熟年離婚に至る原因や財産分与・離婚の進め方を弁護士が解説

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熟年離婚に至る原因や財産分与離婚の進め方を弁護士が解説

熟年離婚は、人生の終盤をどう生きるかの問題です。

人生の終盤を一緒に過ごしたくない人と人生の最後まで我慢して共同生活を続けていくことは、幸せなこととはいえないでしょう。

熟年離婚の最大のメリットは、一緒に過ごしたくない配偶者から解放されて第二の人生をスタートできる点にあります。

実際に、熟年離婚をして第二の人生をスタートしている人の割合は年々増加傾向にあります。

ただ、熟年離婚は離婚協議が難航することもありますし、財産分与などを巡って極めて複雑な交渉をする必要があることも多いです。

1.熟年離婚とは?

熟年離婚とは?

熟年離婚とは、一般に、結婚してから20年以上が経過した後に離婚する場合をいいます。

厚生労働省が発表しているデータにおいて、直近4年間(令和元年〜令和4年)の同居期間別の離婚件数を見ると、同居期間が20年以上の場合の離婚件数が全体の20%以上を占めています

相当な人数の夫婦が熟年離婚をしており、しかもその割合は近年増加傾向にあることが確認できます。

同居期間20年以上の場合の離婚件数の割合
参考:厚生労働省・令和4年(2022)人口動態統計月報年計(概数)の概況・結果の概要
  離婚総数 同居期間20年以上 割合
令和元年 208496 40396 19.4%
令和2年 193253 38981 20.2%
令和3年 184384 38968 21.1%
令和4年 179096 38990 21.8%
合計 765229 157335 20.6%

夫婦の離婚の危機が現れやすいタイミングはいくつかありますが(例えば、結婚直後、結婚3年目、子供の妊娠中、子供が生まれてから数年以内など)、長年連れ添った夫婦であるからといって離婚しないわけではないということです。

2.熟年離婚に至る原因

熟年離婚に至る原因として良くあるものとしては、以下の3つがあります。

  1. 子供が成長して自立したこと
  2. 夫(またはお互い)の定年退職の影響
  3. 年齢を重ねた影響

⑴子供が成長して自立したこと

結婚後の夫婦の婚姻生活の一般的なパターンは、婚姻直後の聡明期(関係性構築期)から始まって、育児期(子育て期)を経て、関係性が安定して固定化された円熟期に至ります。

そして、円熟期が進むと、子供が成長して完全に手を離れて精神的にも経済的にも自立し、人生の終盤が見え隠れしてくる時期に差し掛かっていきます。

「子はかすがい」という言葉があるように子供は夫婦の縁を繋ぎ止める役割を果たすことも多く、子供がいるから離婚に踏み切れない、子供がまだ学生であるうちは離婚しないでおこうと考えている夫婦もよくいます。

ただ、熟年離婚ともなると、すでに子供は高校や大学を卒業する時期であったり、就職してひとり立ちしていたり、もしくは子供もすでに結婚して孫が生まれていたりするかもしれません。

つまり、既に子供は成長して完全に手を離れていますので、子供が夫婦の関係を維持するための「かすがい」になっている状況ではなくなっています。

今まではどれほど夫(妻)に嫌なところがあっても、「子供のために」と考えて長年積み重ねてきた我慢は、もうしなくてもよいこととなります。

このことは、熟年離婚に至る大きな理由の一つでしょう。

⑵夫(またはお互い)の定年退職の影響

熟年離婚に至る原因-夫(またはお互い)の定年退職の影響

夫婦のいずれかが退職したことによる生活スタイルの変化が、夫婦の婚姻関係の破綻の一因となることがあります。

働いていた配偶者は、毎朝仕事に行って夜に自宅に帰宅するという生活スタイルが今まで何十年もの長期間継続されていたわけですが、定年退職した途端、基本的にずっと自宅にいるという生活スタイルに変わります。

従前は基本的に平日の夜と土日祝日しか一緒に過ごしていなかった夫婦が、定年退職後は、毎日ずっと顔を合わせて生活をしていく状況になるわけです。

このように、定年退職後は、夫婦の生活スタイルがドラスティックに変化するものですので、そのことが夫婦の婚姻関係の破綻の原因となることがあります。

また、以下のように、定年退職の影響は生活スタイルの変化だけにとどまるものではありません。]

  • 一方が専業主婦であった場合

「亭主元気で留守がいい」というフレーズを聞いたことがある人も多いと思いますが、定年退職後は亭主はなかなか「留守」にしてくれません。

特に、妻が専業主婦やパート勤務であった場合には、家族の生計を維持するために夫にはしっかりと「元気で」稼いでもらわなければなりませんでした。

しかしながら、定年退職後はその役割が変化します。

退職前は、「家族の生活が自分の稼ぎに大いに依存している」という状況を背景としてふんぞり返っていた夫は、退職してその背景を失ったはずですが、それでいて家事などに積極的に協力するようになるわけではなく、従前の感覚のままでの振る舞いを維持しがちです。

つまり、夫が定年退職した後の妻としては、「家にずっといるのに何もしない」状態の夫が常にそばにいるわけです。

今までは、夫の行動や言動に不満を感じたりしても、家族の生活を維持するためと思って我慢を続けてきたところでしょう。

それが、夫が定年退職して働きに出ていない状況であれば、我慢をこれ以上続けるモチベーションが減ると感じることもあるはずです。

  • 夫婦が共働きであった場合

共働きであった夫婦は、今までは毎日朝晩と週末だけ一緒に過ごすか、もしくは勤務のリズムがずれていた場合(一方がシフト制の勤務や自営業などの場合)には週に数回会話したり食事をしたりする程度だった夫婦もいることでしょう。

それが夫婦ともに定年退職をすると、65歳にもなって突然、週7日24時間お互いに顔を合わせる生活が始まります。

一緒に過ごす時間が長くなることで、今まで気づかなかった相手の嫌な面が少しずつ見えてきたり、相手の細かい所作がどうしても気になってしまうようになったりします。

また、夫婦2人の間で家事のバランスがとれているなら問題ありませんが、どちらも仕事していないにも関わらず、家事などの「家の仕事」がどちらかに偏ってしまうこともよくあることです。

このように、定年退職後の生活が始まったことを機に、そういった相手との生活に耐えかねて、別居や離婚を考えるようになることもあるでしょう。

そして、定年退職をする前であっても、定年退職の時期が近づいてくるにつれ、こういった定年退職後に訪れる生活状況に感じる不安や懸念は大きなものとなるところです。

⑶年齢を重ねた影響

年齢を重ねることで病気や持病の問題を抱えることや、それぞれの両親の介護問題や同居問題などを抱えることもあります。

  • お互いの病気などの健康問題

誰しもが80歳、90歳まで健康でいられる保証はなく、中年〜高齢者となる年齢で、病気を患ったり、大きな怪我をしたりするようなタイミングがいきなり訪れることがあります。

夫婦のいずれかが病気や怪我で入院・介護が必要となった場合には、配偶者が入院の手続きをしたり、必要な介護をしたりする必要があります。

夫婦には「同居義務・協力義務・扶助義務」がありますから、病気の配偶者の世話をせずに見放したりすることはできません

今まで長い間、配偶者の横柄な態度に散々我慢をしていたのに、配偶者の病気などで、さらなる配慮をしなければいけないということになるかもしれません。

  • お互いの親・親族の介護問題

年齢を重ねることに伴って、当然自分の親の年齢も高くなっていきます。

熟年離婚を考える年齢ともなると、親世代は70歳以上であるという方も多いでしょう。

内閣府が発表するデータによると、第1号被保険者(65歳以上)のうち要支援・要介護認定を受けた人の割合を合計すると、65〜74歳の4.4%、75〜84歳の18.3%、85歳以上では58.8%にものぼり、多くの高齢者が介護を必要とする状態となることが分かります。

さらに、令和4年時点での認知症の高齢者数は12.3%に上り、65歳以上の10人に1人以上が認知症である現状です。

これらのデータからもわかるように、近い将来に、自分の親・または配偶者の親の介護や介助が必要となる可能性は十分にあるでしょう。

もし、自分の親の介護をすることとなった場合には、例えば、介護に費やす時間や労力が生活の中で大きくなっていって、家事をする時間などの余裕がなくなることもあります。

それなのに、配偶者のサポートがなかったり、むしろ家事も何もしない配偶者の世話まで行わなければならない状況であったりする場合には、別居・離婚して、自分ひとりで親の介護をした方が楽になるのではないかとの考えに至ることもあるでしょう。

また、配偶者の親の介護を請け負う必要がある場合には、いくら長い付き合いである配偶者の父・母であるからといって、いい加減な対応をするわけにはいきませんから、毎日の介護で気疲れしてしまうこともあるかもしれません。

もし要介護認定を受けるともなると、保険などの手続き、入院や通院の手続き、ヘルパーの方を依頼する場合にはその手続きなど、毎週何かしらどこかへ赴いて手続きしたり、本人に代わって大量の書類を記入したりしなければなりません。

また、入院や介護をするまでのレベルではなくとも、配偶者の親が高齢となって、配偶者自身やその兄弟なども頼れない状況であれば、自分が毎週・毎月の通院に付き添ったりする必要が出てきます。

そういった生活を続けていくうちに、自分と血縁関係のない義理の両親の介護をする生活に限界が訪れ、配偶者との離婚や別居を選択する時が来るかもしれません。

(4)まとめ

このように、子どもも既に自立しており、仕事も定年退職となり、病気や持病・両親の介護問題なども持ち上がったりしている中で相手との共同生活を続けるうちに、人生の終盤の生き方について考え直すようになり、熟年離婚の検討につながっていくのです。

3.熟年離婚のメリットとデメリット

⑴熟年離婚のメリット

熟年離婚のメリット
  • 嫌いな夫(妻)から解放される

熟年離婚をすることで、もう配偶者に対して我慢を重ねる必要がなくなります。

一緒に過ごしたくない配偶者による横槍や口出し、配偶者の世話などから完全に解放され、これからはそのようなストレスのない生活を過ごすことができるでしょう。

離婚することで、自分の人生を自分のために自分のペースで自由に生きることができるようになるわけです。

さらに、今後発生する可能性がある配偶者やその両親の介護問題などに頭を悩ませる必要もなくなります。

  • 老後に向けて新たな人生をスタートできる

離婚はあなたの新たな人生のスタート地点です。

配偶者から解放され、今まで二の足を踏んで挑戦できなかったことをなんでも始められます。

さらには、これまで配偶者の世話や家事などのために使っていた時間を、自分の新たな趣味などに充てることができます。

夫・妻の面前では、相手に何か小言を言われるのではないかと、以前から興味があったものの公にできなかった趣味がある人もいるかもしれません。

老後の趣味の代表格である園芸やガーデニングをしたり、楽器やダンスを習ったり、広いスペースが必要な趣味(DIY等)をしたり、さらに最近では「推し活」を始めたりする人もいるように、離婚すれば配偶者の目を気にすることなく何でも好きなことに自由に挑戦できます

また、離婚を機に新天地へ引っ越したり、新たな趣味を始めたりすることで、新しい友人ができたり、新しい人生のパートナーとの出会いがあるかもしれません。

⑵熟年離婚のデメリット・リスク

  • 離婚によって生活状況が一変する

熟年離婚することで、長年続けてきた夫婦での生活状況から離脱し、一人暮らしを始めることとなるなど、新たな生活状況に至ることになります。

この際、しっかりと検討をした上で熟年離婚に踏み出さなければ、熟年離婚をした後に生活をするためのお金がなくて生活が困窮してしまうこととなってしまう可能性があります。

熟年離婚をするのであれば、それは人生をより幸せにするものでなければなりません。

熟年離婚をしたがために、生活が困窮して、非常に苦しい人生に陥ってしまい離婚を後悔することは避けたいところです。

そのためには、熟年離婚に踏み出す前に、離婚した後に生活を維持していくことができるかどうかをしっかりと検討しておくことが重要です。

  • 離婚協議が長引く可能性がある

熟年離婚の場合は、結婚していた期間が長く、若くして離婚に至ったケースよりも夫婦の共有財産が多く存在しているため、その分財産分与の計算などが煩雑になり、離婚協議が長引く要因となります

もし夫婦間での協議(話し合い)において、離婚すること自体や離婚条件についての合意ができずに、離婚調停・離婚裁判を経ることとなる場合には、離婚達成までに年単位での期間がかかることも覚悟が必要です。

当事者同士で離婚条件についての話し合いがつかない場合には、一度弁護士の無料相談を利用したり、弁護士へ交渉を依頼したりすることも検討しましょう。

調停や裁判が長期間になればなるほど負担が大きくなっていきますので、期日の出頭や書面提出を弁護士へ依頼するメリットも大きくなるでしょう。

離婚までの道のりが長く大変なものだとしても、その長い離婚協議を乗り越えた先には、自由な人生が待っていることも忘れてはなりません。

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4.熟年離婚の際に特に注意を要する離婚条件

熟年離婚では夫婦の共同生活の期間がとても長いので、特に以下の2つの離婚条件が重要となってきます。

  1. 財産分与
  2. 年金分割

⑴熟年離婚における財産分与

熟年離婚における財産分与

財産分与とは、婚姻期間中に夫婦の協力によって形成された財産(夫婦共有財産)を、離婚の際に公平に分け合う制度です。

財産分与においては、基準時(離婚時又は別居時のいずれか早い方)における夫婦共有財産を2分の1ずつ分け合うのが原則です(「2分の1ルール」)。

熟年離婚の場合は、財産分与はまさに老後の生活に直結する問題となるものですから、財産分与の重要性は極めて高いです。

離婚した場合には、財産分与の結果手元に残ったお金が、そのまま老後の生活資金になることとなります。

財産分与でどの程度の金員を受け取ることができるか(離婚後に生活をしていくことができる状況かどうか)の検討が、熟年離婚に踏み切るかどうかの判断の前提となる場合もあります。

このような熟年離婚の場合の財産分与の特徴としては、以下の3点があげられます。

  1. 財産分与の金額が高額になる傾向がある
  2. 財産資料の収集・分析が困難な場合がある
  3. 特有財産の計算が複雑化する可能性がある

  • ①財産分与の金額が高額になる傾向がある

財産分与は、婚姻してから基準時(別居または離婚のいずれか早い時期)までの間で積み上がった財産を分け合う制度です。

熟年離婚の場合は、婚姻期間が長い分、財産分与の金額も増えて、高額になる傾向があります。

特に、いずれかが長年勤めた職場の退職間近であったりする場合には、その退職金が高額になる場合もあります。

  • ②財産資料の収集・分析が困難な場合がある

熟年離婚の場合は、婚姻期間が長い分、様々な形で資産が形成されていることがあります。

例えば、配偶者の知り得ない場所で株や仮想通貨を持っていたり、定期預金を持っていたり、老後に向けていくつもの生命保険や年金保険などの保険に入っていたりすることもあるでしょう。

他にも、預金口座がお互いに3つ、4つと幾つも存在していて、一昔前に作って今は使っていない銀行の預金口座にお金が残っていることを覚えていない場合もあります。

さらには、長年のタンス貯金をしている可能性だってあります。

これらのような状況が重なり、財産分与の計算に用いる財産資料の収集、資料の分析、財産分与の金額の計算が複雑になる可能性があります。

そして、熟年離婚の場合は財産分与の金額が高額となることも多いため、どうにか財産分与の金額を減らしたいと考えて、本来であれば提出するべき財産資料を出し渋ったり、財産隠しをしようとしたりすることが行われる場合があります。

相手の財産の全貌を正確に把握していない場合には、相手の財産隠しを発見することができずに、本来であれば支払ってもらえるはずの分与金の金額が減少してしまったり、本来であれば支払う必要がない高額の分与金を支払わなければならなくなってしまったりする可能性もあります。

  • ③特有財産の計算が複雑化する可能性がある

熟年離婚の場合には、特有財産の計算にも困難さが伴う場合がよくあります。

まず、財産分与の対象となる金額は、通常、以下の流れで計算することとなります。

財産分与の金額の計算の流れ

  1. 財産分与の基準時(いつの時点の財産を分け合うのか)の確定
    財産分与の基準時は「別居日又は離婚時のいずれか早い方」となります。
  2. 財産分与の対象となる夫婦共有財産の確定
    ❶財産分与の基準時における夫婦それぞれの名義財産の総額を資料に基づいて明らかにする
    ❷財産分与の基準時における夫婦それぞれの名義財産から夫婦ぞれぞれの「特有財産」を差し引く
  3. 夫婦共有財産を2分の1となるように夫婦で分け合う

夫婦が結婚した後に取得した財産であれば、それが夫婦のいずれの名義財産となっているかを問わず、原則として夫婦共有財産と扱われることとなり、財産分与の対象となります。

ただし、「特有財産」(夫婦の協力とは無関係に得た財産)に該当する財産は、預貯金、不動産、自動車、保険、退職金、株式・国債などの有価証券、家具家電類などの財産の種類を問わず、財産分与の計算の際に差し引くことが認められます

特有財産の典型例は以下のものです。

  1. 独身時代に形成した財産
  2. 相続した財産
  3. 親族等から贈与された財産

そして、特有財産において重要な点は、特有財産であると認められれば得をする方(特有財産の名義人)が、特有財産であることを証拠に基づいて証明することが必要とされている点です。

仮に客観的真実は特有財産であったとしても、それを証明することができなければ、その財産は夫婦共有財産であるとして財産分与の対象とされてしまうことになります(民法762条2項)。

民法762条2項

夫婦のいずれに属するか明らかでない財産は、その共有に属するものと推定する。

しかしながら、婚姻期間が長くなれば長くなるほど、特有財産であることを証明する証拠は無くなっていきます。

例えば、預貯金に関しては、特有財産であることを証明する証拠として独身時代から保有していた預貯金や相続・贈与により獲得した預貯金が入金されている履歴などが載っている通帳が手元に存在していれば良いですが、古い通帳をそのまま無くさないで保管し続けていない場合には、銀行で取引履歴を発行してもらわなければなりません。

ただし、銀行は、通常10年以上遡った取引履歴を発行してくれないことが多いです。

そうなれば、本当は特有財産であるにもかかわらず、そのことを証明するための証拠が取得できないということとなります。

その場合は、いかにして特有財産であることを証明するか、証明ができないまでも話し合い(交渉)において財産分与の金額にどのようにして反映させていくか、それとも諦めて財産分与に応じなければならないのかといった難しい検討をしなければならないこととなります。

別居期間が長期間に及んでいる場合の財産分与

別居期間が長期間に及んでいる場合には、別居開始後に取得・増額した資産はその名義人の特有財産として扱われることとなります。

例えば、夫婦が妻名義(または夫婦共有名義)の自宅(住宅ローンの名義人も妻又はペアローン)にて同居生活をしていた場合において、夫が自宅から出て行き別居が開始された以降も夫が住宅ローンの支払いを続けていた場合は、財産分与の金額の計算において、夫が別居開始以降に支払った住宅ローンの金額を反映させる必要があります。

この計算は極めて複雑となることがあり、また、家庭裁判実務上明確に決まったやり方があるわけでもありませんので、話し合い(交渉)が難航する可能性があります。

  • まとめ

このように、熟年離婚の場合は、財産分与はまさに老後の生活に直結する問題であり重要性が高く、また、財産分与の金額が高額となる傾向があります。

一方で、財産資料の収集が難しい場合も多く、財産分与の話し合いが複雑化していく傾向にあり、財産分与の金額を巡り夫婦が全面的に対決するような状況になることも時折見られます。

熟年離婚の場合は、離婚を切り出す前に財産分与に関する資料の収集などの準備を念入りに行うべきでしょう。

⑵熟年離婚における年金分割

熟年離婚における年金分割

年金分割とは、婚姻期間中の厚生年金の払込分を夫婦で分割する制度です。

年金分割を実施することにより、結婚してから離婚するまでの間の夫婦の厚生年金の払込実績が原則として夫婦で均一化されることとなりますので、厚生年金の払込実績が低い方の配偶者は将来もらえる年金の金額を増額させることができます。

若年離婚の場合や、夫婦が共に同程度の収入を得ていた期間が長い場合には、年金分割により受けるメリットはそれほど大きくないことも多いです。

ただ、熟年離婚の場合のように婚姻期間が長く、そのうち特に他方配偶者(多くは女性側)が育児などで無職や低所得であった期間が長い場合には、年金分割を行うメリットが極めて大きくなります。

年金分割は、熟年離婚の場合、それにより年金額が具体的にどの程度になるか、離婚後に生活をしていくことができる状況になるかといった重要な問題に直結していることも多いですので、忘れずに手続きしましょう。

5.熟年離婚の進め方

熟年離婚の進め方

離婚問題は、一般的に、まずは協議離婚(離婚すること及び離婚条件について夫婦が話し合って合意して離婚を成立させる離婚の方法)での離婚の成立を試みることから始まります。

相手との間で離婚の話し合いがまとまらない場合は、通常は、次のステップとして離婚調停を申し立てて離婚の話し合いを進めることとなります。

そして、夫婦の間で離婚の協議がまとまらず、さらに離婚調停も不成立となった後に、離婚を巡る争いの最終手段として、離婚裁判の提起を検討することとなります。

以下では、相手も離婚を考えている場合と相手が離婚を考えていない場合に分けて、それぞれの場合の注意点や検討のポイントを解説します。

⑴相手も離婚を考えている(離婚する意思がある)場合

相手も離婚を考えている場合であれば、相手との対立を深めることなく、離婚条件を1つ1つ決めていくことで、早期に協議離婚が成立する可能性があります。

子供が既に成人しているために親権や養育費の話し合いが不必要であることが多く、離婚の際に決めるべき離婚条件は主に経済的条件(財産分与など)だけで済むことが多いです。

また、熟年離婚に至った原因が、相手の浮気・不倫や相手のDV等にある場合には、相手に慰謝料を請求することも可能です。

財産分与や慰謝料の金額について双方が納得できる離婚条件の合意ができれば、その離婚条件を離婚協議書や公正証書などの書面にした上で、離婚届を提出すれば離婚は成立します

しかし、熟年離婚の場合は、離婚を切り出された相手が離婚を全く想定していなかったという場合が時折見られます。

そのような場合は、離婚を切り出した当初は、そもそも離婚すること自体を強く拒否されてしまい、離婚の話し合いが難航することも多いです。

また、熟年離婚の場合は、離婚条件が老後の生活に直結する問題でもあります。

一旦合意した離婚条件を後からなかったことにすることは通常できませんので、離婚を達成するためとはいえ、あまりにも譲歩し過ぎた条件で合意することには慎重になるべきです。

相手との話し合いが難航する場合には、弁護士に離婚の交渉を依頼して相手との交渉の間に入ってもらったり、離婚調停を申し立てたりすることを検討することが良いでしょう。

⑵相手が離婚を考えていない(離婚する意思がない)場合

相手が離婚を全く考えていないといった場合には、相手との間で離婚の協議を進めるか、早期に離婚の協議を諦めて離婚調停を申し立てることとするかを検討する必要があります。

一般的に、相手が離婚を考えていない・相手に離婚する意思がない・相手が離婚を拒否している場合には、早期に離婚調停を申し立てた方が結果として早期の離婚に至ることができる場合も多いです。

また、同居したままで離婚問題を進める場合には、相手からの突発的・感情的な言動の被害を被ってしまう恐れがあります。

特に相手が精神的に不安定な気質であったり相手が暴力(DV)・モラハラ気質であったりする場合には、注意が必要です。

その場合は、相手に対して、弁護士を通じて、離婚の話は自宅内で当事者間で直接することは一切せずに全て弁護士又は裁判所を通じて行うことを強く要請しつつ、家庭裁判所に離婚調停の申し立てをして調停委員といった裁判所に所属する第三者に間に入ってもらうことで相手をけん制し、離婚を進めていくことが有用です。

4.熟年離婚で始まる第二の人生

熟年離婚で始まる第二の人生

熟年離婚は、人生の終盤をどう生きるかの問題です。

一緒に過ごしたくない人と人生の最後まで我慢して共同生活を続けていくことは、幸せなこととはいえないでしょう。

熟年離婚を決意して、第二の人生をスタートしている人の割合は年々増加傾向にあります

そして、実際に、当事務所にも60代以上のご相談者様は多くいらっしゃいます。

また、ひとりで弁護士へ相談することに不安がある場合には、ご相談の際に成人したお子様がご同席されることも多いです。

弁護士へ相談してみたいけれども、事務所までの道順が不安だったり、手続きや問い合わせなどに不安があったりする場合には、ご自身のお子様に相談して、アドバイスや同席をお願いしてみることも一つの手段かもしれません。

(当事務所では、ご親族の方に限り、1名まで無料相談の同席可能ですので、ご予約の際にお申し付けください。)

ただ、熟年離婚は離婚協議が難航することもありますし、財産分与請求や年金分割などを巡って極めて複雑な交渉をする必要があることも多いです。

熟年離婚は、離婚を切り出す前の準備が大切です。

レイスター法律事務所では、無料法律相談にて、どのように離婚を切り出してどのように離婚問題を進めていくことが良いか、現時点からどのような準備を行うことが良いかなどといった具体的かつ実践的なアドバイスを行なっています。

配偶者との離婚でお悩みの際は、是非、こちらからお気軽にご連絡ください。

     

この記事の執筆者

弁護士山﨑慶寛

弁護士法人レイスター法律事務所
代表弁護士 山﨑慶寛

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