貞な行為があったとき」という事情をそれ単体で離婚原因(裁判で離婚が認められる事情)になると規定しています(民法770条1項1号)。

同性との不倫が「不貞」に該当するのであれば、裁判所は離婚請求も慰謝料請求も認めるのが原則です。

また、同性との不倫が「不貞」に該当するのであれば、同性と不倫していた配偶者は有責配偶者であるとされる可能性が高まり、そうなれば有責配偶者からの離婚請求は原則として認められないこととなります。

このように、同性との不倫が「不貞」に該当するかどうかは、離婚・慰謝料請求・有責配偶者該当性を巡る争いにおいて極めて重要な問題です。

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⑵一般的には「不貞」は異性間の行為のみを指す

実のところ、最高裁判所が示した「不貞」の定義には、不倫の相手が異性か同性かには触れられていません。

最高裁判所が示した「不貞」の定義

最高裁判所判決昭和48年11月15日

「民法770条1項1号所定の『配偶者に不貞の行為があつたとき。』とは、配偶者ある者が、自由な意思にもとづいて、配偶者以外の者と性的関係を結ぶことをいう」

参照:裁判所・裁判例検索・昭和48年11月15日最高裁判所第一小法廷判決

ただ、「不貞」とは、一般に、妻や夫以外の異性と性交渉又はその類似行為をすることをいうと考えられており、性交渉とは男性器の女性器への挿入行為を指すものと考えられています。

つまり、同性との性的な行為は「不貞」には当たらないという見解が一般的であり、裁判所も「不貞」は男性と女性が行う行為であることを前提とした判断をしています。

その背景となっている思想は様々であり、異性間の性的な行為と同性間の性的な行為の質的な違い(生来的な性器の挿入行為・結合の有無)や、生殖行為であるかどうかの違い(子どもができるリスクの有無)などが指摘されます。

確かに、不倫された配偶者の心情としては、自身の妻・夫が他の異性の性器自体との肉体的結合を行ったか行っていないかの点や、子どもを宿すような行為を行ったか行っていないかの点で、被る精神的な苦痛の程度は一定程度変わってくるかもしれません。

⑶同性との性的な行為を「不貞」と認めた裁判例

同性との性的な行為を「不貞」と認めた裁判例がないわけではないですが、異例の特殊な裁判例との扱いを受けており、裁判所による一般的な「不貞」の概念を変えるには至っていません。

ただ、最近、同性との性的な行為を「不貞」と認める新たな裁判例が出されています。

同性との性的な行為を「不貞」と認めた裁判例

東京地方裁判所判決令和3年2月16日

この裁判例では、「不貞行為」の定義を「婚姻生活の平和を害するような性的行為」と広く捉えた上で、同性との性的な行為によっても「既存の夫婦生活が離婚の危機にさらされたり形骸化したりする事態も想定される」ものであるから、同性との性的な行為も「不貞行為」に該当すると判断しました。

その上、夫から妻と性的な行為に及んだ相手の女性に対する損害賠償請求を認めました。

ただし、夫が550万円の慰謝料などを請求したことに対し、裁判所が認めた慰謝料などの具体的な金額は11万円にとどまっています。

なお、この裁判例では、夫は妻の同性愛指向に理解を示して同性と親しく付き合うことに同意していたものの、妻が同性と性的な行為に及ぶことまでは同意していなかったとの事実が認定されています。

この裁判例は現在控訴審で審理されている状況であり、控訴審がどのような判断を示すのか、今後も同様の裁判例が出されていくのか、それともこの裁判例があくまでも特殊な裁判例に過ぎないとの位置付けとなるのかは今後の展開次第です。

アドバンスな交渉戦略

従前より、裁判には至らない交渉や調停事件においては、同性との不倫を理由とした慰謝料(ないし解決金)の支払いの合意が成立する例も時折見られています。

そして、裁判所が同性との性的な行為を不貞行為と認定することがあるということは、同性不倫をした側の配偶者が「相手が同性である以上は不貞には当たらない」と言い切ることができなくなったということであり、類似の状況の夫婦間での交渉や調停事件にも多大な影響を及ぼすものといえるでしょう。

2.同性と不倫していた配偶者と離婚したいと考えた場合

⑴同性との不倫も夫婦の婚姻関係を破綻させるものである

自分の妻・夫が同性と性的な関係を築いていたことが発覚した場合、それが夫婦の婚姻関係に多大なダメージを被らせるものであることに変わりはありません

夫婦は婚姻関係を良好に維持するために尽力していく義務を互いに負っていますが (最高裁判所判決昭和38年10月24日参照)、同性との不倫がこの義務に違反していることは明らかでしょう。

同性との不倫が「不貞」に該当するかどうかは全く本質的な問題ではなく、いずれにしてもそのことを理由に配偶者との離婚を検討することは十分にあり得る考えです

また、結婚した後に同性愛者に変わっていったのではなく、そもそも同性愛者であることを隠して結婚し夫婦としての共同生活を続けていたという状況であれば、なおさら離婚との決断もあり得るものです。

⑵同性不倫をしていた配偶者との離婚問題の進め方

離婚問題の進め方としては、同性不倫をしていた配偶者に離婚を切り出して、配偶者がそれに応じるのであれば、早期に協議離婚(離婚すること及び離婚条件について夫婦が話し合って合意して離婚を成立させる離婚の方法)が成立する可能性があります。

協議離婚の成立要件や注意点については【協議離婚とは?協議離婚の成立要件や離婚協議書の重要性を弁護士が解説】を、離婚の協議において夫との間で話し合いをしていくこととなる具体的な内容や離婚問題を有利に進めるためのポイントは【離婚の際に抑えるべきポイント】をご確認ください。

他方、相手が頑なに離婚に応じない場合には、離婚紛争は、離婚調停を経て、最終的には離婚裁判に至ります。

離婚成立に向けた手続きの流れ

    ↓ 話し合いがまとまらなければ

  • 調停離婚」(特殊なものとして「審判離婚」)

    ↓ 成立しなければ

⑶離婚裁判におけるポイント

離婚裁判で裁判所に離婚判決を出してもらうためには、裁判所に法律に定められている離婚原因(法定離婚原因)が存在していることを認めてもらう必要があります。

法定離婚原因は、以下の5つです。

法定離婚原因(民法770条1項)

  1. 「配偶者に不貞な行為があったとき」(1号)
  2. 「配偶者から悪意で遺棄されたとき」(2号)
  3. 「配偶者の生死が三年以上明らかでないとき」(3号)
  4. 「配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき」(4号)
  5. 「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」(5号)

このように、同性との性的な行為が「不貞な行為」(民法770条1項1号)に該当するのであれば、離婚は認められます。

他方、同性との性的な行為が「不貞な行為」に該当しないと考える裁判官が担当した場合には、「婚姻を継続し難い重大な事由」(民法770条1項5号)の存否を巡る争いとなります。

その場合であっても、同性愛者であることを隠して結婚したのであればほとんど確実に、そうではないとしても同性との性的な行為をしたことが「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当するとされる可能性は十分にあります。

なお、「婚姻を継続し難い重大な事由」の存否を巡る離婚裁判の特徴や、裁判で具体的にどのようなことを行なっていくこととなるのかについては【離婚裁判で激しい争いとなりやすい典型的な5つのケースを解説します・③「婚姻を継続し難い重大な事由」の存否を巡る争いがあるケース】をご確認ください。

なお、この場合は、夫婦の婚姻関係が破綻した責任は同性不倫をした配偶者にありますので、「不貞」にあたる場合はもちろん、そうでないとしても離婚慰謝料の請求が認められる可能性が高いです

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3.配偶者と離婚したくないと考えた場合

同性不倫をしていた配偶者を受け入れて今後も夫婦として生きていく、との決断も尊重されるべきです。

同性不倫をしていた配偶者もそれを望んでいるのであれば、何もいうことはありません。

他方、あなたが同性不倫をしていた配偶者を受け入れる決断をしたとしても、同性不倫をしていた配偶者の方があなたとの離婚を求めている場合には、離婚問題が持ち上がることとなります。

⑴配偶者との離婚を受け入れる場合

同性不倫をしていた配偶者からの離婚要求を受け入れる場合には、離婚条件について話し合っていくこととなります。

この場合は同性不倫をしていた配偶者に対して離婚慰謝料を請求できる可能性が高い状況ですので、離婚慰謝料を請求するかどうかを検討する必要があります。

離婚条件について折り合いが付かなければ、離婚調停を申し立てて話し合いを続け、それでも合意ができない場合には最終的には離婚裁判を行うこととなります。

⑵配偶者との離婚を受け入れない場合

同性不倫をしていた配偶者からの離婚要求を受け入れないのであれば、相手に離婚を思いとどまってもらうことが必要です。

同性不倫をしていた配偶者は有責配偶者に該当する可能性が十分にありますので、離婚紛争が離婚裁判にまで至ったとしても、相手の配偶者からの離婚請求は原則として認められない可能性が十分にあります

つまり、あなたが離婚に合意さえしなければ、原則として離婚となることはありません。

有責配偶者から離婚裁判が提起された場合にどのような審理が行われるかについては【離婚裁判で激しい争いとなりやすい典型的な5つのケースを解説します・②不倫した配偶者からの離婚請求のケース】をご確認ください。


ただし、同性不倫をしていた配偶者の離婚請求が認められないということは、あくまでも「法律上は離婚にならず法律婚の状態が継続する」ということを意味するにとどまり、夫婦の婚姻関係が修復されて復縁が果たされることは意味しません。

本当の意味での復縁を果たすためには、相手の配偶者との人間関係の修復が必要となります。

そのためには、相手に対してあなたの愛情を伝え、強く復縁を希望していることをしっかりと分かってもらい、我慢強く説得していくしかありません。

相手との復縁を果たすためには、相手を理解することが必要です

相手がつい出来心で同性と性的な行為に及んだものであったり、単なる割り切った肉体的な快楽のために同性不倫を続けていたにとどまらず、そもそも同性愛者である場合には、相手は自分の抱える同性愛指向について深く思い悩んでいることも多いです。

相手は、あなたのことが嫌いになったものではなく、ただ自分の抱える同性愛指向のゆえに、あなたとの夫婦関係ではどうしても満たされない部分があることを思い悩んでおり、そのことであなたに対する後ろめたさを感じていたり、いつかあなたに嫌われてしまう日が来ることを恐れていたり、むしろあなたには自分と離婚して別の道を歩むことがあなたの幸せのためにも必要であるなどと考えている場合もあるところです。

相手が自宅から出て行ってしまっている状況であるならば、相手に対していつでも帰ってくる場所がしっかりと確保されていることや、同居に戻った後の生活について具体的に考えていることを伝えましょう

まだまだ同性愛者には生きにくい世の中であることは否めませんので、相手が離婚しなかった場合の夫婦の生活について具体的に想像・検討できるよう、今後の夫婦の形(例えば、同性との性的な交友関係を認めるかどうかなど)を検討し、具体的に相手に提案をすることも必要となることかもしれません。

相手に対して繰り返し再考を促し、時間をかけてじっくりと、相手に再検討の機会と期間を与えられるように試みましょう


ただ、一般論としては、一度本気で離婚の決断をした後に思い直して復縁に至る例は極めて少数にとどまり、殊に離婚紛争が離婚訴訟にまで至っている状況からの復縁の例は限りなくゼロに近いですし、その復縁の例も気持ちの変化などではなく特殊な対外的要因が起因していることがほとんどです。

そのため、相手に対して繰り返し再考を促し、時間をかけてじっくりと離婚について再考の機会と期間を与えてもなお相手の離婚意思が固い場合には、離婚調停が不成立となって離婚紛争が離婚裁判に至る前に復縁を諦め、できるだけ有利な条件で離婚する方向で交渉を進めることも検討せざるを得ないところです。

4.性的少数者(セクシャルマイノリティー、LGBT)の権利と責任

同性との恋愛・結婚に関する社会的な見方は変動しています。

一昔前は、同性との恋愛・同性愛指向は異常なものとみなされる風潮が一般的でしたが、近年は大きく変わってきています。

日本では同性婚は認められていませんが、台湾や西欧諸国では同性婚を認める国々も増える傾向にあり、日本でも、近年、自治体レベルでは同性カップルに対するパートナーシップの証明書の発行を行う制度が導入される例が増えています。

また、判例・裁判例は、男女間の内縁(事実婚)の場合に認められる法律婚同様の権利(財産分与・慰謝料など)を同性間の内縁(事実婚)の場合にも同様に認めています(東京高等裁判所判決裁令和2年3月4日判決、最高裁判所決定令和3年3月17日など参照)。

同性間の関係が異性間の関係と法的保護の水準を同じとするべきとなれば、その反面として、同性との性的な行為は異性との性的な行為と同様に貞操義務に違反するものであり、「不貞」に該当するとされるべきという方向性となるはずです。

同性との性的な行為に起因した離婚問題や慰謝料請求問題についてお悩みの際は、レイスター法律事務所の無料相談をご利用ください。

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この記事の執筆者

弁護士山﨑慶寛

弁護士法人レイスター法律事務所
代表弁護士 山﨑慶寛

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